神保町「KHAO」穂積依里氏・石山公一氏に聞く、名古屋の名店が新天地で挑む“新たなタイ料理”の世界とは

東京・神保町で、新感覚のタイ料理を堪能できると話題の「KHAO」。名古屋で3年連続『ゴ・エ・ミヨ』を獲得した名店が更なる飛躍を求めて、2024年に東京へと移転しました。今回KIWAMINOでは、夫婦シェフである穂積依里氏と石山公一氏にインタビューを実施。タイで磨いた技術と日本の食材で織りなす「KHAO」ならではの料理や、今後の展望についてなど、多岐に渡ってお伺いしました。

タイ料理に魅せられ、料理の世界へ

-おふたりが料理人を目指したきっかけについてお聞かせください。

(穂積依里氏、以下穂積氏):私は子供のときからタイ料理屋をやりたかったんです。小学校高学年の頃、はじめてタイ料理を食べたときに、すごく好きになって。そこからレストランを開くことが夢でした。中華料理屋やイタリアンで働いたこともあったんですけれど、やっぱりタイ料理が忘れられなくて、この道に進みました。

-タイ料理のどのような点に惹かれたのでしょうか。

(穂積氏):当時、母親から変わったものが食べられるからと誘われて、ランチに行ったんです。カレーを食べたと思うんですけど、いつも食べるものと匂いが明らかに違って。ジャスミンライスやレモングラスティーの匂いがすごく記憶に残り、好きになりましたね。

-石山氏はいかがでしょうか。

(石山公一氏、以下石山氏):逆に、僕は明確なきっかけがあった訳ではないのですが……。ただ、子供の頃から味覚に鋭くて、嗅覚も良かった。外食が多い家庭でもあって、料理が好きだったというのがありますね。あとは、色々なことを経験するなかで、料理は集中してやりたい、と思えたことだったんです。タイ料理に関しては、現地の料理屋でも経験した時期があって、色々なものを学んできました。“オーセンティックなタイ料理とは”ということもそうですし、例えばタイの北部で使っているコショウとか、現地ならではの調味料について知った機会でもありました。

-穂積氏もタイで経験を積まれていらっしゃるんですよね。

(穂積氏):タイには2年間行き、料理家の先生の元でアシスタントをしていました。タイカレーの要であるナンプリックゲーン(タイカレーペースト)を2年間学んで、今でも手作りをしています。

(石山氏):タイカレーペーストは、タイ現地でもほとんどの店が既製品を使っています。これを手作りするのは難易度が高いんです。なので、それを学んで、今も手作りするというのはすごいと思いますし、相当タイ料理が好きなはずですよ。

-ほかにも、タイ現地ではどのようなことを学ばれたのでしょうか。

(穂積氏):やはり、タイならではの調理方法や、食材の使い方についてですね。例えば、レモングラスって、日本の方だと緑色の葉っぱをイメージすると思いますが、タイの方は根本をイメージするんです。一つの食材をとっても、葉と根本の使い分けなど、本場ならではの食材やその使用方法を学びました。

-おふたりはタイで出会われ、帰国後は「ピッサヌローク」を開業。名店と評されるようになりました。その後2024年に「KHAO」と名前を変え、東京に移転オープンされていらっしゃいますね。

(石山氏):「ピッサヌローク」は、名古屋で計7年ほど営業し、2022年から3年連続で『ゴ・エ・ミヨ』を獲得させていただきました。その後、2024年6月に「KHAO」をオープンしました。

-名古屋から東京に進出された経緯についてお聞かせください。また、移転後の印象はいかがでしょうか。

(石山氏):素直な気持ちでいうと、何と言ってもミシュランの星獲得を目指して移転をしたというのはありますね。日本のこの業界では、狙って獲得すべきものだと思っています。

(穂積氏):あとは、理想とするレストランを、自分たちにとってもより良い環境でやるために、次の場所を求めたというのもあります。実際に東京に来てみて、お客さんに刺激をすごくいただいていると感じますね。やはり、東京には色々な経験をされている方たちがたくさんいらっしゃると感じていて、常に緊張感があります。東京に来たからこそ、また次の選択肢や可能性があるはずで、自分たちにとって挑戦です。

魅力はそのままに、日本の食材を活かした“上品なタイ料理”を

-「KHAO」ならではの料理の特徴についてお聞かせください。

(穂積氏):タイ料理は、素材が悪いものをハーブや唐辛子で飾り付けをしたり、カリカリまで揚げたりとかするものですよね。そういうものも楽しくていいんですけれど、より日本の方の口に合うように、上品に作りたいなと思っている部分はあります。あとは、日本には美味しい食材があるので、それらの味を活かすように調理をしています。タイ料理ならではの、複雑な味や香りとかはそのままにしつつも、刺激がありすぎたり、トゲがある形ではなくで、全体的に丸くなるような味わいにしたいと思っています。

-理想のタイ料理を作るために、どのような工夫をされていらっしゃいますか。

(穂積氏):毎日ちょっとずつ変えている部分ももちろんありますが、ハーブやスパイスなど、タイ料理にとって外せない要素はしっかりと使っています。ただ、甘すぎることや酸っぱすぎる、ということはないように注意しています。そのため、調味料には、鮎の魚醬を多く使用していますね。臭みがないので私たちの理想とするタイ料理に合っています。逆に本場の屋台っぽい味にしたいときは、ナンプラーを使用するなど、調味料も使い分けています。

あとは、もちろん鮮度の良い魚や肉を仕入れていますけど、それを敢えてちょっと寝かして使用しているんです。食材の潜在能力に合わせてわざと熟成をさせたほうが、ハーブやスパイスとの相性が良くなるし、料理としての味わいが深く美味しくなるんです。ほかにも、発酵を用いて料理を作った際に、出来上がりにちょっとした違いを感じたことがあって。そこから発酵技術にも興味をもち、取り入れています。

-食材を仕入れる際は、どのようなポイントを大切にされていらっしゃいますか。

(石山氏):肉や魚、キノコ類は僕の方で仕入れを担当しています。仕入れをする際は、なるべく“人の手に触れさせずに仕入れる”ということを大切にしています。例えばキノコだったら、採った人から直に仕入れるということですね。というのも、市場やスーパーなどを経由して人の手に触れると、どうしても食材が傷んでしまう。食材を傷めずに、良い状態で仕入れるかということを重要視しています。

だからこそ、生産者さんや漁師さんなどが信用できる方かどうか、という点もポイント。例えば、魚だったら「美味しい魚を釣り上げよう」という思いをもって漁をされているか否かで、釣り上げ方が変わり、魚の状態が変わる。そういう点で信頼できる漁師さんから直で仕入れるということがこだわりですね。

-タイ料理にはどのようなドリンクが合うのでしょうか。ワインペアリングについてお聞かせください。

(穂積氏):信頼しているソムリエさんが居て、その方から色々なヒントをいただきながら、ワインを用意しています。フランス産を中心に、ヨーロッパのワインが揃っています。ワイン教本などには、オレンジワインやソーヴィニヨン・ブランなどの軽めが合うと書かれていたりしますが、例えば、カレーにはしっかり目のスペインワインも合うんです。ほかにも、タルがしっかり効いたシャルドネや、ピノノワールも合いますね。色々なペアリングを提案できるし、面白いと思います。

ミシュランの星を獲得し、次の可能性を広げていきたい

-今後も続けていきたいことや、未来で挑戦したいことがあればお聞かせください。

(石山氏):まずは、ミシュランの星を獲得することですね。そこからどう新しい世界が広がるのかも楽しみです。実際『ゴ・エ・ミヨ』を獲得して、僕たちも変わった部分があるんです。毎日、緊張感をもってやらないといけないと感じました。なかなか、料理人が競い合うことってないですけど、そういうのも面白いんじゃないかと思っています。

(穂積氏):ミシュランの獲得も最終ゴールではなく、通過点だと思っています。理想の店を、自分たちも気持ちよく営業できることも大事なので、まずは星を獲得して、その後に見える、違う世界を楽しみにしています。

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穂積依里氏は1986年生まれ。タイ料理店の開業を志し、24歳のとき渡タイ。タイ人料理家の助手を務める。石山公一氏は1977年生まれ。調理歴30年。35歳のときに初めてタイを訪れ、タイ料理に魅せられ、タイで生活を始める。両氏はバンコク出会い、帰国後、2016年タイ料理店「ピッサヌローク」開業。2024年6月には東京にて「KHAO」を開業。
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タイ料理

KHAO

各線 地下鉄神保町駅 A4出口徒歩1分

20,000円〜29,999円

【編集後記】
神保町駅から徒歩1分ほどの場所に佇む「KHAO」。店の扉を開け、ほのかに漂うスパイスの香りを楽しみながら階段を下りると、地下にはカウンター席8席のみの非日常空間が広がっていました。シェフの調理風景を目の前に、きっと今までに味わったことのないタイ料理をいただけるでしょう。新天地で挑戦を続ける「KHAO」の今後にも目が離せません。

※こちらの記事は2025年02月07日作成時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。

Kanaka.S

ウェディング業界を経て株式会社一休へ。一休.comレストランの営業として約200店舗を担当した後、編集部へジョイン。演奏家の父の影響で幼い頃から舞台芸術に触れ、自身も“人に感動に届ける仕事をしたい”という想いを持つ。プライベートでは、好きなエリアのレストランを開拓して、お気に入りを見つけるのが趣味のひとつ。皆さんの“こころに贅沢な時間”に繋がりますように、素敵なレストランの魅力をたっぷりとお届けいたします!

好きなお店:HOMMAGE・渡辺料理店・Lol.
気になるお店:apothéose・CIRPAS・オトワレストラン・鎌倉 北じま

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