恵比寿「鮨処 たけ原」中武智樹氏にインタビュー!シャリやネタに大将の人柄がにじみ出る、愛される鮨の極意とは

恵比寿駅からほど近いビルの一角に位置する隠れ家寿司「鮨処たけ原」。2022年夏にオープンしたお店で腕を握るのは、現在25歳の若手大将・中武智樹氏です。寿司が大好きという大将の愛情がこもった握りには、シャリにもネタにもこだわりがぎゅっと詰まっています。今回KIWAMINO編集部は、そんな中武氏に寿司へのこだわりを深堀しつつ、今後の目標についてなど、多岐に渡ってお伺いしました。

好きが高じて進んだ寿司職人への道

-2022年8月2日にお店をオープンし、来月で開業から1年を迎えられますが、お客様の反応や大将としての手ごたえはいかがでしょうか?

オープンした当初は席が埋まらない日も多く、不安な時もあったのですが、最近はありがたいことに満席になる日が増えてきました。口コミをきっかけに来てくださるお客様が増えてきていているようで、本当にありがたい限りです。

-料理の道を目指されたきっかけ、中でも寿司の道に進んだ経緯をお聞かせください。

元々料理が好きだったということもあり、地元宮崎にある調理科のある高校に進学しました。無事に調理師免許を取得した後は、東京・築地にある老舗寿司店「築地寿司清」さんに就職を決めました。なぜ寿司かというと、元々寿司が大好きだったからです。また、ずっと都会での生活に憧れていたこともあり、東京で就職することにしました。

-築地の老舗寿司店「築地寿司清」での修業時代、特に印象に残っていることや、今に活かされていることはなんでしょうか?

「築地寿司清」は、築地を中心に店舗数を多く抱えているのですが、僕は本店の隣にある新館に配属になりました。そこでは約4年間お世話になりましたが、グループ店舗の中でも築地店は席数が多いため、仕込みに関してはだいぶ鍛えられましたね。

-日々どれくらい仕込み対応をされていたのですか?

イワシや小肌などは1日に10キロ以上仕込んでいました。今は1日に何本単位ですので、ボリューム感が全く違います。当時は魚を10キロ以上捌いたり、1日に貝類100個以上を殻から外したりしていました。正直なところ当時は「辛いな」と思う時もありましたが、今思うと非常に良い勉強になったなと思います。

-いつ頃から握りが始まったんですか?

入社後はひたすら魚を卸す日々でしたが、3年目になるとやっと握りの練習が始まります。1年間握りの練習をしたら、その後本社試験、社長試験、店長試験といくつかの試験があります。シンプルに、つけ場に出してもらえるようになったら合格なので、誰が1番早くつけ場に立たせてもらえるようになるか、板前になれるかを競っていました。店舗数が多いので、同期の数も多いんですが、先輩や本社の人達から「同期に負けるなよ、あの店舗には負けるなよ」とプレッシャーをかけられていました。

-ちなみに試験の結果はどうでしたか?

ダントツで1位でした(笑)。ただその後新型コロナウイルスが流行り始めたこともあり、働く環境が大きく変わりました。出勤も週2日になってしまったこともあり、この機会に何か他の料理を学んでみたいと思い、青山にある「The Burn」というグリルレストランに半年ほどお世話になっておりました。

-寿司からグリルレストランとはだいぶ系統が違いますね。

肉だけでなく、ヴィーガン料理などもやられていたのが良いなと思ったんです。ずっと同じことをしていると頭が凝り固まってしまいますし、違う分野で新しいことを学びたいなと思いました。

-実際に違う世界に入ってみて、特に印象的だった場面や驚いたことなどはありましたか?

同じ料理の世界であるはずなのに、使う材料も調味料も知らない物ばかりで「自分は何も知らないんだな」って痛感しましたね。

-「The Burn」で働かれている間も独立されることは考えていらっしゃったんですか?

「The Burn」で働いている間も、空いている日は立ち食い寿司屋でアルバイトをしていました。握っている感覚だけは忘れたくなかったんです。その後ご縁があって、現在の場所にあった寿司屋の大将を任せていただけることになり、寿司の世界に戻ってきました。そして2022年8月にリブランディングした「鮨処たけ原」にて、改めて大将を任せていただくことになりました。

寿司への愛が溢れる大将が握る、こだわりの寿司とは

-「鮨処たけ原」の名前の由来はなんでしょうか?

僕の中武という苗字から「たけ」を、そしてマネージャーの藤原の苗字から「原」をとって、「たけ原」としました。2人3脚で頑張っていきたいという思いを込めています。

-寿司について聞かせていただきたいのですが、まず寿司にとって重要なシャリへのこだわりをお聞かせください。

寿司酢に関しては100種類以上を試しました。米も塩も何十種類と揃え、それらを様々な組み合わせで配合してみては、納得いくまで試しました。正直、何百回試したかわからない中で「このシャリ美味しいな」と思えたものが今のシャリになります。米に関しては、粒が大きく、米そのものの甘味も強い、岐阜県産の「ハツシモ」という種類を使用しています。なるべくお客様にはたくさん食べてもらいたいという気持ちがあるので、砂糖を使わなくても米本来の甘味で楽しんでもらえる点が気に入っています。

-「これだ!」という配合が見つかるまでどれくらいの間研究されていらっしゃったんですか?

2か月間くらいは食べ比べ続けていたと思います。酢なども色々なメーカーさんに連絡を取り、ダメと言われても何度も連絡をとってやっと仕入れさせていただいて、やっとの思いで仕上がったシャリです。

―季節によって水分量なども調整されていらっしゃるんですか?

はい、季節によってお米の硬さが変わるので、日々気候に合わせて水の量は微調整しています。毎回同じ水の量だと硬すぎたり、柔らかすぎたりするので、常に一定のクオリティのシャリをお出しできるように調整しています。

-シャリの温度も意識されたりするのですか?

はい、シャリの温度もネタによって調整しています。貝などはシャリが熱いと貝の臭さがでてしまうので、貝を握る時は冷たいシャリで握るようにしています。

-その他、握る時にこだわっていらっしゃることはありますか?

ネタによってシャリの握り加減を調整しています。白身だと、あまりシャリを硬く握りすぎると口の中で解ける速度にばらつきがでて、シャリだけが口に残ってしまうので硬く握りすぎないようにしています。またはイカなど少し硬めのネタの時は、シャリを少し硬めにしています。柔らかすぎてしまうと、シャリだけが先に崩れてしまうのでネタによって握り加減を微調整して、どのネタを食べても口の中で最適にほぐれるように努めています。

-シャリは、日々水分量だけでなく、その時のネタに合わせて温度も硬さも調整していらっしゃるんですね。

-厳選して仕入れるという食材へのこだわりについてお聞かせください。

毎日必ずという訳にはいかないのですが、できる限りマネージャーの藤原と一緒に豊洲市場に行っています。今は前日に発注もできてしまう時代ですが、やはり人間対人間なので信頼関係を築くことをとても重視しています。きちんと業者さんにも顔を出して、挨拶をして自分たちをしっかり覚えてもらう、気持ち良い取引ができるように基本的なところを大事にしています。

-マグロに関しては「やま幸」さんから仕入れられていますよね?

もちろんマグロ自体も魅力的ですが、僕は「やま幸」の山口幸隆社長の人柄に非常に惹かれます。とてもハートの熱い方なので。山口社長は、自分が良いなと思わなかったら、マグロを入れてくれないんです。うちがどんなに「明日はマグロが必要だから入れてください」と言ってもダメですね。でも、だからこそ信頼できるというか、本当に良いものだけを入れてくれるという点に絶対的な信頼を置いています。上質なマグロを入れてくださるので、僕はそれを「1番美味しい状態でお客様に提供したい」と思いながら日々試行錯誤しています。

-夜は、赤身、中トロ、大トロと全部食べられますよね。

僕自身が食いしん坊なので、「食べるなら3つとも食べたいな」って(笑)。自分が寿司大好きなので、ネタも大きくしがちですね。小さく握られても食べた気がしないという理由もあります。

-寿司一貫一貫にすごくこだわりが詰まっていますが、訪れる方のお食事開始のタイミングがそれぞれ異なる、一斉スタートではない中での微調整は大変でないですか?

確かに好きなお時間に予約いただくスタイルなので、カウンター席の右の方は「今からスタート」真ん中の方は「食べ終わるところ」、左の方は「握りに変わるところ」などそれぞれのお客様ごとに提供するものがバラバラなので、多少お客様をお待たせしてしまうことはあるかもしれません。ただ逆に一斉スタートで2部制などにしてしまうと、次の時間があるのでとお客様を焦らせてしまうこともあるのかなと思い、好きな時間に予約していただきたいなという気持ちもあります。

-大将の心がこもったおもてなしですね。

-大将にとって、中でも味わって欲しい逸品はなんでしょうか?

もちろん全部に愛情を込めているのですが、まずは自分が大好きなイカです。そして仕込みが好きな小肌。小肌は塩を振る時やお酢で締める時も「美味しくなれよ」と思いながら作っていますね。後は煮ハマグリは、煮たてる出汁の味付けにもこだわっていて、ぜひ食べていただきたいですね。後は、毎日調理に5時間かかるプリンにはとても手をかけています。有精卵の卵や身体に優しい砂糖を使ったり、隠し味に白味噌を入れたりしてコクを出しています。

-以前いただいた時に、食べる場所によって硬さが異なるのにびっくりしました。

2層構造になっています。上は硬め、下はやわらかめの2つの触感を楽しめるようにしています。ただ自分の好みの硬さに毎回仕上げるのはやはり難しいです。仕込みに集中しすぎてプリンのことを忘れてしまっていたり、ガスの火が普段よりちょっと強かったら硬すぎてしまったり、気が抜けないですね。

リラックスして寿司を楽しむひとときを提供したい

-お客様にはどのような食体験をしていただければと思っていらっしゃいますか?

寿司屋ってちょっと怖いなとか、緊張するなと思っていらっしゃる方も多いと思うんですよね。うちでは、緊張せずリラックスして食べていただきたいなと思っているので、まわりのお客様に迷惑をかけない範囲で色々とお話しながら、寿司もここでの時間も楽しんでいただきたいです。

―皆さん実際にそれを体験できるからこそ、リピーターもどんどん増えていらっしゃるんだと思います。

-最後に、現在大将は25歳と非常にお若い年齢でありながら、お店を任されていらっしゃいますが、今後「鮨処たけ原」で実現したいことや目標とされていることはございますか?

ゆくゆくはミシュランの星を目指したいです。1つずつ目標を掲げているんですけど、それが1つ、2つと少しずつクリアしている現状があって、最終的には目標である星の獲得を目指したいなと思っています。

-それに向けて何か意識されていらっしゃることはありますか?

以前よりも掃除に力をいれています。普段しなかったようなところも意識して掃除するようにしています。やっぱりどんな方がいらしても、清潔で美しいと思えるお店で寿司を楽しんでもらいたいなって思いますね。寿司に関しては、奇をてらわずに、基本に忠実な寿司を握っていきたいです。元々歴史のある老舗寿司店で学んだ伝統の寿司を表現し、食べていただいた全ての人が美味しいと思ってくれる寿司が握れるようになったら、幸せだなと思います。

中武智樹氏プロフィール
1998年宮崎生まれ。築地寿司清にて修業を積む。2022年8月にオープンした「鮨処たけ原」にて大将を務める。

【編集後記】
「鮨処たけ原」では、物腰が柔らかく、愛嬌たっぷりの大将の人柄に癒される人も多いのではないでしょうか?ネタに合わせて硬さ、水分量、温度までこだわって握る中武氏の寿司は、ボリューム感がありながら決して飽きることがありません。美味しい寿司を満喫しながら、大将との会話を楽しむそんなひとときを「鮨処たけ原」で体験してみませんか?

※こちらの記事は2023年09月25日作成時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。

Mika.A

外食が何よりの楽しみな編集部メンバーです。
野菜へのこだわりは人一倍!好きが高じて
ベジタリアン・フルーツアドバイザーの資格を取得しました。

・好きなお店:銀座レカン/シンシア/Heritage by Kei Kobayashi
・好きなジャンル:フレンチ/鮨/肉料理
・最近行ったフレンチ:ラルジャン/apothéose/渡辺料理店/フロリレージュ
・好きな美食宿:ホテルリッジ/sankara hotel&spa 屋久島

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