2021年にスタートした「ITADAKU」というサービスをご存じでしょうか?
「ITADAKU」とは、日本のグルメ業界を牽引するトップシェフ達の中でも、現役で子育て真っ只中の方々を中心に、レシピ監修を行ったハイエンドな幼児食です。
▼公式HP▼
https://itadaku.jp/
今回は名だたるシェフ達の中から「Sincere」の石井真介氏と「LATURE」の室田拓人氏の対談が実現!
普段から食の未来を考え、様々な活動をされているお2人に「ITADAKU」のメニュー監修を通じて思い描いている食の未来や、料理に携わる父親ならではの食育についてなど、多岐に渡って語っていただきました。
野菜本来の味を存分に味わえるよう、普段の技術を集約したレシピ
-子育て中のシェフがレシピ監修をするハイエンドな幼児食「ITADAKU」ですが「Sincere」石井シェフと「LATURE」室田シェフがレシピ監修に携わった理由をお聞かせください。
石井真介氏(以下、石井):僕自身7歳になる息子がいて、子供の食について考えることも多いのが大きな理由です。
僕達が作るフランス料理は基本的に添加物を使わず、何か分からないものが入っていることはありません。
ただ、子供に食べさせるものを選ぶ中で、市販のレトルトや缶詰など、色々なものを実際に食べてみたんですね。
そうした所少し不安な部分があって……。親は子供が食べるものを考えた時、食の安全性がとても気になるということを、身をもって感じました。
室田シェフとは「Chefs for the Blue(シェフス フォー ザ ブルー)」という水産資源を守る活動も一緒に取り組んでいますが、やっぱり未来や子供達の将来に向けて、食の安全性に関する「食育」はすごく大切なテーマです。
今回は自分の技術により、美味しくてより安心なものが作れるのであれば協力したいと携わりました。
室田拓人氏(以下、室田):僕も子供がいるので、実体験で「食について」考えることが多いです。
自分も子供にパックになったレトルトの離乳食を食べさせてみた時、食の安全性はすごく考えさせられました。
常温で置いている商品が多いと思いますが、本当に大丈夫かな?とか、添加物も気になりますよね。
また今の子供達は好き嫌いがあったり、アレルギーを持っていたりする子も多いと思いますが、最初に食材本来の旨味を知ることで、そういうことも少なくなると考えています。
実際、自分の子供も冷凍のグリンピースは嫌いですが、フレッシュなグリンピースを使ってピュレを作ってあげると「グリンピースって美味しいんだね」と言ったりします。
子供達の未来のために美味しくてより安全なものを作ってあげたいと、共感する部分が多かったのが理由です。
-私自身も子育てをする母親として、食の安全性について自問自答している時期がありました。
石井:親は皆そうですよね。そして今回「ITADAKU」を監修するにあたり、勉強になった部分も多くありました。
僕らが作るフレンチはシンプルに美味しく仕立てる料理と、クリームやバターなど色々なものを合わせて美味しく仕立てる技法があるのですが、食材の味を活かすとなると、余分なものを入れずに美味しくしなくてはいけません。
そう考えた時、お店でピュレを作る際に使う技法ですが、岩塩に包んで内側から甘味を引き出したり、アルミホイルに包んでオープンでゆっくり焼くことで甘味を出したり、普段使っている技法を活かすことができるんです。そういう部分を考えるのはすごく勉強になりました。
室田:何も入れずに甘味や旨味を引き立たせるのって実はすごく難しいんですよね。
何度も違うアプローチでチャレンジしました。コクを出すためにバターを入れたくなるのをぐっとこらえて……(笑)。
でも食べてくれる子供達や、食材のことを考えて作ると、おのずと作り方も変わってくるので、逆にものすごく勉強になりました。
-添加物を使わないというこだわりを伺いましたが、その他にもメニューを監修する際に心掛けていたことはありますか?
石井:食材に対しても心掛けていましたね。他のシェフもですが、野菜は普段から利用している生産者さんから仕入れています。
愛着のある生産者さんが作った野菜の旨味を、僕達の技術で存分に活かすというのは一番心掛けていた点です。
室田:基本的に入れるものは野菜と水のみなので、野菜の良し悪しがかなり味に影響します。
僕も信頼している生産者の方が作った野菜を使用しましたが、なるべく野菜の良さを消さないよう、火入れに対して心掛けました。
あまり火を入れ過ぎてしまうと香りが飛んだり、色合いが飛んでしまったりするので、ベストなタイミングでピュレやスープにしています。
石井:確かに火入れの加減は大切。わかりやすい野菜で言うと、玉ねぎは生で食べたら辛いけど、くたくたに火入れをすると甘くなりますよね。
でも甘さを出したいために火入れし過ぎると玉ねぎの香りが飛んでしまう。どの加減で止めるのかはポイントの一つです。
後は食感。家庭で作る離乳食は、野菜をすり下ろして食べさせたりすると思いますが、舌触りがあまり良くなくて赤ちゃんが嫌がる場合もありますよね。だから舌触りも心掛けていました。
-対象者が大人ではなく赤ちゃんや子供なので、匙加減が難しい点もありますよね。
室田:食感に関しては確かにそうですが、味に関しては「美味しい」と感じるものは大人も子供も同じだと思っています。
僕達は子育てを経験しているので、その匙加減が何となくわかるのも大きいですよね。
子供達の未来のために、トップシェフが取り組む「食育」
-お2人ともお子様がいらっしゃいますが、自身のご家庭で取り組まれている「食育」についてもお聞かせください。
石井: 大きくなった今は「なぜ食事を残してはいけないか」という観点で、生産者の方の元に連れて行くこともあります。
そこで我々は生きているものをいただいているということ、少しショッキングではありますが、仔牛が生まれてどう育ち、そしてどう命をいただくのか、そういったことを見せたり、野菜であればどういう人が育てて、どう収穫して料理になるのかを教えたりしています。
料理人の僕が他のお父さんよりも優れている部分はおそらくそういった点だと思っているので、そこはちゃんと教えてあげたいなと考えています。
もっと広い意味で言うと「Sincere BLUE」を作ったのも「食育」活動の一つです。
いわゆる高級店と言われるお店をやっていると、なかなか小さいお子様にお店に来ていただくことができませんが「Sincere BLUE」に関して、週末は赤ちゃん連れのお客様もOKにしています。
赤ちゃん連れのご家族はどうしても行けるお店が限られてしまいますよね。水産資源を守る活動もしているのですが、そういうことをより多くの方に伝えられる場になってくれたらと思っています。
僕らは間違いなくチェーン店に比べてメッセージを伝えやすい立場ではあると思うので、なるべくそういった活動をしていきたいですよね。
実際にお子様が「お魚さんを守るお店なんだね」と言ってくれたり、魚の美味しさを実感してくれたりするなど、食育という観点でもいい形になってきたと感じています。
室田:僕も一緒で、やはり食への敬意、食べている食事は元々生きていたものの命で、生産者さんが存在するということ、そこに対してのありがたさや「いただきます」の意味は教えたいと考えています。
僕は猟をしているので、一緒に連れていき食べる前の動物に触れ、温度を体感してもらったりすると「大切に食べなくては」と学んでくれます。そういったことができるのは食に携わる父親ならではなので、しっかり教えるようにしていますね。
極端な話ですが、今の小学生は「魚が切り身で泳いでいる」と思っている子もいるそうです。
便利な世の中になるにつれて、命をいただいているということをつい忘れがちになってしまいます。
僕も学校で授業をしたり、子供向けの料理教室をやったりもしていますが、我々が食べている食は生きていた命であることをしっかりと伝えたいと思い、食育に関する活動をしています。
他にも「食育」という観点で言うと、将来料理の道を目指す人が少なくなってきているという問題を解決したい気持ちもあります。
コロナ禍で飲食店の悪い面ばかりがクローズアップされていると、ますますこの業界で働きたいと思う子供が減っていきますよね。
僕も子供の頃に先陣の料理人がかっこよく料理をする姿を見て料理人を目指したので、そういった場をもっとたくさん作って、この業界で働きたいと思う子供を増やしたいです。
「LATURE」は小さいお子様には来ていただけないので、自らがそういった所に行き、食のことをもっと伝えていきたいと考えています。
子供だけじゃない!「ITADAKU」を通して届ける家族の笑顔
-まずは「ITADAKU」の商品で食材本来の味を知ってもらい、お2人が行っている食育に関する活動にも参加することで、広い範囲で食について子供達に伝えていきたいということですね。
お2人は「ITADAKU」を通じて、家庭にどんな時間を過ごしてもらいたいとお考えですか?
石井:先ほどもお話にありましたが、大人が美味しいと思うものは、子供も美味しいと思うので、やっぱり同じものを食べて「美味しい」という気持ちを一緒に感じてもらいたいです。
大人の方が普段食べているスープは大抵がキューブ状のブイヨンを使っていたり、甘味を出すために玉ねぎを使っていたりするんですね。
やっぱり素材だけで作ると原価的にも大変ですし、味を引き出すのも大変なので、どうしても添加物や化学調味料が入ってきてしまいます。
「ITADAKU」のように素材だけの素朴な味というのは、あまり食べる機会がないので、素材本来の味を思い出させてくれると思います。
世の中には「一口食べて美味しい」と思えるロジックってあるんですよね。僕も揚げ物は好きですが、脂質や油分、酸味など、それぞれのバランスで頭がマヒしていくらでも食べられてしまいます。
そういった美味しさもあるんですけど、そうじゃない素朴な味の美味しさを一緒に感じられることはなかなかないですよね。それも楽しみの一つだと考えています。
室田:石井シェフのお話の通り、子供と一緒に「美味しい」を共感できるというのは一番大きいですよね。やっぱり子供と分かち合えるというのがいいと思っています。
-私自身も大人の「美味しい」を優先するあまり、子供と同じメニューを作らないことも多いです。そんな時に楽に作れるものを選んでしまいがちですが「ITADKU」であれば親子で「美味しい」を共有できる。すごくいい循環ですね。
石井:そうですね、楽をして食べることが美味しい訳ではないです。
小さいお子様がいるとつい楽で便利な方法に行き過ぎてしまうのは、自分も親の立場なので、すごく分かるんです。
でも僕達シェフが、そういったことを子供が小さい頃から知れる場を設けていかなくてはいけないですよね。
「ITADAKU」も市販のレトルトよりも少し高いかもしれませんが、信頼できる生産者が育てた野菜を思いのあるシェフが考えて作ったもので、価格や楽さという観点ではなく、もっと深い意味があるということを僕達は伝えていかなくてはいけないと思っています。
-どうしても楽で便利な方にいきがちですが、そういった観点でも食を選ぶ必要性がありますね。
最後に、子供だけではなく大人でも楽しめるアレンジ方法をお聞かせいただけますか。
室田:アレンジを前提に考えていなかったのでなかなか難しいですけど、少し手間はかかりますが、ピュレであれば小麦粉に練り込んでパンを作るのもいいかもしれないですね。
石井:ビストロでよく提供されるような「魚介のスープ仕立て」なんかも良さそうですね。
例えば、かぼちゃやかぶのスープであれば、ホタテや魚を焼いたものをスープに絡ませたりすると美味しいと思います。
僕らの料理はほとんどが魚介と野菜の組み合わせでできているので、そういった点で魚介類との相性はいいと思います。
後、お肉であればサツマイモなど芋系のピュレをお肉に沿えてソース替わりの付け合わせにしてもいいかと思います。
ぜひ幼児食の用途だけではなく、大人向けの食事にもアレンジをしていただけると美味しさが広がると思います!
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石井真介氏 プロフィール
1976年、東京都出身。四ツ谷「オテル・ド・ミクニ」、南青山「ラ・ブランシュ」とフレンチの名店を経験し、渡仏。本場の星付きレストランで修業を積み、2004年帰国。その後、汐留「フィッシュバンク東京」を経て、2008年より「レストランバカール」のシェフを7年間務めた後、2016年4月「Sincere 」をオープン。2017年より水産資源を守る「Chefs for the Blue」としての活動、2020年9月にはサスティナブル・シーフードをテーマとした「Sincere BLUE」をオープンさせ、注目を集める。
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室田拓人氏 プロフィール
1982年、千葉県出身。世界の美食家に支持される「タテルヨシノ」にて腕を磨く傍ら、2009年に狩猟免許を取得。翌年には渋谷「deco」のシェフに就任し、店をミシュランのビブグルマン掲載店に押し上げた。2016年に「LATURE」をオープン、すぐさまフランス発の美食本『Gault&Millau』にて明日のグランシェフ賞を獲得するなど、ジビエ料理の名手として注目を集め続ける。
※編集後記※
トップシェフが語る食の未来や食育について、同じ子を持つ親として本当に勉強になりました。お2人が共通して仰っていた「子供の食を考えることで、食の未来をより良くしていきたい」というお話がとても印象に残っています。
便利になり過ぎている今だからこそ「ITADAKU」を通じて家族全員で将来の食について考えてみるのも、一つの「食育」の形かと思います。
※こちらの記事は2023年04月20日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。