今年(2024年)で創業53年目を数える銀座の老舗「銀座 鮨青木」。名人と謳われた先代は、今は無き昭和の名店銀座「なか田」で腕を振るい、1972年に暖簾分けを許され、京都・木屋町で「なか田」を開業。その後、1986年に帰京し、屋号を「鮨 青木」と変えて麹町で店を始め、1992年には待望の銀座へと移転しました。
父の思いを受け継ぎ、銀座の店を守ることに

「ちょうど僕が京橋『与志乃』での修業を終え、ようやく父の元でみっちり手ほどきを受けようとしていた矢先のことでした。銀座に移転して間もなく、父は突然の病で他界してしまったんです」と語るのは、二代目主人の青木利勝さん。現在は還暦を迎えた利勝さんですが、当時はまだ29歳。その若さで右も左もわからぬまま、店を継ぐこととなったプレッシャー、苦労はいかばかりだったかと想像に難くありません。
「先代の鮨を愛してくれたお客様や先達の励ましのおかげで、やっと一人前になることができました」そう言って笑う利勝さん、それも持ち前の気風の良さゆえでしょう。父の教えを守り、修業先の「与志乃」からもしっかりと江戸前鮨の仕事を受け継いだ利勝さん。しかしそれだけに固執することはなく、好奇心の赴くまま常に新しさを求める姿勢も「銀座 鮨青木」ならではの魅力を創り出しています。
江戸前の伝統と時代ごとの風を感じる、独創的な鮨が魅力
例えば、鮨だねとしては新顔のアラをいち早く握りにして出したり、名物の牡蠣の握りにしても生の牡蠣を軍艦にして出す店が多い中、煮蛤よろしく牡蠣を煮て“煮牡蠣”にし、牡蠣の煮汁を詰めて作ったツメを塗るといった具合です。また、つまみのカラスミは日本酒で仕込むだけでなくウイスキーやワインを使ってみたり、その柔軟な食への姿勢と創造性で独自のスタイルを提唱してきました。
そして、2020年には進化形として本店近くに「離」をオープン。鮨だけに留まることなく、鮑や蟹など四季折々の食材を用いて、しゃぶしゃぶや焼きものなど様々な調理法でアプローチ。割烹さながらのコース展開で青木ワールドを披露、フーディーらの意表をつきました。
元々食べることが大好きで、プライベートでも食べ歩いてきた利勝さん。アメリカや韓国で鮨のイベントを行ったこともあり、そうした様々な経験の中、江戸前鮨の殻を打ち破ってみたいという思いが芽生えてきたのでしょう。利勝さん曰く「今まで培ってきたことを、鮨だけでなく、もっと色々な形で表現してみたいと思ったんです」とのこと。いかにも、進取の気性に富む彼らしいチャレンジです。
そして、50周年の節目の年にあたる2022年には本店と「離」を一体化。席数も8席とグッと縮小してリスタート。現在、毎週木曜日は「離の日」としてオリジナルの鮨割烹に変身する他は、これまでと同じく江戸前鮨のおまかせコースを提供しています。
老舗ならではの技が随所に光るおまかせコース
鮨とつまみを楽しめる「【おまかせ】スペシャル(おつまみ~握り)」のコースに加え、握りのみの「【おまかせ】握りコース」もあり、握りだけを食べたい鮨ラバーの要望にもキッチリ応えてくれる懐の深さも老舗ならではでしょう。
とはいえ、蛸の桜煮など江戸前の仕事が味わえるつまみも見逃せません。鮨屋のつまみでお馴染みの穴子の白焼は、山椒醤油で味付けし、木の芽をふんだんに降って仕上げています。鰹のお刺身も一つは藁焼きにして塩味で、もう一つは玉ねぎ醤油で旨みを添えるなど、さりげないアレンジも楽しみです。一手間かけつつも、やりすぎない塩梅の良さはさすが。熟練ならではの手腕といえましょう。
ちなみに、どちらのコースも握りは12貫。時におぼろをかませて握るコハダや、大トロ、中トロ、赤身に加え、トロの蛇腹や赤身のヅケなど、鮪のバリエーションも豊富。
さらに煮蛤、穴子といった江戸前鮨の王道を堪能できます。サイマキ海老を唐人笠に見立てて握った「唐子握り」や鯖の押し寿司などの変化球も、店ならではの味わいの一つ。王道と革新が糾う醍醐味をぜひ。
※こちらの記事は2024年10月24日作成時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。