女性からの人気も高く、長年にわたって大阪を代表する和食店として知られる「懐石料理 桝田」。プレミアム美食メディア「KIWAMINO」では今回、店主の桝田兆史氏にインタビューを敢行。人気の秘密から今後の挑戦まで、深掘してお届けします。
※インタビューは2020年8月20日にオンラインにて行いました。
「吉兆」で学んだ料理人としての心構え
―名店「吉兆」で修業を始められ、40年以上も料理人として活躍されています。振り返えってみて思うことがあればお聞かせください。
料理人としてのスタートは「吉兆」(現:神戸吉兆)から。当時学んだことは今でも自分の料理に息づいています。一方で、修業時代は本当に大変だったなとも感じていて、コロナが騒がれ始めてから思い出すことも増えました。
お料理で、季節感を出すために紅葉の葉などを使うことがありますよね。あの頃は仕事が終わった後、夜遅くに自分たちで公園へ採りに行っていたものです。ただ、やっぱり日々の仕事がきついですから、早く家に帰って寝たいとばかり考えていました。真面目ではなかったですよね。公園にいるカップルにちょっかいを出したり、若かったのでやんちゃもよくしました。
でも振り返ると、あの葉っぱ一枚からお客様へのおもてなしはすでに始まっていたのです。季節を感じていただけるよう料理に演出を施し、喜んでいただく。葉っぱを採りに行くというだけのことが、実のところ、料理人としての思いやおもてなしの心に通じていたんです。
あとは、何と言っても出汁をきちんと取ること。昆布も鰹節も、他のお店と比べると「吉兆」は使う量がとても多いですね。とても出汁が濃くて、その出汁の味で料理を愉しんでいただくというのは、「桝田」でも続けています。
八寸についても、「桝田」の八寸は華やかな点が人気の理由になっているようですが、それも「吉兆」で学んだことの一つですね。
「吉兆」は茶懐石を重んじたコーススタイルでしたから、「お椀」にこそ華があるのだと教え込まれました。それは今でも意識していますね。蓋を取って、出汁を一口飲んでいただく。その後、具と一緒に召し上がった時に美味しいと思っていただけることが、自分にとっては一番嬉しいですね。
カウンターならではの寛ぎとワクワク感
―「懐石料理 桝田」の魅力はお料理の味はもちろん、盛り付けの繊細さや温かいおもてなしまで、本当に多岐にわたっています。特にカウンター席は人気が高いことで知られています。
カウンタースタイルは常にお客様に見られているので、やはり緊張感はすごいです。一方で、お客様が目の前にいらっしゃいますから、その方の好みはもちろん、召し上がるペースなども把握できるので、料理や量を微調整して提供できますよね。お客様のその時々の気持ちに寄り添ったおもてなしをできることが、支持を集めている理由かもしれません。
コース料理なので、次は何ができるのかなというワクワク感をもって終始お食事を愉しめるのではないかと思います。
季節感についても常に気を付けるようにしています。夏であれば鮎や鱧、秋であれば松茸というのは日本料理店であれば当たり前かもしれませんが、「桝田」では先取りという点も大切にしています。まだまだ暑い8月でも、暦の上で立秋が過ぎたら松茸を少し先取りして提供する。お客様にワクワクしてほしいという思いを、献立に落とし込むようにしているのです。
カウンタースタイルですから説明もしっかりとできるんですよね。「なぜ、まだ暑いのに松茸なの?」という疑問に答えることで料理人の意図を伝えることができます。
―withコロナの時代となって、個人のお客様も増えているのではないでしょうか。プライベートでお越しのお客様にも楽しんでいただく工夫はありますか?
接待と違って、料理人とのお話を愉しみにしていらっしゃる方も多いですね。特にご年配のご夫婦のお客様であれば、こちらからお声がけするようにしています。意外かもしれませんが、女性2人から3人くらいでカウンターを利用される方も多いんです。タイミングを見計らって、お酒の産地や食材にまつわるエピソードについてお話しますし、逆に我々が教えていただくことも多いですね。
―おっしゃるように、「懐石料理 桝田」は特に女性のお客様から人気がありますよね。特に気を付けていることや工夫していることはありますか?
女性のお客様にもリラックスしてお料理を愉しんでほしいという思いが強いですね。オープン当初からランチタイムを設けていたのもそのためです。
器にもこだわってきました。「桝田」ならではのオリジナリティーが出るよう工夫もしています。例えば、お醤油などを入れる瓶には、高級な香水に用いる綺麗な瓶を使っているんですよ。また、12月にはサンタクロースの蒔絵が描かれた器を使っています。職人にオーダーメイドでお願いしているのですが、女性のお客様には大変好評ですね。今年は、ハロウィンの絵柄の器も用意する予定です。
長い年月をかけて蒐集を重ねてきましたから、季節のものも大分充実しています。一層「桝田」らしさを伝えられるよう追求していきたいですね。
お料理の工夫だと、盛り付けも華やかな八寸ですかね。長い器に盛り付けるのが「桝田」の特徴ですが、元々のアイデアは自分の趣味である熱帯魚の飼育に由来しています。熱帯魚を飼う際には、水槽内に様々な水草を入れるのですが、横長の水槽を用いた方が水草が綺麗に見えるんですよ。そこから閃いて、八寸も横長の器に盛り付けてみたら、案の定ヒットしたというわけです。
―どうしたら愉しんでいただけるかという視点を、本当に大切にしているのですね。
独立前、日々時間に追われて料理を作っているなかで、たまにお医者さんのご夫婦がゆっくりお食事を楽しみに来ることがあって、そういう時は本当にほっとしたものでした。料理人として心を込めて作った料理を大事に召し上がっていただけるのは、何よりも嬉しいことだからです。
その意味では、一人ひとりのお客様にゆっくり寛いで、お食事を愉しんでほしいという思いは今後も変わらないと思います。
弟子たちに受け継がれる桝田イズム
―「懐石料理 桝田」では、多くの一流料理人を輩出してきました。後進の育成を含め、今後チャレンジしていきたいことがあれば教えてください。
独立して20年以上が経ち、60歳を超えました。自分のお店を大きくするとか、そういう野望は全然ないですね。ただ、うちのお店を頼りに「桝田」の門を叩いてきた若い子たちには、しっかり一人前になってほしいです。各々が独自のスタイルを活かしつつ、桝田イズムも引き継いでいってもらえればと考えています。
修業については、「基本は見て覚える」という部分は変わりませんが、何か気が付くことがあれば「こうしたらもっと美味しくなるやん」とか「早く仕上がるやん」ということは伝えるようにしていますね。自分たちが修業した頃とは、やはり時代が違いますから。
ただ、変わらないこととして、基礎を徹底的に身につけてほしいという思いは強いですね。それができなければ、アレンジへは進めません。だから、「先輩のやっていることを完璧にこなせるまでやらなくてはいけんよ」と伝えてきました。100%コピーできるまで模倣を徹底するということです。
また、ある程度実力がついてきたら、自分が目指す有名な料理人を真似るよう教えてもいます。こういう人になりたいという目標を作る訳です。料理の技術だけでなく、書く一文字一文字、しゃべる口調まで徹底して模倣することで、自然と料理人としての礎はできていくはずです。
―最後にwithコロナ時代に関してのお考えをお聞かせください。
まずはお店を続けるということですね。「桝田」のお料理を愉しみにしているお客様のためにも、必要不可欠なことです。それを前提に、経営面でも頑張っていかなくてはいけません。
今後も安全対策を含めて、お客様に美味しいお料理を届けていきたいと思います。
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桝田兆史氏 プロフィール
辻調理師専門学校卒業後、「吉兆」(現:神戸吉兆)にてキャリアをスタート。1980年から約5年間、「リーガロイヤルホテル(大阪)」の吉兆で研鑽を積む。その後、カウンタースタイルの割烹などで経験を積み、独立。「懐石料理 桝田」をオープン。大阪屈伸の人気店に。後進の育成にも定評があり、多くの有名料理人を輩出し続けている。
【編集後記】
「一人ひとりのお客様にゆっくり寛いで、お食事を愉しんでほしいという思いは今後も変わらない」と語る桝田さん。料理への熱い思いと、お客様を愉しませようという情熱を強く感じました。心躍るひと時を過ごしに、ぜひ「懐石料理 桝田」を訪れてみてはいかがでしょうか。
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※こちらの記事は2022年08月15日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。