インタビュー|

京都「日本料理 研野」酒井研野氏にインタビュー。中華や異ジャンルをミックスしたネオ日本料理とは

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酒井研野氏。ミシュラン3つ星を獲得した老舗料亭「菊乃井」で研鑽を積み、「菊乃井 無碍山房 Salon de Muge」の料理長を27歳という若さで任された人物です。今回「KIWAMINO」では、酒井氏に料理の道へ進まれたきっかけや食材へのこだわり、2021年3月にオープンした「日本料理 研野」についてお話をお聞きしました。目の前の炭火で炙る「チャーシュー」や、熱したオイルで仕上げるお造りなど、これまでの日本料理の枠にとらわれない品々が生まれたきっかけとは……、必読です。
※本インタビューは、2021年5月31日にオンラインにて行いました。

料亭で研鑽を積み、イノベーティブフュージョンや中華の名店で知識と技術を学ぶ

―料理の道の一歩目は、洋食からと伺いました。

料理人になろうとして、大阪の辻調理師専門学校に入りました。最初は洋食志望だったんですが、実習の時にちゃんとした鰹と昆布でとった味噌汁を味わってみて、普段自分たちが何気なく食べているものが手間暇をかけると「こんなにおいしくなるんだ」と感動したんです。恋人にするなら洋食、結婚するなら日本料理といった感じで、和の道へ進もうと決意しました。

―京都の老舗料亭「菊乃井」様に入られたきっかけをお聞かせください。

在学中に、いろんな料理関係の書籍を読んでいました。その中で、「菊乃井」の大将の本に「日本料理はまだ、極東のエスニック料理の一つという見られ方をしている。もっと世界に広げたい」という思いに共感したのがきっかけですね。実際に食べに行って、料理の味はもちろん、設えの素晴らしさにも感動しました。その後、「菊乃井」に実習で入らせていただいたのですが、とても緻密で、高いレベルのお仕事をされていて驚きましたね。先輩方もとても親切で優しく、雰囲気も良かったので入社を希望させていただきました。

「日本料理 研野」の店内。木の温かみ感じる落ち着く空間。

「菊乃井」には本店に8年、2017年に開店した「無碍山房 Salon de Muge」に創業から2年間携わらせてもらって、料理長を任せていただいていました。大将の村田さんから「自分の店を持つなら、新店の開業は経験しておいた方が良い」と言っていただき、とても勉強になりましたね。

―「菊乃井」様を離れて、どのようにご自身の料理の道を歩まれたのでしょうか。

まずは、「菊乃井」で一緒に働いていた先輩のアメリカ人のデレック・ウィルコックスさんが、ニューヨークで「Shoji at 69 Leonard Street」という日本料理店のシェフをしていたので、手伝わせて欲しいとお願いして働かせてもらいました。海外で仕事をするという夢があったんです。ニューヨークという街はもちろん、一緒に働いたスタッフやお客様が日本とは異なっていて、3か月の間でしたがとても刺激になりましたね。

そのあと中国料理の「京、静華」で働かせていただくことになっていたのですが、リニューアル期間中のタイミングということで、せっかくだからと京都・東山のレストラン「LURRA°」でお手伝いをさせていただきました。「イノベーティブ・フュージョン」と呼ばれるジャンルのお店で、短い期間だったのですが、青いトマトを使ったピクルスなど“発酵料理”を学ばせてもらいました。日本料理にも発酵文化はあるのですが、外国の発酵に関しての知識を得たのは大きかったですね。他にも食材の管理方法など、見えないところでどれだけきっちりやるか、細かい部分も学ばせていただきました。

―なぜ、ジャンルの異なる中国料理「京、静華」様で働こうとお考えになったのでしょうか。

10年間、日本料理を学ばせていただいて、異なるジャンルの知識や技術を学んでみたいと思いました。「菊乃井」在籍中に、京都の中国料理店「京、静華」の宮本静夫シェフの中国古典料理の勉強会に4,5回参加させていただいたんです。その時、中国料理の器や表現が日本料理とうまく合わされば面白いなと感じました。

中国料理に日本料理のエッセンスを取り入れている方は多くいらっしゃいますが、逆はあまり聞きませんでした。日本料理は素材ありきで、その持ち味を活かす料理がほとんど。もっと緩急の差を出してみたいと常々考えていたんです。そこに中国料理のスパイスなど味付けを取り入れて掛け合わせたら、緩急の差が生まれて面白いコース料理になるのではと。

中国料理のエッセンスを取り入れた新しい形の日本料理

―2021年3月に、オーナーシェフとして「日本料理 研野」をオープンされました。

「京、静華」では、3年ほど働かせていただこうと考えていたのですが、コロナ禍になり様々なことが制限される中、自分の時間が増えたんです。その時間に、独立をしっかり考え始めて。家の近くで今の店舗と出会ったことで、独立の思いが強くなった感じです。独立の準備には「菊乃井」での姉妹店立ち上げの経験が役に立ちました。

日本人に馴染みのあるもの、馴染むものを日本料理の定義として、お客様に味わっていただくお店にしようと考えました。シュウマイもチャーシューもラーメンも、中国から来たものですが、今では日本の国民食と言ってもいいくらいの位置にあると思います。これらも和食として考え、ここだけでしか味わえない一品に昇華させようと。

うちでは基本おまかせにさせていただき、月替わりでメニューを変えています。季節や旬を感じていただく挨拶のような品から始まり、お客様の目の前の炭火で焼くチャーシュー。その香りで食欲を沸かして、その後からは食事をより楽しく感じてもらえるような料理を用意しています。お造りや椀物もお出ししつつ、チャーシューやシュウマイで緩急をつけているところも特徴。そして〆はラーメンですね。京都ではなかなか口にできない、私の地元・青森の山菜やお酒(地酒やシードル)なども味わっていただきます。

また、食材もこだわらせていただいています。「菊乃井」の先代が、明石の鯛に惚れ込んだということもあり、明石の水口商店さんとお取引させていただいています。野菜は、京都・大原の農場にお願いしています。

酒井様の奥様も女将として「日本料理 研野」をサポート。

器の一部は、京都・山科で活動されている陶芸家の廣野俊彦さんの作品を使わせていただいています。こちらも「菊乃井」の大将からご紹介していただきました。「菊乃井」の大将には、いろいろお世話をしていただき感謝しています。
店内のお花は、「SUiU」の辻本知範さんにお願いしています。和花中心ですが「こんなお花があるのか、こんな生け方があるのか」と、毎回新鮮な驚きを感じさせてくださるので、お店にお越しの際は、ぜひお花もご覧になってください。

-最後に今後の目標、挑戦していきたいことを教えてください。

お客様はもとより、取引されている方のためにも星を狙っていきたいですね。そのことで私のお店を支援してくれる方々に恩返しができるんじゃないかなと思っています。あとは全国の道の駅を制覇したいですね。その土地でしか出会えない野菜や漬物など地元ならではの品があるので、全国を巡り、料理のヒントを探したいと思っています。

【プロフィール】
酒井 研野
1990年青森県出身。辻調理師専門学校を卒業し、2009年「菊乃井」入社。本店で8年勤務。2017年「菊乃井 無碍山房」の立ち上げに伴い、料理長に就任。勤務10年を終えて、同社を退職。その後、ニューヨークの「Shoji at 69 Leonard Street」、京都のレストラン「LURRA°」を経て、中国料理の「京、静華」へ。2021年オーナーシェフとして「日本料理 研野」を京都でオープン。

【編集後記】
「普段食べているものが、手間暇かけたら感動するほどおいしくなる」。この酒井氏の最初の気づきは、10年以上経った今でも心の軸として持たれているのだなと感じました。まさに日本の国民食と言ってよいシュウマイやラーメンも、日本料理を極めた匠が手間暇かけて調理すれば、次元の異なる逸品となるのでしょう。とても明るく話しやすい雰囲気を作ってくださる酒井氏。カウンターで気軽にお話をしながら、お食事を楽しむ方が多いのも納得です。

吉田ふとし

人材業界系メディアの編集・制作を経て、現職。小学生の娘をもつ1児の父。アルコール(日本酒、焼酎、ウィスキー)を好むのは祖母譲り。読者のみなさまには、気づきのある多くの情報をお届けいたします。よろしくお願いいたします。

【MY CHOICE】
・最近行ったお店:ジランドール
・好きなお店:広東料理 センス
・自分の会食で使うなら:「赤坂浅田」
・得意ジャンル:和食 / バー
・好きな食材: ジビエ、白子

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