食通が語る、2025年のグルメトレンドとは 門上武司氏編

KIWAMINO編集部では、食の専門家の方々に「2025年に行きたい、今気になるレストラン」と「2025年のグルメトレンド」について伺いました。今回は、数々のメディアに出演・執筆し、関西を代表する食通として知られる門上武司氏。常にトレンドに触れていらっしゃる門上氏が予想する、2025年の食のトレンドとはどのようなものでしょうか。

お伺いしたのは……

門上武司氏
1952年10月3日大阪生まれ。フードコラムニスト。
株式会社ジオード代表取締役。関西の食雑誌『あまから手帖』の編集顧問を務めるかたわら、食関係の執筆、編集業務を中心に、プロデューサーとして活動。「関西の食ならこの男に聞け」と評判高く、テレビ、雑誌、新聞等のメディアにて発言も多い。一般社団法人 全日本・食学会 副理事長。2002 年日本ソムリエ協会より名誉ソムリエの称号を授与される。著書に、『門上武司の僕を呼ぶ料理店』(クリエテ関西)のほか、『スローフードな宿』『スローフードな宿2』(木楽舎)、『京料理、おあがりやす』(廣済堂出版)等。11月29日に発売された「あまから手帖別冊 食べる仕事 門上武司」(クリエテ関西)はこれまでの門上武司の食の歴史と、これからの「食」を考える刺激的な一冊。

2025年に行きたい、今気になるレストラン

想像もつかない料理に出会った時にアンテナはくるくる回り始める。2024年に初めて伺った東京・西麻布の「明寂」という日本料理店は、その典型であった。日本料理の基本は出汁にあり。それは昆布と鰹が結びつきうま味が生まれる。そのうま味を発見したのは日本人であり、いまやうま味は世界を駆け巡り、それを躍起になって追求するほどだ。

その昆布と鰹を捨て、海水と水と素材だけでこれほど見事で素敵な出汁を生み出すことができるのかと驚いたものだ。お椀は椎茸とクエであった。椀の蓋を開けると椎茸の香りに魅了される。椎茸は大判で薄く切りクエを覆い尽くしている。椎茸を口に含み出汁を飲む。次からはクエの脂分が出汁に溶け込み、コクが生まれた。ここに昆布と鰹は介在しない。これまで当然と思っていた出汁に対する思いが崩れてしまった。「明寂」で供されるあらゆる料理に同種の発見と驚愕があった。この世界観がどう進化するのか、見つめてみたいと思った。

そしてもう一軒注目するのは、静岡県焼津の「天ぷら なかむら」である。ここは言わずと知れた天ぷらの印象を大きく変えた「成生」で8年間修業した中村友紀氏が、2023年に独立を果たした店。

23年には2度伺ったことがあり、進化を楽しんだ。しかし24年度は一度を食べていない。だが、周辺からは「すごく良くなった」「独自の天ぷらを目指しているのがわかる」などの声を頻繁に耳にするようになった。偉大な師匠のもとで腕を磨いた一人の料理人がどのような変化と進化を遂げるのか、これは見届けたいと思っている。

あとは山形県の「出羽屋」と「パ・マル」という店。それぞれ東京で言葉を交わしたことがあり、二人の眼の輝きが僕には刺さったのである。これは何かの啓示かもしれないと25年の予定に入れたところである。

食通が予想する2025年の食トレンドとは

villa del nido

ここ数年ローカルガストロノミーという言葉が語られるようになった。だが、まだまだ市民権を得るところまで成長したとは言いづらい状況であったことは否めない。そしてようやくローカルガストロノミーが人口に膾炙される時期が来たように感じる。地産地消というスタイルから見事な脱却、その地で料理を作る意味をしっかり考える料理人が増えてきた。これは日本の食の世界にとって大きな動きと言える。またフードテックやイノベーティブの進化と同時に古典を振り返る料理人が多くなったことも確かである。と言って古典料理の復権ではなく、古典を踏まえながらこれからの時代を切り開いてゆく料理が楽しみな感覚を覚える。

数多の名店に通い、味覚の経験値が国内随一な美食家が予想する2025年の食のトレンド。今後もインバウンド需要にあわせて “日本の食や食体験”の魅力や価値がますます高まることでしょう。そうした動きとともに進化するグルメシーンから、ますます目が離せませんね。

※こちらの記事は2025年01月28日作成時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。

門上 武司

1952年10月3日大阪生まれ。フードコラムニスト。
株式会社ジオード代表取締役。
関西の食雑誌『あまから手帖』の編集顧問を務めるかたわら、食関係の執筆、編集業務を中心に、プロデューサーとして活動。「関西の食ならこの男に聞け」と評判高く、テレビ、雑誌、新聞等のメディアにて発言も多い。一般社団法人 全日本・食学会 副理事長。2002 年日本ソムリエ協会より名誉ソムリエの称号を授与。
著書に、『門上武司の僕を呼ぶ料理店』(クリエテ関西)のほか、『スローフードな宿』『スローフードな宿2』(木楽舎)、『京料理、おあがりやす』(廣済堂出版)等。2023年11月29日発売の「あまから手帖別冊 食べる仕事 門上武司」(クリエテ関西)はこれまでの門上武司の食の歴史と、これからの「食」を考える刺激的な一冊。

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