京都「Restaurant MOTOI」前田元氏インタビュー。唯一無二の料理に対するこだわり

ミシュランの星を有する名店が、数多く軒を連ねる古都・京都。
2012年のオープン以来、9年連続でミシュラン1つ星に輝く「Restaurant MOTOI」は、大正時代の呉服商の邸宅をリノベーションした建物が、気分をより高めてくれるレストランです。
そんなお店のオーナーシェフ、前田元氏は京都モダンフレンチの先駆け的な存在。
今回は料理人を目指すきっかけや今後の展望まで、多岐にわたって語っていただきました。
※本インタビューは、2021年2月22日にオンラインにて行いました。

「人に喜んでもらいたい」ぶれることのなかった幼少期の夢

―まずは料理人を目指すことになったきっかけを教えてください。

実家が河原町三条の中心街で古書店を営んでおり、子供の頃から身近に本がある環境で生活をしていました。
置いてある本のほとんどが学術書や歴史書で、絵本のように絵が描かれている本がなくて。幼少期、唯一絵が描かれていた本が料理本だったんです。
そんな中で帝国ホテルの村上信夫氏の本を読んだ時に、豪華なフランス料理に憧れを抱くようになりました。

小学校2年生の時、先生のために玉子焼きを作ったんです。そしたらすごく喜んでくれて。その経験が、料理を作って人に喜んでもらえることが楽しいと思うきっかけになりました。
当時から料理本の中に出てくるシェフに憧れも抱いていたので、料理を作ることを仕事にできたら素敵だな、と考えていましたね。
そこから毎週日曜日の朝食は僕が担当するようになり、家族にも料理を振舞う機会が増えていきました。

―幼少期に抱いた夢を実現されたのは本当にすごいことですね。

逆に料理人になるのであれば勉強しなくてもいいや、という言い訳にもしていましたね。
本当は中学校を卒業したらすぐ料理の道に入りたかったのですが、両親に高校だけは行った方がいいと説得されまして。

高校時代、所属していた部活がすごく厳しかったんです。その時を思い出すと料理人になった今も、しんどいと思うことは一切ないですね。
練習後「今日はどうだった?」という先生の問いに「頑張りました」と答えたら「頑張っていると自分で言ったら終わりだぞ」と、すごく怒られたことがあって。
それ以来、「頑張っている」「努力している」「一生懸命やった」などは口にしないよう決めています。
そういった経験ができたのは、高校生活のおかげですね。

―前田シェフの信念が、とても心に響きました。

最初はホテルに入社され中華料理で10年間経験を積まれましたが、小さい頃からの憧れ通り、フランス料理に転身されたのですね。
中華をやりながらも、やはりフランス料理が一番好きだというのは変わらなかったんです。フランス料理が表現する世界観にずっと憧れがあったんですよね。中華料理をやりながらも、いつか必ずフランス料理のお店をやりたいという目標はずっと持っていました。

―フランスでの修業後は再びホテルを経て、大阪にあるミシュラン3つ星の名店「HAJIME」に入店されますが、その時の経験から得たものはなんですか。

僕はホテル育ちで日本の個人店で働くのは初めてだったんですが、最初はラップの使い方から掃除のやり方まで基礎から教えていただきました。
これまでの自分は備品がいくらするかなど、あまり考えたことがなくて。
逆に個人店になると全く捉え方が違って、ラップは10㎝あたりいくらするかとか、キッチンペーパーは1枚あたりいくらするかとか、そういうものに全てお金がかかっているということを教え込まれました。
利益を出して、その利益でお客様によりよい料理を提供するという考えです。
全く感覚が違ったので衝撃的でしたが、すごく楽しかったんですよね。
僕が独立したいというのは米田シェフにも話をしていたので、経営学も学ばせていただきました。米田シェフがいなかったら、今の僕はないんじゃないかと思うほど、本当にお世話になりました。

唯一無二を提供する前田シェフのおもてなし

―「Restaurant MOTOI」で提供されるお料理は中華料理をベースにしたものなど、フレンチではなかなか見ることのない面白いメニューが多いですね。料理へのこだわりを教えてください。

誰かがやったことはやりたくない、僕にしかできない料理ってなんだろう、というのは常に追い求めていますね。
料理はクリエーションだと思っているんですが、自分のやったクリエーションは、過去のものを掘り返すのも嫌。なので毎年定番の料理は作らないようにしています。
和食だと四季折々で料理が決まっていることが多いですが、僕は同じ食材を使っても違う表現をすることを心がけています。

まず頭の中で料理を作るんですが、それを実際にお皿の上で表現した時に、一発で思い通りにできるとすごく気持ちいい。
うまくいかないと時間もかかりますが、やはりせっかく来ていただいたからには同じものではなくて違うものを食べていただきたいです。そっちの方がお客様も喜んでくれると思いますし、さらに自分も楽しいですしね。

―食材に関しても前田シェフ自ら調達されるそうですが、そこに対してのこだわりを教えてください。

できる限り間に入っている人を少なくしたいという気持ちはありますね。
誰かに頼むのではなく、僕自身が動いて受け取りに行くことを心がけています。
動き回って食材を集めてきて、一皿に昇華するというのが僕の料理のテーマだと思っていますし、それが“ご馳走”だと思っていますし、おもてなしだと考えています。
こだわりというよりも、流儀のようなものですね。

―食材も、前田シェフのおもてなしの一つになっているのですね。
「Restaurant MOTOI」は京都らしい店内も魅力だと思うのですが、そんな素敵な雰囲気の中でいただく食事を通して、お客様に伝えたい世界観はなんですか。

僕は生まれも育ちも京都なので、やはり“京都”というものに対してのこだわりはあり、店内に入っただけで京都を感じていただきたいと考えています。
古典的なものも大切にしつつ、新しさも取り入れるのが京都らしいやり方だと思っていて、店舗を設計する時も“京都の人に怒られないお店”にすることを大切にしました。

例えば、お庭というのは正座の目線が一番綺麗に見えるように設計されているのですが、床を下げて椅子に座った時に、ちょうど正座をした時と同じくらいの目線になるようにしました。

お皿の上や演出で自然を表現するお店も多いと思うのですが、京都の場合は玄関を開けて中に入るだけで、独特な空気を感じることができる。
お店で料理を食べていただくだけで京都の空気感に包み込まれるような、唯一無二の空間にしたいと考えています。

新しい時代だからこその取り組みや挑戦

―家庭でも楽しめる食事をオンラインで販売したり、餃子屋さんをオープンされたり、様々なことに挑戦されている印象があります。そのような取り組みについてお聞かせください。

2020年の3月、4月頃に人の流れが止まってしまった時、普段よりも時間の余裕ができたので、スタッフと話し合ってなにかできないかと考え餃子を作ることになったんです。

フレンチで餃子ができないかなども考えたのですが、餃子というのは日本人にとって普段食なんですよね。
美味しいけど食べ疲れしてはだめで、美味しくて日常的に食べたくなって、どこにもないものを作りたいと考えていた時に、僕が娘のために夜中作っていた餃子のことを思い出しました。
僕自身その餃子が一番美味しいと思って作っていたので、スタッフにも食べてもらったところ、みんなも美味しいと言ってくれて。
冷凍庫にストックできて、そのまま焼けるというのが、あまり外に出かけることのできない今の時代ぴったりなのかなと。
メディアでも紹介されたことで知名度も上がり、多くのお客様に喜んでもらえました。それであれば、もっと気軽に食べることができてお持ち帰りもできるようにしようということで、店舗もスタートしました。

もう一つ挑戦したのは、「ブイヤベース鍋」。餃子とは別で、すぐに食べられるものを作れないかと考えました。
僕の実家は365日中300日くらい鍋をする家だったので、鍋に対してはこだわりがあって。やはりフランス料理らしい鍋と言ったらブイヤベースが一番いいんじゃないかと思い、箱を開けたら具材が綺麗に並んでいて、温めたらすぐに食べられる、そんな鍋があったらいいなと考え商品化しました。

―今後の展望を教えてください。

レストランや飲食業という業態は“しんどい”や“きつい”など、まだまだそういう考えもあるんですよね。
本当に素晴らしい仕事なので、ここで働きたいという人が増えていくようにしたいですね。
京都には小さなお店が多く点在しているのですが、レストランという文化や、ハレの日に使うようなお店のことをもっと認知してほしいです。
そしてそんな素敵なところで働いていることに誇りを持ってるような、そんなお店にしていきたいですね。

餃子のお店をやったり物販をやったり、レストランとは別軸のことをしていく中で、誇りを持って働けるだけのお給料を渡せるような仕組みを作ることができれば、休みもしっかり確保できます。
そうすればさらにスタッフも有意義な人生を送れるようになるので、そんな環境を今後も作っていきたいと思っています。

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前田元氏 プロフィール
1976年、京都府生まれ。幼少期に歴史書や学術書ばかりが並ぶ実家の古書店で、絵本代わりに料理本を読んでいたことから料理人を志す。高校卒業後は「リーガロイヤル京都」に就職。フランス料理希望だったが中華に配属になり、約10年にわたり中華料理を極めるが、幼少期からの夢を叶えるために29歳で渡仏。「ラ・マドレーヌ」などで研鑽を積む。帰国後は「京都ホテルオークラ」や大阪「HAJIME」などに勤務した後、2012年に「Restaurant MOTOI」をオープン。わずか1年でミシュラン1つ星に輝くなど、京都にあるモダンフレンチの先駆け的存在として知られる。
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【編集後記】
料理本のシェフに憧れ、“人に喜んでもらいたい”という気持ちからスタートした料理人の夢。それは今も変わらず、前田シェフの言葉から幾度となく出た「お客様に喜んでもらいたい」「スタッフのために」という言葉がとても印象的でした。
前田シェフが紡ぐ唯一無二の一皿とお店に想いを馳せ、京都に伺った際はぜひ足を運びたいと感じました。

フランス料理

Restaurant MOTOI

京都市営地下鉄烏丸線 烏丸御池駅 徒歩10分

20,000円〜29,999円

※こちらの記事は2023年04月17日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。

Minaho Ito

一休.comの宿泊営業から編集部へ。子供を預けて、つかの間の贅沢をレストランで過ごすのが楽しみ。見た目が美しい料理が好きで、イノベーティブ料理やフレンチ・イタリアンがお気に入り。
自分へのご褒美にスイーツ店巡りをすることも多く、行きたいお店リストは常に更新中。

【MY CHOICE】
・最近行ったお店:ラペ (La paix)
・好きなお店:NARISAWA/Crear Bacchus/オテル・ドゥ・ミクニ/ガストロノミー ジョエル・ロブション
・得意料理:イノベーティブ料理/フレンチ/イタリアン
・好きな食材:赤身肉/チーズ

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