インタビュー|

名古屋「虹霓」篠田昌利氏に聞く、カウンターで魅せる伝統と革新の中国料理

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2022年6月にオープンした「虹霓」は、東京と名古屋の「四川飯店」で長年経験を積んだ篠田昌利氏が店主を務める中国料理店。名古屋で最も古い商店街のひとつとも言われる円頓寺商店街から程近い四間道エリアにあり、町家風の佇まいが、どこか懐かしさを感じる街並みに調和しています。
店主の篠田昌利氏へのインタビューを通じて「四川飯店」で学んだ料理の原点や、独立・リニューアルへの想い、今後の目標まで、多岐にわたってお話しを伺いました。

東京と名古屋の「四川飯店」での経験を通じて、料理人としての原点を築く

―篠田様が料理人を志したきっかけは、何だったのでしょうか?

親が中華料理の店をやっていまして、小学生の頃から皿洗いをしたり、おかもちを持って配達したり、店の手伝いをしていました。特にやりたかった訳ではなかったんですけど、そのまま自分もこの仕事をやるんだろうなとは思っていました。

―初めての修業先は名古屋ではなく、六本木の「四川飯店」だったそうですね。

兄も料理をやっていて、陳建一の「四川飯店」で修業をしていたので、僕も同じ六本木の「四川飯店」に修業に入りました。そこで4年働いて、その後は東京にある「四川飯店」出身の方の店を2店舗経験して、東京では約9年修業しました。
名古屋に帰ろうと思っていた時に、名古屋の高島屋に「スーツァンレストラン陳」がオープンするということで声をかけていただいたので、2003年に名古屋に戻って、また「四川飯店」に入るという流れでした。

―名古屋では「スーツァンレストラン陳」と「四川飯店 名古屋」で10年以上ご活躍されましたが、長年の経験の中で、現在のご自身に活かされていることは何でしょうか?

日本に四川料理を持ってきたのが「四川飯店」の初代の陳建民です。今の四川料理とは全く違う、日本に合う中華料理を持ってきたということで、そこから日本に広まった四川料理がいっぱいあります。そういった料理を「四川飯店」の中で守りながらやってきたというのが、僕だけじゃなくて皆の、料理に対する想いだったと思います。
陳建民が日本で広めた料理の全てが、僕達にとっては今でも変わらない、変えられない料理だと思いますし、原点になっています。

―「四川飯店」の料理を守るという想いを持ちながら働かれていた中で、40歳までには独立するという目標をお持ちだったのですか?

30歳前後から独立しようと思うようになって、実際に独立したのが39歳になる年です。それまで約10年「四川飯店」で働いていたんですけど、今になってみると、その10年は僕にとってすごく大事だったなと思います。料理長をやらせていただいたこともそうですし、オープニングの店を作ったということもそうですし、そういった環境で料理を作らせていただいて、ものすごく成長したような気がします。
お客様に対するホスピタリティも芽生えてきて「美味しいもの」というだけではなく、喜んでいただくにはどうしたらいいかという想いが、今の店に繋がっているような気がします。

―料理はもちろん、料理人としての篠田様を作ったと言っても過言ではないという10年間だったのですね。

そうですね。でもやっぱり、歳をとってからではなくて、まだ若い感性の時にどれだけ評価してもらえるのか?という想いはありましたし、一時期は、東京で勝負したいと考えたこともありました。たまたま名古屋の店で声をかけていただいたので戻ることになり、自分の店も名古屋でオープンすることになったんですけど「自分の腕を試したい」という気持ちはすごくありました。

長年の想いを形に、2016年に独立を果たした「明道町中国菜一星」

―東京への想いもあった中で、名古屋にオープンされた「一星」さんは、オープンキッチンとカウンターのスタイルにこだわられていたそうですね。

古民家風の建物が気に入って、リノベーションして店を作りました。家に遊びに来たような雰囲気のゆったりとした店だったので、お客様も落ち着いて食事ができたんじゃないかと思います。コース料理を提供しようと決めたのも、建物の雰囲気に合ったやり方だと思ったからです。

カウンターにしたのは、お寿司屋さんはカウンターの目の前で握ってもらったものを食べることが多いと思うんですけど、それがすごく羨ましくて。と言うのも、中国では一時期、食品偽装問題があったので。だから僕が毎朝市場に行って食材を買って、お客様の目の前でそれを見せて調理することで、中華料理への信用性や、こんなに美味しいものがあるんだということを知ってもらいたかったんです。なので「カウンターでやる」ということは、僕の中ではお客様に対しての信用性ですね。「目の前で喜んで食べていただきたい」という想いを伝えたかったのがきっかけでした。

2022年6月、場所も新たに「虹霓(こうげい)」としてリニューアルオープン

―「虹霓」でも、オープンキッチンとカウンターのスタイルを踏襲されていますね。

そうですね。前の店ではお客様に背を向けて作っていたんですけど、今回はお客様の方を向いて料理を作れるようになっているので、より楽しんでいただけるのではと思います。
作っているところは全部隠すところが無いので、そういう意味でも前の店と変わらず、正直に料理を作っていくということです。

―「一星」は「ミシュランガイド愛知・岐阜・三重 2019 特別版」で一つ星に掲載されましたが、場所も店名も新たにリニューアルを決めたのは何故だったのでしょうか?

今の店では基本的に、クチコミサイトでの紹介を禁止させていただいています。
もちろん、評価いただいていたので有難い話ですが「一星」の頃を振り返ってみると、その人達に対して自分は、忖度をしていたような気がするんですね。もちろん極端なことはしないですけど、いつも以上に気を遣って、張り詰めてやらなければいけないと思っていたような気がします。そういう意味で、店名を変えることによって、またゼロから始めようと思いました。
店名を変えることでミシュランも無くなりますけど、お客様は、店名ではなくて、僕自身に対して評価されたものと思ってくださっているので、そこは全く気にしていません。
「また取れたらラッキーだな」という感覚で、精進してやっていこうと思っています。

―「虹霓(こうげい)」という名前には、どのような想いが込められているのでしょうか?

店名を変えようとなった時に、奥さんが「虹霓」という言葉を見付けてくれました。
空にかかる虹が二重になることがあると思うんですけど、それを「虹霓(こうげい)」と言うんです。2つの文字はどちらも「にじ」を意味していて、簡単な方の「虹」がはっきりと見える方で、難しい方の「霓」が薄く見える副虹のことです。

あと、今の店のために龍のモチーフを作ってもらったんですけど、中国で「にじ」には「龍」の意味もあって「虹」は雄の龍「霓」は雌の龍を指すそうです。夫婦で店をやりますし、そういった縁起の良いものが自分達に合っているなと、瞬間的に思って「虹霓」に決めました。

―ゼロから始めたいという想いがあったとのことですが、どんなお店にしていきたいと考えていらっしゃいますか?

「虹霓」もオープンキッチンとカウンターで、目の前で僕が作るというスタイルは、多分これからも変わらないと思います。
料理も引き続き「おまかせコース」にしていますが、従業員が慣れてきたら、例えば1か月はコースをやらないで、アラカルトだけにするといったこともやってみたいなと。ゆくゆくは、そういったことにも挑戦したいです。

―「虹霓」の料理を一言で表現するとしたら、どのようなイメージでしょうか?

「ワクワクドキドキ」ですかね。「何が出るんだろう?」という感覚だと思います。
僕は「四川飯店」でやってきましたけれど「四川飯店」の料理を、麻婆豆腐以外は、基本的には出さないようにずっとやってきました。そういう意味では、毎朝市場に行って、今日入荷したものをどう自分の中で落とし込むかということなので、基本的な技術は踏まえながら、お客様が食べたことのないようなものを作るというのが、自分の料理だと思います。

―仕入れた食材によって、毎日コースの内容を変えているのですね。スペシャリテの料理を作るご予定はありますでしょうか?

極端に言えばそうですね。旬のものが一週間しかなかったら、それを使った料理はその時にしかできません。なので、翌週にはまた違うものを使って、新しく考えて作るということが多いです。

ずっと作っているのは、牛肉の料理があります。牛肉を和風出汁の坦々スープで食べていただいて、その後に自家製の手打ち麺で追い麺をしていただくもので、もう何年も続けているメニューです。僕は作り続けていると飽きてくるので変えたいと思ったんですけど、あの料理を楽しみに食べに来てくださるお客様も多いので、締めの料理としてお出ししています。
今は自家製麺に力を入れていて、麺自体の種類を増やしていこうと考えています。前は父の店で出している、父が打った麺を使っていたんですけど、今は製麺機を使って自分で打っていて、今朝も家で打ってきました。基本的に父の店とレシピは一緒で、色々と試行錯誤しながらやっていますけど、その麺をスタンダードにして、他にも醤油や塩のスープに合うような新しい麺を作っていきたいですね。

―新しいものに挑戦しようという気持ちや、進化しようという想いを強く持っていらっしゃるのですね。新しいメニューのインスピレーションの源はどこにあるのでしょうか?

色々な店に食べに行ったり、自分で情報やヒントが欲しいなと思う時に調べたり本を読んだりしていますね。食材と調理法と味付けをその組み合わせにした時にどのようになるかを頭の中で組み立てるのが、僕の料理の作り方です。
「四川飯店」の四川料理が基礎になっているのでそれに則りつつも、違う観点からも見て、旬の良い食材を自分の中で食材を照らし合わせて料理にしていっていますね。

―先程のお話しで「四川飯店」の料理の中で、麻婆豆腐だけは今のお店でも作っていると伺いましたが。

そうですね、麻婆豆腐だけは、変えようがない料理だなと思っています。
「四川飯店」でずっと作り続けてきた中で、あれを超える麻婆豆腐に出会ったことが無いですし、自分にとっては自分の麻婆豆腐がすごく美味しいと思ってしまった時点で、変えられなくなっているんだと思います。変えたいと思って、豆腐や調味料を変えてみるんですけど、結局同じ味になっていくので、もうこれは変えられない料理なんだと。なので「四川飯店」で教わった作り方を自分のものにできた時の麻婆豆腐を、今もお出ししている状態ですね。
先日「四川飯店」で働いていた先輩とお話しした時に、その方も「麻婆豆腐は変えられないよね」と言っていたので「四川飯店」出身の人は皆そうなのかも知れませんね。

―変えようと思って作っても同じ味になるというのはやはり、篠田様の原点になっている料理なのですね。

日々お客様に喜んでもらうことの先に掲げるミシュランガイドの星

―技術の継承や次世代の育成に関しては、どのように考えていらっしゃいますか?

「一星」の時は弟子を入れていなくて、アルバイトで専門学生を採っていたんですけど、今はその子達を新卒として2人雇っています。自分達がこれから考えて作っていく料理もあると思いますが、基礎をうちで学んで自分なりの料理を作って、いずれはうちの店から独立できたらいいなという感覚はありますね。
そのために、コースの締めは4種類選べる定食のような形にしていて、町中華にあるようなメニューをお出ししています。炒飯と麻婆豆腐は固定で、後の2種類は変わりますが、今だと青椒肉絲。ピーマンの旬とタケノコの旬が合わないため一緒に出すことができないので、うちではピーマンと牛肉だけの青椒肉絲です。後は、鶏肉を発酵唐辛子や豆鼓と一緒に醤油味で炒めたものとかですね。
最初に「四川飯店」の料理はやらないという話をしたと思うんですけど「虹霓」になってからは弟子がいるので、中華料理の基礎を覚えられる料理を作って、そこで勉強してもらえたらと思っています。

―弟子の方達にとっては、締めの料理を任せてもらうことで腕を磨いて、自信を付けられますね。

そうですね。どうしても最近の店は、基本が無くなってきているような気がするんです。僕の前の店もそうでしたが、僕にとっては基本があるんですけど、これから学ぶ方にとっては基本の部分が飛んでしまっている。この先、うちの店を出て他の店に行った時に「こんなことも知らないの?」となったら可哀想なので、少しでも貢献できたらなと思っています。
とは言え、お客様に下手なものは出せませんので、下の子がやる仕事に対してはすごく目を配っていますし「道具、食材、人、全てに気を遣え」といつも言っています。笑顔もそうですし、包丁を使うことや食器を洗うこと、食材も、全てお客様に行くものですからね。色々なものに気を遣えないと、料理人はできないと思うので、そういった気持ちで仕事をして欲しいと日々伝えています。

―これからの目標や挑戦してみたいことがありましたら教えてください。

大きな目標で言うと、ミシュランで一つ星ないしは二つ星を取れたらいいなというのは、従業員達にも言っていて、そういった気持ちで仕事をしてもらっています。
でも、お客様に喜んで帰っていただくということに対して初心に戻って今やっているので、初めて独立した時がそうだったように、お客様に喜んで帰っていただくことが一番です。お客様が来てくれることが僕達の生きていく価値なのでおこがましいかもしれませんが、ミシュランやクチコミサイトの評価は関係無く、この店を好きで来てくれる人をたくさん作りたいですね。

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篠田昌利
1976年愛知県出身。
四川飯店にて経験を積み、2016年「明道町中国菜 一星 」開業。
「目の前で喜んで食べていただきたい」という想いから22年6月に四間道内で移転し、「虹霓」としてリニューアルオープン。

中国料理

虹霓

名古屋市営地下鉄桜通線 国際センター駅 徒歩6分

30,000円〜39,999円

Mika Tsuboi

一休.comの宿泊営業アシスタントから編集部へ。ワインと一緒に、美味しいものを少しずついただくのが最高の幸せ。こぢんまりとしたフレンチやネオビストロがお気に入り。
最近は日本ワインにも興味を持ち、旅先で出会った好みのワインを自宅で愉しむのが日課。パンやスイーツなどにも目がなく、週末にはカフェやパン屋巡りをし日頃の情報収集も欠かさない。
・最近行ったお店:Restaurant Fermier/六雁/Varmen
・好きなお店:広尾 ぺりかん/RESTAURANT MAMA./LATURE
・得意ジャンル:ビストロ
・好きな食材:ジビエ/蛤/伊勢海老/キノコ

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