インタビュー|

「オトワレストラン」音羽和紀×音羽元インタビュー。「宇都宮のテロワール」に寄り添う店づくりの原点

栃木県・JR宇都宮駅から、車で10分ほどの場所に佇むフランス料理店「オトワレストラン」。「栃木和牛」や「鰻」、「那須高原産チーズ」など、栃木県が誇る素材を用いた料理の数々は、美味しさだけでなく、地域の風土や伝統への熱い想いを感じさせるここでしかいただけないものばかり。2014年には「ルレ・エ・シャトー」に加盟し、世界からの注目も高い日本を代表する名店です。
KIWAMINOでは、39年間「オトワレストラン」をけん引してきた音羽和紀シェフと、事業・想いを承継する音羽元シェフのインタビューを敢行。地域への想いや展望について話を聞いてきました。

その地域の風土「テロワール」を重んじるということ

―音羽さんは、アラン・シャペル氏のもとで働いた最初の日本人として知られています。まずは、ご自身の料理人としての原点についてお聞かせください。

(音羽和紀様)
渡欧後にドイツで2年間(キール、ケルン)、その後スイス・ジュネーブのジャック・ラコンブシェフの『リヨン・ドール』を経てフランスに渡りシャペルさんのもとで働きはじめました。シャペルさんのお店に入るまでが、とにかく大変でしたね。フランスに渡ってからシャペルさんのもとを4回訪ね、半年後にようやく働けるようになりました。ちょうど3つ星を取った1974年、渡欧して4年目のことですね。私は、シャペルさんのもとで仕事をした最初の日本人でした。

シャペルさんは、料理界のダ・ビンチと呼ばれていました。今振り返っても、やはりある種の極みを持っている、感性の鋭い方でしたね。
必要最低限のことしか話さないような方でしたが、私には意識的に厳しくしていた部分もあったと思います。いきなり異国からやってきた日本人が、ちゃんと覚悟を持っているのかどうか見ていたのでしょう。それでも、3か月間まったく話してくれなかったのはきつかったです。朝来て「ボンジュール」とあいさつを交わして、それで終わり。
悔しいとか、面白くないという想いももちろんありましたよ。でも、自分にはそれ以上の目標がありましたから、居直るというか、まぁ命を取られるわけではないのだからという境地で挑みましたね。

―ご自身の行動力とポジティブさが、シャペル氏のもとで働く初めての日本人を生み出したのですね。

(音羽和紀様)
大変だった分、学ぶことは沢山ありました。
やはり何と言っても「テロワール」を重んじること。その地域の風土や生産者を大切にすることですね。
シャペルさんは口数が少なかったですから、彼との仕事のなかで感じ取ったとでも言いましょうか。レストランを営む我々は、地域で育つ食材や、それを育てる生産者がいなければ成り立たないということを、身をもって示してくれました。

シャペルさんは実際に、地域の生産者をお店に呼んで、一緒のテーブルに着いてお話をされることも多かったと記憶しています。日本と比較してそういったことが多いフランスの中でも、シャペルさんは人一倍多かったのではないでしょうか。

―地域に根付き、地産地消を推進する姿勢は、「オトワレストラン」でも実践されていることだと感じました。「ルレ・エ・シャトー」のヴィジョン、「持続可能な発展のため、地域を守る」「食文化を豊かに発展させ、継承していく」とも重なります。

(音羽和紀様)
そうかもしれません。近年は日本でも「SDGs(持続可能な開発目標)」という言葉が浸透してきましたが、自分たちは地域に根ざしてやってきていることで、自然とそれを実践しているのかなと思います。
野菜一つとってみても、地方は流通ルートや量が少ないですよね。だからこそ、レベルの高い食材を多く分けていただけるというメリットがあります。

また「オトワレストラン」は、東京をはじめ全国のレストランに食材の良さを伝える役目も担っています。例えば、うちに訪れたシェフが食材を気に入れば、生産者にとっては新しい流通ルートの開拓になるわけです。
「オトワレストラン」は様々なつながり、広がりを持っているんです。良いものを手間暇かけて作るのは決して無駄ではないということを、生産者の方に伝えていけると信じています。
そうすることで「オトワレストラン」もまた、栃木の観光名所の一翼を担うものになっていけるはずですから。「ルレ・エ・シャトー」の目指している世界観とも合致しているのではないでしょうか。

地域の生産者とのつながりを、丸ごと承継する

―2018年には「ルレ・エ・シャトー」が主催する「シェフトロフィー2019」をアジアでは初受賞し、取り組みが成果となって現れました。事業だけでなく、和紀さんの地域への想いを承継する元さんのお考えも気になります。

(音羽元様)
国内や海外での修業を経て、栃木に戻って感じたことなのですが、栃木の野菜って本当に質が良いんですよ。ただ、その野菜を作る農家さんも、一人の力ではやっぱり限度があるわけです。

だけど、「オトワレストラン」の料理人は、そういった困難な部分も含めて発信していかなくてはいけないと考えています。
地域の良さや、その深さについても同じです。料理を通じて、栃木の持つ魅力をどうやって表現できるのか、今後も真剣に突き詰めていきたいと考えています。

「ルレ・エ・シャトー」という、同じ志を持つ仲間と共に

―お二人のお話を伺っていると、遠くを見据えてお店作りをされている印象を受けます。

(音羽和紀様)
そうですね。時代もどんどん移り変わっていますから、料理も一か所に留まっていることはとても難しいと感じています。人によっては、これだけやってきたんだからもう極められたと言うかもしれませんが、自分はやはり「限りない世界」を突き詰め続けていきたいと考えています。
今後も、栃木という場所にできるだけ寄り添ってお店を続けていきたいですね。食材に恵まれた栃木で生まれ育ち、ヨーロッパの豊かな食文化にもふれ、食に関してとても恵まれた環境に身を置いてきましたから、恩返しという意味でも文化や地域にとって価値あることを担っていきたいですね。この地でレストランをやる意味を、シャペルさんに教わりましたから。

また、同じ視線を持つ仲間がいる「ルレ・エ・シャトー」に入れたのは、とても嬉しいことですね。もちろん、施設一つひとつのレベルはとても高いので、緊張感を持つことも必要だと考えています。

(音羽元様)
二十歳の時、父から「自分が考えていることは、自分の代では実現できない」と言われ、とてもショックを受けました。自分の子供の代でなければ実現できないほど、父の考えているグランメゾンのイメージは壮大なのかと。

(音羽和紀様)
でも、「承継してほしい」と息子を口説くには、それくらい言わないと難しいんですよ。妻と共に39年間やってきましたが、それまでの道のりだって大変なものでしたから。

(音羽元様)
そういう風に考えると、一軒のレストランを続けるのも難しい時代だと思います。父はフランス料理の第一世代とも言われていますが、それでも39年間しか経っていないんですよね。
今後を見据えると、一人で何かをすることに限界がある点は、料理人も生産者の方と変わりありません。継続していくためにも、レストラン全体で取り組まなくてはならないと思います。

だから、僕らにとっては、兄弟兄妹で一緒に「オトワレストラン」を盛り上げていくことは必然でした。例えば、兄弟兄妹で別々の分野に進むことも必要でした。自分は料理が好きですから料理に、妹は英米の大学で学んできたマネジメントやホスピタリティ、海外展開の分野で、弟は料理とサービスのハイブリットという形ですね。両方分かるからこその強みもあります。
お互いがお互いを必要とする協力関係を活かして、父だからこそできたことに+αをもたらせるよう、兄弟兄妹でできることを追求していきたいですね。

―現在力を入れている取り組みや、今後の挑戦についてお聞かせください。

(音羽和紀様)
一つ目は、食材のサステナビリティについて。フードロスを防ぎ、自然界を壊してはいけないという観点から、今後は料理人もしっかり素材選びをしていかなくてはならないと思います。
日本でなかなか熟していないというのは、本当かもしれません。一方、想いだけでは続けることがとても難しいのも事実です。まずは、自分たちができることから実践していきたいと思います。加盟する「ルレ・エ・シャトー」の想いとも重なる部分です。

二つ目は、「とちぎの食・農・観光 ステップアッププロジェクト」の実践ですね。栃木県宇都宮市の大谷エリアに、レストランや食の研究所である「ラボ」を立ち上げ、食を軸に農業と観光を連携させ、国内外から観光客を呼び込もうという計画です。今は地域を代表する名士を集めた「発起人会」を立ち上げ、シンポジウムを開催して多くの人に私たちの思いを伝えるなどして、実現を目指している最中です。
最終的には栃木の食を深め、魅力を発信できる拠点である研究所「大谷×Otowaラボラトリー(仮)」を作り、食から地域の歴史を掘り下げたいですね。

編集後記
アラン・シャペル氏から学んだ「テロワールを重んじる」という考えを、39年間に渡って故郷・宇都宮で実践してきた音羽和紀氏。一言一句に、自信と重みを感じました。その想いや、事業を承継するご子息・音羽元氏の活躍にも期待したいですね。

【公式ホームページ】「オトワレストラン」

https://otowa-artisan.co.jp/

「ルレ・エ・シャトー」加盟レストランの記事をもっと読む

https://www.kiwamino.com/tags/relais-chateaux

謝 谷楓

「一休.comレストラン」のプレミアム・美食メディア「KIWAMINO」担当エディター。ユーザーの悩み解決につながる情報を届けられるよう、マーケットイン視点の企画・編集を心掛けています。

前職は、観光業界の専門新聞記者。トラベル×テック領域に関心を寄せ、ベンチャーやオンライン旅行会社の取材に注力していました。一休入社後は「一休コンシェルジュ」を経て、2019年4月から「KIWAMINO」の担当に。立ち上げを経て、編集・運営に従事しています。
【MY CHOICE】
・最近行ったお店:六雁
・好きなお店:すぎた
・自分の会食で使うなら:茶禅華
・得意ジャンル:日本料理
・好きな食材:雲丹/赤貝

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