インタビュー|

東京・中目黒「天雅」足木雅彦氏にインタビュー。天ぷら×日本料理の二刀流のこだわりとおもてなしの極意とは

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愛知県豊橋市にあった実家の天ぷら店や、名古屋の日本料理店での約20年の修業を経て、2012年10月に東京・中目黒で独立開業を果たした「天雅」。
「ミシュランガイド東京2014」以来、一つ星に掲載され続け、2021年10月にはオープン9周年を迎えた、経験・実力ともに兼ね備えた名店です。
今回「KIWAMINO」では、店主の足木雅彦氏にインタビュー。天ぷら×日本料理というスタイルへのこだわりや、お客様からのクチコミでも定評のある、おもてなしの極意を伺いました。

※本インタビューは、2021年10月20日に感染症対策の上で行いました。

実家の天ぷら店の2代目として、日本料理をも志した修業時代

-お父様も料理人として天ぷら屋さんを営まれていたそうですが、料理人になることは子供の頃から意識されていたのでしょうか。

私が生まれる1年前に父親が独立して、愛知県の豊橋で天ぷら屋をやっていました。物心がついた時から、父親が天ぷらを揚げる姿を見てきたので「大人になったら、自分もこんな風に料理を作る仕事をするんだ」と、自然に料理の道を志しました。
両親の教育方針で大学に行かせてもらったので、本格的に料理の道に入ったのは大学卒業後です。でも在学中は、勉強よりも複数の飲食店を掛け持ちするほどアルバイトに精を出していて、その頃から料理にのめり込んでいましたね。

-ご実家の「天雅」で4年修業された後、名古屋の「会席 小久保」に修業の場を移されたそうですが、どのようなご縁があったのでしょうか?

最初の修業先は、よその店にと考えていましたが、実家の「天雅」で働いていた従業員の方が独立することになったので、実家で修業に入ることになりました。それがいつの間にか4年経ってしまったのですが、実家の店に足りないもの、自分が学ぶべきものを明確にできたので、結果的に良かったと思っています。

他の店へ修業に出ることを決めたのは、趣味の食べ歩きがきっかけでした。実家で働きながら名古屋や京都、東京の店を訪れるうちに、名古屋で「ここだ」と思う店に出会ったんです。毎月通うことを2年以上続けるうちに、「ここの料理を覚えたい」という気持ちが抑えきれなくなり「弟子にしてほしい」と、料理長さんに直談判しました。それが小久保さんです。
翌年に小久保さんが独立することが決まっていたので一度断られてしまったのですが、その後も何度もお願いし、念願叶って、小久保さんの新しい店である「会席 小久保」にお世話になることができました。

-足木さんの想いが小久保氏に伝わったのですね!憧れていた小久保氏と実際に仕事をされていかがでしたでしょうか?

私が「会席 小久保」に修業に入ったのは、27歳の頃です。自分の中で学ぶべきことが明確にあったので、なるべく早く多くのことを学んで、実家の戦力になれるようにと、修業は5年間と決めていました。そのくらい強い気持ちで修業に出ましたが、よその店で働かせてもらって初めて、修業の厳しさを目の当たりにしました。早朝の4時、5時に起きて深夜まで仕事をするのが当たり前の時代だったので、とにかくギャップが大きかったです。

-小久保氏から教わったことの中で、特に印象に残っていることは何でしょうか?

料理のいろはを教えてもらったのはもちろんですが、親方は口癖のように「まず掃除」と言う方でした。毎日掃除ばかりで不満に思うほどでしたが、ある時「掃除=気付きの場」だということに気付きました。
料理人という仕事は、料理を作るだけでなく、お客様が欲しているものを察知したり、どんな気持ちで召し上がっているかを感じ取ったり、気付きが無いとできません。ちょっとした汚れや埃に気付くことが、お客様の反応や料理への気付きにも繋がるので、掃除を通して、細かい気付きの大切さを学びました。おもてなしは、全てにおいて気付くことから始まるので、今の自分に大きく活かされていると思います。

現在の「天雅」の原点となった「天ぷら会席」の誕生

-その後、ご実家の「天雅」にて「天ぷら会席」を考案されたそうですが、きっかけは何だったのでしょうか?

実家の「天雅」は天ぷら専門店なのですが、天ぷらでは表現できない季節感や彩りがあることを最初の修業時代に感じていました。日本料理は季節を感じられるのが魅力のひとつなので、自分が学んできた日本料理と、実家の天ぷらを融合させたら面白いのではと思って「天ぷら会席」を考案しました。

-小久保氏から学んだ日本料理の経験を元に、ご実家で更に腕を磨いていかれたのですね。周囲からの反応はいかがでしたか?

常連のお客様から「息子が修業先で、どんな料理を覚えて帰ってくるか楽しみだね」と常々言われていたので、父親からは「天ぷらは俺がやるから、お前は料理の方で学んできたことを活かして頑張ってみなさい」と言われました。実家の「天雅」では、いわゆる日本料理のようなものはお出ししたことがなかったので、お客様からの評判も良かったですし、手応えを感じましたね。

-10年もの経験を経て、独立を決めたきっかけは何だったのでしょうか?

2代目として豊橋でやっていくつもりで修業から戻りましたが、再び実家で経験を重ねるうちに、より高いレベルで自分の想いを込めた料理をやりたい気持ちが強くなりました。自分がやりたい料理を実家の店では表現できないことには戻って2~3年で気付いていましたが、様々な葛藤があって、結果的に10年経ってしまいました。
でも、40歳になる年に、これ以上迷っていては手遅れになってしまうと、独立を決意しました。東京を選んだのは、洗練された店がたくさんあって、食材も全国から一番良いものが揃う、刺激を与えてくれる街という印象だったから。その中に自分の身を置いて、実家の「天雅」で始めた「天ぷら会席」を、更にブラッシュアップして洗練された内容にして、東京のお客様に食べてもらいたいと思いました。

-奥様の後押しもあったそうですね。

それに尽きますね。自分の葛藤を妻に打ち明けたところ「あなたがやりたいのなら、私は付いていきますよ」と、背中を押してくれました。その時に反対されていたらこの店は無いので、すごく感謝していますし、今でも一番力になってくれている大切な存在です。

-料理人の先輩でもあるお父様とは、約14年一緒に働かれましたが、どんなことを学ばれましたか?

飲食店で大事なのは、食事を通じてお客様に楽しんでもらうことです。父親は人を惹き付ける力があって、自分のステージでお客様を楽しませることがすごく上手です。美味しい料理を作るのはもちろん、場の雰囲気を盛り上げて、店で過ごす時間をいかに楽しんでもらうかということを、父の横で仕事をしながら学びました。

-小久保氏とお父様のお二人から学ばれたことが、現在の「天雅」の大きな魅力である、おもてなしに繋がっているのですね。

約20年の修業を経て、長年の夢であった東京に「天雅」をオープン

-天ぷらと日本料理の二刀流である「天ぷら会席」のこだわりや、料理を作る上で大切にしていることを教えてください。

二刀流だからこそ、どちらも専門店の料理として恥ずかしくないものをお出しすることを心掛けています。他のジャンルに比べると、どちらもシンプルで日本人に馴染みのある料理なので、プロとして常に一定レベルのものを作るのは当たり前ですし、日毎に美味しくできるようにと、常に思っています。

この店を始めるにあたって特にこだわった3つが、「出汁」「油」「米」です。
出汁は、全ての料理のベースになるもの。昔、有名な料理人の方が「命の出汁」と言っていたくらい、お出汁ひとつで店の味が決まります。小久保さんの店で一番に学びました。うちでは、北海道の羅臼昆布と、枕崎産の本枯節で毎朝出汁を引いていますが、一番出汁はお椀や炊合せなどに、二番出汁は天つゆや天丼のタレなどに。ほぼ全ての料理に通じるので、まさに「命の出汁」です。

天ぷらはシンプルに食材の良さを引き立たせる料理なので、油は一番大事です。うちは愛知県の「マルホン胡麻油」100%で、生の胡麻を搾った「太白胡麻油」と、焙煎した胡麻を使った「大香胡麻油」を、季節によって配合率を変えてブレンドしています。「太白胡麻油」は無味無臭ですが、胡麻油特有のコシがあるのが特徴。それだけでも十分美味しい天ぷらができますが、上品な香りの「大香胡麻油」を配合することで、独自の味と香りを加えています。

3つ目の「米」は、日本人に一番馴染みのある食材です。うちでは、地元・豊橋産のブランド米「女神のほほえみ」を使っています。最初は違うものを使っていましたが、このお米を知って食べてみたところ、うちの料理に合うと思いました。地元というのもありますし、お米にこだわるという意味でも「これだ」と思いましたね。
コース料理の最後に、天丼・天茶漬け・白米とかき揚げの3つからごはんを選んでいただくのですが、天丼にしても相性抜群ですし、米粒がプリっとしているので、お出汁をかける天茶漬けは、最後までふやけずに食感を楽しめます。そういった意味でも、すごく自信を持ってお出しできるお米です。
この3つにはできるだけこだわりたいという想いがあって、オープン当初からずっと変わっていません。

-お米以外にも、地元・愛知県産の食材を多く取り入れていらっしゃると拝見しました。

実は愛知県は、海産物も農産物も豊富です。実家の店に居た頃は、当たり前のように使っていましたが、東京で店を始めて、築地や豊洲にも愛知県産の野菜や、三河湾で獲れた魚介などがたくさん並んでいることを知りました。それを見たら、地元食材をアピールしたい気持ちになって、東京に来てから地元愛がより強くなりました。お米の他には、ハマグリや平貝などの貝類や、トマトや大葉などの野菜も愛知県産を使っています。実は大葉は、豊橋(愛知県)が全国1番のシェアなんですよ。

-名物料理の「うにの天ぷら」は、どのようにして誕生したのでしょうか?

「うにの天ぷら」は、私の父の料理なんです。実家の店でも好評だったので「天雅」の武器として、ここでも継続して作らせてもらっており、東京のお客様にも気に入っていただけています。うにを大葉と海苔で巻いているのですが、大葉は先程もお話しした豊橋産のものを使っています。

-定番の料理以外に、最近取り組まれていることはありますでしょうか?

コースの構成は大体決まっていますが、時短営業の時にはフルコースができなくなってしまいました。そんな中でもお客様に楽しんでもらえるようにと、今までやっていなかった「炊合せ」や「ノンアルコールドリンク」などを始めました。

「松茸コース」は、以前から季節のものとしてやってみたいと考えていましたが、国産にこだわると値段が高くなってしまうこともあり、実現できずにいました。でもコロナ禍だからこそ、新しいものを取り入れることで、お客様に興味を持っていただけるのではと思い、今年初めて挑戦しました。料金は通常のコースよりも高くなってしまいましたが、お客様からも好評でした。
(現在は松茸コースの販売は終了しています)

あとは、お酒の提供禁止を機に、オリジナルのノンアルコールドリンクを始めました。コース料理でお酒禁止は、営業的にもお客様にも辛いことなので、僕自身は、お酒の提供ができなければ店は営業できないと思っていたのですが、妻がオリジナルのドリンクを6種類も考案してくれました。お客様からも好評だったので、お酒の提供が再開された今でも、2種類のジンジャーエールはメニューに残しています。市販のノンアルコールドリンクはどこでも飲めますが、オリジナルのものは、お客様の心を打つんですよね。「天雅」の新しい引き出しのひとつになりました。

-ご主人が作る料理に合わせて奥様が考案されたドリンクですから、相性が良いのは間違いないですね!
どのクチコミを見ても、大将と奥様のおもてなしや、お二人のお人柄が表れるかのようなお店の雰囲気を絶賛されているのが印象的でした。おもてなしのサポートとして、奥様が女将としてご活躍されているのも心強いですね。

人と人との繋がりを大切に、オープン9周年を迎えた「天雅」のこれから

-10月1日に9周年を迎えられましたが、今後の目標についてお聞かせください。

日本料理にしても天ぷらにしても、今までのものにとらわれずに、新しい素材を取り入れて、新しい料理に挑戦していきたいです。時代の変化によってお客様の食の好みも変わっていくと思うので、そういった変化を敏感に察知して、お客様が求める一歩先のものを提案できたらいいなと思っています。

あと、特に今は、アクリル板で仕切られたり、人との接触を控えたり、何かと分断される時代です。そんな時だからこそ、お客様はもちろん、関わってくださる方との繋がりを大事にしていきたいです。
去年の5~7月に全国的な休業要請が出た時、テイクアウト営業しかできなくなってしまいました。今までやったことがなかったのですが、常連さんが毎週のようにお弁当を買いに来てくれたり、テイクアウトをきっかけに常連になってくれたお客様がいたりと、なんとかやり切ることができました。こういった状況だからこそ応援してあげようと思ってくださるお客様もいらっしゃるということに、人と人との繋がりの有難みを改めて実感しました。
そういったお客様をもっと増やしていけたらと思うので、足を運んでくださったお客様とは、なるべくコミュニケーションを取って、より身近に親身に付き合っていけたらと思っています。できれば、来てくださるお客様みなさんと、そんな関係になれたらいいですね。

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【プロフィール】
足木 雅彦

1971年愛知県豊橋市に生まれる。
大学卒業後、父が営んでいた天ぷら店で天ぷらを学び、名古屋 覚王山の「小久保」で日本料理を学ぶ。
約20年の修業を経た後、2012年10月 東京中目黒にて「天雅」をオープン。
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天ぷら 会席料理

天雅

東急東横線 中目黒駅 徒歩4分

15,000円〜19,999円

【編集後記】
「ミシュラン」「カウンターの天ぷら」「中目黒」と聞いて、取材に伺うまでは、敷居の高さや緊張感を想像していたのですが、店内に入って、ご主人と奥様の笑顔に迎えられた時に、お客様からの数々のクチコミにすぐに納得することができました。
“お客様に楽しんでいただきたい”という想いが、新しい料理のアイディアや、日々の原動力になっていて、長く愛されるお店に繋がっているのだと思います。
ご実家の「天雅」は2017年11月に閉店されてしまったそうですが、ご両親は定期的に中目黒の「天雅」へ足を運ばれているそう。愛情溢れるご家族の支えも、魅力的なお店の要因となっているに違いありません。

Mika Tsuboi

一休.comの宿泊営業アシスタントから編集部へ。ワインと一緒に、美味しいものを少しずついただくのが最高の幸せ。こぢんまりとしたフレンチやネオビストロがお気に入り。
最近は日本ワインにも興味を持ち、旅先で出会った好みのワインを自宅で愉しむのが日課。パンやスイーツなどにも目がなく、週末にはカフェやパン屋巡りをし日頃の情報収集も欠かさない。
・最近行ったお店:Restaurant Fermier/六雁/Varmen
・好きなお店:広尾 ぺりかん/RESTAURANT MAMA./LATURE
・得意ジャンル:ビストロ
・好きな食材:ジビエ/蛤/伊勢海老/キノコ

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