今回KIWAMINO編集部では、食の専門家の方々に「2025年に行きたい、今気になるレストラン」と「2025年のグルメトレンド」について伺いました。お話を伺ったのは、本邦随一の鮨ブログ「すしログ」を運営し、国内外で6,500軒以上を食べ歩く大谷悠也氏。鮨業界の先端を走る大谷氏が予想する、2025年の食のトレンドとはどのようなものでしょうか。
お伺いしたのは……

大谷悠也氏(すしログ)
鮨研究家、日本ソムリエ協会 J.S.A. SAKE DIPLOMA所持。鮨の本質を伝え、人気を高めるべくブログ「すしログ」を運営。鮨と日本酒の魅力を高めるため、“鮨と日本酒のペアリング”を積極的に提案している。
2025年に行きたい、今気になる鮨店とは
2024年3月に横浜から東京・広尾に移転された林ノ内勇樹親方のお店「鮨 ゆうき」。横浜「常盤鮨」時代に初めてお伺いして一口惚れした鮨店です。2018年から訪問し続けていますが、移転してからより一層着実に前進されているのが通いたくなる理由。気づきにくいポイントかもしれませんが、仕事の細部を頻繁に調整されています。人気を高めながら独自の表現にストイックに向き合い、謙虚かつ批判的な姿勢を取られている点が素晴らしい。伸び続ける予感を抱く職人のお店は興奮を与えてくれます。お伺いする度に何か一つ発見させてくれる職人なので、再訪であっても常に“今気になる”お店です。
「恵比寿 えんどう」は2024年11月に訪問したお店ですが、親方ご自身の試みと親方を支える生産者の方々との連携に刺激を受けた鮨店です。遠藤親方は他のあらゆるお店と異なるアプローチをされていて、江戸前鮨の深化を果たされる方とお見受けしました。時代に迎合しないスタイルを取られていますが、本質的であるが故に普遍性を用いる試みだと言えます。これは僕が度々足を運んでいるお店以外で久々に覚えた感覚。その感覚に基づき、2025年もお伺いしたいと強く感じました。奇策を弄さず、鮨を王道の中で掘り下げている試みは否応なしに応援したくなります。
鮨人気が高まり続けていて、新たな表現が次々と生まれる今だからこそ大切にしたいのが温故知新だと感じます。そのうえで、特定のお店ではありませんが、“老舗の系譜の鮨店”を積極的に訪問したいと思います。僕は新規店に限定せず、老練の実力店も再訪して鮨の知見を更新していきたいと考えています。ベテランの鮨職人は“仕事で魚を旨くする”という伝統的な技術に精通しています。そのような熟練の仕事は純粋な味に留まらずインスピレーションを与えてくれるので、鮨の表現力や想像力が広がります。
食通が予想する、2025年の食トレンドについて
鮨に関する2025年の食トレンドについては、以下のとおり予想します。お店の傾向、シャリの傾向、日本酒への注目の3つについて解説します。
まず“お店の傾向”については、インバウンド需要が高まる中で、増えすぎたお店の淘汰が始まるのではないかと思います……いきなりホラーな話で恐縮ですが(笑) 。しかしながら、これは2024年12月の現在でも実感するところです。特に鮨職人がオーナーシェフではない、経営者が職人をヘッドハントしたタイプの新規店は職人さんの実力に応じて客入りが大きく変わると予測します。漁獲不足に伴い、鮨種が奪い合いになっている中、鮨職人が経営者ではないお店は価格設定と質の乖離が激しいためです。WEBの予約サイトを見ると、空席が目立つのに価格は個人店なみのお店が散見されます。仕入れと技術のレベルを維持しつつ適正価格を付けなければ客離れは進む一方でしょう。そのようなお店が安易なインバウンド対策を行い、鮨文化を毀損しないことを願うばかりです。消費者としては、良いお店の“選球眼”がより大切になると感じます。
また、鮨店の高級化に対する反動で低~中価格帯のお店が増えたこともトレンドになると思います。安くても美味しくなくては論外ですが、一定のクオリティを維持する低~中価格帯のお店は市場に歓迎されていると感じます。鮨職人の働き方も多様化しており、高級店では休日や労働時間の明確化が進んでいます。そして、出張鮨職人が急増していたり、キッチンカーの鮨職人が登場したりと、カジュアルな業態も増えています。日本の水産業は弱体化していますが、鮨業界は活性化していて、裾野が広がり続けています。“質より量”という昭和の水産業に終わりを告げ、漁獲制限を加えながら“量より質”で上質な魚介類を少量で高く流通させるエコシステムが整えば、日本の鮨文化は真に世界に誇るものとなるはずです。鮨の裾野が広がる中で、魚介類がサステイナブルであることを願っています。
次に“シャリの傾向”についてお話します。2023年~2024年にかけて、多くのお店は“まろやかな方向性”にシフトしたと感じています。現在においては少し前に一世を風靡した、赤酢の旨味、酸味、香り、色合いの全てを強く効かせたシャリは少数派になっています。また、温度を細かく調整するトレンドもありましたが、全体的には落ち着いており、微調整するのではなく構成を意識してメリハリを付けて、ゆるやかにコントロールするお店が主流になっている印象です。そして、これらについては2025年も継続すると踏んでいます。
また、シャリから話は逸れますが、タネの使用方法についてもシンプルな方向にシフトするのではないかと思います。いわば、脱・インスタ映えです。現在はイカに海胆やキャビアを加えたり、花穂紫蘇を盛り盛りに使用したりと、味よりも見た目を重視する鮨店が増えました。しかしその動きは見直されて、見た目を重視するお店はキワモノとしてみなされるようになると思います。2025年よりも先かもしれませんが、鮨の進歩は止まらないので、安易な付け焼き刃は淘汰されていくか序列が下になるのは必定です。
最後に“日本酒への注目”についてお話します。2024年12月5日に、日本の「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。「和食」に続く快挙です。日本酒はワインよりも複雑な並行複発酵で造られるお酒なので、筆者は“世界でワインに匹敵する唯一の醸造酒である”と確信しています。しかし、残念なことに、料理との相乗効果を試すペアリングについては、未だ発展途上な状況です。
昭和から平成にかけて高級店では、高級な大吟醸・純米大吟醸であれば良いとみなされてきましたが、これは味覚や嗅覚を無視している以上、食文化においてはプリミティブだと言わざるを得ません。フレンチにおいてはワインと料理は不可分なので、日本でも急速に注目されるのではないかと感じています。「和食」と「伝統的酒造り」がともに無形文化遺産となった以上、それらが分離している方が不自然です。世界から旅行者が日本食を求めて訪問する時代になったので、鮨が世界レベルの食となるためにはペアリングの概念と技術は必須です。
日本の食文化がさらに深まることを心から期待しています。
※こちらの記事は2025年01月01日作成時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。