東京・西麻布の交差点から歩いて3分ほどの場所に佇む「Crony」。オーナーソムリエの小澤一貴氏と、オーナーシェフの春田理宏氏の出会いによって生まれたモダンフレンチは、2016年の開業後瞬く間に人気店となり、「ミシュランガイド東京」でも一つ星を獲得しました。「KIWAMINO」では今回、小澤氏と春田氏の対談インタビューをお届けします。お二人には、5年目を迎える「Crony」を巡って語り合っていただきました。
目 次
2016年、二人三脚でスタートした「Crony」
―「Crony」の魅力のコアな部分に、小澤さんと春田さんの強い信頼関係があるように感じます。出会ってからすぐに意気投合したのでしょうか。
(小澤様)
最初の出会いはカンテサンスですが、一緒にお店をやろうと声を掛けたのはだいぶ後なんです。当時は二人でお店を一緒に立ち上げる話はまったくしていないんですよ。実際、彼は2年後にカンテサンスをやめて海外に赴いています。
(春田様)
自分も、カンテサンス時代は、一緒にお店をやろうというところまでは意識していなかったと思います。
(小澤様)
振り返ると、入社直後から春田は別格だなという印象を持っていました。ポイントはいくつかあるのですが、私生活の洗練度合いも高かったですし、成長も早かったですね。誰に対しても遠慮なく疑問をぶつけられるし、しっかりしたアンサーがあれば納得してかみ砕く姿勢を持っていました。あとは、何と言っても料理のセンスの良さですかね。
(春田様)
自分は、小澤さんのサーヴィスのレベルの高さに正直驚きましたね。自分自身、すでに海外で経験を積んでいたこともあり、料理のレベル以上にお客様へのサーヴィスも高いクオリティが必要なのだと痛感していたので、小澤さんの仕事ぶりには感銘を受けました。
―その後、海外から帰国した春田さんに小澤さんが声を掛けたのですね。
(小澤様)
そうです。ただ、やるなら同じ立場で一緒にやろうというのが自分のスタンスでした。登記の上では私が代表となっていますが、出資も二人共同でしていますし、対等の関係でお店を立ち上げて現在に至っています。
お客様をハッピーにする美味しさと世界観
―強い信頼関係を保たれている理由がよく分かりました。協力してお店をつくる基盤がしっかりしているのですね。
「Crony」は美味しく見た目も美しいメニューが多い印象を受けます。そういった「Crony」らしいコンセプトが、どのようにつくられていったのか気になります。
(小澤様)
スタートした5年前は、東京のレストランの料理レベルが本当に高くて、種類も豊富。すべてのジャンルが洗練されていました。美味しいことが当たり前の中で「じゃ、Cronyのオリジナリティーってどこにあるんだろう?」「お客様をハッピーにするためにはどうすればいいんだろう?」という問いを、二人で考えていました。
先ほど話にあがったサーヴィスもその一つ。特に当時は、味だけでなくプレゼンテーションに代表されるような、料理の提供方法や見た目にも注目が集まっていましたから、それは一つのヒントになったと思います。
(春田様)
今もそうですけど、料理のメニューについては、美味しさはもちろん「お客様にどう愉しんでもらうのか?」という視点を持ってアイデアを出してきました。
(小澤様)
二人で話をする中で、よく体験型であるべきだねという話になりました。コト消費という言葉が一般的になってきたころで、やっぱり料理も記憶に残るものでなくてはならないと考えたわけです。
そこから「Cronyのオリジナリティーって何だろう?」と考え、私と春田が経験してきたことをお客様に体験してもらえる世界観をつくることが必要だねという方向に進みました。その世界観を、料理やサーヴィスを通して体験していただくことで、お客様にハッピーになってもらえるのではないかと考えたのです。
―春田シェフがお話された「お客様にどう愉しんでもらうのか?」という視点ともマッチしますね。
(小澤様)
遊び心溢れる料理があって、そこに生まれる会話やお客様の反応を、我々サーヴィスサイドが引き出していくことで、「Crony」ならではの愉しみ方を提供できているのではないでしょうか。
ただ、「やっぱり美味しくないと意味がない。そこは本当に大事だよね」ということはよく二人でも話しています。うちの「石のコロッケ」は、見た目のユニークさだけじゃなくて本当に美味しいと思いますよ。
「Crony」ならではの料理とマリアージュを愉しんで
―春田シェフが手掛ける美味しいお料理の数々と、小澤ソムリエが提案するワインのマリアージュも「Crony」ならではの魅力で、多くの美食家を魅了してきました。
(小澤様)
実は、ペアリングのワインを決める際、最初に料理を味見することってないんですよ。
―え、そうなんですか。
(小澤様)
最初は、コンセプトを共有するところからスタートします。それが、春田のどういう経験に基づくのかをヒアリングするんです。例えば、アルザスというキーワードが出てきたら、じゃワインも同じ地域に合わせていってはどうか?という具合に、周りから固めていくスタイルを取っています。
(春田様)
料理については、日々工夫を重ねて、美味しいものを提供していこうというフランス料理の精神がしっかり息づいていると思います。自分は日本人なので、素材の季節感については特にこだわっていますね。
デンマークやノルウェーでの経験があるためか「Crony」は北欧風といわれがちですが、自分でも正直なところ北欧風とは何かと問われると困ってしまいます。実際に現地で修業した経験として、例えば外国の素材を使わなかったり、料理の作り方・考え方として足し算というより引き算を重視する姿勢は日本料理に近しい部分があると感じています。
ワインについては、自分も試飲をしていて、お互い納得したうえでお客様に提供しています。結構率直な意見をぶつけ合うようにしていると思います。
(小澤様)
お客様の反応もしっかり確認して、日ごろからお互いコミュニケーションを取るようにしています。サーヴィスと料理人、視点・立場は異なりますから、時には喧嘩もします。けれども、お客様をハッピーにするというゴールに違いはありません。
「Crony」では、春田の料理に合わせてフランスのワインでペアリングを考えています。北欧風という印象が強いかもしれませんが、春田の料理の芯の部分にはやっぱりフランス料理があると思います。そういう意味でも、フランス料理のエスプリを感じられるサーヴィス、料理を体験していただけると思います。
(春田様)
お客様のために、昨日よりも、今日よりも美味しいものをつくっていくことが大切ですから、自分の技術を上げるためにも、ジャンルにとらわれず良いことはどんどん取り入れていきたいですね。立場や役割にかかわらず、コミュニケーションも密に取っていきたいと考えています。
チーム一丸となって美味しさとワクワクを提供し続ける
―お話を伺っていると、疑問や課題があれば躊躇なく、意見交換をしている印象を受けました。
(春田様)
自分たちの関係を守るために、お客様のハッピーがおろそかになってはいけないという意識を持っています。料理人もサーヴィスも、何でも話し合えるフラットな環境になっていると思います。
厨房内の話になるのですが、「Crony」には副料理長というポジションを置いていません。だから、自分を含めたスタッフ一人ひとりが、お互いに気が付いたことをすぐに相談して、実行しています。
(小澤様)
良いことはみんなでシェアする。スポーツのチームと近いかもしれません。お客様にハッピーになってもらうためにどうしたら良いのか、今後も「Crony」一丸となって追求していきたいと思います。
(春田様)
そうですね。経験が長いからこその発見はもちろんですが、経験が少ないゆえの気付きもあるのではないかと考えていますね。気軽に話して、良いアイデアはみんなでシェアするようにしています。
実際に料理のクオリティが上がったこともあります。営業時間中にデザートを担当しているスタッフが、この分量を変えるともっと美味しくなるのではないかと相談してくれて、理由も納得のいくものだったので、その日の営業後に試作品をつくったことがありました。
各パートのスタッフの仕事は、もう自分以上に実力を持っていると考えていますし、逆に勉強をさせてもらっていることも多いです。
―チームワークの良さは、本日の取材を通しても伝わってきました。「Crony」ならではの温かさや楽しさが、お客様を魅了する一部なのですね。最後に、5年目を迎えるにあたってのチャレンジや思いなどをお聞かせください。
(小澤様)
実は5年目を迎えるにあたって、「Crony」は移転を考えているんです。お店を始めた時と違い、自分たちも力を付けてきましたから、お店の設えやキッチン回り含めて、もっとワクワクしていただけて、お客様がハッピーになれるお店を作っていきたいと考えています。本当に愉しみにしていただきたいですね。
他にも、現時点ではお伝えできないニュースもあるので、ぜひ引き続き、「Crony」に注目していただければと思います。
プロフィール:
オーナーソムリエ:小澤 一貴氏(向かって左)
1974年、神奈川県生まれ。正統派フレンチの名店として知られる「アピシウス」にてメートルドテルとして活躍。その後、「フォーシーズンズホテル丸の内」のメインダイニングなどを経て、「KENZO ESTATE」に入社。輸入ワイン事業などに従事。2007年からは約9年間に渡って「カンテサンス」の支配人を務め、2016年、春田理宏氏共に「Crony」を立ち上げる。
オーナーシェフ:春田 理宏氏
1987年大分県生まれ。ホテルニューオータニ博多にてキャリアをスタート。20歳に渡仏しパリのミシュラン三つ星レストラン「Ledoyen」などで経験を積む。帰国後、「カンテサンス」を経て、デンマーク・コペンハーゲンの「Kadeau」やノルウェー・オスロの「Maaemo」の星付きレストランでも研鑽を積んだ後、白金台の人気店「Tirpse」のシェフに就任。2016年、小澤一貴氏と共に「Crony」を立ち上げ、オーナーシェフに。
【編集後記】
お二人の会話を聞いていると、強い信頼関係で結ばれていることを実感しました。対談後には、スタッフのみんなが集まって記念撮影を行ったのですが、フレンドリーな雰囲気が自然と漂って「これがCronyの魅力なんだ!」と感銘を受けました。今後のさらなる進化にも注目です。
※こちらの記事は2020年11月21日作成時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。