名古屋「Pes.」岡山雄磨氏に聞く、イタリア料理×南米料理が織りなす新しい料理の形とは

2022年11月、名古屋にオープンした多国籍料理店「Pes.」は、料理人コンペディション「RED U-35」において2022 SILVER EGGを受賞するなど、人気・実力共に認められるシェフ・岡山雄磨氏が手掛けるお店です。
今回は、岡山シェフに料理人を始めたきっかけから、イタリア料理とペルー料理との出会い、そして「Pes.」で楽しむことのできる新感覚の食体験に関して、存分にお話を伺いました。

イタリア料理とペルー料理、それぞれの魅力を見出す

-料理人になりたいと思ったきっかけ

「料理人になりたい」と決めたのは、中学生くらいです。調理実習が得意で、周りから褒めてもらったのがきっかけだったと思います。
親が自営業をしているので、サラリーマンになろうという感覚がなかったのかもしれません。「やりたいことを仕事にしたい」、多分そんな理由だったかと思います。

-その後は調理師学校に行かれたそうですが、イタリア料理に進んだ理由は?

名古屋の調理師学校の2年コースに通いました。中華料理を食べる機会が多かったので、1年目は漠然と中華の料理人になろうと思っていたんです。
2年目の時に、実際にレストランで働いている方が講習で来てくれたのですが、イタリア料理で働かれている方は見た目もファッショナブルな方が多く、僕には魅力的に映って(笑)。翌日、講師をされていた方のお店に連絡し、アルバイトをさせていただくことになりました。

-料理の内容でも惹かれたものがあったのでは?

フランス料理や和食は、ソースや出汁を作る過程が1日の大半を占めるんですね。その繊細さが僕には向いていないと思いました。
逆にイタリア料理は、素材の味がダイレクトに伝わるシンプルな料理が多い。そして意外と身近にあるもので簡単に作れる、という点に惹かれました。

-イタリアへ修業にも行かれたそうですね。

調理師学校卒業後、約2年間名古屋のイタリア料理店で働きました。その後お店と合わず、実家に帰ることになったんです。
2、3か月は何もせずにいたのですが、やはり料理をすることは好きなので、家でご飯を作ったりしていて。「自分が作った料理を、人に喜んでもらえるのは楽しいな」と思いました。
そんな話を親にしたら「料理が好きなら、イタリアへ修業に行けばいいんじゃない?」と言われたんです。
そこから行きたいという気持ちが高まり、感覚が鈍らないように地元のレストランで働きながらお金を貯め、24歳の時にイタリアへ向かいました。

-当時から、独立することは念頭にあったのですか?

最初に働いていたレストランのシェフが、当時33歳くらいで全体を見られていたので、その年くらいにはシェフになり、お店のトップに立ちたいな、と漠然と考えていました。
一応僕の中で、30歳というのが1つのラインになっていて、それを目指して24歳でイタリアに行き、26歳で帰国したんです。

-帰国後は東京のイタリア料理店で働かれた後、名古屋にあるペルー料理店に行かれたそうですね。イタリア料理とは全く別ジャンルかと思います。

全く違いますね(笑)。料理人は職人なので、1つのことをやり始めるとそれを突き詰めていきます。僕自身も、ずっとイタリア料理を突き詰めていくのだと思っていました。
帰国後もそう思っていたのですが、ちょうどそれくらいの時、世の中にたくさんのイタリア料理がある中で「どうすれば自分の色が出せるのだろうか、このまま独立してやっていけるのか」と“自分の料理”について、すごく考えていました。

そんな時、たまたま知人にお話をいただいたんです。詳しく話を聞いていくと「1、2年後にペルー料理屋さんをやりたい」と言われて。当時はまだ、ペルー料理がメジャーではありませんでしたし、僕もやったことがないので、正直無理だと思いました。
ただ、1つのお店を作るという経験をしたことがない中、オープニングスタッフとして働けるのは魅力的だなと思って、お受けしたんです。
オーナーはもちろん、スタッフ間でもペルー料理を熟知している人がいなかったので、東京にある「荒井商店」というペルー料理屋さんで、研修させていただきました。そこで学んだことが、僕の中ではとても大きかったです。

-具体的には、どのような点が大きかったのですか?

ペルー料理を作る上で、スピリットのようなものをたくさん教えていただきました。
イタリア料理やフランス料理など、ヨーロッパの料理は、美味しい調理と美味しい食材を掛け合わせ「自分達の土地でできる、一番美味しい料理はこれ!」という考えで作っている、ポジティブな料理なんですね。
一方、ペルー料理がある南米は、海外から支配され続けていた歴史があり、地域としてはとても弱いんです。「この土地はこの食材しか手に入らない、これでしか料理を作れない」といった、ネガティブなイメージで生まれた料理が多いです。
イタリア料理とは真逆な発想だったからこそ、そこにすごく魅力を感じました。
そんな文化的なものをイメージしながら、イタリア料理のエッセンス、例えば盛り付けの華やかさを足すなど、ペルー料理に落とし込んでいきました。

イタリア料理とペルー料理の掛け合わせを楽しむ、新感覚のレストラン

-2022年11月、名古屋に「Pes.」を開業されました。お店のスペシャリテは、ジェノベーゼを使った料理とのことですが、ジェノベーゼをスペシャリテにしたのはなぜですか?

僕が初めてイタリアで働いた地が、ジェノベーゼの語源にもなっているジェノバでした。イタリアに行ってから数か月、色々な地を旅行していたんです。
その時にジェノバという町に立ち寄り、たまたま入ったレストランで食べたジェノベーゼが、信じられないくらい美味しく、ここで働きたいと思ったんですが、何せ言葉が全く喋れなくて(笑)。電子辞書やジェスチャーを使い、30分程度格闘して気持ちを伝えたところ「次の週に荷物をまとめておいで」と仰ってくれたんです。
レストランの横にある、元々馬小屋だったような場所に住まわせていただき、オーナー一家と一緒に、まるで家族のような感じで1年間働かせていただきました。なので僕にとって、ジェノバでの生活は、イタリアという場所をすごく感じた初めての経験で、大切な出来事なんです。その頃から「独立したら『ジェノベーゼ』をスペシャリテにする」と決めていました。

-「Pes.」最大の特徴は、イタリア料理とペルー料理を掛け合わせたコース料理だと思います。岡山さん自身、掛け合わせをする際に心掛けていることはありますか?

イタリア料理とペルー料理は全く異なるので、それを合わせると「フュージョン料理」と言われかねないと思いますが、僕は「フュージョン料理」としてやっているつもりはありません。
各地域の文化や料理にリスペクトがあるので、あくまで「イタリア料理」「ペルー料理」として一皿ひとさらは提供し、コースの中で掛け合わせができるようにしています。

-料理の中での掛け算ではなく、コースを通して掛け算をしているのですね。

仰る通りです。店名の「Pes.」は、ペストジェノベーゼが由来でもありますが「ペスト」はイタリア語で“色々なものを砕いて、1つに合わせる”という意味合いがあります。
イタリア料理とペルー料理を作る上で、日本人である僕が日本の四季を通して1つのものにしていくという点で、すごくぴったりな言葉だと思い、2つの意味で「Pes.(ぺス)」と名付けました。

-コースを通して1つ1つの料理を掛け合わせる際、心掛けていることはありますか?

どこかで“現地の香りや風”を感じられるように仕立てています。
僕は料理をお客様に提供する際、必ず補足としてお喋りをします。ただ食べただけだと「美味しいね」で終わってしまうことが多いですが、土地を味わっていただくためにそこをしっかり説明することを心掛けていますね。
味でいうと、南米は唐辛子やお芋を使うことがあるので、ペルー料理を仕立てる際はピリッとしたスパイスやニュアンスを、逆にイタリア料理の場合は、酸味やうま味を引き出すようなイメージで構成しています。

-食材の産地に関しては、どこのものが多いのですか?

僕は豊橋市の出身なので、豊橋の野菜や隣にある田原市で農家をやっている知り合いの方、後は岐阜・高山など、愛知県近郊の野菜を使うことが多いです。それに合わせて、現地から取り寄せたペルーの食材やイタリアの食材も使用します。

-ペルーの食材とは、例えば?

ジャイアントコーンと言われる白いトウモロコシ、それらを乾燥したカンチータと呼ばれるもの、後は唐辛子だけでも10種類くらいは使っていて、フレッシュなものを取り寄せています。
他には、チェリモヤやルクマという果物。ペルーはジャングルが多く、真ん中にアンデス山脈、左側の海岸沿いに港町がある国です。国が3つに縦割りとなっていて、それぞれに文化が異なるので、色々な食材がありますね。

-ペルー料理を作る際は、基本的にペルーの食材を使われるのですか?

やはりペルー料理もイタリア料理も、現地の食材を使った方が現地の味わいを再現しやすいです。日本の野菜は繊細で甘く、個性が薄いものが多いので、ペルー料理を作る時は、海外の野菜を使っています。
イタリアの野菜は、アスパラやアーティチョーク、ポルチーニなど、なかなか日本で手に入らないものは現地から仕入れています。

「Pes.」での食体験を存分に楽しむ、明るい店内とおもてなし

-「Pes.」ならではの楽しみがありますね。

やはり飲食店なので「美味しい」という言葉は多くいただきますが、それ以上に「楽しい」という言葉も多くいただきます。
お客様にとってまだ食べたことのない味わいや、食感が多いようなので、そう仰っていただけるのは嬉しいですね。

-色鮮やかな外装や店内も特徴的ですね。こだわりを教えてください。

店内の色は「ライムイエロー」というのですが、僕が作るジェノベーゼのカラーをイメージしています。また南米には色鮮やかな家が多いので、お店の外観もビビットな青色にしました。
最初はシックな色合いも考えていたのですが「何だか寂しいな」と思って。この色にしたことでお客様も反応してくださるので、良かったなと思います。

-おもてなしの面でも心掛けていることがあれば教えてください。

基本的にワンオペでの営業になります。同時スタートとは言え、やはりタイミングもあるので、お客様に気を使わせてしまっているのでは、と思うことはありますね。
お客様にご負担や迷惑をかけないよう、全体感に気を使いながら、なるべく全員とお話するようにしています。そのために、アイランドキッチンを採用しました。
こういったお店ですので、お客様同士で会話が弾むことも多く、なかなか他のレストランでは見られない光景だと思っています。

オーベルジュを通して地方を盛り上げるために

-アットホームな雰囲気が素敵ですね。最後に、まだ「Pes.」をオープンされたばかりですが、岡山さんの今後の展望をお聞かせください。

すごく先の将来、渥美半島に伊良湖という場所があるのですが、そこに平屋の1日2件くらいだけを受けるオーベルジュをやりたいなと考えています。
僕はサーフィンをやるので、伊良湖に行く機会も多いのですが、畜産が盛んで料理もすごく美味しく、魅力的な土地なんですけど、観光だけがあまりないんです。
でも「オーベルジュ」を作り、地域や地元の農家さん達と一緒になって盛り上げることができれば、町おこしにもなりますよね。
今の時代、地方にレストランができることが割とノーマル化してきていますが、そんな中で「このレストランに食べに行きたい」と思ってもらえるものが作れれば、可能性が広がるのかなと感じています。
わざわざ食べに来てもらえるようなレストランを作らなくてはならないので、そのために「Pes.」で実績を作り「岡山雄磨」としての名前を残していきたいなと思います。

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岡山雄磨氏プロフィール
1988年、愛知県・豊橋市生まれ。自宅で作る料理を家族で振る舞う時に、喜んでもらえたことが嬉しく料理人を志す。24歳の時にイタリアへ行き、2年間修業後に帰国。東京都内のイタリア料理店にてシェフとして勤務した後、名古屋のペルー料理店「ALAN」にてシェフを務める。2022年11月、様々な国や料理のエッセンスを取り入れた多国籍料理を堪能できる「Pes.」をオープンした。
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南米料理

Pes.

名古屋市営地下鉄東山線 亀島駅 徒歩約7分(450m)

15,000円〜19,999円

【編集後記】
自らが考える「30歳」というラインを軸に、確実にキャリアを積まれてきた岡山シェフ。そんな岡山シェフが考える、イタリア料理とペルー料理の魅力、さらにそれらを融合して生み出す新たな食体験は「Pes.」ならではの唯一無二なものかと思います。どんなコース料理をいただくことができるのか、私もぜひ一度足を運んでみたいです。

※こちらの記事は2023年08月30日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。

Minaho Ito

一休.comの宿泊営業から編集部へ。子供を預けて、つかの間の贅沢をレストランで過ごすのが楽しみ。見た目が美しい料理が好きで、イノベーティブ料理やフレンチ・イタリアンがお気に入り。
自分へのご褒美にスイーツ店巡りをすることも多く、行きたいお店リストは常に更新中。

【MY CHOICE】
・最近行ったお店:ラペ (La paix)
・好きなお店:NARISAWA/Crear Bacchus/オテル・ドゥ・ミクニ/ガストロノミー ジョエル・ロブション
・得意料理:イノベーティブ料理/フレンチ/イタリアン
・好きな食材:赤身肉/チーズ

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