新潟県はもともと魚介類の評価が高く、日本酒に強いことも相まって旅行先としても人気の県です。しかし、十数年前は洗練されたお店は決して多くはなく、某グルメサイトのランキングを見ても上位はラーメン店や居酒屋ばかりの状況でした。僕はその頃からどこの県に行くとしても江戸前鮨店を探していたので、新潟県で「美味しい江戸前鮨店」を見つけるのはなかなか大変でした。しかし、時は経ち、今や全国的に見ても鮨目的で旅行をすべき土地になっています。本記事では、新潟県産の魚を用いて魅力的な江戸前鮨に仕上げる名店を4店紹介します。
目 次
1.全国から新発田を目指す価値がある超実力派!「登喜和鮨」
登喜和鮨(新潟県/新発田駅)
漢字の表記は簡単なのに難読地名の「新発田(しばた)」。新潟市ではない新発田市において、全国から訪問する価値がある新潟らしい江戸前鮨を握る職人さんが小林宏輔親方です。「登喜和鮨」は1954年に創業された老舗で、小林宏輔親方は3代目。東京での修行を経て郷里に戻られ、お店を全国レベルの名店へと牽引されました。筆者が初めて訪問した頃から秀逸なご当地流の江戸前鮨を創出されていましたが、昨年4年ほどのスパンを経て再訪したところ格段に腕を上げられていて驚きました。99%新潟県産の食材を用いながら鮨と向き合う、鮨愛に満ちた職人さんです。
特に印象的なタネについては、春子(カスゴ)。鯛の稚魚で、江戸前鮨王道の鮨種です。それを、〆の仕事で東京のお店とは異なる味に仕上げている点が素晴らしい!旨味の引き出し方が巧く、香りが良いため、繊細なはずの春子であっても一口目から「旨い!」と感じました。しっとり、ほろりとほどける繊維質も魅力。伺ったところ、小林親方は新潟の春子を研究した結果、8月後半から10月までがピークであると確信したそうです。魚と向き合い、仕事の精度を高める鮨職人って格好良い……。
2.新潟の鮨を一気に全国区へと引き上げた鮨職人!「兄弟寿し」
兄弟寿し(新潟県/新潟駅)
新潟市内にある「兄弟寿し」も「登喜和鮨」とともに新潟の鮨レベルを一気に引き上げている名店です。「旅行中、どちらのお店に伺えば良い?」と尋ねられることがありますが、僕は「どちらも訪問してください!」と答えています。仕事が全く異なりますし、タネに通じる部分もあるので、両方伺うと新潟の魅力を実感できます。お店は1960年に創業された街場寿司だったそうで、昔は夜中の27時まで営業されていたそう。東京で修行された2代目の本間龍史親方が2011年に新潟に戻り、新潟県内の流通で江戸前鮨を生み出すことに成功しています。
特に印象的なタネについては、ノドグロ(アカムツ)です。2014年の錦織圭選手の発言以来、人気が非常に高まり、今や東京の鮨店でもスタンダードになった鮨種ですが、新潟県は昔からの名産地で、地元の人の人気も高い魚です。脂が乗った深海魚なので、仕事による差異化にセンスが必要とされます。しかし、本間親方のノドグロの鮨は久々に「美味しい!」と感じました。佐渡産のノドグロは南蛮海老を食べているため、海老味噌を噛ませて握られているそうで、圧巻の一体感。身の繊維質や香りも楽しめるので、海老味噌が全くあざとくなく成立しています。
公式Instagram:https://www.instagram.com/kyodaisushi_niigata/
3.確かな技術で江戸前鮨を楽しめる優良店!「はつね寿司 本店」
はつね寿司 本店(新潟県/新潟駅)
上記の俊英2軒が注目される前から「新潟らしい江戸前鮨」を提供されている鮨店です。渡辺裕一親方もまた東京の鮨店で6年間修行された後、新潟のご実家に戻られて現在のスタイルを確立されました。先に「登喜和鮨」と「兄弟寿し」を紹介しましたが、新潟のご当地流江戸前鮨は渡辺親方がパイオニアの一人です。ご実家は飲み主体の街場寿司だったところ、お父上と衝突しつつ、帰郷から8年後の2012年にお店をリニューアルして、夜営業のみ・おまかせコースのみの鮨店へ変えたそう。先見の明があると言わざるを得ません。
「はつね寿司 本店」さんは、上記2店よりもより王道の江戸前鮨に近いタネの構成と仕事です。小鰭はみっしりした食感で、酸味も浸透させて、オボロと調和させる非常にクラシックな江戸前鮨の仕事。鰹も藁で炙って提供されるのですが、麒麟山酒造が作っている酒米の藁を使用されているそうで嬉しくなります。ダイレクトに味に影響する要素以外でも、味に物語と旅情を与えてくれる調理法をされているとありがたいですよね。
4.全国で見ても比類ない日本酒ペアリングを繰り出す!「すし あらい」
すし あらい(新潟県/新潟駅)
新潟のみならず全国で見ても稀有なスタイルの鮨店です。なにせ荒井大心親方は接客スタッフ以外、ほぼほぼワンオペの状態で酒肴、握り、日本酒ペアリングを精密に実現されているので!筆者も鮨職人と組んで日本酒ペアリングをすることがありますが、それゆえに荒井親方の凄さが分かります。まさに一騎当千。荒井親方は珍しく東京では修行されておらず、秋田の「たつ福」を経て新潟の「よしの寿司」で20年近く修行された後、2017年に「すし あらい」をオープンされました。食材だけでなく日本酒も県内産で固めていて、しかも酒質の方向性を全て変えている鮨店は他に無いかもしれません。
荒井親方は、酒肴には1種類、鮨には2貫に1種類の日本酒を合わせます。ここまでの種類を用意するのは手間が膨大ですが、精度は高いです。例を挙げると「蝦蛄の漬け込み × 越乃白雁 本醸造にごり酒(冷酒)」。蝦蛄自体、穴子の煮ツメではなく蝦蛄の煮汁の煮ツメで提供する点が素晴らしいのですが、お酒と合わせると喜びもひとしお。甲殻類の強い香りや旨味に合う日本酒で誤差はありません。温かいものに冷酒を合わせてクールダウンを狙う効果もあります。温かい蝦蛄ならば燗酒を合わせるのがセオリーに近いところ、その前が「帆立の磯辺焼き × 鶴の友 純米酒(燗酒)」であったので、構成としてメリハリを付けられている点が良い配慮だと感じました。ペアリングを考案するイマジネーションが凄い方です。
本記事がきっかけとなり、新潟へ鮨旅行に行く方がいらっしゃれば望外の喜びです。全国を巡ってきた筆者の経験から、決して後悔はさせません、と断言します。新潟県は食通の舌に応えてくれる料理人と生産者がいる県です。また、本記事の趣旨とは外れるので日本料理や西洋料理は割愛しましたが、合わせて訪問されると新潟県の凄さが分かるはずです。行ったことが無い方、行ったのは相当前だと言う方は、是非とも行ってみてください!
【編集後記】
なお、新潟の江戸前鮨と言えば2006年に開業された「鮨 奈可久 星野」が有名です。しかし、僕はかつて六本木にあった「奈可久」本店に通っていたため、新潟では訪問しませんでした。東京の系譜のお店よりも、新潟らしさを全面に出しているお店に伺おう、と。ただ、「奈可久」本店の鈴木親方は引退されてしまったので、今度新潟に行くときは立ち寄りたいと考えています。未訪問となりますが、新潟での江戸前鮨のパイオニアなので言及いたします。
※こちらの記事は2024年08月25日作成時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。