「茶禅華」川田智也氏に聞く、和魂漢才の精神を具現化した中国料理の魅力とは?

東京・西麻布の閑静な住宅街に佇む中国料理店「茶禅華」。開店から2年目にして、東京グルメ界隈に衝撃を与え続けています。今回は、人気店を率いる川田智也氏のもとを訪れ、こだわりや「茶禅華」ならではの料理の楽しみ方について聞いてきました。修行時代、「日本料理 龍吟」の門を叩いた理由や「茶禅華」という店名に込めた意味など、一歩踏み込んだインタビューをお届けします。

芝麻醤を手づくりするほど料理にはまった少年時代

―まずは料理人を志したきっかけについてお聞かせください。

両親が外食好きで、週末はよく外食にいくという家庭で育ちました。よく行くお店の中でも、大好きだったのが四川料理のお店でした。
まだ5歳くらいの幼稚園児でしたが、麻婆豆腐や棒棒鶏、担々麺など辛い四川料理を好んで食べていました。当時から、料理人になりたいと両親に話すことも多かったそうです。
成長するにつれ、自分でラー油や芝麻醤を手づくりするほど料理にはまっていきました。高校を卒業する頃には、東京にある調理師専門学校の中国料理コースへの進学を決めていました。
栃木県に住んでいたのですが、高校時代の週末は東京に来て、1人で食べ歩きをしていました。そのうちに、修業先のお店を「麻布長江」にしようと決めたのです。オーナーシェフの長坂松夫さんにお願いして、調理師学校への入学と同時にアルバイトをすることになりました。
朝学校に行く前、6時くらいからお店に入らせてもらい、学校が始まる8時まで仕込みを見せてもらう。学校が終わり、すぐバイトに行き、終電まで。今思うと、体力的には一番大変な時期でしたね。

―「麻布長江」での10年を経て、「日本料理 龍吟」の門を叩くこととなりましたが、独立は常に視野にあったのでしょうか。

今の「茶禅華」が持つコンセプトは、修業時代を通じて自然と芽生えてきました。
若い頃は四川料理にこだわっていたのですが、和食やフレンチなど様々なジャンルのお店に通ううちに、自分が美味しいと考える料理を追求していくべきだという想いが生まれたのです。

「日本料理を知ってからでも遅くない」

―「龍吟」の門を叩いたのも、追求の一環だったということですか。

正直、25歳くらいまでは「中国本土に赴いて、本場の四川料理を学ぶんだ」という思いが強かったですね。
変化のきっかけは、「麻布長江」時代のお客様からの一言でした。「日本料理を知ってから、現地を訪ねるのも悪くないよ」というアドバイスをいただいたのです。

日本料理を知らずに、中国料理の道を歩むキャリアは珍しくありません。ただ、日本人に生まれ、日本料理が身近にある環境なのにそれを知ろうとしないのは、とても勿体ない!
それからは、「日本料理とは何だろう?」という問題意識を持ってお店巡りをするようになりましたね。

日本全国、様々な地域の日本料理を食べ歩く中で「龍吟」と出会いました。本当に衝撃でしたね。「日本料理=繊細さ」という考えが自分の中で一般化していましたから、「龍吟」を率いる山本征治さんが繰り出す、繊細さと力強さの振り幅の大きい料理には強い感銘を受けました。26、27歳頃のことです。自分もそういう料理をつくりたいと、思いが募っていきました。
「龍吟」には結局1年間通い詰め、最後は山本さんに直談判して、働かせていただくことになりました。

和魂洋才を胸に、 日本で中国料理を昇華させる

―中国料理で10年間。短いとは言えない修業期間を経て、日本料理へと向かう。とてもチャレンジングですね。「茶禅華」では、「和魂漢才」を大きなテーマに掲げていますが、関係はあるのでしょうか。

「和魂漢才」という言葉・概念に行き着いたのは、「龍吟」の台湾支店「祥雲龍吟」の出店に携わった頃です。修業時代を通して、日本人が中国料理に携わる意味を探していたのですが、この言葉に出会って自分が歩むべき道が明確になりました。

詳しく教えてください。

日本と中国の文化交流は、1000年以上前から連綿と続いてきました。中国から伝わって、日本で洗練・昇華され進化を遂げたものは沢山あります。例えば、平仮名や片仮名の一文字一文字は、交流の歴史の結晶と言えるでしょう。今でも日本人の日常に息づいています。
自分は、中国料理という分野において、日本人としての心や日本ならではの技術を活かして、「和魂漢才」を実現していきたいと考えているのです。中国料理を日本人が昇華させていく余地は、まだまだ残されているはずですから。
「和魂漢才」を実現するという想いは、店名である「茶禅華」の由来にもなりました。「茶」も「禅」も中国から伝来し、日本で発展を遂げた文化です。同じように自分も、先人の思いを受け継ぎ、中国料理を和の心を持って極めていきたいのです。

―具体的に、日本料理の技術が活かされている部分はありますか。

やはり、素材の管理でしょうね。「茶禅華」の料理には、日本料理で培ったノウハウが多く活かされています。
魚一つとってみても、日本料理では漁師さんの神経締めからスタートして、どうやってその鮮度を保つかにとても苦心しています。鮮度の良し悪しが、料理の仕上がりを強く左右するからです。

中国料理やフレンチは調理法が発達しているため、素材の鮮度が落ちても美味しく仕上げられることは確かです。ある程度血の臭いが残っていても、揚げてから煮込んだり、ソースを絡めたりすることで対応できるためです。
もちろん、その調理法ならではの美味しさはあります。しかし、技術が発達した現代だからこそ、日本で発達した素材管理のノウハウを取り入れ、よりピュアな美味しさを持つ中国料理をつくり出せると考えているのです。

「茶禅華」を通して、東アジアの神秘に触れてほしい

―「茶禅華」が考える、中国料理の楽しみ方についてお聞かせください。

「茶禅華」では、東洋が持つ神秘的な部分を楽しんでいただきたいですね。中国や日本だけでなく、韓国や台湾、インドなど、西洋と比較したときに現れるアジアの国・地域の醍醐味を知っていただけるお店となっていきたいと考えています。

料理はもちろんですが、「茶禅華」では特に「お茶」にこだわっています。中国を発祥として、日本や台湾など、それぞれの国・地域で独自の進化を遂げた「お茶」の醍醐味を味わってほしいですね。
ソムリエが常駐していますから、お茶とお酒のミックスペアリングも用意しています。お酒のみのペアリングよりも、アルコールが次の日に残りにくいという声をいただくことも多く、とても好評です。
「お茶」のペアリングについては、来店したお客様の好みをその場で伺って、オートクチュールで提供しています。

―器や設えについても、並々ならぬこだわりを持っている印象を受けました。

器については、景徳鎮を中心に、中国全土で買い求めたものを使用しています。国内では、有田焼や九谷焼を中心に取り揃えています。有田焼や九谷焼については、中国の古い時代の作風を模した、若い陶工の作品を用いることもあります。
面白いことに、陶工の方と話をすると「和魂漢才」という言葉がすっと通じるんです。陶芸の技術も、中国から日本にもたらされたものですから、私が料理に込めるのと同じ想いを抱いて、作品づくりに励む方が多いことを感じますね。
感度の高いお客様も多いですから、器にまつわる作家さんの思いなど、ストーリーについても積極的に伝えるよう努めています。

―2年目を迎え、早々に人気店の仲間入りを果たしました。今後の挑戦についてお聞かせください。

オープンから一貫しているのですが、「茶禅華」では、「今日、お越しいただいたお客様のために全力を尽くすこと」をテーマに掲げ、そのことだけに集中してきました。
「茶禅華」の「禅」という漢字も、今この瞬間を大切にする精神にもつながっています。今後もブレることなく、お客様に誠実に向かい合っていきたいですね。

編集後記
「食べ歩きが大好きなんです!」インタビューの中で、度々声を大にして語る川田氏を見て、料理に対する愛情の深さを実感しました。その愛情は、氏が提供する一皿一皿にも込められているに違いありません。「茶禅華」の人気の秘密を垣間見た瞬間でした。

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川田智也 プロフィール

地元の中華料理店での“美味しい思い出”をきっかけに、幼少の頃から中国料理を志す。東京の調理師専門学校在学中、西麻布の四川料理店「麻布長江」にてキャリアをスタート。2008年には副料理長に就任。その後、山本征治氏が率いる「龍吟」の門を叩き、日本料理についても理解を深める。同店の台湾支店である「祥雲龍吟」の立ち上げに参加したのち、2017年2月に独立。「茶禅華」をオープンした。

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茶禅華

東京メトロ日比谷線 広尾駅 徒歩9分

30,000円〜39,999円

アクセス
住所 東京都港区南麻布4-7-5

※こちらの記事は2022年08月15日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。

謝 谷楓

「一休.comレストラン」のプレミアム・美食メディア「KIWAMINO」担当エディター。ユーザーの悩み解決につながる情報を届けられるよう、マーケットイン視点の企画・編集を心掛けています。

前職は、観光業界の専門新聞記者。トラベル×テック領域に関心を寄せ、ベンチャーやオンライン旅行会社の取材に注力していました。一休入社後は「一休コンシェルジュ」を経て、2019年4月から「KIWAMINO」の担当に。立ち上げを経て、編集・運営に従事しています。
【MY CHOICE】
・最近行ったお店:和田倉、SENSE
・好きなお店:六雁
・自分の会食で使うなら:茶禅華
・得意ジャンル:日本料理
・好きな食材:雲丹/赤貝

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