インタビュー|

【神戸の名店リレー】「鉄板焼 十河」十河 展史氏に聞く、常にお客様の立場に寄り添う鉄板焼きのおもてなしとは

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神戸・三宮から徒歩5分。「鉄板焼 十河」は、大人の隠れ家的鉄板焼きとして、神戸の食通から愛されるお店です。30年のキャリアを持つオーナーシェフ・十河 展史氏に、これまでのご経歴と、料理で人をもてなす魅力について伺いました。

「常にお客様の気持ちに立つ」という料理哲学を培った修業時代

―十河様が料理人として仕事をされるようになったきっかけは?

もともと料理を作るのが好きで、親の料理の手伝いをよくしていました。一時期、美術の先生になりたいと考えたこともありましたが、高校2年生くらいで料理を視野に入れて仕事しようと。料理は美術同様、感性を磨く部分があるので、今の道に進めて良かったと今では思います。
専門学校に1年通い、1991年に「神戸ポートピアホテル」に入社しました。
本当はフランス料理がやりたくて、専門学校でもフランス料理とスペイン料理を専科として学んでいました。「神戸ポートピアホテル」に入社したのも、当時フランス料理の老舗であった「アラン・シャペル」に入りたい気持ちがありました。ただ、入社した年に「アラン・シャペル」の空きがなく、配属は「鉄板焼 但馬」。そこから鉄板焼きの道がスタートしました。
自分の中では、鉄板焼きといえばお好み焼きのイメージしかなくて、最初は嫌で辞めようとも思っていました。そんな中、先輩である森重さんという方に「すぐ辞めるんじゃなくてまずは頑張ってみろ」と言われて。仕事に対しては非常に厳しかったですが、すごくお世話になって、一番尊敬できる方です。色んな勉強をさせていただきましたが、常にお客様の気持ちに立って仕事をされる姿に、料理人として「自分がお客様だったら」という気持ちを持ち続けることが大事だということを学びました。

―修業時代で特に印象に残っていることは?

鉄板焼きは表に立って焼けるようになるまでが大変で、練習して焼いたものは捨てずに全部食べていました。鉄板焼きは一見簡単に見えてすごく奥が深くて、1日に何食分も焼き続け、全て食べるということを繰り返す日々が続きました。料理長から合格が出たら次のステップに行ける。かなりしんどかったですが、そのおかげで今があると思います。
24歳の時には、「神戸ポートピアホテル」の出向で、オランダのアムステルダムにある5つ星ホテルでも働かせていただきました。やっぱりフレンチという気持ちもあってヨーロッパには行ってみたかったんです。鉄板焼きと和食のお店を新規オープンするということで、指導係で渡りましたが、急遽料理長として働くことになり、2年間働きました。
震災でホテルが落ち着いていたということもありますし、タイミングが良かったと思います。海外のメンバーと仕事するというのは大変でもありましたが、すごく楽しかったですね。

―海外で仕事するというのは中々大変そうですが、その中でも特に思い出に残っているエピソードを教えて下さい。

自分の中で成長したポイントは、もともと鉄板焼きの売上がそこまで良くないと聞いたので、まずは皆で売上を上げようと1年間頑張って最多売上を出し、目標を達成したことですね。一からまとめ上げて、一つのチームになれたのが嬉しかったです。そこからクリスマスでいらっしゃるご家族に喜ばれるようなことを何かできないかと皆でアイデアを出して、焼き飯で絵を描いたり、チップを貯めてお菓子や小さなぬいぐるみを用意してお子様にお渡ししたり、イベントとして盛り上げるようなことをしていました。

オランダで働いているうちに「神戸ポートピアホテル」も忙しくなってきたので、ポートピアに戻り、そのあと町場のイタリアンで勤務しました。そして再びポートピアに戻ることになった際にイタリアンの経験があったということもあり、社長からの推薦で少しの間、ポートピア内の新規のイタリアンの立ち上げを任せて頂きました。落ち着いてからは鉄板焼きに戻り、それ以外にイベントのときにはフレンチも手伝ったりして、最終的にイタリアンもフレンチも経験できたことが今に活かされているので、やってよかったなと思います。
合計で17年程「神戸ポートピアホテル」で働きました。その後「神戸メリケンパークオリエンタル」に転職させていただき、1年後に自分の料理店を立ち上げました。

お客様を喜ばせるための「鉄板焼き」の極意

―長年ホテルで働かれる中、独立を考えられたのは?

働き始めて15年ほど経った頃から、お客様に「独立したら?」というプッシュをいただくようになりました。それまでは、まず海外に行きたいという気持ちがありましたし、料理長になったということもあって独立を考えるようになりました。

その時に周りから言われたのは、「ホテルだからお客さんが来ていたということ。そのため、自分が独立したときにも来てもらえるよう、自分が休みの日でも、ご予約をいただいたらお店に出るようにしたり、記念日を忘れずにしたりと、仕事を頑張っていました。当時のお客様は今でもいらっしゃいますし、先輩の森重さんも来てくれています。

オープンしてからは、常に料理を変化させるよう努力していました。企業の接待、医療関係者、年配の顧客、海外の方にも来ていただき、、ランチはサイトからの予約もあり、週末は常に満席で忙しかったです。これからまた伸びるかなという状態でコロナになったんですよね。

―コロナ禍において悩まれるお店も多いですが、十河様はいかがお考えでしょうか。

今回のコロナショックは社会に大きな危機をもたらしましたが、同時に変革のタイミングでもあります。さらなるステップに踏み出す絶好の機会であり、さらなる成長への試練だと思いました。去年に比べスーパー、百貨店も開いているためテイクアウトの需要も減っていますし、新しい料理の施策、テイクアウトのバリエーション、SNSの発信など常にモチベーションを上げながら業務に取り組んでいます。

気になっているのは、だんだんと神戸の町が寂しくなっていること。震災もそうでしたし、コロナ禍でもそうですが、多くの飲食店が閉めている状態が続いています。閉めていれば補助金や助成金はいただけますが、料理人なので料理を常に作っていたいですし、向上していきたいと思っています。コロナになる前は良かったから、今は何もしないというのは嫌で、ずっとやり続けることが大事。どの考えが良いとか悪いとかではないですが、やはり無くなってしまうお店も増えてきていますし、何か手助けというか、できることがないのかと思っているところです。

―これから取り組まれていきたいことは?

前から個人的に医療関係者や企業に対してボランティアをしています。料理を病院に届けるには、運搬も難しいことがあります。感染者が多いとさらに難しかったりするので、個人的にご近所の医療関係者の家へ届けたりもしています。

また、月1回、料理技術向上として鉄板焼き業界の若手育成の勉強会をしています。うちにも同業者が来られることもありますが、若い世代の育成、神戸の鉄板焼き業界の向上が出来たらいいなと思い、もう一人の同業の方と企画しています。僕は神戸の町や人が好きですし、飲食同士のつながりが強い街だと思います。他店ともいろいろな勉強をしていますが、コラボも含め、もっとそういうことができたらいいなと思います。

また、先輩の森重さんは以前うちに一週間ほど来て働いてくれたこともあって。すごく嬉しかったです。実は次の展開も考えていて、プロデュース業のお話をいただいたりもするので、できたら森重さんとはまた一緒にお仕事できないかな、という野望を持っています。

若い料理人の気持ちを尊重し、飲食業の未来を作る

―今回、神戸の名店リレーというテーマで若手の育成についても質問させていただいておりますが、若手の方々に対してはどんな印象がありますか?

よく、「若い子はゆとり世代で言うことは大きいけどできない子が多い」というイメージがあると言われますが、若い子でもできる子は沢山いるなと思います。感性がすごい人もいるし、一緒にいると勉強になることが多いです。
どちらかというと、料理人として自分たちがこれまでやってきたセオリーを押し付けても今の子はついてこれない気がするので、指導側がいかに考えを導いていくかが大事かなと思いますね。自分がどうなりたいか、何をしたいのかを教えなければいけない。それをすれば明確になるので、根気よく指導していくのが大事だと思います。
例えば、私一人が経験して部下に伝えようとしても、なかなか伝わりません。ただ言うだけでは反発されるので、経験を一緒に見たり聞いたりする、共有することが大事かなと思います。共有することで自ら理解し、さらに上を目指そうと思ってくれます。熱い情熱や夢を持っている方を導いてあげるのが私たちの仕事だと考えています。夢は絶対叶うものなので、諦めずに頑張ってほしいですね。

―十河様のお人柄を感じられる言葉ですね。一方で、最近は夢を持てないという若い子も多いようですが、彼らに対しては何とアドバイスされますか?

お互いのモチベーションを上げていくのが必要かなと思います。まずは自分がどこにいるかを自覚させ、その人の可能性を信じてあげること。それによって目標設定をさせ、1年後、2年後の成長を信じて育てていく。相手の心に火をつけ、それを継続させる仕組みを持つことでしょうか。
何より、仕事に対する姿勢を若いスタッフに示し続けること。嫌な仕事程自分でやり、常にお客様の気持ちになって料理を作る。それが料理人として一番重要なことだと思っています。

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【プロフィール】
十河 展史
1991年に「神戸ポートピアホテル」に入社。「鉄板焼 但馬」の配属となる。
24歳でオランダのアムステルダムにある5つ星ホテルに出向。2年間料理長を務める。
帰国後「神戸ポートピアホテル」、「神戸メリケンパークオリエンタル」などで経験を積み、「鉄板焼き十河」を立ち上げる。
ミシュラン2016一つ星を獲得。
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【編集後記】

店内に掲げられる「心」「蓮」「楽」「輝」の文字は、「鉄板焼 十河」が大事にされているコンセプト。心を通わせ、清らかに、楽しく、とっておきの輝く時間を提供したいという十河様のお考えが伝わってくるようです。物腰柔らかにお話をされる十河様の中に見え隠れする料理への情熱とおもてなしの心を強く感じました。

鉄板焼 十河 : https://www.instagram.com/t.sogou/


インタビュー:Y.Fukaura
編集:A.Ishikwa

Airi Ishikawa

一休コンシェルジュ メディア事業部長。高級旅館のお取り寄せが最近のマイブーム。インタビューを中心に、地産地消や、生産者に近い距離で食材と向き合う極みのシェフがいる店をご紹介します。
【MY CHOICE】
・最近行ったお店:祇園 さゝ木 / Crony / のぐち 継 / 津の守坂 小柴
・好きなお店:ベージュ・アラン・デュカス / ブラマソーレ / 美伶
・自分の会食で使うなら:鮨きむら / 中国飯店 富麗華 / エディション・コウジ シモムラ
・得意ジャンル:フレンチ / バー
・好きな食材: 魚卵

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