【対談】プロデューサー・小山薫堂氏と料理長・川原祐一氏に聞く、「Beef Atelier うしのみや」で体感できる究極の肉旅とは

「料理の鉄人」「カノッサの屈辱」など斬新なテレビ番組を数多く企画してきた放送作家・小山薫堂氏がプロデュースを務める「Beef Atelier うしのみや」。地元宮崎の厳選された食材を使用し、料理長・川原祐一氏が織りなす「究極の肉旅」は全国のゲストから愛されてやみません。今回は、小山氏と川原氏に本店及び東京店である「Beef Atelier うしのみや東京」独自の食体験や表現したい世界観など多岐に渡って伺いました。

大型リゾート内に誕生した、たった6席のみのカウンター肉割烹

-2014年9月に宮崎の「フェニックス・シーガイア・リゾート」内にオープンされた「Beef Atelier うしのみや」の、誕生の経緯をお聞かせください。

小山薫堂氏氏(以下、小山):宮崎には日本を代表する宮崎牛という食材があって、かつ野菜も美味しいものがたくさんあります。それらを活用して、宮崎の魅力を凝縮させたようなお店をシーガイアの中に作れば、それがシーガイアのブランディングに繋がるのではと思いました。その際、宮崎牛と言ったら焼肉や鉄板焼きなど様々な食べ方があると思うんですけど、前々から江戸前鮨のように、少しずつ多様なネタを楽しむように、お肉を食べられたらいいなと思っていたんです。僕自身、ものすごく食いしん坊なんで、焼肉を食べながら、すき焼きを食べたいなとか、ステーキを食べながら、フレンチも美味しいんだよなとか、ついつい他のものに気がいってしまうこともあって、全ての要素を満たしながら宮崎牛を食べ尽くせたらって思ったんです。とはいえ、一皿ずつだとすぐお腹いっぱいになってしまうので、一口二口ずつ様々な宮崎牛の味を堪能できるようなお店があったら贅沢だなと思いました。

-700室以上ある大型ホテルで敢えて完全予約制・6席のみのカウンターを作るというのは、従来の大型リゾートでは叶えるのが難しそうですね。

小山:普通だったら許してくれないと思います。そんなのやっても利益にならないし、予約が取れなくてお客様からクレームがくる可能性もあるでしょうし、会社が許さないですよね。でもだからこそ、言ってみれば裏メニューみたいなものだと思います。ホテルの裏メニューを食べられるお店みたいな。「うしのみや」を好きになってもらったら、まず先に「うしのみや」が空いているかを確認して宿泊予約をするとか、そういうのが口コミで広がっていけばホテルを愛してくれる人が増えていくだろうなって思いますね。

-川原さんは、料理長に就任された時はどのようなお気持ちでしたか?

川原祐一氏(以下、川原):総料理長から「うしのみや」というお店を立ち上げるから、料理長をお願いできないかと声をかけてもらったんです。当初はどんなお店になるかも聞いていない状態でしたが、これは自分にとってステップアップになるなと2つ返事で受けました。断る理由はなかったです。だけど小山さんのイメージするお店の詳細を知る程に「俺にできるのか」って思いました(笑)。でもオープンの日にちも決まっているし「どうしよう」とかなり焦りましたね。

小山:どうして「俺にできるのか」って思ったんですか?
川原:自分の料理がどこまで表現できるのかも不明瞭でしたし、創作料理はすごく好きだったんですが、どうやって割烹と結びつけていけばいいかがわからなかったんです。お話をもらってすぐに東京で初回試作の試食会があったんですけど、そこで小山さんには「これは牛割烹ではない」とけちょんけちょんに言われましたね(笑)。そこから自分の中で葛藤が始まりました。

-お店のコンセプトに関しても教えていただけますか?

小山:コンセプトは“宮崎牛を堪能し尽くす”ではあるんですが、ただ、美味しいという要素を全部入れようとするだけでなく「人を良くする」と書いて食というからには、食べた後にどれだけ体調が良くなるかが大事だと思うんですよね。最近の高級店って食べ疲れするところが多いと思うんですけど「うしのみや」では、食べ終わった後も「美味しかった、幸せだった」という余韻を、そのまま持ち帰っていただけるよう目指しています。そのために量も調整し、全部で1,000キロカロリー以下に収まるようなメニュー構成になっています。物足りないという方は、最後に追加で何か食べていただければいいかなと。身体も喜ぶ美味しさ、肉を堪能する旅、そして季節感も意識しているので季節ごとに来ていただいても楽しめるようなお料理を提供しています。

宮崎から東京へ進出した「Beef Atelier うしのみ東京」

-2021年10月に東京店をオープンされましたが、進出の経緯をお聞かせください。

川原:まずは「うしのみや」を予約の取れないお店にする、シーガイアの中で1番とんがった存在にするという1つの目標をクリアすることができました。なのでそこからもう1つステップアップするために、そして「フェニックス・シーガイア・リゾート」のブランドスローガン 日本でいちばん“美味しい”リゾートを達成するために、シーガイア自体の認知度が東京ではまだまだなので、まずはシーガイアを知ってもらうために東京への出店が決まりました。

小山:東京のお客様から「東京にも『うしのみや』を作ってよ」という声もありましたしね。

-ちなみにオープンにあたっての立地選びは小山様が担当されたんですか?

小山:そうです。この場所を選んだ理由はいくつかありますが、まずは私の事務所から近いということ(笑)。気軽に、頻繁に来られますしね。そして以前「SUGALABO」というお店をプロデュースした際に、この辺は食関連のものが何もなくて、本当にここで大丈夫かなと思いながらやっていたんですけど、東京の場合、お店の美味しさで立地をカバーできるなと思い学びました。銀座や六本木、青山じゃないといけないってことはないなって。家賃も少し抑えられた方がその分お客様に還元できるので、いいんじゃないかなって思いますね。また、このビルはどんどんグルメビルになっていく予定で、2階にも僕がやっている会員制のビストロがありますし、このビル自体が特別なお店を集めていこうという風に動いているんです。来年には「麻布台ヒルズ」もオープンするので、この辺一帯がより活性化されていくのではと思います。

宮崎本店とはまた違う「Beef Atelier うしのみや東京」で提供されるお料理とは

-「うしのみや東京」で提供されている牛肉割烹コースは、前菜からメインまで、宮崎牛のあらゆる部位を異なるスタイルで楽しめますが、全部食べても約180グラムというまるで魔法のようなコースですよね。コースを考える上でのこだわりや表現したい世界観を教えてください。

川原:こだわりは「なかにしプレミアスペシャル和牛」です。牧場を見学させていただきましたが、まず牛に全くストレスがないんですよね。普通牛舎に見知らぬ人が入ってくると、牛ってざわつくんですよね。でも中西さんの牛は全く微動だにしないんです。それだけ穏やかに育っているという意味で、やっぱり良い肉質と味が出るんだと思います。

川原:中西さんのお父さんは元々兵庫県で但馬牛を育てていらっしゃったんですけど、昔ながらの独自の但馬牛の味を再現したいという思いから、子牛を80頭連れて辿り着いたのが、宮崎県の小林市なんだそうです。牛にとって夏の暑さが1番のストレスになるんですけど、小林市は標高がすごく高い場所で涼しく、自然豊かで水も空気も綺麗な場所なんで、最高の環境で育てられていると思いますよ。一頭一頭全てAIで管理されていて、徹底した品質管理をされています。

-「なかにしプレミアスペシャル和牛」は東京店ならではのこだわりだと思うのですが、その他、メニューや提供スタイルに関して独自性はございますか?

川原:まず、お客様に全てを見せることですね。宮崎の方では、お料理を盛りつけてからお出しすることが結構あるんですが、ここはそれがまずないですね。全てをこの見せる空間でゼロから作ってお出ししています。

小山:あとはキャビアですかね。東京店では、1人に1瓶宮崎産キャビアを提供しています。

-贅沢ですね。

川原:東京に来て思うのは、お客様はそういう特別感を求めていらっしゃるんだなって感じますね。

-メニューはどれくらいの頻度で考えていらっしゃるんですか?

川原:メニューは2・3か月に1度のペースで少しずつ変えていますね。毎月来られる方もいらっしゃるので、そういうお客様を飽きさせないためにも少しずつ変えていきます。

-小山様から見て、東京店のこだわりやメニューに関してご感想などはございますか?

小山:以前よりもさらに、川原さんが自由になっている気がします。例えば青椒肉絲を作った時はすごいな~って思いましたね。本当に美味しかったんですよ。

-それは期間限定メニューですか?

小山:今はやっていないんですよね。でも僕はいつやってもいいと思います。レパートリーも増えましたよね。

川原:増えましたね。正直、メインとなるメニューが増えて、しかも固定されてきました。

-お客様としても「うしのみや」に来たらこれ食べたい!っていうのがありますよね。

川原:先日もあるお客様からトマトすき焼きやらないの?って言われて、今年もそろそろ冬に向けて出していきたいなって思っていますね。

-1年間東京店を営業されてみて、お料理や世界観に関して実際のお客様の反応はいかがでしょうか?

川原:実はリピーターのお客様がすごく多いんですよ。最近でいうと1週間に2回いらっしゃってくれる方も。そういう方が増えて来てくださって本当に嬉しいですね。1週間に2度だと、メニュー内容全く同じなんですけど(笑)。飽きないって言ってくださりますね。

小山:すごく楽しそうに食べているお客様の姿を見ると、満足されているんだろうなって伝わってきますね。

-数あるメニューの中でも、特に味わって欲しい一品はどちらになりますか ?

※宮崎本店の画像です。

川原:1番手間暇をかけて作っている宮崎牛すね肉のコンソメスープです。仕込みまで全て入れると15~16時間かけて作っていますね。コンソメスープはずっと固定でお出ししていて、ぜひ食べていただきたい1品です。

-小山様の一押しはいかがでしょうか?

※宮崎本店の画像です。

小山:まずは、旬菜青汁。最初の青汁は間違いなく美味しいです。

-私もいただいた時演出に感動したのですが、あれは小山さんが考案されたんですか?

小山:そうです。

-食旅が始まるな、みたいな感覚でワクワクしました。

川原:青汁に使うりんごの皮を剝く、剝かないも小山さんに言われましたね。

小山:なんか小姑みたいだな~(笑)。そして川原さんが仰っていたコンソメスープもですね。

約1時間半かけて焼くシャトーブリアンも絶品ですね。後、我々の中で好評なのは、塩ハンバーガー。特にバンズが美味いんですよ、パティシエさんが焼いてくださるんですけど(笑)。それに最初のどんこ椎茸と牛ヒレ肉の葛打ち。裏メニューのミートソースはめちゃくちゃ美味い。

-裏メニューは、どうやったら食べられますか?

川原:言っていただければ(笑)。裏メニューが2つあるので、黒カレーかどっちかを言っていただければと思います。

-黒カレーは「ふかみ」で食べられるメニューですよね?

※宮崎本店の画像です。


川原:元々「うしのみや」の裏メニューで始まって、「ふかみ」で出されるようになったんです。

-そうだったんですね!!

小山:僕は、食べ慣れている人こそ「うしのみや」を好きになると思います。毎日外食されている方って、どこかホッとするものを食べたいんじゃないかと思うんです。ここは高級なんだけど、どこかホッとする。リピーターされている方は「そうそう!こういうお店が欲しかったのよ」と感じて通ってくださっているんじゃないかなって思いますね。一方で、もちろん初めていらっしゃる方でもストレートに美味しいと言ってくださる方が多いと思います。

-小山様が思う川原様のお料理の魅力をお聞かせください。

小山:まず何より人柄。やっぱり、同じ料理を食べるのでも、感情移入するかしないかでは、味が変わってくるんですよね。川原さんの一見素朴な感じ、だけど意外と喋るという人柄が、お客様をリラックスさせてくれると思うんですよね。最近シェフが目立つお店って多いじゃないですか。予約も取りづらくて、お客様としてありがたがらないといけないみたいなのが増えている気がするんです。川原さんは、予約は取りづらいけど、常に謙虚で柔らかい雰囲気。それがまずお客様をリラックスさせられるのかなって。料理そのものは的確。真面目な料理なんですけど、すごく攻めている部分もあって、その共存している部分が魅力ですね。真面目すぎると古臭く感じるんですけど、所々に遊び心があって。バランス感が絶妙なんですよ。

-その遊び心溢れるお料理はどのように考えていらっしゃるんですか?

川原:メニューを考えている時って、ずっと考えているんですけどそういう時って全然出てこないんですよね。大抵、朝目覚めた時にポンと降りてきたりするのが多いです。青椒肉絲もふとした拍子に思いつきましたね。

様々なコラボレーションも期待できる「うしのみや」から目が離せない

-現在取り組んでいらっしゃることや今後挑戦されたいことについてお聞かせください。

川原:今は星を取りたいという気持ちがあります。ただそれ以前に、このお店のことをもっと色々な方に知っていただきたいですね。こういうスタイルのお店って敷居が高いって思われる方も多いので、全然そうじゃないんだよっていうアットホームなお店にしていきたいなって思っています。

-1度来たら、すごく伝わりそうですけど。最初のきっかけを作るのが難しいんでしょうね。

小山:今後は、もっとコラボレーションを増やしていきたいですね。お酒の造り手だったり、食材だったり、和食の職人だったり。または川原さんが全国の牛の産地を渡り歩きながら、その土地の牛に相応しい料理を作って旅をする、まさに川原さんが肉旅をしていくっていうのはいいんじゃないかな。

-それはとっても面白い企画ですね!!ぜひその際は、同行取材させてください(笑)。「全国肉旅@うしのみや」、楽しみにしています。これからも面白そうな企画が盛りだくさんで「うしのみや」さんから目が離せないですね。

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小山薫堂 プロフィール
放送作家。脚本家。京都芸術大学副学長。1964年6月23日熊本県天草市生まれ。日本大学芸術学部放送学科在籍中に「11PM」で放送作家としての活動を開始。 「料理の鉄人」「カノッサの屈辱」など斬新なテレビ番組を数多く企画。脚本を担当した映画「おくりびと」で第32回日本アカデミー賞最優秀脚本賞、第81回米アカデミー賞外国語部門賞を獲得。執筆活動の他、地域・企業のプロジェクトアドバイザー、下鴨茶寮主人などを務める。熊本県のPRキャラクター「くまモン」の生みの親でもある。

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川原祐一 プロフィール
1973年1月9日宮崎県宮崎市生まれ。
日章学園調理科を卒業後、フェニックスリゾート(株)入社。ホテルレストラン、ゴルフ場、コンベンションセンターなど和、洋、中にとらわれず様々なジャンルの料理経験を積む。2014年7月よりうしのみや本店の料理長として指揮をとり7年間、おもてなしの経験と実績を積み、2021年10月、うしのみや東京をオープン。

牛料理

BeefAtelier うしのみや東京

都営大江戸線 赤羽橋駅 徒歩5分

20,000円〜29,999円

編集後記
筆者が「うしのみや」で食事をした時の印象は、様々なジャンルのお料理が出てくることへの驚きと、圧倒的なお料理の美味しさへの満足感、そして川原さんによるアットホームさでした。今回インタビューを経て、そこには小山さんが描いたコンセプトや世界観、川原シェフのお料理へのこだわりやゲストへのおもてなしの心が大きく反映されていたんだなと実感しました。まだまだ進化していくであろう「うしのみや」から目が離せません。皆さんもぜひ究極の肉旅を体験してみませんか。

※こちらの記事は2022年12月02日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。

Mika.A

外食が何よりの楽しみな編集部メンバーです。
野菜へのこだわりは人一倍!好きが高じて
ベジタリアン・フルーツアドバイザーの資格を取得しました。

・好きなお店:銀座レカン/シンシア/Heritage by Kei Kobayashi
・好きなジャンル:フレンチ/鮨/肉料理
・最近行ったフレンチ:ラルジャン/apothéose/渡辺料理店/フロリレージュ
・好きな美食宿:ホテルリッジ/sankara hotel&spa 屋久島

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