筆者は全国の鮨店を日々リサーチし、鮨のために旅行することで全国の鮨の動向を確認しています。その上で、実力派のお店が増えている愛媛県は、今もっとも「鮨がアツい県」だと断言します。その原動力となっているのが食材力(=魚介類が美味しい)と「愛媛食材研究会」の活動。日本は全国的に見ると漁獲量が激減しており、年々厳しい状況となっていますので、愛媛の食材力には殊更目を見張る次第です。鮨が好きな方は今こそ愛媛県に旅行する価値があります。本記事では、松山でおすすめの江戸前鮨 6店を紹介します。
目 次
「愛媛食材研究会」とは
「愛媛食材研究会」は一般的には知られていませんが、愛媛県内の料理人と生産者が自発的に行っている活動です。食材と調理に関する情報共有や勉強会を行うことで、個々の技量を劇的に高めています。全国的に名が知られている、有名漁師の藤本純一さんが精力的にバックアップされている点も大きなアドバンテージです。さらに、県外から講師を呼ぶこともあるため、一般にイメージする同好会の粋を超えた魅力的な活動となっています。本記事では、「愛媛食材研究会」を牽引する鮨店に加えて、他に訪問すべきお店も紹介します。「愛媛食材研究会」にご関心のある方は筆者のブログ記事をご参照ください。(https://sushi-blog.com/entry/ehime-syokuzai-kenkyukai)
1.“松山らしさ”を表現する素敵な親方の鮨店「鮨 かわなか」
鮨 かわなか(愛媛県/大街道駅)

「鮨 かわなか」は“松山らしさ”を実感するなら間違いない一軒です。親方の川中航勇さんは素敵なお人柄で、雰囲気、味、個性など全てのバランスが絶妙です。老若男女すべての人が楽しめるモダンな江戸前鮨。アクセスは至便で雰囲気も抜群。それでいて鮨店としてはリーズナブルなので、誰もが楽しめる鮨店です。今の時代に貴重と言えます。
親方は松山生まれで、修行も松山のため「松山から出たことがない」と仰いますが、シャリも仕事も江戸前鮨のそれです。お米については「蒸しかまど」で炊かれていて、お酢は米酢と赤酢の2種類を併用されています。シャリを併用するスタイルであっても違和感が無い調味を行っている点が好印象。仕事は江戸前鮨の古典的なものとモダンな仕事を組み合わせておられ、最後までワクワクする構成です。
2.お弟子さんを輩出する松山鮨のパイオニア「鮨 いの」
鮨 いの(愛媛県/大街道駅)
『ミシュランガイド広島・愛媛 2018 特別版』で星を獲得された、松山鮨のパイオニア「鮨いの」。個人的に凄いと思うのがミシュランの獲得それ自体ではなく、複数のお弟子さんを育てて独立させておられる点です。後述する「鮨たか山」さんも「山本進一郎」さんも独自の方向性で鮨を探求されているので、猪野祐介親方のご尽力が松山の鮨業界を盛り上げているのは間違いありません。今後、孫弟子も生まれ一つの系譜となるでしょう。親方は「愛媛食材研究会」の立ち上げメンバーでもあります。
猪野親方の鮨は力強く、存在感があります。握りは大ぶりで食べごたえがありつつ、味のバランスが良いので鮨好きにはたまりません。咀嚼する喜びのある、男らしい鮨。お腹を空かせて訪問して笑顔になれる鮨。猪野親方も2種類のシャリを併用するスタイルですが、硬さも温度もバッチリです。
3.進化が止まらない全国区レベルの俊英職人「くるますし」
くるますし(愛媛県/勝山町駅)
今や愛媛で「言わずと知れた」と言うべき鮨店「くるますし」。高平康司親方は若くして飛躍が目覚ましく、筆者も訪問する度に驚いています。その飛躍は天性の才能だけでなく、魚と仕事のたゆまぬ探究が実現していることは自明。親方の探究心、魚愛は桁外れで、お話を伺うと嬉しくて笑顔になります。「愛媛食材研究会」を牽引する俊英と言えます。
仕事については県内外のあらゆるお店と異なるアプローチで、特に酒肴は“鮨店らしい酒肴”を一歩先に進めておられます。“料理”に寄せすぎず“鮨店らしさ”を維持して向上されているのは素晴らしいイノベーション。魚のネガティブな要素を一切感じさせない仕込み、仕事は驚嘆に値します。今後が大いに楽しみな職人さんなので、僕も通い続けたいと思います。
4.今後の松山鮨を牽引するであろう鮨職人「鮨たか山」
鮨たか山(愛媛県/大街道駅)
「鮨たか山」は、筆者が初めて訪問した時に世間の知名度と実力の乖離に驚いたお店です。「世間で知られていないのは勿体ない!」と心から感じました。高山大親方は「鮨いの」ご出身でありながら猪野親方とは異なる手法を採られているので、言われなければ系譜だと気づかないかもしれません。確かな技術とセンスをもとに、愛媛県の魚介類を見事なまでに美味しくされています。
シャリは、塩もお酢も松山の中では強めの部類ですが、バランスが良好です。高山親方は「すきやばし次郎」出身の職人さん達と親交があるため、独自の方向に舵を切られている印象です。松山の地において、この試みは今後更なる高みで実現されることでしょう。ちなみに、鮪の仕入れは個人的に一押しの仲卸、豊洲の「結乃花」さん。前述の「鮨かわなか」さん、「鮨いの」さんも「結乃花」さんなので、間違いないクオリティです。
5.若い人でも安心して楽しめる寛ぎの江戸前鮨店「山本進一郎」
山本進一郎(愛媛県/大街道駅)
「鮨いの」さんご出身で、カジュアル&リーズナブルな方向性で新たな鮨ファンを開拓する鮨店「山本進一郎」。カジュアルな方向性であっても修行歴は長く、「鮨いの」さんのオープン2014年から2022年まで修行された方です。それ故に、若者向けのサーモンのようなタネも用いつつ、昆布〆を行い、きっちり仕事の魅力を伝えています。その上で江戸前鮨定番の小鰭や干瓢巻きを出される心意気が素晴らしい。
山本親方のシャリは赤酢を用いつつまろやかな方向性です。塩も酸味も軽く、最初に酸味がふわっと立ち、まろやかな甘味が支える味付けです。お米の粒はぱらりとほどけ、温度も良好。シャリもターゲットに忠実に設計し、温度や粘度はクラシックな鮨を超えるものとする試みが素敵です。
6.他店とは異なるアプローチで地魚を楽しませてくれる「鮨 まえざわ」
鮨 まえざわ(愛媛県/勝山町駅)
「鮨 まえざわ」は、ネット上ではあまり知られていませんが、確かな実力を持つ鮨店です。前澤英幸親方は「なだ万」の鮨部で計約15年のキャリアを持つ鮨職人。それゆえに〆る、煮る、漬けると言った江戸前鮨の仕事が徹底されていて、松山のお店の中で最も江戸前鮨らしい一軒だと言えます。とは言え、豊洲だけでなく地元の市場からも仕入れるので瀬戸内の地魚も楽しめます。
シャリは赤酢ですが、砂糖を用いて甘味を付けつつ嫌味の無い範囲内で収めています。愛媛らしい“甘味”を用いて地元の人に馴染みやすくされると同時に、江戸前の赤酢の魅力を伝えてくれるシャリです。そして、非常に嬉しいのが、お好みも可能であるところ。今やおまかせこそが鮨店と考えられがちですが、本質的にはお好みこそが鮨店。筆者はおまかせでその日のフルコースを頂くのも好きですが、お好み可能なお店は応援したくなります。
https://akr0688010586.owst.jp/
全国の鮨店を日々リサーチする、すしログ・大谷悠也。今回は、そんな筆者が今もっとも注目するエリアの1つ、愛媛・松山の江戸前鮨 6店を紹介しました。食材力には殊更目を見張る愛媛県。鮨が好きな方はぜひ今こそ足を運んでみてください。
※こちらの記事は2024年10月17日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。