インタビュー|

「紀尾井町 福田家」インタビュー。北大路魯山人ゆかりの老舗料亭が築く、現代のおもてなし

千代田区紀尾井町にある、創業80周年の料亭「紀尾井町 福田家」。政財界や文化人御用達の老舗料亭として名を馳せ、北大路魯山人ゆかりの伝説を残す、日本を代表する名店の一つです。そのご主人である福田様、料理長の松下様に、由緒ある料亭の味と、エグゼクティブに愛されるおもてなしの秘訣についてインタビューさせていただきました。

数寄屋・書院造の一軒家にて、魯山人の名品と共に寛ぐ

―なかなかお伺いできない名店ですので、今日は沢山お話をお聞かせいただければと思います。まずは、お店のコンセプトについてお聞かせください。

(福田様)福田家の原点は、やはり北大路魯山人。開業からその教えを忠実に守っていることがコンセプトですね。
料理と器、共に季節感を大切にすること。温かいものは温かく、冷たいものは冷たくお出しする、といった日本料理の基本も徹底するよう心掛けてきました。

―北大路魯山人との縁が深いということですが、どのようにして知り合われたのですか?

(福田様)初代の女将(福田マチ)が、手紙をしたためたことがきっかけです。魯山人は書にもこだわりを持っていて、女将が手紙に記した字体が男勝りだったことで目に留まり、たいそう気に入ってくださったというエピソードがあります。
今から80年前の1939年に虎の門にて割烹旅館を創業して、魯山人が北鎌倉から上京する際の定宿として、福田家を使ってくださっていました。宿代替りとして、北鎌倉の工房で作った器を沢山いただき、今も2,000点ほど残っています。

―2016年から今の場所にて営業されていますが、こちらはもともと支店だったそうですね。

(福田様)もともとここには、1969年から「ふくでん」という支店がありました。空襲がきっかけで虎の門から紀尾井町に引っ越して以来、ずっと紀尾井町に居を構えています。以前は上智大学のすぐ隣で営業していましたが、3年前に今の場所に移ることとなりました。大きなお座敷需要が少なくなってきたのと、コンパクトな佇まいの方が、よりきめ細やかなサービスを実現できると考え、建物の耐震工事などを経て本店を移転しました。
お料理もより早く提供できますし、移転のメリットはとても大きいですね。

―戸建ての木造建築で、設えもとても立派ですね。

(福田様)新規でのこのような木造建築は、建築基準法により都内ではもう建てることはできません。
木造建築は管理が大変ですが、日本家屋元来の良さを伝えられるとも考えています。築80年の建物ですが、中身はほとんど何も変えていません。改装だけして冷暖房は新しいものを使っていますから、木造ならではの寛ぎを体感していただきたいですね。

極みの食材を生かす逸品に、凝縮された日本美を見る

―魯山人と関係が深い福田家にて、料理で気を付けていることをお聞かせください。

(料理長 松下様)福田家では、今も「素材を大切にする」という軸をぶれることなく貫いています。魯山人の本を読むと、料理の美味しさの8~9割が素材に掛かっていると書いてあります。現代においても、やはり素材が決め手ですね。
例えば、豊洲へ訪れるほか、産地直送の野菜を多く取り入れるようにしています。野菜は、生産者や収穫時期が特に見えにくいため、福田家では、いつ収穫され、誰が作ったのか分かるものを使うよう徹底しています。

―料理長は長野のご出身だそうですが、地元の食材も使われているのでしょうか?

(料理長 松下様)季節毎のおすすめとして使いますね。夏は、長野県産の鮎を使っています。友人が飲料用の冷たい井戸水で養殖をしていて、鮮度を保った状態で届けてもらうこともあり、お客様には、生きているものをプレゼンテーションしてから焼いています。
また長野県は陸に囲まれているのですが、地下で海とつながって海水の温泉が湧いている場所があり、その温泉を煮詰めて作った塩も使っています。
「鈴ヶ沢なす」、糠床の米糠、「鈴ヶ沢唐辛子」をはじめ、私の地元で賄えるものは、電話で「明日届けてほしい」と声をかけることもあります。

―味付けなどで気を付けていることはありますか?

(料理長 松下様)日本人は、食事で季節を感じられる方が多いですから、素材は常に季節のものを意識して使うようにしています。季節の旬の味を楽しんでいただきたいと考えていますから。

―魯山人ゆかりのお店ということで、器へのこだわりについてもお聞かせください。

(料理長 松下様)魯山人をはじめ、有名な作家さんの器を古くから数多く所有していますから、お料理に合わせてお出ししています。
また、魯山人の器に関しても、ご希望があれば1~2品をサービスで出すようにしています。特に会食ではないプライベートのご利用ですと、喜ばれる方が多い印象ですね。

―器についても、料理長がお出しするものを決めているのでしょうか。

(福田様)そうですね。福田家では、料理長をはじめ、職人の仕事を全面的に信頼しています。
試食時にお客様の視点で気づきがあれば、意見を伝えています。例えば、「外国人の目線でみると、この包み方は食べ難いのではないか」や、「会食では会話しながらお食事をするため、もう少し具材を小さくして一口でいただけるようにした方がよいのではないか」などといった提案ですね。
多くの方が、会議室ではできない大切なお話をするために、福田家を訪れていますから、「会話の邪魔にならない心遣い」は昔から大切にしています。

―その一言があるかないかで、料理の仕上がりもだいぶ違うように感じます。

(福田様)料理人の方は、美味しいものを出すという気持ちが強いですから。例えば、料理一品一品の美味しさだけでなく、コースを通して、重たいものと軽いもののバランスについて感じたことを述べるのも大切だと考えますね。

賓客をもてなす実績に培われた「極みのおもてなし」

―国内外の大切な会食・接待で使われる機会が多いと思いますが、料理をお出しする際に心掛けていることはありますか?

(料理長 松下様)会食ですと、車を呼ぶ時間も食事前に決められていることが多く、時間ごとに1台ずつやってきます。お車が迎えに来る時間に合わせて、接客係と相談しながら逆算してお料理をお出しするよう気を付けています。
また、当店では接待利用が多いので、一口目に食べたときに美味しいと印象が残るように、しっかりとした味付けを心掛けています。
修業時代、お椀を例にとると、一口飲んだときに淡いと感じていただき、飲み終わるころにちょうど良い味付けをするよう習いました。しかしそれでは長い間会話をする宴席には向かないと考え、独自に工夫を施しました。
プライベート利用のお客様には、ご要望も伺いつつ、ゆったりとお出しすることが多いですね。例えば、お連れ様とお話しされるようでしたら、サービススタッフとも相談し、提供する間隔を調整するよう心掛けています。

―他にも、VIPの方が使いやすいよう工夫していることはありますか?

(福田様)サービスの内容を、その時代ごとのニーズに合うよう常に変化させていることでしょうか。ビジネス会食であれば、空気を読んで、会食ニーズに合ったサービスを徹底しています。人払いが必要なお座敷もあれば、宴会のように賑やかなお座敷もありますから。
美味しいものを提供するのであれば、割烹料理店の方が出来たてをそのまま出せますので、料亭ならではの部屋や調度品を含めた空間や、きめ細かなサービスなど異なる付加価値を提供しなければなりません。
当店福田家を選ばれるお客様の視点にたてば、我々が提供するべきサービスは自ずと明らかになってきます。魯山人のよく使う言葉に「当意即妙」がありますが、お座敷は“生き物”ですから。

(料理長 松下様)時には、お客様の勤め先を考慮することも。競合する取引先の方や関係のある会社の方が他の個室を利用されている場合には、お手洗いやお帰りの際、お客様同士が鉢合わせしないよう特に気を付ける、といった細かい配慮はみな心掛けていますね。

―予約時に、お客様からこういったことを伝えていただけると、当日スムーズに対応できるといった事柄はありますか?

(福田様)お客様からお電話をいただいた際、会食の目的について細かい部分まで伺い、オーダーメイドの会食が実現できるよう工夫しています。
予約時に、お祝いの席だとおっしゃっていただければ、おめでたい席に相応しい掛け軸や器を当日にご用意することができます。

―現在、料亭文化を発展させるために行っていることはありますか?

(料理長 松下様)料亭文化の理解と体験を広げる一環として、小学生向けの「体験教室」を毎年夏休みに行っています。また、11月には、京都産のジャパニーズクラフトジン(季の美)を使ったイベントを福田家で行う予定です。
所有する魯山人の器を全部使った食事会も、年4回開催しています。器の美しさを愛でる感覚は日本人にこそ理解できるものですから、好きな方には特に喜ばれていますね。常連の方を中心にダイレクトメールでお知らせしていて、好評をいただいております。

(福田様)少し前、上場企業の若い役員方々の会食会の際、「初めての経験でどう振舞えばよいのか分からない」という声を多く聞きました。当店は敷居が高いと思われがちですので、まずは知っていただくことが肝心ですね。そのため、このような会を積極的に開催したり、インタビューやテレビの取材も、積極的にお受けしたりするようにしています。
一方で、料亭のように日本文化を大切にした場所での、フォーマルな会食を行う機会自体はなくならないとも考えています。ですから、もっと広く知ってほしいという想いが強いですね。そのためのPR活動を、今後も続けていきたいと思います。

編集後記
「料理の美味不味は、十中八、九まで材料の質の選択にあり」という魯山人の言葉を忠実に守るお姿に、大事な人をお連れしたいと思える安心感が芽生えました。
「紀尾井町 福田家」で大切にしていることは、建物の美、空間の調和、居心地の良さ、そして料理の美味しさとタイミング。質の高さを維持され続けることが、数多の上質を知る客人を魅了する秘訣なのかもしれません。

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「紀尾井町 福田家」の個室を取材。伝統と格式を備えた、日本を代表する高級料亭

懐石・会席料理

紀尾井町 福田家

東京メトロ各線 赤坂見附駅 D出口 徒歩3分

20,000円〜

アクセス
住所 東京都千代田区紀尾井町1-13

Airi Ishikawa

一休コンシェルジュ メディア事業部長。インタビューを中心に、地産地消や、生産者に近い距離で食材と向き合う極みのシェフがいる店をご紹介します。最近器にはまり中。
【MY CHOICE】
・最近行ったお店:東麻布 天本 / 御成門はる /COTEAU.
・好きなお店:ベージュ・アラン・デュカス / 福しま / サンフォコン
・自分の会食で使うなら:ひのきざか(寿司)
・得意ジャンル:フレンチ / バー
・好きな食材: からすみ / シャンパン(RM)

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