マグロ仲卸「やま幸」と言えば、国内の鮨や和食の名店がマグロを仕入れることで食通の間でも有名!日本一のマグロ仲卸業者と評される「やま幸」ブランドのマグロを食べたいと思う人も多いことでしょう。今回、2023年3月3日に「一休.comレストラン」主催【「鮨 竜介」で「やま幸」のマグロの部位を食べ比べ】というイベントを記念し、「やま幸」社長の山口幸隆氏に、日本が誇るマグロの魅力について語っていただきました。
築地マグロ仲卸人として築かれた、マグロの目利きの仕事について
―もともと仲卸をされていたお父様と一緒に「やま幸」を始められたそうですが、マグロに魅せられたきっかけについて教えてください。
子供の頃から父の背中を見ていて、仕事に対する熱意や素晴らしさを感じていたのか、自分もいつか仲卸になりたいと思っていました。大学生の頃に「前にいた会社を続けるか、もし手伝ってくれるなら独立するか考えている」と父から電話がありました。それで一緒にやろうと。
自分の父親もカリスマ的なマグロ屋でしたが、独立した頃に扱っていたのは冷凍のマグロが8割、日本の生のマグロが2割程度の売上比率。自分は日本のマグロってかっこいいから、もっとやりたいなと思っていました。当時の日本の高級と言われるマグロは一部の老舗仲卸のみが取り扱っていて、閉鎖的な世界でしたが、父親に「どうしても日本のマグロがやりたい」と直談判したんです。
―日本の生マグロをやりたいと思った理由は?
冷凍マグロが市場に揚げられる量が減ってきて面白みがなくなってきたという理由と、自分が好きだと思うマグロが美味しいと評価されていなかったということが嫌だったんです。
色が変わらないきれいなマグロが良いマグロ、高いマグロとされていたので、食べ物だから本当に美味しいものを提供したいと。立ち上げたばかりの頃はなかなか付き合いをしてくれるお店もなくて、あまり売れませんでしたが、損をしてもとことん買って、必死で営業していました。ある時、銀座の鮨の名店(「銀座久兵衛」さん)との出会いがあって、取引させていただくようになりました。
日本のマグロは季節によって獲れる場所が異なり、その季節ならではの味が楽しめるのが魅力です。食べている餌も違うから、北と西で味が全然違う。
自分が好きなのは3月頃、春先の佐渡の定置網で獲れるマグロですね。形が大きくなく、きめ細かいキリっとしたマグロで、扱いが難しい。
ある時、定置網で獲れたマグロを卸した店から夜電話があり、呼び出されました。慌てて駆け付けたら、マグロの色が真っ黒だったんですね。その場で「食ってみろ」と言われて、食べたらものすごく美味しかったんです。そんなこともあって、見た目が良いマグロより、本当に美味しいマグロを届けたいと思うようになりました。
―今は取引先が1,000を超える仲卸として有名ですが、苦労されていた頃もあったんですね。
バブル時代の鮨屋のスタイルは、つまみとお酒で楽しんでから、握りを数貫食べて、残りは土産で持ち帰るというのが一般的でしたから、シャリが固くならないように甘めのシャリを使っていました。味のないマグロで握ってもあまりバランスが変にならなかった。今人気の鮨屋のスタイルとは全く違います。
形が変わってきたのは「すきやばし次郎」さんのような、酢と塩で強いシャリを作るお店が出てきてから。シャリにこだわるほど、冷凍マグロでは合わない、美味しいマグロでないとバランスが取れなくなってきたんです。うちは生のマグロの中でも味の強いマグロを扱っていたので、10軒、20軒と取引先が増えていって。そこからのオファーの数はものすごかったですね。この10年位で一気に取引先が増えました。最初は時代と逆行したことをしていましたが、諦めずにやってきたことで少しずつ時代に合ってきたのかなと思います。
握りで楽しむマグロの美味しさとは
―「やま幸」さんのお仕事を先ほど拝見しましたが、次から次へとマグロが入ってきて驚きました!一日どれ位の量を仕入れて捌いているんですか?
普段は朝の3時頃から、昼の13~14時頃までずっとマグロを切り続けています。大体2トンから、多い時は3トン位。競りの時に良し悪しを判断しても、やはり実際に切ってみて中身を判断するんです。切った時に初めて分かるので、どんなに高く買っても状態が悪ければ安く卸してしまうし、自分が見て自分が満足する魚かどうか1本1本見て、鮨屋さんや和食屋さんに合う魚を選んでいます。
―取引先に卸すマグロを、実際にお店に食べに行かれているそうですね。
鮨屋の大将からは「食べに来て感想を教えてほしい」と頼まれて、中には毎月予約を入れられてしまうお店もありますね。1年で300日位は鮨屋でマグロを食べています。他の握りを食べず、マグロだけずっと食べ続ける日もあります。
美味しくない時は、はっきり指摘しますね。修業時代からの握りと比べて、独立して研究を重ね、グンと美味しくなったお店も沢山あります。シャリのチェックをしてほしいと持ってくる子もいますよ。
うちは有名店でも若い子でもやる気のある子、妥協しない子なら分け隔てなく取引しています。日本で食べるお鮨の美味しさを伝えてほしいと思うので。今は海外でも日本のマグロを買い付けていますが、コロナ禍で海外のお客様も「やっぱり日本の鮨は美味しいな」と、再認識したと思うんです。これを守っていくことが大事なことで、それを受け継ぐ若い子にもバトンを渡して、守ってほしいと思うからです。最近は若手の独立が多いですが、やる気のある子を育てたいと思っているので、彼らの予算にあったものを渡し、育てていくようにしています。
―シャリでも合わせるマグロが変わるというお話を伺いましたが、マグロの握りを食べる時に味が変わるものなんですね。
美味しいマグロの握りはシャリが決め手。時代の流れもありますが、少し前までは甘めの赤酢が主流で、赤いシャリが流行った時代がありました。前から自分は「赤酢は抜いていくよ」と言ってましたが、やはり今はまた酢と塩の「強めのシャリ」が増えてきました。
うちが若いうちから可愛がっている鮨屋はどんどんマグロ好きになっていくので、握りでもマグロが沢山出てくるお店が増えています。
―2023年3月3日のイベントで「鮨 竜介」山根竜介大将に握っていただきますが、 山根竜介大将 のマグロの握りの特徴をお聞かせいただけますか?
型があまり大きくなくて、きめの細かい柔らかいマグロを使っています。彼の握りはキリっとしたシャリなので、その上にのっけてもキリっとしたもの、咀嚼をした時に交わるような。
元々彼のことは、銀座の「銀座 鮨一」さんにいた頃から知っていました。僕がやっているレストラン「尾崎幸隆」に合流した時、作ったシャリを食べたときに「こういうことなんだな」と言って納得しているようでした。彼のマグロは当時から比べると真逆のマグロを使っているんじゃないですかね。実際これは正しいと思いますよ。
―ちょうどその頃のマグロはどのあたりで獲れるものが多いのでしょうか。
春先は先ほども言った通り、扱いが難しいマグロになってきます。
3月は八丈島と三宅島の間のあたりにある北黒瀬でマグロが獲れるんですが、そこのマグロが獲れたら脂ののった春らしいマグロになる。日本海側で獲る定置網の小さいマグロは、ほぼ独占で買っているのですが、2月末位で終わりなので、それが獲れたらお出しするかと思います。
今回は食べ比べということなので、腹身の蛇腹のところと背の天身・赤身と背のわかれ身、はがしなど「一本のマグロでこんなに味が違うのか」というところを、食べ比べで感じてもらいたいですね。牛もそうですが、部位によって味わいが違うのと一緒で、マグロも部位によって全く違うので、そんな味の違いを楽しんでもらいたいです。
日本の食文化を継承するために
―仲卸業と、近年の新たな取り組みである飲食事業をされていく中で、これからしてみたい挑戦についてお聞かせください。
2023年11月に「森ビル」さんと協業で「麻布台ヒルズ」の地下1階に、巨大な魚屋をオープンする予定です。日本人の食が欧米化して魚の味が分からない子が増えていく中で、日本の食文化を継承していきたい。そのためには、これまで行ってきた若手の職人を育てることだけでなく、本物の魚を届けることを一般家庭にも届けたい、と思っています。もともと60歳で現役を引退して食育をやりたいと思っていて、コロナ禍もあって引退は難しくなりましたが、最後の仕事として食育に力を入れていきたいですね。
BtoCのお店は自分たちの立ち入る領域ではないと思っていましたが、魚屋さんが潰れ、本来の魚の美味しさに触れられる機会が減っているので、美味しい天然の魚が手に入るお店をやろうと。築地でも5年前から場外で魚屋を開けていて、一般の人が美味しい魚を買えるように天然の魚を取り扱うようにしました。
また、個人店の洋食屋がどんどん無くなっているのですが、実は自分は洋食も好きなんです。日本の洋食はナポリタンやオムライスなど、独自に発展した食文化で、ある意味和食と言えると思います。その文化をなくしてほしくないから、若い子を育ててほしいと「旬香亭」の古賀達彦さんとも話しています。
飲食業界ももっと盛り上げていきたいと思いますし、挑戦してみたいです。
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山口 幸隆氏 プロフィール
1963年生まれ
マグロの仲買人であった父親に呼ばれ
1982年「やま幸」の立ち上げに参加
マグロを食べ続けて40年
やっとマグロの味が 分かるようになりました
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【編集後記】
国内屈指の人気鮨店や日本料理店から絶大な信頼が寄せられている「やま幸」のマグロ。今回の取材で、豊洲市場の場内にてマグロを全て切って状態を確かめ、どの部位をどの店に渡すか瞬時に判断される山口氏に、身震いするほど感動してしまいました。美味しいマグロを追い求めてきたプロの姿は、それだけで一つの物語のように美しく、かっこいいと感じました。
豊洲市場のマグロ・鮮魚の仲卸|やま幸グループ
https://yamayuki.co.jp/
※こちらの記事は2024年11月29日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。