「すしログ」が選ぶ、一度は行きたい老舗の江戸前鮨の名店 4選

さて、最近の鮨ブームを受けて、鮨を探求してみたいと思っている方は多いと思います。ただ、東京にはお店が無数にあるため、どこから手を付けていいか悩むところではないでしょうか?また、話題の新店に行ったとして、お値段に対して満足できなかったらどうしよう……とか、今の自分に鮨の本当の魅力は分かるのだろうか?など、不安を頂く方も多いようです。そのような時に頼れるのが老舗です。

老舗の鮨店は格式の割にお値段が抑えめで、独自の仕事(調理法)を確立しているお店が多数あります。また、同時に、鮨好きを名乗る上では老舗への訪問は避けては通れません。老舗は早い段階で訪問した方が良い(その方が若手職人さんの仕事も理解できます)。なので、今回、訪問する価値のある老舗をご紹介します。歴史があるだけでなく、味、コストパフォーマンス、雰囲気も重視しています。やはり老舗に伺う以上、雰囲気は重要ですよね……!

1.トロ発祥!格式は高いのに誰でも楽しめる江戸前鮨の牙城

吉野鮨本店(東京都/日本橋駅)

日本橋にある「吉野鮨本店」さんは創業1879年で「江戸前鮨の開祖」と呼ばれる「與兵衞壽司」の流れを汲むお店です。「與兵衞壽司」の流れを汲むお店で現存している鮨店は、わずかに2店。鮨の歴史的に非常に重要なお店ですが、訪問のハードルは低いのが素晴らしい。なにせお昼の「にぎりずし」は2,750円と破格です。しかも、お好みで頂ける点も嬉しい限り。そして、もちろん、江戸前鮨の仕事(調理法)はバシッと決まっていて、昔ながらの江戸前鮨の魅力を実感できる優良店です。煮る、〆るなどの江戸前の仕事が施されたタネはもちろん、忘れてはならないのが「マグロのトロ」です。

江戸時代には「アブ」と蔑まれて捨てられていたトロですが「吉野鮨本店」2代目の吉野正三郎氏が「トロ」と命名してヒットさせました。言うまでもなくトロは現在、多大な人気を誇るタネです。よって、トロが好きな人は一度表敬訪問する価値があるのではないでしょうか?

https://yoshinozushi.net/

2.目移りする美しい古典鮨を頂ける粋な大人向けの老舗

喜寿司(㐂寿司)(東京都/人形町駅)

「喜寿司(㐂寿司)」さんは創業1923年で、こちらも「與兵衞壽司」の流れを汲む現存店です。「吉野鮨本店」さんとは異なる「こちらでしか頂けない鮨」を幾つか作られていて、江戸前鮨を愛する人ならば一度は食べたい「手綱巻き」や「車海老の唐子づけ」があります。玉子焼きを「鞍掛け」のスタイルで提供するところも「喜寿司」さん流。

また、一時期絶滅しかけた鮨種「マカジキのハラモ」も出されていて、温故知新の喜びがあります。マカジキは魅力に気づく若手~中堅職人さんが増えましたが、間違いなく「喜寿司」さんの貢献によるところが大きいです。マカジキにはマグロとは異なる魅力があるため、江戸前鮨において非常に魅力的なタネです。また、お昼はリーズナブルに頂ける点が嬉しい。お昼のお決まりは3,500円から5,000円に値上げとなっていますが、格式を考えるとリーズナブルです。外観も店内の雰囲気も、文化遺産級の鮨店です。味だけでは計れない味を持つ老舗です。

喜寿司

東京メトロ日比谷線 人形町駅 A3出口より徒歩1分

12,000円〜14,999円

3.濃厚な煮詰めと「作られていない風情」が味わい深い老舗

紀文寿司(東京都/浅草駅)

浅草の「紀文寿司」さんは創業1903年の老舗です。こちらも浅草で「作られていない老舗の風情」を体感させてくれる貴重なお店です。個人的に「紀文寿司」さんの名物は、都内屈指の濃度を誇る煮ツメだと思います。もはや液体よりも固体に近いテクスチャーで、とにかく濃密です。

強いコクだけでなく苦味すら用いる煮ツメ。古典的な煮る仕事とともに、他では決して得られない体験ができます。お好み可能なお店なので、煮ものと〆ものを頼むのが正解。タネのクオリティを超えて仕事で個性を生み出す江戸前仕事の妙を実感させて頂けます。なお、シャリについては昔のお店らしく温度が低めですが、妙に馴染みます。味付けは穏やかで、粒はもっちり。お米の表面にザラつきはありますが、老舗マジックで旨く感じさせます。シャリの管理については間違いなく現在の職人さんの方が上を行きますが、総合的にまとめる老舗の仕事はまさにマジックだと感じます。また、こちらも雰囲気的に訪問する価値があります。浅草の中でも昔の風情を楽しませてくれる一軒なのは間違いなく、観光的でも無いので、非常に落ち着きます。

4.戦前の趣と酢飯を味わえる銀座に残る奇跡

二葉鮨(東京都/東銀座駅)

東銀座にある「二葉鮨」さんは、1877年創業の(現存する最古の江戸前鮨店です)。こちらが凄いのは、「㐂寿司」さんと並んで東京で一、二を争う雰囲気と、戦前の江戸前鮨のシャリを現代に残している点です。お店の前を通った人は、絶対に二度見すると思います。ビルのはざまで趣を放つ建物は、現代の銀座とは思えない佇まい。お店に入るとあたかもタイムトラベルしたような気持ちになります。意匠も什器も歴史が刻まれていて、湾曲した舟形天井は昔の鮨店の風情を体感させてくれます。店外には屋台まで付いていて、昔の内店(うちみせ)と屋台店(やたいみせ)の風情を残します。もはや重要文化財と言える鮨店です。

雰囲気の話ばかりになってしまいましたが、こちらはシャリと〆の仕事に妙があります。シャリは塩気が立ち、砂糖は不使用。赤酢を使用しているものの、極めて上品な使い方です。米粒のほどけ加減は良好で、冷たくもなければ粘度も高くありません。現存する最古の鮨店でありながら、現代にも通用するシャリです。〆の仕事が良いので、コハダはもちろん、季節の光り物が必食です。

予約困難店や流行りの新店では絶対に得られない体験があるのが老舗。老舗に伺うことで流行りのお店で感じることも変わってくるので、ぜひとも訪問してみてください。

※こちらの記事は2024年03月23日作成時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。

「すしログ」大谷 悠也

1981年、広島県生まれ。国際基督教大学卒業。鮨研究家、広島県鮨アドバイザー、日本酒ペアリング研究家。日本ソムリエ協会 J.S.A. SAKE DIPLOMA。鮨・鮓・寿司の本質を伝え、人気を高めるべく「すしログ(https://sushi-blog.com/)」を運営。旺盛な食欲と好奇心に基づき、国内外で6,000軒以上の飲食店を訪問。市場や生産者、醸造家のもとに足を運び、自ら調理も行う。

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