タベアルキスト・マッキー牧元がおすすめする割烹料理店5選 東京編

長い間様々な割烹を食べてきた、その中から心がまっすぐに座る素晴らしき店をご紹介したい。今回は、タベアルキスト・マッキー牧元がおすすめする、東京都内にあるおすすめの割烹料理店を5軒、ご紹介いたします。

1.かつて目白にあった名店「和幸」の教えを忠実に守り、茶事にも精通する店主が作る懐石料理を、心に留めよ

懐石 大原(東京都/四谷三丁目駅)

「懐石 大原」では、正統茶懐石の流れを汲んで、旬の食材が、生き生きと調理される。それぞれの料理は、最近の割烹と比べると、一瞬地味に思われるかも知れない。しかし虚心坦懐、心を澄まし、舌を研いで食べれば、日本の自然に深々と感謝したくなるはずである。例えば春の「あいなめの椀物」は、汁の端麗さにあいなめの艶めかしさが優しく出会い、それが次第に高まっていく興奮がある。タラの白子とちり酢は、とろりと溶ける白子とちり酢が自然の風合いで出会い、一体となっている。

お造りを活かす、合わせ醤油。焚き合わせの、ため息が出るような慈愛。そして最後は、「賀茂鶴」の酒かすを使った粕汁などの留椀に、白いご飯と香の物で締め括られる。そこには、“旬のものを使う”“持ち味を活かす”“親切心、思いやり、心配り”という懐石の心にそった、誠実な料理がある。

懐石・会席料理

懐石 大原

東京メトロ丸ノ内線 四谷三丁目駅 徒歩3分

12,000円〜14,999円

2. 裏千家の茶事を長くやられてきた京都の名店。東京店は多くの文化人や陶芸家、粋人たちに愛されてきた

懐石 辻留(東京都/赤坂見附駅)

懐石の心は“旬のものを使う”“持ち味を活かす”“食べる人を思いやる”の三つある。一見簡単なように思えて深い。だが「懐石 辻留」に来れば、その答えがある。お軸を見、生け花を眺め、料理を味わう内に、真の意味と対峙する。焼き魚には添え物がなく、魚に集中できる勢いがある。

お造りのツマも山葵も、煮物椀のツマも同じように、必要最小限であり、味を活かす必然が貫かれている。大きな鱧がふわりと崩れ、旨味が涌き出でる、鱧と管ごぼうの煮物椀。自らの脂で中骨や頭までカリリと焼かれながら、身はしっとりと仕上げられた鮎の塩焼き。見た目の豪華さも、上っ面の贅沢もない。ただここには、精神を洗い澄ます「おいしい初心」がある。

懐石料理

懐石 辻留

東京メトロ線 赤坂見附駅 B出口より徒歩5分(赤坂見附を四谷  方向に向かってすぐ左のシェルを左に入ってすぐ)

30,000円〜39,999円

3.石田氏が生み出す、誠実に満ちた透明感のある料理と、ソムリエ飛田氏が生み出す至上の時間

乃木坂 しん(東京都/乃木坂駅)

「乃木坂 しん」の石田伸二氏の料理は、すきっとしている。肩肘張らず、中心となる食材の味が澄んで伝わってくる。良い意味で旨すぎず、調味が後へと引きずることなく、後味が綺麗で香り高い。そこへ名ソムリエ飛田泰秀氏がワインや日本酒を合わせるのだからたまらない。

余計なものが一切なく、滋味が静かに舌に溶け込んでいく中で、オコゼの身がホロリと崩れ、甘みを滲ませる煮物椀。滑らかで、舌と同化するように崩れていくメジマグロ漬け、齧れば、海の豊穣がほとばしる徳島あわびの肝焼き。白甘鯛のたおやかな旨味が、茄子の皮の香りと出会い、勇壮な味わいとなる銀餡がけ。豊満な脂の甘みを、煎り酒の酸味がほんのりと引き締める金目鯛の炙り。そしてマリアージュは、金目鯛の中に潜む生ハムの香りと煎り酒の梅干感とピノノワールのロゼが優美に出会うといった具合に、他では出会えぬ至福が待つ。

懐石・会席料理

乃木坂 しん

東京メトロ千代田線 乃木坂駅 1番出口徒歩3分

30,000円〜39,999円

4.新進気鋭の坂本氏による割烹。季節ごとの豊かな恵みを繊細に活かし、ダイナミックな演出で楽しませる

伯雲(東京都/表参道駅)

「日本料理 龍吟」の料理長であった坂本慎吾氏が、去年1月に開店させた割烹料理屋「伯雲」。青山の閑静な住宅街にひっそりと店を構える。季節の豊穣が凝縮した「龍吟」譲りのダイナミックな料理と、若いしなやかな感性が活きた料理を楽しめる。淡い中にエレガントさがあって、鱧の脂が溶け込み、次第にクライマックスを迎える淡路の鱧と茄子のお椀。

すっぽんの滋味が染みた冬瓜が、しみじみととした旨さを募らせる葛煮。品のあるこっくりとした深い味が広がる、蓮根饅頭と鮑、さえずりの炊き合わせなど、新進気鋭ながら巧みな技に裏付けられた料理の数々には、最近の若手日本料理人とは違う格を感じさせ、安寧を呼ぶ。

懐石・会席料理

伯雲

東京メトロ銀座線・千代田線・半蔵門線 表参道駅 徒歩7分

5.長年菊乃井で修業されて培った、知恵と技を活かした自由闊達な料理を、気さくに楽しませる

てのしま(東京都/青山一丁目駅)

「てのしま」は、店主・林亮平氏の自由闊達な料理とマダムが選ぶお酒で、楽しい時間が過ごせる割烹である。細く切って葛を打ち茹でた、食感が面白い茄子そうめん、金目鯛の脂がトマト酢ジュレの酸味で締まる料理、上にたっぷりとかけられたつるむらさきの青い香りが、魚の風味を活かす、黒むつの炙り叩き。

堂々たる身の真堅魚の炭焼きには、アメリケーヌソースのような甲殻類の旨味を抽出したガラ海老の餡を添えて、料理の高まりを演出する。そして締めの小さな稲荷やお寿司を盛り合わせた、てのしま寿司や、上質なイリコ出汁による、つゆが惚れ惚れするほど美味しいにゅうめんに至るまで、打線に切れ目なし。

和食

てのしま

東京メトロ銀座線・半蔵門線 青山一丁目駅 3番出口より徒歩3分

一口に割烹といっても様々なスタイルがある。味わいがある。時間にゆとりを持ち、じっくりとそれぞれの店固有の「味」を楽しんでほしい。

※こちらの記事は2023年04月20日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。

マッキー牧元

「味の手帖」編集顧問。 国内、海外を問わず、年間700食ほど旺盛に食べ歩き、雑誌、テレビ、ラジオなどで妥協なき食情報を発信。近著に「超一流サッポロ一番の作り方」(ぴあ)がある。

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