広尾「レストラン アラジン」山田和彦氏に聞く、ゲストの心に残るフランス料理を作り続ける秘訣とは

1993年にフランス料理界の重鎮・川﨑誠也氏がオープンした「レストラン アラジン」。季節の食材に寄り添い、「あの時のお料理をまた食べたい」といつまでもお客様の心に残る料理を大切にしています。現在シェフとして腕を振るう山田和彦氏に「レストラン アラジン」流のフランス料理についてお話を伺いました。

テレビ越しに見た“かっこいい”料理人の姿に憧れ、フランス料理の道へ

―山田シェフが料理人を目指したきっかけについて教えてください。

高校生ぐらいの頃、ちょうどテレビ番組の「料理の鉄人」が放送されていました。安直ですが、かっこいいな、楽しそうだなと素直に思ったのがきっかけです。もともと母と一緒に夕食の準備を手伝っていて、料理が好きだったということもベースにありますが、就職か進学かを考えた時に就職する気持ちがあり、料理の専門学校に進みました。当時から、料理人になるならフランス料理をやろうと考えていました。
学校に行き始めてからアルバイトで洋食屋の厨房で働かせてもらっていくうちに、どんどんこの仕事の面白さに魅了されて、ちゃんと仕事としてやっていきたいなと思いました。

専門学校を出て最初に働いたのは「日本青年館」内にかつてあった「東洋軒」でした。レストランだけでなく、披露宴など宴席の会をよくやってたんですけども。19~20歳の頃から4年ほど働き、フランス料理の下地というか、レストランでのオペレーションの基礎を学びました。料理の下準備などが中心でしたが、自分でやればやるだけ、他のことを教えてもらえて、やる気は人一倍ありましたね。

―グランシェフである川﨑シェフとはいつ出会ったのですか?

「東洋軒」の後2軒ほどフランス料理店で勤めていて、「レストラン アラジン」で働く前にお客として2回ほどお伺いしたことがあったんです。
自分の友人である「レストラン タニ」の谷シェフが「レストラン アラジン」で働くようになり、色々とお話を聞いていました。当時、四谷に系列店の「メゾン・カシュカシュ」というお店があって、料理人を探しているというお話を聞き、ちょうど別のお店で働きたいと思っていたところだったので、ぜひという気持ちで四谷のお店に入って今にいたります。

働き始めてからは、お店を広尾に集中させることになり、2014年8月末に四谷のほうを閉じました。広尾に来てから、ちょうど7年ほど経ちますね。川﨑シェフと一緒に厨房に立って仕事をしたのはそのうちの4年間です。

グランシェフ・川﨑誠也氏が紡ぎだした料理

―川﨑シェフは先ほどの「料理の鉄人」でフレンチの鉄人を破ったことで有名な方ですが、シェフからお店を任されるまでについてのお話が聞きたいです。

シェフから教わったことは沢山あって一言では語りつくせないのですが、僕はシェフのことをすごく尊敬しています。
四谷から広尾に移ってきてしばらく経ち、2番手を任されていた人がちょうど辞めるという話になったんです。川﨑シェフは前々から、最後は東京ではなく地方でゆっくりと楽しみながら料理をやりたいということをお話されていたんですが、ある日「もう俺は引退するよ」という話をされまして。「俺はいなくなるけども、お前はこの店をやれるか?」と問われました。

やれるかっていうのは、やれよっていうのと同じかなと思って捉えたんで。
「川﨑シェフがそういう風に言ってくれるなら、自分、できる範囲で頑張ります」と答えました。もし、ここで働いたことがない全然違う人がいきなり来て「こいつがこれからシェフやるからお前そのまま働けよ」って言われたら、多分そのときは「嫌だ、僕がやります」とかって言ったかもしれないですけど。
その頃すでに、川﨑シェフは福岡の糸島に行かれることをある程度決めていらっしゃったようです。

―山田シェフがご自身でお店のお料理を作られるようになって、ご自身の中で感じられていることはどのようなことでしょうか。

そうですね、改めて思ったのが、お店は自分一人でやっているわけではないんですよね。表のホールには鈴木さんがいて、お店を守ってくれているという安心感はあるので、僕が新しくドキドキすることは全くないです。鈴木さんは常連のお客様の好みも全部把握されていて、ちゃんと対応してくれますし、僕もずっと一緒にやっているのでお客様の好みを思い出しながら料理を作っています。もちろん川﨑シェフから引き継いだ、という部分で身が引き締まる部分はあります。盛り付けをちょっと変えたり、自分流の部分も少しはいれている所もありますが、これまでの「レストラン アラジン」のベースは崩さずできれば守っていく方向で僕はやりたいと強く思ってるので。

―川﨑シェフは記憶に残る一皿を作るために、仕込みから全力で取り組まれることで知られていますが、師の教えの中でどのようなことが心に刻まれていますか?

川﨑シェフはどちらかというと“俺の背中を見ろ”じゃないですが、あまり色々と指示を出したりする方ではなかったです。ただ、集中力はものすごいですよね。お店の営業が始まってからは、一緒にやっていても怖いぐらい、ものすごい集中力だなと。自分より20~30歳も上なのに、こんなに動けるパワーがあるってすごいなといつも思っていました。
僕が感じている、シェフが料理をする上で大事にしているのは“人が食べたいものを一番うまい食べ方としてシンプルに極めていくこと”。それに真剣に取り組み、そういう勢いで作られていると思うんですよね。
付け合せに関してもシンプルで、色々やるよりもこれにはこれが合うというような。“素材を活かす”という言葉がありますが、その美味しさをダイレクトに伝えるには、やはり仕込みに時間を割く必要があるんですよね。肉を丁寧に処理するとか、ジビエならどれくらい熟成をさせるかとか、そういうのを見極めるっていうのはあると思うんです。
お客様をお待たせせず、美味しいと思ってもらう料理をお出しするために、しっかりとやることを心がけているつもりです。

また、数あるスペシャリテの作り方を教えていただいたのは自分にとって財産ですし、今も季節ごとに名物の料理を食べたいと言って下さる方も沢山いらっしゃるんですよね。なので、変わったねって言われないように、もし言われるときはより美味しくなったねと感じていただけるようにと思っています。お帰りの際に言われて嬉しい言葉は「いつ来ても味は変わらず美味しい」で、僕は一番それを守っていかなきゃいけないことだと感じます。

実は川﨑シェフから、料理をする上で大事にされてきたことについて、メッセージを預かっているんです。

『お客様に美味しくて楽しい食事時間を過ごしてもらう

季節感 食材も調理方法も

一皿のバランスや組み合わせ

コースの組み立て、バランス、組み合わせ

食べる人の気持ち

清潔、整理整頓、段取りよく、無駄を省く

美味しく作り、美味しく食べてもらう』

川﨑 誠也

常連の方、初めてお越しいただいた方、それぞれお客様は違います。常連の方でも新しいものを食べるのが好きな方や季節によってこの料理を食べたい方などそれぞれです。また、暑いときと寒いときの調理の仕方も違うので、その料理の組み合わせや量のバランスが大事です。仕事が気持ちよくできるように、まずは整理整頓や段取りをよくやり、それぞれのお客様に喜んでもらうことを一番配慮して料理を作る。
厳しい面もあるけど、自立できるように教育してきたつもりです、とお話しいただきました。

川﨑シェフから教わったことを僕ができるなら、他のスタッフもなるべくできるように日々を積み重ねていけば、30年、40年、50年と「アラジンの料理」の味が続いていくことになるのかなと思います。自分で考えて自分なりにちゃんとやっていくこと、その積み重ねが、最終的にお客様に出す料理に繋がるんだっていうことを、シェフもいろんな言い方で言われていました。

「レストラン アラジン」の味を後世に残すために

―2022年に29周年を迎えられ、特別メニューを出されていましたが、どのように内容を決められたんですか?

メニューの内容は、グランシェフである川﨑シェフにご提案して、色々アドバイスをもらっています。最後には「もちろんお前に任せるけどね」と言っていただけるので、ある程度信用してもらってるのかなと思います。本当はシェフにも糸島から来ていただく予定だったのが、コロナ禍で感染者数も増えていた状態だったので、取りやめになりましたが、多分そのうちいらっしゃるかもしれないですね。

―人と会えない時期が続き、飲食業界も厳しい2年間ではありましたが、それでも大事な日に美味しいものを食べたいという気持ちは、人間の欲求の一つなんだと実感しています。改めて、これからのレストランに求められることはどういうところだとお考えですか。

おっしゃる通り、特別な日はもちろん皆さんあるはずで、そういうときにあの店に行って楽しい時間を過ごしたいなと思ってもらえるような空間を作ることですかね。もちろん料理もそうだし、雰囲気もそうだと思うんですよね。
大事な人との楽しい時間のお手伝いじゃないですけど、そうなりたいなと思いますね。
実際に会食を始め、外食に行く頻度は減っていると思いますが、その分本当に大事な人との時間をちゃんと作ろうとしたときに「レストラン アラジン」を選んでもらえるといいなと思います。

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【プロフィール】

山田和彦
1975年生まれ。
料理人の姿に憧れて服部栄養専門学校卒業後、日本青年館「東洋軒」で修行を始め「トトキ」など都内数店で研鑽を積む。「メゾンカシュカシュ」に入店後「アラジン」で川﨑シェフの指導を受け、勇退後の2020年より現職に就く。

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フランス料理

レストラン アラジン

東京メトロ日比谷線 広尾駅 1.2番口から5分

12,000円〜14,999円

編集後記:

川﨑シェフの想いに重ねられた山田シェフの情熱。師弟の絆によるオートクチュールのような料理は、よりダイレクトにゲストの心を揺れ動かすのではないでしょうか。
店名通り、魔法のように素敵なひとときが過ごせる「レストラン アラジン」で、本当に大事な人との思い出を作ってみたいですね。

Airi Ishikawa

一休のメディア事業部長。日本全国を旅しながら、その道のプロにインタビューや取材をしています。休みには足をのばして国内ワイナリーを巡るのが好き。地産地消や、生産者に近い距離で食材や料理に向き合う「極みのシェフ」がいる店をご紹介します。
【MY CHOICE】
・最近行ったお店:銀座 しのはら / 南青山 まさみつ / サエキ飯店 / コートドール
・好きなお店:鮨 梢 / フランス料理 エステール / コンチェルト / エンボカ 京都
・注目しているお店:SeRieUX / プルサーレ / bistronomie Avin
・得意ジャンル:フレンチ / バー
・好きな食材:山菜 / 鴨

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