インタビュー|

和食の名店「賛否両論」笠原将弘氏にインタビュー、理想のお店を実現させる行動力の原点とは

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かつて若い世代は、とっつきにくいと感じる方も少なくなかった和食。今でこそ老若男女問わず多くの方が好んでお店を訪れていますが、恵比寿にある名店「賛否両論」の店主・笠原将弘氏は、間違いなく和食の魅力を幅広い世代に伝えた中心人物の一人です。
今回は、長年多くの予約を集める笠原氏に料理人になったきっかけから今後の展望まで、多岐にわたってお話を伺いました。

「賛否両論」という店名に込められた思い

―飲食業を始められたきっかけを教えてください。

実家が「とり将」という焼き鳥店を営んでいたので自然と料理人を志すようになり、父親の紹介で懐石料理「正月屋𠮷兆」で9年間修業をした後に家業を継ぎました。
家業を営む中で、もっと多くの方に和食の魅力を堪能していただけるよう、コース料理で和食を提供するリーズナブルなお店を開業してみたいという思いが強くなっていったんです。
そこで「とり将」が30周年を迎えた2004年、32歳の時に「賛否両論」を開業しました。
若い方にも受け入れてもらいやすいかと思い、恵比寿というエリアを選びました。

―「賛否両論」という店名には、どのような思いが込められているのでしょうか。

「こんな店名を付ける料理人はいないだろう」とインパクトを狙ったのもありますが、万人に賛同していただける事が難しいとしても、自分の料理を喜んでくれるお客様で店内を満席にしたいといった思いから、この店名を付けたんです。
極端に言うと、ミュージシャンのコンサートのように熱狂的なファン(お客様)と一緒に、自分も毎日楽しくお店を続けていきたいという気持ちでした。

―開業当初からそのようなお店を目指すのは、勇気がいる事だと思います。「成功するぞ」という確信はあったのでしょうか。

「とり将」を引き継いでから焼き鳥だけではなく、小料理やお酒を充実させるなどの工夫を続けていった結果、売り上げをもっと伸ばす事ができ、さらにその頃から雑誌やメディアの取材もしていただけるようになっていたので、手応えは感じていました。
駄目だったらまた最初からやり直せばいい、そう腹を括っていました。

―「とり将」でどのような工夫をされていたのか、もう少し詳しく教えてください。

その当時、焼き鳥店ではまず出さなかったような「人参のムース」をメニューに加えるなど、若い人にも喜んでいただこうと工夫をしました。
当時は時間があったので、フレンチやイタリアンなど他ジャンルの料理人に料理を教わったり、料理本を何冊も読んだりして、学んだ事を色んなメニューで試していましたね。お酒も価格を抑えて、種類を揃えました。
また店外の黒板にメニューを記載する他に、日々の出来事や思った事などを書いていました。
当時はSNSなんてありませんでしたから「昨日こんな事がありました」みたいな散文を毎日書いていたら興味を持ってお店に入って来てくださる方もいて、徐々にお客様が増えていったんです。

―料理においてももちろんですが、見せ方や展開の仕方など、常に「より良くできる事はないか」と模索されているように感じます。笠原さんの創意工夫の発想はどこから来るのでしょうか。

一番は、自分が「こういうお店があったらいいな」と常に考えていて、それをひとつずつ具現化しています。自分の思い描く理想のお店が無ければ、自ら作ってしまおうという思いです。ただ自分自身が「賛否両論」にお客様として行ける事はないのですが(笑)。

静かな立地に佇む「賛否両論」に合ったお店づくり

―自分が行きたいと思うお店があれば、きっとお客様にも喜んでいただけるだろうという考えですね。そういった笠原さんの熱意もあって「賛否両論」は金沢と名古屋にも広がっていったのかと思いますが、それぞれのお店に特色はありますか。

提供している料理やコースの価格は3店舗ともおまかせのコースのみで2種類です。献立も基本的に自分が考えて、1か月に2回内容を変えるという、恵比寿店と同じやり方でやっています。

金沢でいうと本当に食材が良いので、なるべく北陸や日本海側で獲れる美味しい魚介を使ったり、名古屋であれば三重や三河湾の魚介を中心に使ったり、地産地消を心掛けていますね。
地元産のものを使うという所は各店舗で変えていますが、やっている事は一緒です。

―なぜ名古屋と金沢だったのでしょうか?

そもそも多店舗展開をするつもりはなく、1店舗を繁盛させるのが恰好いいと思っていたので、お誘いがあってもお断りしていたんです。
そんな時、今の名古屋店がある「セントラルガーデン」に東京の有名店を入れるという事で、落合務シェフをはじめとする先輩方からお誘いをいただきました。
その熱意と、当時は多店舗展開に反対していた奥さんが名古屋の話をした際「やってみれば」と言ってくれたんですよね。
当時40歳手前で「新しい事に挑戦してみるのもいいかな」と思い、2店舗目をオープンしました。名古屋のお店は、絶対に東京でこんなお店はできないであろう立派な店構えも気に入っています。

金沢は元々仕事でよく行っていたのもあり、街並みも好きでした。
こちらは金沢が出身地でもあるパティシエ・辻口博啓さんに「金沢でお店をやってみれば」というお話をいただいた時に、にし茶屋街にたまたま良い物件があって「こういった立地でできる事もないだろう」と思い、開業しました。
その時々の自然な流れできていますが、良い物件に出会った時に「お店をやろうか」となりますね。
全体的にコンセプトは“駅から遠い、あまり繁華街や駅から近い場所にない”のが「賛否両論」らしいと思っています。

師匠からの教え「暇なら仕事しておけ」

―執筆活動に講演、お取り寄せやプロデュースなど、店舗営業以外にも精力的に活動されていますね。

執筆活動や講演は、格好つけて言えば「少しでも料理業界に恩返しをしたい」という気持ちで行っています。
自分を育ててくれた料理業界のために、何らかの役に立つ事ができたらと思っています。
お取り寄せやプロデュースは、スタッフになるべく多く給料を払ってあげられるよう売り上げを伸ばしたいし、長時間労働が常態化するのも変えていきたいと考えているからです。お金があれば他のお店へ食べに行って勉強もできるし、お洒落もできるし、趣味にお金を使う余裕があるくらいのお給料はあげたいと思うと、お声が掛かれば僕が外に行って稼いでくるのが一番分かりやすいかなと思っています。
後は、色んな新しい事に取り組んでみたい気持ちもあります。何をやっても役に立つといった気持ちですね。
また、自分に趣味がないというのもあるかと思います。料理が趣味と恰好をつけるわけではありませんが、本当の趣味と言えるものがなく暇なのもあって……。
「正月屋𠮷兆」での修業時代、料理長から「暇なら仕事しておけ」といつも言われていました。
他の先輩料理人からも「あるうちに仕事をしておいた方がいいぞ」「仕事は誰にでも来る訳ではないぞ」と言われて育ってきたので、自分に仕事があるうちはやれる限りやりたいです。

―コロナ禍への対応はどのようにされていましたか。

店舗営業を休止していた時期もありましたが、自分が店舗営業以外の様々な仕事を行っていたため、パニックになるような事はありませんでした。
お取り寄せやデリバリーについても、何とか収入源を確保しなければならないようなマインドではなく、各スタッフがやるべき事を自ら考えて行動に移そうという、落ち着いたスタンスで取り組む事ができたと思っています。それこそ「暇なら仕事しておけ」ですね。

正直な所、スタッフの中には接客の機会が失われて自信を無くしたり、料理業界のこれからに不安を覚えたりする事もあったと思います。
特に若いスタッフは、これから料理を覚えて自分のキャリアを構築しようとしているところです。
私はそんな彼らを不安にさせないよう「今時間があるうちに沢山練習をするように」と伝え、普段は時間をかけて教えられない、すっぽんの捌き方などを教えたりもしました。
料理人は料理をするのが仕事なんだ、仕事するぞと、スタッフに伝え続けましたね。
日本料理の本や漢字、歴史の勉強だって練習であり修業である事は言うまでもなく、この長い休暇が終わったら飽きるほど働かせてあげるぞ、とも伝えました(笑)。

―今後の展望を聞かせてください。

今後は、良い若手をいっぱい育てていきたいです。「賛否両論」出身の料理人が、みんなそれぞれに料理業界で活躍しているという未来が夢ですね。
自分自身もまだまだ若手に負けるつもりはないので、時間さえあればどこかに修業に行ったり、もっと勉強をしたりしたいと思う事もあります。いくつになってもまだまだ伸びしろはある、自分のそういった思いも若いスタッフに落とし込んでいきたいです。

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笠原将弘氏プロフィール 
1972年 東京都生まれ。高校卒業後、9年間「正月屋吉兆」で修業した後、実家の焼き鳥「とり将」を継ぐ。「正月屋吉兆」で学んだ事を活かし、独自のアイデアで「とり将」を人気店へと育てた。 2004年 「とり将」が30周年を迎えたのを機に恵比寿の自身のお店「賛否両論」を開店。メニューは、季節の素材を活かした「おまかせコース」のみ。その後2013年名古屋に「賛否両論 名古屋」、2019年に「賛否両論 金沢」をオープン。
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https://www.sanpi-ryoron.com/

懐石・会席料理

賛否両論 名古屋

地下鉄東山線 池下駅 徒歩5分

6,000円〜7,999円
日本料理

賛否両論 金沢

北陸鉄道石川線 野町駅 412m

8,000円〜9,999円

【編集後記】
インタビューの終わり「昔は考えなかったのですがいつかご飯がしっかりと美味しい旅館を営んでみたいと思います」と仰っていた笠原さん。
まだまだできる、もっともっとできるが根付いている笠原さんは、「これがあったらいいのに」をずっと考え続けていらっしゃる方だと感じました。
お客様の事、スタッフの事、普段笠原さんが思われている事を色々お伺いでき、最後に「格好いいインタビュー記事でお願いします」というお茶目なご要望もいただきました。皆様もぜひお店に足を運んで、直接笠原さんの格好いいお人柄とお料理を堪能していただけましたら幸いです。

橋本 恭一

美味しいお酒とお料理を求め続ける 都内屈指の胃袋&肝臓フル回転系ライター。 和洋中ジャンル問わず、王道の古典料理から イノベーティブ系のお料理にどんなお酒が合うかを ひたすらに追い求めており、食前食後などのバーの 楽しみ方も皆様にお伝えしてまいります。
【MY CHOICE】
・さいきん行ったお店:ナスキロ/サエキ飯店/赤坂 らいもん/鮨 みうら
・好きなお店:レストラン キエチュード/ラ クレリエール/私厨房 勇/トラットリア ダディーニ
・自分の会食で使うなら:くろ﨑/Les Chanterelles/日本料理 晴山/の弥七
・得意ジャンル:フレンチ/イタリアン/バー
・好きな食材:サルミソース/真鱈の白子/生トリ貝

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