大手町「Plaiga TOKYO」池田翔太氏に聞く、日本の食材が織り成す“四季を旅するフレンチ”の魅力とは

皇居・和田倉濠を望む「Plaiga TOKYO (プレーガ トウキョウ)」は、日本の四季を感じられる料理が魅力のフレンチレストラン。今回は、本場フランスを始め、国内の人気店でも研鑽を積んだシェフ・池田翔太氏にインタビュー。2022年8月に新シェフとして就任した池田氏に、これまでの道のりや「Plaiga TOKYO」の世界観について語っていただきました。

両親に料理を振る舞ったことがきっかけとなり、料理の道へ

-まずは、料理人を目指されたきっかけをお聞かせください。

両親が共働きだったので、小学生の頃から料理をする機会が多かったんです。僕自身が作った料理を両親に食べてもらって、美味しいと言ってもらえたときの喜びが「料理っていいな」と思うようになったきっかけだと思います。その後高校卒業のタイミングで「手に職をつけられる仕事に就いてほしい」という両親の思いや、もともと魅力を感じていたこともあり、料理の道に進もうと決めました。

本場フランスでの修業時代や「Plaiga TOKYO」シェフ就任までの道のり

-日本の店舗を経て、本場フランスの星付きレストランでも修業をされたと拝見いたしました。当時を振り返って、印象的だったエピソードはありますか?

20歳で専門学校を卒業した後、25歳までは福岡にいて、千葉、軽井沢、箱根、静岡など様々な場所で働いて東京に出てきました。フランス料理をやっていくなら、やはり本場に行ったほうが自分にとってプラスになると思ったので、ゆくゆくはフランスへ行こうと考えていて。資金を貯めながら経験を積んで、29歳のときにワーキングホリデーでフランスへ渡りました。

フランスでは、ワイナリーや畑を見てみたかったので、まずはブルゴーニュのボーヌにある、「ベルナール・ロワゾ―」の系列店「ロワゾー・デ・ヴィーニュ」で働いた後、ソーリューにある本店を経て、パリの「レストラン キガワ」へ行きました。

日本の飲食業界って、労働時間が長いとかマイナスなイメージを持たれやすいと思うんですが、僕がフランスに行って最初に感じたのは料理人の地位の高さでした。休みもきちんと取りますし、給料もしっかり貰えます。一人の料理人として影響力があるといいますか、日本と全く違うなと。食材についても、野菜や魚などが日本のものとフランスのものでは味わいが全く違うことにも驚きでしたね。

-フランスへ渡ってから、大変だったことや苦労されたことはありますか?

やはり言葉の壁を感じることは多かったです。もちろん、日本で勉強してからフランスへ行きましたが、現地で耳にする巻き舌の発音って、本や教材に書かれているようなカタカナで表記することが難しいんです。そういった部分は、慣れるまでとても苦労しましたね。

ただ、周りの人たちにはすごく恵まれていたので毎日楽しかったですし、心が折れそうになったことはなかったです。フランスにいたのは1年でしたが、ゆとりのある日々を過ごせていたと思います。

-帰国後も人気店で活躍し、2019年には「RED U-35」で「BRONZE EGG」を受賞されていますが「Plaiga TOKYO」のシェフに就任するまでは、どのような経緯だったのでしょうか?

帰国後は、外苑前の「Ysm(イズム)」にスーシェフとして入社しました。現在はコロナの影響から閉店してしまったのですが、小規模の生産者さんに寄り添って料理を作り、お客様に提供するという、お店のコンセプトに惹かれたのが入社のきっかけです。

大変なこともありましたが、働いている間には「RED U-35」での表彰という機会にも恵まれました。フランスから帰国して「これから自分をどんどん発信していきたい」という気持ちもあったため、挑戦してみることに。実はそれまでSNSなどにほとんど関わりがなかったので、情報発信の大切さを学ぶことができたと思います。

「Ysm」が閉店となるタイミングで、荻窪の「Valinor(ヴァリノール)」にお声掛けいただきました。そこで働いて1年と少し経った頃のある日、急に「Plaiga TOKYO」の支配人とソムリエが食事をしに来たんです。もちろん何も聞いていなかったので「男性2名だから同じ業界の方だろうな」と思いながら料理を作って。結局、最後にお名刺を交換することになり、後日正式にお声掛けいただきました。

荻窪らしさのある「Valinor」も良いお店だと思っていましたが、雰囲気の異なる別のエリアで働いてみたい気持ちがあったのと、価格帯やお店のコンセプトなどもすごく自分にマッチしていると感じたので、思い切って「Plaiga TOKYO」へ移ることに決めました。

日本の四季を彩る素材とシェフの哲学が織りなす「Plaiga TOKYO」の世界観とは

-「Plaiga TOKYO」のコンセプトについてお聞かせください。

「Plaiga TOKYO」のコンセプトは“日本の四季を旅するフレンチ”。例えば、同じ4月でも北海道と沖縄では気温が全く違いますから、場所によって旬を迎える食材も異なります。地域ごとの旬の食材をコースに盛り込むことで、お客様にその時期、その季節の日本を旅しているような気持ちになっていただきたいなと。皆さん、コロナ禍で旅行に行けなかったと思うので、季節の香りや情景を楽しんでもらいたいです。

-お店のコンセプトに加えて、池田シェフならではの世界観を表現するために「古典・調和・独創・感性」という4つのポイントを意識されているそうですね。

もともと修業していたフランス料理店が、どちらかというとクラシックで。フレンチの古典って基礎中の基礎というか、すごく大事なものが詰まっているので、とても重要です。例えば、コンソメを取ってコンソメスープとしてお出ししても、あまり面白くない。そこに僕なりの表現を加えるのですが、ベースとしてあるのはあくまでも古典のフランス料理という感じです。

あとは、フランス料理って素材と素材の足し算で成り立っていくので、調和も大事にしています。僕の料理を見ていただくとわかるのですが、結構複雑にものを重ねるため、全体のバランスを見ながら作っているんです。

独創性や感性については、僕自身が本に載っているとおりの料理を作るのが嫌で。何か料理を作ったときに“僕が作りましたよ”という独自性が欲しいんです。様々な素材を加えたり造形を変えてみたりして、驚きを加えてからお客様にお出ししたい。もちろん、食べて美味しいのは大前提にありますが、唯一無二のような料理を常に意識しています。それが、僕がシェフを務める「Plaiga TOKYO」で食べる意味のある料理ではないかと思いますね。

-料理には、日本各地の厳選素材を多く使用されていますね。“日本の四季を旅するフレンチ”というコンセプトを掲げていらっしゃるなかで、食材の産地や仕入れについてこだわっていることはありますか?

例えば、今は全国各地の生産者の方から様々な食材を仕入れていますが、生産者さんの考えと僕の考えがマッチしたうえで取引をしたいんです。野菜を作る農家さんにしても、なぜその野菜を作り始めたのかなど、様々な思いが必ずあります。その思いがすごく大事だと考えているので、取引をする前に一度きちんと足を運んでお話を伺っています。

魚に関しても同じです。ものにもよりますが、魚って釣り上げられてからも生きているので、その後の神経締めや血抜きといった処理がすごく大事なんです。ですから、そういう処理をきちんとしてくれる方の魚を使っています。一度現地に行って、市場の状況や処理の仕方を確かめたうえでお願いしていますね。

-食材については「走り」「盛り」「名残」という3つの旬があるそうですが、それぞれどのような点を意識して料理に落とし込んでいるのでしょうか?

まず走りに関しては、すごく季節感が出しやすいです。走りのサンマであれば、料理に使うだけで秋を感じてもらえます。ただ、盛りのサンマに比べるとどうしても脂のノリが薄いので、そこをカバーするように違う素材のエッセンスを入れていきます。

名残に関しては、例えば夏と秋の中間の季節感を出すために、夏の名残と秋の走りを組み合わせたりします。僕はこういった違いもフランス料理の醍醐味だと感じていて、素材の良いところを活かしつつ、違うものを重ねていくようなお皿を作っています。

-コースについて、食材との旅をテーマにしているところが興味深いです。全体のバランスやストーリー性を意識しているそうですが、どのようにして流れや緩急を付けていらっしゃるのでしょうか?

まずは、季節を感じていただける料理ですね。今の時期は“秋の香り”を表現していますが、僕の考える秋の香りって落ち葉が焼けたときのようなイメージがあるんです。特にアミューズは季節感を意識してお出しするので、サツマイモや焼きナスの香りで秋を表現しています。夏には鮎を使っていましたが、料理が出てきたときにイメージしやすいよう、鮎が泳いでいるような形に仕立てることが多かったです。

コースには流れがあるので、メインに近づくにつれてしっかりとした味付けになるように構成しますが、中間にはハーブなどで食欲が湧くような香りを入れたりすることもありますね。

-色鮮やかな料理が印象的ですが、新メニューを考える際などのインスピレーションの源として、どんなものが根底にあるのでしょうか?

「こういう料理が作りたい」とか、形から入ることが多いかもしれません。春であれば「桜がきれいだから桜っぽいものを作りたいな、じゃあピンク色は何で作ろうかな」とか。まずは主の食材を決めて、美味しくなる要素を含めながら枝を作れないかなと考えたりします。
これからの時期は冬のメニューになりますが、まずは冬とか雪を連想してもらえるものを考えます。雪のパウダーみたいなものを、冬が旬のカリフラワーと牛乳で作ってみよう、という感じです。

あとは料理に使うお皿の色や形、質感も考えますね。前のお店にいたときから使っているものや「こういう色が欲しい」と提案して、新たに購入したものもあります。季節ごとの色ってあると思うので、そういったところもお皿に反映したいです。

-料理だけでなくワインも評判の「Plaiga TOKYO」ですが、池田シェフご自身もソムリエの資格を取得されているそうですね。どのようなきっかけでワインに興味を持たれたのでしょうか?

今の自分にすごく大きな影響を与えてくれたのが、最初に働いたお店のオーナーシェフとソムリエのマダムです。二人ともとても良い方で「料理だけ作れる料理人じゃダメ。フランス料理とワインのマリアージュは、この先シェフを続けるうえで必要になるから」と教えてくれました。

ワインを売る人は料理のこともわかっていないとダメなように、料理人もワインのことをわかっていなければならない。すごく納得できたので、24歳のときにソムリエの資格を取得しました。

料理を作るうえで「こういうニュアンスのワインを持ってきたら面白いな」と思うこともありますが、メインの仕入れなどについては現役のソムリエにおまかせしています。料理とワインについての打ち合わせなどは、今でも行なっていますよ。

「Plaiga TOKYO」のシェフとしての展望と食の未来を見据えた取り組み

-8月に就任されて数か月経ちましたが、ゲストからの反響はいかがですか?

僕がお客様のテーブルへご挨拶に行くときは、良い印象を受けることが多いです。あとは、毎月リピートしてくださるお客様がいたり、前のお店にいるときから来ていただいているお客様もいらっしゃったりするので、とてもありがたいですね。

-今後、何か挑戦していきたいことはありますか?

「Plaiga TOKYO」のシェフとしてやりたいことと言えば、就任の際にミシュランの星を狙っていくことを前提でお話をいただいたので、そこは目指していきたいです。

個人的にやりたいことは、今2歳の娘がいるので、小さな子たちの食育についても取り組んでいきたいです。結構何でもやりたいのですが、結局は自然環境のことに繋がっていくのかなと思います。フランス料理って、実は捨てるものがほとんど出ないんですよ。骨で出汁をとって、使い終わった骨は堆肥にすることもできます。ジビエもそうですよね。作物を荒らす野生動物は撃たれて捨てられてしまいますが、料理に使うことでより良いサイクルが生まれてきます。

自給自足というと大げさかもしれませんが、僕もゆくゆくは「自分で野菜を育てて、採れた食材を使ってお店を出したい」という気持ちがあるんです。都内ではちょっと厳しいかもしれませんが、出身が九州の福岡なので、東京以外も視野に入れていきたいですね。

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池田翔太氏 プロフィール

1988年 福岡県生まれ
2008年 福岡、東京のレストランで修行。フランス料理を学ぶ中でワインにも魅了され、ソムリエ資格を取得
2017年 渡仏
ブルゴーニュ・ボーヌのミシュラン1つ星レストラン「ロワゾー デ ヴィーニュ(Loiseau des Vignes)」、
ソリュの2つ星レストラン「ベルナール ロワゾー(Bernard Loiseau)」にて経験を重ねる。
その後パリへ移り、 「Restaurant kigawa」にて修行を積み、2019年帰国。
帰国後、「Ysm」、「Restaurant Valinor」にてシェフを務め、
2022年8月「Plaiga TOKYO」のシェフに就任。

フランス料理

Plaiga TOKYO(プレーガ トウキョウ)

東京メトロ・都営地下鉄線 大手町駅 「D6」出口直結 1分

20,000円〜29,999円

【編集後記】
本場フランスなど数々の店で研鑽を積み、2022年8月に「Plaiga TOKYO」の新シェフとして就任した池田氏。インタビュー中には「ぜひ一度食べに来てください!」と話してくださいました。まるで芸術作品のように色鮮やかな料理の数々は、実際に見て、食べてみることで深い魅力を余すことなく感じられるのでしょう。根強いファンも多いシェフ渾身の一皿を味わいに、ぜひ一度足を運んでみては。

Yuri

校正の仕事に興味を持ち、スクールを経て一休コンシェルジュ編集部へ。好き嫌いはほぼなし。食べることが大好きで、どんなものでも美味しく・楽しくいただきます。編集部メンバーとのお店巡りが最近のマイブーム。もう少しお酒が強くなりたいと思う今日この頃です。

【MY CHOICE】
・最近行ったお店:さ行/デンクシフロリ/BLESS/レストラン プルニエ/ラフィナージュ

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