【極みのコラム】世界的な美食ガイド『ゴ・エ・ミヨ』の秘密に迫る

食通なら一度は手にしたことがある『ゴ・エ・ミヨ』。日本版が2017年に創刊し、発表のたびに掲載レストランが話題になることも多いですね。今回は『ゴ・エ・ミヨ』編集部に突撃取材!ハイレベルな美食体験を追求するKIWAMINO目線で、『ゴ・エ・ミヨ ジャポン』の世界をはじめ、日本のグルメトレンドについてお話を伺ってきました!

街歩きの記事から始まった『ゴ・エ・ミヨ』の世界

◆『ゴ・エ・ミヨ』とは?

黄色い背表紙に赤い文字で有名な『ゴ・エ・ミヨ』は、料理評論家のアンリ・ゴ(Henri Gault)とクリスチャン・ミヨ(Christian Millau)が1972年に創刊したフランス発祥のレストランガイドです。
ガイド発祥のきっかけは『パリ・プレス』という日刊紙で、ゴ氏がパリ近辺に関する週刊コラムを担当したことから始まりました。最初のテーマは「街歩き」で、読者が最も興味を持ったのがレストランの紹介記事だったそうです。当時編集副部長であったミヨ氏と組み、料理に特化したガイドを制作するようになり、現在に至ります。

◆『ゴ・エ・ミヨ』の最大の特徴と、レストランの評価基準は?

あくまでもジャーナリスティックな側面から、料理界のトレンドをつくりだす存在として歩んできたことでしょうか。
1973年のヌーヴェル・キュイジーヌの十戒の提唱(※1)や、料理界の巨匠となったジョエル・ロブション氏やギィ・サヴォワ氏らがまだ若かった頃からその将来性を見出していたこと、また初のワインガイドブックの刊行など、時代の潮流を読み、料理の本質を客観的に追求しています。
評価については、調査結果をもとに選考を行っています。具体的な詳細はお伝えできませんが、世界各国で統一された採点基準に則り行います。ゴ・エ・ミヨ インターナショナルとして定めている各賞に関する基準や目安があり、その枠にも当てはめながら決定していきます。

(※1)ヌーヴェル・キュイジーヌの10の戒律(参考)

https://fr.gaultmillau.com/pages/notre-histoire-gault-millau

1 « Tu ne cuiras pas trop. » 火を入れすぎない
2 « Tu utiliseras des produits frais et de qualité. » 新鮮で品質の良い食材を使う
3 « Tu allégeras ta carte. » メニューを軽くする
4 « Tu ne seras pas systématiquement moderniste. » モダニストである必要はない
5 « Tu rechercheras cependant ce que t’apportent les nouvelles techniques. » けれども、新しいテクニックがもたらすものを研究すること
6 « Tu éviteras marinades, faisandages, fermentations, etc. » マリネ、熟成、発酵は避けること
7 « Tu élimineras les sauces riches. » 重いソースは無くす
8 « Tu n’ignoreras pas la diététique. » 食餌療法を無視しない
9 « Tu ne truqueras pas tes présentations. » プレゼンテーションでごまかさないこと
10 « Tu seras inventif. » 独創的であること

『ゴ・エ・ミヨ ジャポン2019』について

◆『ゴ・エ・ミヨ ジャポン』が目指しているガイドとは?

(オテル・ドゥ・ミクニ 三國清三シェフ。日本のフランス料理界における後継育成の旗手。)

2つの大きな柱として考えているのが「テロワール」と「新しい才能の発掘と支援」です。「テロワール」という言葉は「食文化を支える風土」という意味で捉えています。その土地ごとの風土や伝統文化、生み出される食材、酒などを深く理解し、表現する料理。
そこには料理人だけでなく、土地の食文化を支える人々の存在が有ります。
「レストラン」という舞台の全体像を伝えることで、日本の食文化を支えていく一端を担えたら、と考えています。

(茶禅華 川田 智也シェフ。2019年度「明日のグランシェフ賞」。KIWAMINO取材記事はこちら

「新しい才能の発掘と支援」は、先ほどお伝えした『ゴ・エ・ミヨ』のフィロゾフィ― (哲学)の一つです。発掘というと大げさに聞こえますが、若手のシェフたちが持つ多くの可能性に注目すること、そしてその才能が未来へとつながるよう少しでも力になること。この考え方は、各国の『ゴ・エ・ミヨ』の中で受け継がれています。

◆『ゴ・エ・ミヨ ジャポン 2019』で表彰された各賞と受賞シェフを教えてください!

「今年のシェフ賞」
-調査した店舗の中で、才能を縦横に発揮し、もっとも斬新で完成度が高くインパクトのある料理を出した料理人に贈られます
【日本料理 龍吟(りゅうぎん)】山本征治さん

(日本料理 龍吟 山本征治シェフ)

「明日のグランシェフ賞」

-確かな基本技術で店舗に貢献し、その才能に将来のグランシェフへの可能性が認められる料理人に贈られます
【長谷川稔(はせがわみのる)】長谷川稔さん
【茶禅華(さぜんか)】川田智也さん
【cenci(チェンチ)】坂本健さん
【SHOKUDO YArn(ショクドウ ヤーン)】米田裕二さん・亜佐美さん

「期待の若手シェフ賞」

-才能と情熱、技術が今後の活躍を大いに期待させる新進気鋭の料理人に贈られます
【Reminiscence(レミニセンス)】葛原将季さん
【Umi(ウミ)】藤木千夏さん
【天ぷら あら木】荒木啓至さん

「トランスミッション賞」

-培ってきた知識と技術を、時に国を超え、世代を超えてトランスミッション(=伝える)することに多大な貢献が認められた料理人に贈られます
【菊乃井(きくのい)】村田吉弘さん

「イノベーション賞」

-自身のキャリア、料理哲学、店舗のコンセプトなどにおいて、挑戦することを選び、新たな切り口で一歩を踏み出した料理人に贈られます
【板前天ぷら 成生(なるせ)】志村剛生さん 
【鮨人(すしじん)】木村泉美さん

「テロワール賞」

-その土地の風土や食材、育まれてきた文化に敬意を持ち、料理または食材を通じてその土地の文化や作り手の想いを伝えることを、信念をもって志す料理人または生産者に贈られます
【ドメーヌ タカヒコ】曽我貴彦さん
【フィールドワークス】吉村智和さん
【BON DABON】多田昌豊さん

「ベストソムリエ賞」

-ワインの知識やワインリストの構成のみならず、卓越した接客術を持ち、常にお客様重視の営業姿勢で他の手本となるソムリエに贈られます
【APICIUS(アピシウス)】情野博之さん
日本版では2019年度から設けられた賞ですが、フランス他各国では毎年受賞者がいます。
上記の定義の通り、知識だけではなく、レストランの規模やコンセプト、料理を昇華させるような提案をしている、幅広い価格帯でベストな提案を行っていることなど、ソムリエがレストランの中で大きな役割を担っている存在であることを示す賞といえます。

「ベストPOP賞」

-カジュアルに楽しむことのできる店を紹介するPOP部門の中で、最も優れたレストランに贈られます
【Ăn Đi(アンディ)】

「ホスピタリティ賞」

-独自の哲学に基づいて、他では体験できない「おもてなし」のスタイルを持ち、施設を取り巻く環境や館内の設えはもちろん、訪れた人の期待を上回るような気遣いが行き届いている宿泊施設に贈られます
【アクアイグニス】

『ゴ・エ・ミヨ』が分析する今後のグルメトレンド

◆今注目しているトレンドは?

今年は、大規模店の開店が少ない1年でした。経済的な要因が一番なのだと思いますが、同時に若い世代を中心に本格レストランへの需要が少なくなっていることも、考慮に入れる必要があると思います。
若い世代のガストロノミー離れというのは、世界的に見ても同じようです。
一方「予約がとれない」というある種の飢餓感を生み出すことに成功した、概して高額な店舗が予約で埋まっているという現象も起きています。このような店には、ある一部の人たちが巡回しており、特殊な状況と見ることができるでしょう。

都内の店舗があるべき姿を模索する中で、技術を持ったシェフが地方に住み、その地ならではの料理を提供し、地域創生に貢献している姿も見られます。
また、新しい感覚を持ったシェフがカジュアルなスタイルで展開し、人気を集めたり、キャリアのある中堅が小規模店やワンオペでシンプルに美味しい料理を提供し、評価されています。今後2、3年のうちにどのような方向に進んでいくのか、我々としても非常に興味を持っています。

◆2020年に向けて注力する点と、目指していく方向性は?

(「アクアイグニス」2019年度「ホスピタリティ賞」。)

まず、掲載地域が広がります。したがって掲載店数も増えますが、その中で柱としている「テロワール」と「新しい才能の発掘と支援」の2つのポイントを、少しでも打ち出せるようにしたいと考えています。
人口減少していく社会の中で、どのような店のスタイルを築き上げ、どのように将来の顧客を育てていくのか、その方向性をしっかり見据えなければならないと思います。
例えば、今は「お任せ」が主流ですが、本当にニーズに沿っているのか。
人材確保が難しいのであれば、小規模で小回りのきく店がもっと増えても良いのではないか。
本当に都内が食材や環境面においてベストなのか……など、店舗とゲストを繋ぐ役割を持つ「ガイド」として様々な提案を投げかけていきたいです。

地域の食文化を守ること、そして新たな可能性を発見すること……あくまで客観的な姿勢を保つことで「信頼」が生まれるのだな、と取材を通して改めて感じました。第三者の目線でキラリと光るお店を発掘する、強力な味方の『ゴ・エ・ミヨ』。2019年のお店をチェックしつつ、2020年にはどんなレストランが肩を並べるのか? 発刊が今から楽しみですね。

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※こちらの記事は2023年01月04日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。

Airi Ishikawa

一休のメディア事業部長。日本全国を旅しながら、その道のプロにインタビューや取材をしています。休みには足をのばして国内ワイナリーを巡るのが好き。地産地消や、生産者に近い距離で食材や料理に向き合う「極みのシェフ」がいる店をご紹介します。
【MY CHOICE】
・最近行ったお店:銀座 しのはら / 南青山 まさみつ / サエキ飯店 / コートドール
・好きなお店:鮨 梢 / フランス料理 エステール / コンチェルト / エンボカ 京都
・注目しているお店:SeRieUX / プルサーレ / bistronomie Avin
・得意ジャンル:フレンチ / バー
・好きな食材:山菜 / 鴨

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