「パレスホテル東京」の5階に位置する「琥珀宮」。中国飯店グループの1つであり、“伝統的で上質、現代的で新鮮”がテーマの中国料理店です。旬の食材と広東料理の技法を組み合わせてもてなされるお料理の数々は、どれもここならでは逸品揃い。今回は、支配人・根本和明氏、料理長・鄧國輝氏に「琥珀宮」ならでは特徴から、チームプレーで取り組むメニュー作りの様子についてなど、多岐に渡って伺いました。
目 次
人との縁が繋いだ「琥珀宮」
―「琥珀宮」誕生の経緯をお聞かせください。
支配人・根本和明氏(以下、根本):統括支配人の小泉が「パレスホテル東京」出身で「富麗華」の総支配人をしていたご縁もあり、“ホテルの設備&環境の中で中国飯店や「富麗華」でのお客様との距離感の近さや料理の魅力を表現できたら素晴らしいレストランが表現できるのでは”との思いがパレスホテルのブランドコンセプトと一致し、建て替えに向けてリニューアルする「パレスホテル東京」の中に「琥珀宮」が誕生することになりました。
コンセプトである「伝統的で上質、現代的で新鮮」とは
―コンセプトである「伝統的で上質、現代的で新鮮」についてお聞かせください。
根本:中国飯店が誕生してから今年で48年になります。今まで培ってきた歴史や、お客様1人1人と向き合っておもてなしをしてきた気持ちは大切にしつつ、常に時代を意識した斬新さを取り入れていきたいと思っています。
―伝統は大切にしつつ、新しいことにもチャレンジされていくということですね。また、姉妹店「富麗華」と比較してどんな特徴がございますか?
根本:「富麗華」は内装も華やかで、とてもパワフルです。中国人スタッフも多いですし、上海と広東料理用に2つキッチンがあるので、非常に力強さを感じます。客席数も「琥珀宮」の2倍まではいかないですが、うちよりも断然大きいです。それと比べると、こちらはより洗練された上質な空間を目指しています。ホテルの中にあるレストランと言えば、一歩引いたスマートさが求められることが多いと思うんですけど、非日常を感じるようなホテル内にあっても街場の中国料理屋さんのようなフレンドリーさ、ライブ感が表現できたらいいなと思っています。
旬の食材を広東料理の調理法で「琥珀宮」ならではの逸品に
―お料理を作る上でどんなところにこだわっていらっしゃるのでしょうか?
料理長・鄧國輝氏(以下、鄧氏):1番意識しているのは食材です。料理を作る際は旬の食材を起点にどんなものを作ろうかと考えることが多いです。うちでは魚を使うことも多いです。魚と言えば和食を想像される方も多いと思いますが、うちでは広東料理の技術を使ってお出ししています。
根本:中国料理の技法って、蒸すなら蒸す、炒めるならさっと油を通して炒めるとか、豪快に味を1発で決めていくようなスタイルが主流なんですけど。鄧の火入れの技術は絶妙なんですよね。海鮮をミディアムレアに仕上げるその感性が素晴らしいです。その繊細さを活かして作ることで、より洗練されたお料理を提供することを目指しています。
鄧:料理を作る際は、全て計算して作っています。お客さんの元に運ばれる時間なども全て踏まえて1番美味しい状態で食べられるように調整しています。
―日本の四季を意識した広東料理についてはいかがでしょうか?
根本:日本の四季に関してもやはり食材を起点に考えています。飾りや見た目の部分は1番最後ですね。今どんな食材が旬でそれを広東料理の技法を使ってどうやったら「琥珀宮」らしい料理に仕上げることができるのかを考え、チャレンジしています。旬の素材に関しては、レストランにいるだけではなかなか触れることができないので、外に出てインプットをすることも大切にしています。
鄧:休みの日はしょっちゅう食べにいっています。天ぷらだったり、和食だったり。
根本:焼き鳥でもビストロでもなんでも行きますが、中国料理以外ですね。
鄧:中国料理だと四季や新しい要素を見つけるのは難しいです。それに他の中国料理にいって、それを同じように作るとただの真似になってしまいますからね。
根本:例えば僕は焼き鳥屋に行くと、せせりネギが好きでよく頼むんですけど。どこのお店に行ってもせせりはネギと一緒に提供されるんですよね。そこには何か美味しさのロジックがあるんじゃないかと思ったんです。そこで鄧にお願いして、せせりとネギを使って広東料理風にアレンジしてもらったこともあります。
鄧:色々とテストをしましたが、せせりとネギを中華鍋でざっと炒めると良い油がでるので、それを活かしてチャーハンにしてみました。これはせせりネギからチャーハンが生まれた一例ですね。
根本:鄧のアレンジで何かできないかなとどんどんアイディアを投げていくのが僕の役目です。
常にお客様ファーストで美味しいを追求するチームワーク
―本当に二人三脚ですね。メニューってシェフが中心となって考えるお店が多いと思うんですけども。チームでメニューを作るスタイルというのは非常に「琥珀宮」を象徴するようなスタイルですね!メニュー開発は、基本的にお2人でされているんですか?
根本:私たちの他に部下も含めて4~5人でメニューを考えます。その後、試行錯誤したものを統括支配人の小泉を含めて、試食会を開催しています。大体月1~2回くらい実施していますね。自分たちではいけると思っても、惨敗することも少なくないですね(笑)。そこから再度考え直したり、一応合格点が出たけどもう少しブラッシュアップしたりすることもあります。また実際にお出ししてもお客様の反応がイマイチでしたら、バージョンを変えるなど常に切磋琢磨しています。
鄧:すごく良いチームですよね。ここに入る前のお店ではメニューは全て自分で決めていました。スタッフも口を挟めるような感じではなかったですね。
根本:フロアの意見が本当に通りやすい環境ですね。これは本当に大切なことだと思っています。やはり料理長って常にお客様と接せられる訳ではないので。だけどお客様に美味しいって思ってもらえなかったら、こちらの独りよがりになってしまいます。日々変わるお客様のニーズや、好みを把握しているのはフロアなので、それをフロア側がキッチンにきちんと言語化して伝えることでお客様が本当に美味しいと思ってくださるようなお料理を作ろうとチーム全体で試行錯誤しています。
―毎回色々なメニューを考えるのは大変そうです。
鄧:新しいアイディアがなかなか浮かばない時もあります。そういう時はその食材に固執しすぎないようにしています。
根本:席数が約110席あって、7割近くの方がコースを注文するようなスタイルなんですけど。用意しないといけないお料理が多いので、本当はもっと臨機応変に旬を取り入れたくても、ある程度の量を確保できる食材を仕入れないと全てのお客様に提供できなくなってしまいます。その前提をクリアできる旬の食材を使って、季節感を出さないといけないというところが難しいですね。
鄧:小規模なお店とかだったら、その日に卸の人が持ってきたおすすめの食材とかで、ぱっとアレンジできたりしますけど、そういうのが難しいんですよね。
秘密にしておきたい名物料理の美味しさの秘訣
―これだけはお客様に味わって欲しい逸品について教えてください。
根本:中国飯店の名物と言えば「北京ダック」と「上海ガニ」ですね。
―例えば北京ダックに関しては他のレストランとどういった違いがあるのでしょうか?
根本:企業秘密なのであまり言いたくないのですが(笑)、まず皮を大きくカットしています。おそらく通常は1羽の北京ダックから14~16名分を取っていると思うんですけど、「琥珀宮」では1羽から最大で10名分しか取ってはいけないという社内規定を設けています。そうすることによって、最初の1口から最後までダックの皮がしっかり入り、1本でも十分満足できるように仕上げます。お客様が感じる味のバランスや食感が最高な状態になるよう、味噌や巻く薄餅も特注品、葱やキュウリの切り方などもこだわります。
―あとは季節限定の上海ガニですかね。上海ガニはどれくらいの期間提供されているんですか?
根本:10~12月いっぱいですね。この時期になるとお客様の数は通常の月の倍になります。この3か月が1年で一番忙しいです。
―やはり上海ガニのコースと言えば、ほとんど上海ガニを使ったお料理で構成されているんですか?
根本:以前はそうでした。ただ「琥珀宮」よりも、上海料理専門のキッチンのある「富麗華」の方が圧倒的に上海ガニの使い方が上手なんですよね。ですので同じやり方で対決していてももったいないなって思うようになりました。「琥珀宮」では、もちろん上海ガニはメインではあるんですけど、他のメニューも楽しみながら、バランスよく味わってもらえるような構成にしています。
―上海ガニと言えば、姿蒸しですか?
鄧:姿蒸しにフカヒレにカニ味噌をあんかけしたものや、カニチャーハンなどですね。後は「富麗華」にないものと思って、上海ガニを使った点心や、蒸した上海ガニの足の身を別でほぐしておいたものをあんかけにしたミニ茶碗蒸しなど、うちでしかできないことをやりたいなと思って提供しています。
―「琥珀宮」ならではのおもてなしについてお聞かせください。
根本:“過ごした時間が記憶に残るレストラン”を、中国飯店全体でおもてなしのポリシーにしています。明確なルールはないんですけど、その合言葉に沿って個人個人ができる限りの対応をしています。例えば、お客様同士のふとした会話から記念日らしいと情報を掴んだらスタッフ同士で共有し、サプライズでセレモニー提供したり、出身地の話題が出ていて、その場所の素材がその時のお料理に入っていたらそこを深堀りして説明してみたり、常に臨機応変に対応しています。
鄧:お客様にその場で「こういうお料理作れますか?」と聞かれることもありますね。そういう時は材料だったり、自分も作ったことが全くなかったりすることもあるので必ずできるわけではないのですが、できる限りお客様の声には応えたいなと思って作ってみます。
根本:そういうお客様の声ってすごく刺激になるんですよね。大体自分たちでは思い浮かばいようなメニューを言われることが多いので、とても勉強になります。
「琥珀宮」らしさをより尖らせていきたい
―現在取り組まれていらっしゃることや、今後挑戦されたいことについてお聞かせください。
根本:「琥珀宮」らしさを尖らせていきたいなと思っています。中国飯店の名物料理と言えば、北京ダック、上海ガニ、その他豆苗マコモダケの炒め、黒酢の酢豚など色々あるんですけど。中国飯店に長く通われている方ってメニューを見ないでもよくお料理のことを知っていらっしゃるんですよね。そういう方々の認識をアップデートできたらなと思っています。例えば「琥珀宮」に来たら黒酢の酢豚よりもこっちだよね、「琥珀宮」だったらこれを食べようというように、他のお店にはない「琥珀宮」に来たらこれを食べたいと思ってもらえるようなお料理作りをしていけたらなと思っています。最終的にその極みで、定番の名物料理が一切入っていない、オリジナルメニューのみで構成されたコースメニューでお客様をおもてなしできるようになったらすごいなって思いますね。
―お2人のチームワークだったら実現できそうですね。
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プロフィール 支配人・根本和明氏
1974年 福島県生まれ。聘珍樓、火龍園、広東料理Fooなどでフロアサービス、支配人など経験した後、比内地鶏や秋田地酒を扱う飲食店をプロデュースするコンサルティング会社で2年間経営やマネジメントを学ぶ。2017年より現職。
趣味:料理、テニス、野球、読書、落語鑑賞、ウクレレなど。「よく飲みよく食べよく笑う」をモットーに。
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プロフィール 料理長・鄧國輝氏
1958年 香港生まれ。香港のレストランにて料理を学ぶ。1988年より神戸の新神戸オリエンタルホテルにて料理長を務めた後、鄧家在にてオーナーシェフとして活躍。
2016年に東京へ。火龍園にて料理長を務め、2018年より現職。
趣味:読書、中国の古楽器
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編集後記
料理長とフロアが対等に、ここまでオープンに意見を交換できるお店はなかなかないのではないでしょうか。常にお客様が美味しいと思ってくれるものを提供したい、その共通理念の元、チーム一丸となって「琥珀宮」らしいメニュー作りを追求する姿勢に、早くまたお店にお伺いしたくなりました。
※こちらの記事は2023年04月18日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。