天ぷらは“揚げる”というシンプルな調理法ですが、衣の中にその旨味を完璧に封じ込めなければならない、難度が高く職人技が求められる奥深い料理です。レシピがなく、技の継承が難しいと言われていますが、今回は数ある天ぷら店の中でも匠の味が堪能でき、通いたくなる、東京の名店を3軒厳選しました。
1.斬新な天ぷらを発表し、新境地を拓いた立役者
てんぷら近藤(東京都/銀座駅)
老舗「てんぷらと和食 山の上」にて23歳で料理長を務め、20年以上大きな支持を集めてきた近藤文夫氏。1991年、銀座に「てんぷら近藤」を開店し、それまでの概念を変える斬新な天ぷらが国内外から絶賛を浴びる一店に。油を吸い過ぎないようにぎりぎりまで天ぷらの衣を薄くし、食材の色や香りを引き立てる技は、長年の経験から磨き上げた勘とたゆまぬ探究心ならでは。職人歴50余年を経てなお、自らカウンターに立って天ぷらを揚げる姿は職人魂の真髄を感じさせます。
また、近藤氏は魚介中心の江戸前天ぷらに野菜を取り入れ、天ぷらの新境地を拓いた立役者でもあり、代表作のさつま芋の天ぷらは、美食家に衝撃を与えたほどの逸品。10センチを超す切り株状のさつま芋を約30分じっくり揚げ、水分も甘味もしっかり天ぷらに封じ込むという離れ業に脱帽です。いまなお新たな天ぷらを模索し続ける老舗のカウンターで、一味違う一品を満喫してみては。
2.天種ごとに衣を加減、2つの鍋を操る鮮やかな技
てんぷら 深町(東京都/京橋駅)
京橋駅より徒歩約1分、大通りから一本入った細道にひっそりと温かみのある店を構える「てんぷら 深町」。料理人の道を歩んで半世紀の深町正男氏は「山の上ホテル」を名門として確立した伝説の天ぷら職人です。カウンター越しに眺める美しい所作、鮮やかに2つの鍋を操り、天種ごとに衣を加減する技の数々。
名物の大葉で包んだ北海道産の雲丹は、加熱することで香りを高め、パリッとした大葉とレアな雲丹との融合が旨みを引き出します。太白胡麻油をブレンドした油や、鰹と昆布の出汁に銘柄みりんと醤油を加えた天つゆは「山の上ホテル」の味を忠実に再現。2尾をそれぞれ異なる火入れで揚げる車海老は、まさに技術の高さを実感する逸品です。現在は2人の息子さんが父の傍らで江戸前の技を受け継いでおり、家族の絆を感じる温かい雰囲気の中、天ぷらを楽しめる一軒です。
3.静岡厳選食材の天ぷらを蕎麦で締める贅沢
蕎ノ字(東京都/人形町)
人形町駅から明治座方面に徒歩約1分、店頭に掲げられた「天ぷら食って蕎麦で〆る」と記された暖簾が印象的な「蕎ノ字」。江戸前の天ぷらに衝撃を受け、天ざる発祥の地、東京・日本橋で学びたいとの店主・鈴木利幸氏の思いから、静岡・島田市の人気蕎麦店「蕎ノ字」を人形町で再スタートしたのは2016年。たちまち予約困難店として注目を浴びました。
食材は、静岡産の旬の野菜、駿河湾の海の幸を厳選。匠の火入れでふわりと揚げた天ぷらに、静岡・川根本町から仕入れる蕎麦粉を使用した、喉ごしの良い二八蕎麦で締める贅沢なコースが人気の秘密です。実家で30年以上継ぎ足してきた「かえし」に4種のカツオ節と羅臼昆布でとる出汁を合わせたつゆも絶品。地酒や国産ワインとともにじっくり味わいたい、技ありの天ぷらです。
天ぷら技術は計算し尽くされた芸術とも言えます。衣を介して表面の水分を蒸発させ、旨みを閉じ込める、食材の持つ魅力をより引き出す技が勝負の職人芸。今回挙げた天ぷら店は、伝統が育んだ唯一無二の天ぷらを満喫できる貴重な店ばかりです。一度は経験する価値ある匠の仕事を存分に味わってみてください。
※こちらの記事は2024年02月13日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。