インタビュー|

京都「東山 吉寿」鈴木吉寿に聞く、楽しい時を共有するエンターテイメントのような割烹料理

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名店がひしめき合う京都。東山の目抜き通りから離れた路地裏に佇む「東山 吉寿」は、一風変わった割烹料理が楽しめる名店として、毎月訪れる人が後を絶ちません。
今回は、他店と一線を画す世界観を作り出してきた店主・鈴木吉寿氏にインタビュー。
旅館から割烹料理へ転身した経歴や、毎月変わるテーマの誕生秘話など、多岐にわたり語っていただきました。

コンプレックスを撥ね退け、割烹料理の世界へ

-幼少期の頃から料理人になると決めていたそうですが、きっかけは?

「これ」という転機はないのですが、今思い返してみると、子供の頃、外食に頻繁に行ったことがなくて。知らない世界への憧れが強かったんだと思います。
定時制の学校に通いながら飲食の世界に入り、京都や滋賀のお店を中心に約20年間働きました。

-その後、京都・亀岡にある旅館「京 YUNOHANA RESORT 翠泉」にて、料理長を務められたそうですね。どのような経緯で入られたのですか。

以前は滋賀の雄琴温泉にあるお店で副料理長として働いていたのですが、今後どうしようと考えていました。
そんなタイミングで「京都に新しい旅館ができる」というお話をいただいたんです。何人かにアプローチをしたそうなのですが、全部だめで。僕で良ければ、という流れで立ち上げから入りました。

-旅館と割烹のお店では、お料理の位置づけや勝手が違うかと思います。

旅館で働くのは、最初から5年間と決めていました。その間、絶対にトップクラスの旅館にしたいと思っていて、一休.comをはじめとする予約サイトは全てトップになろうと決めていました。
大体の旅館は朝食の口コミが肝で、夕食に比べると評価が落ちるんです。そのため当時は朝食に力を入れていましたね。
もちろん夕食にも力を入れていて、全て一品ずつお出しして、自分も調理に入りながら全てのお客様に挨拶へ伺ってお顔を拝見するなど、割烹スタイルを丸ごと旅館へ取り込みました。
その結果、お食事で高評価をいただけ、予約サイトに頼らなくてもリピーターのお客様で埋まる仕組みを確立しました。

-入社前から独立することは決めていたのですか?

決めていました。だけど旅館の料理長から割烹料理へ転身する人って少ないですよね。これが自分の中ではコンプレックスでした。
料理の世界では「旅館の人間は割烹の世界に行けない」というジンクスがあるんです。なぜかというと、旅館で働く料理人はお客様と顔を合わせないので喋れない。旅館の調理場は閉鎖された空間なので、怠けようと思えば怠けられる環境です。
20年くらい前まで、旅館の調理長はよくクローズアップされていましたが、今は割烹料理人がクローズアップされる時代になってきました。だから自分はそのジンクスを変えたかったというのもあります。
若い子らは、初めに入った場所が旅館であればずっと旅館で働く。最初で自分の人生が決まるのではなく、自分でいくらでも変えられるというのを示したいと思いました。

-確かに旅館で働かれていて、割烹料理のお店で独立された方は少ないですよね。

正直、周りからも「絶対無理や」と言われました。「喋れへんやん」「顔を売ってないし、名刺持ってないやん」って。
例えば京都の有名な料亭で働いた後に独立した人達は、独立する前にすでに顔が売れているので、自分のお店を開業した瞬間に満席になるんです。
なので「今までカウンターに立ってなかった人が独立なんて無理や」と言われ続けていました。実際開業した当初は、お客様0人の日が続きました。
暖簾を掲げて電気をつけるけど、ずっとカウンターに座って……それを4ヶ月くらい続けていましたね。
このままでは無理かもしれない、このまま潰れてしまうかもしれないと思って。
何か打開しなくてはと毎月変わるコンセプトを作って、全席一斉スタートのスタイルに変えたんです。

「東山 吉寿」ならではの料理とパフォーマンスで、毎月行きたいと思わせる

-「東山 吉寿」の特徴の一つでもある毎月変わるテーマはそのような流れで確率されたのですね。

やはり奇をてらった出し方なので、これも周りからは色々言われましたよ。「お椀です」「お造りです」と普通の料理を出していたらそんなことを言われることもないでしょうけど、それだと普通のお店にしかなれないんですよね。
なぜなら京都には名店と言われるお店がたくさんあるから。毎月行きたいと思われないことが目に見えていました。

-毎月面白いテーマが設定されていますが、決める際のインスピレーションはどこから来ているのですか?

例えば夏に冬の食材でもあるカニが来ることは100%ないように、季節ごとに料理や食材が大幅に変わることはありません。
1月のテーマは「冬の王様」なのですが、旬の食材に当て込んでいるのが半分。もう半分は遊び心ですね。
手の内を全て見せてしまうと面白くない。6月のテーマは「ジューンブライド」で、テーマだけ見るとお客様は「何かな?」となりますが、要するに「結婚=結び付き」です。
なので、この食材とこの食材を組み合わせてみるとか、例えば鮑は雄と雌がいるので一緒に盛り付けてみようとか、そういった感じでテーマと繋げていきます。

-会話の糸口にもなりそうですね。

料理は一斉スタートで、お食事が始まる前に全員で挨拶をするのですが、そこでぐっと引き込む糸口にもなりますし、お客様と個人的なお話をすることは少ないです。
だからなのか、お一人でいらっしゃるお客様も多いです。
うちはお一人様のお客様を真ん中の席にご案内するようにしています。そのため一番僕の手元を見ることができる。お一人のお客様はやはり動画や写真をSNSにアップする事を楽しみにしてらっしゃる方も多いじゃないですか。
そういった方はそういった楽しみをしていただければいいし、会話が楽しみな方は会話を楽しんでくださればいいですし……全てのお客様に全力で楽しんでいただきたいと思っています。

-毎月変わるお料理の中でもスペシャリテ「チーズの燻製」は唯一変わらない一皿とのことです。こちらの位置づけは?

旅館の夕食には必ず献立表があります。洋食もあるけど割烹料理はメニューを置いてないことがほとんどです。
うちの「チーズの燻製」は、フレンチで言うとシャーベットのような位置づけ。ちょうど半分ですよ、という箸休めにお出ししています。
これが登場したら、後半のお酒をどうするのか決めていただく合図のようなものです。
今は「チーズの燻製」をサービスのハイボールと共に提供しています。

-オールドバカラで提供されていて、とても素敵ですよね。

うちのハイボールは「東山 吉寿」でしか飲めないものなんですよ。
京都にある「K36 The Bar & Rooftop」にいらっしゃる西田稔さんという伝説のバーテンダーと言われる方に作っていただいたもので、うちのオリジナルです。それ以外にもオリジナルの日本酒が2種類あります。

-お酒好きは必見ですね。鈴木様は利き酒師の資格も持たれているそうですが、お料理との組み合わせは全てご自身が決められているのですか。

そうです。ペアリングで提供しているのですが、料理屋さんで一杯を頼むと量が多いじゃないですか。一杯で2、3品進んでしまうので、どの料理に合わせたのか分からなくなりますよね。なのでうちでは、1杯40㏄くらいの少量で提供しています。
後は、毎月来てくださるお客様が多いので「今月は白ワイン」「今月は紹興酒」という風に何のお酒を組み合わせるかを月毎に決めています。
「とりあえずビール」と、毎回一緒になってしまうのを避けるためです。

-お料理だけでなく、お酒も委ねて楽しめますね。

お酒自体が飲めない方は別ですが「紹興酒を飲んだことがない」という方には「一度チャレンジしてみましょう」という感じで勧めています。
料理屋さんって、グラスワインや日本酒1合だけ頼むと、いつ開けたのか分からないお酒が出てくることがあるじゃないですか。
うちでは目の前でお酒を開けて、皆で飲みましょうという提案をしています。
高いお酒を開けることもあるんですが「なかなか飲めないお酒なので」という風に注ぎます。
「そんな高いお酒はいらん」と言われることもありますが、そういった方には「注いでおくので、口付けてみてくださいね」といった具合でお渡しして、場合によってはお代もいただきません。

-同じお酒を同じ空間にいる方といただくことで、より一体感が生まれそうです。

全員で同じお食事と同じお酒を飲んで、皆で「楽しい」を共有できたらいいなと思っています。
僕は、京都の有名な料亭で修業をしてきたわけではないので、料理がすごく旨いかと言われたらそこまでではないと思っていて。
もちろん料理も頑張っていますが、それ以外にパフォーマンスや、どれだけ楽しい時間を過ごすことができるかを心掛けています。

-お客様がひとときを共有できる空間造りに関して、こだわりはありますか?

僕はホテルも好きなんですけど「ザ・リッツ・カールトン京都」のバーを参考にしました。
また、和食だけでいこうという観点がなかったので、見開きのカウンターにしなかったのも一つです。

個室は靴を脱いで上がれるようにしていて、そこはお子様連れのお客様のみ受け付けています。お子様に向けたメニューはないですが、今まで来てくださっていた方が出産を機に来られなくなってしまうという声もあって。
「料理屋さんに行けなくなったけど、また行ける」と言えるお店にしたいと思いました。

今までになかった取り組みを通して目指す、新たな目標

-毎月、定期的に来られるお客様が確実に予約できるように「年間シート」の販売を実施したと伺いました。

うちは基本的に毎月来てくださるお客様が多いです。もともと11ヶ月の間全て来てくださっていたお客様が、1ヶ月だけ予約が取れなかったというお声が多くなってきたんですよね。
それで「年間シート」という方法を新たにスタートしてみました。
2022年の9月スタートで、もう予約の枠は埋まってしまったのですが、年間シートの予約で7割、残りの3割を新規のお客様の予約を受け入れる予定です。

-面白い新たな取り組みですね。毎月変わるテーマを12ヶ月必ず楽しめることは、お客様にとって嬉しいことだと思います。
最後に、今後鈴木様が目標にしていることをお聞かせください。

いつかオーベルジュをしたいと思っています。「東山 吉寿」に来てくださっているお客様が、車を使って1時間圏内で来られる場所、美濃や信楽、奈良辺りに作りたいですね。
夕食は、今のお店のようなカウンターをそのまま旅館に持って行って、目の前で料理を作り、夜はそこをバーにして、朝食もカウンター越しに料理を作ってお出しする。それを会員制でやりたいですね。
予約サイトでは受け付けず、HPなども作らず、会員の方のみ予約ができるオーベルジュです。
いわゆる「高級旅館」って、誰でも予約が取れる所ばかりですよね。そうではなくて限られた方のみが予約を取れる、誰にも知られていなオーベルジュを作りたいと思っています。

-何年後を想定しているのですか?

10年後くらいかな。もちろんタイミングなどもあるので、良い機会で作りたいですね。

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鈴木吉寿氏 プロフィール 
1977年、滋賀県出身。
「京 YUNOHANA RESORT 翠泉」では、旅館のオープン当初より5年間料理長を務めた。
調理師免許のほか、滋賀県のふぐ調理師免許、日本酒の利き酒師の資格を習得。
2018年9月自らが店主を務める「東山 吉寿」を開業。
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割烹・小料理

東山 吉寿

京阪本線 清水五条駅 出入口4、 徒歩9分

20,000円〜29,999円

【編集後記】
旅館から割烹の世界への転身は、想像もできないほど大変な事だったかと思います。
しかし鈴木様はご自身を緻密に分析され、どうすればトップに立てるのかを冷静に判断される方だとお話を通じて感じました。それも全て、来てくださるお客様一人一人に楽しい時間を過ごしていただきたい、という想いからなのでしょう。鈴木様の世界観を堪能しに、ぜひ訪れてみたい名店が一つ加わりました。

Minaho Ito

一休.comの宿泊営業から編集部へ。子供を預けて、つかの間の贅沢をレストランで過ごすのが楽しみ。見た目が美しい料理が好きで、イノベーティブ料理やフレンチ・イタリアンがお気に入り。
自分へのご褒美にスイーツ店巡りをすることも多く、行きたいお店リストは常に更新中。

【MY CHOICE】
・最近行ったお店:ラペ (La paix)
・好きなお店:NARISAWA/Crear Bacchus/オテル・ドゥ・ミクニ/ガストロノミー ジョエル・ロブション
・得意料理:イノベーティブ料理/フレンチ/イタリアン
・好きな食材:赤身肉/チーズ

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