インタビュー|

「Alternative」斉藤貴之氏インタビュー。従来の概念に捉われない自由なフレンチで、新たな時代を切り拓く

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フランス料理の技術をベースに、 日本料理や中国料理などの異分野のエッセンスも取り込んだ唯一無二の料理を提供する六本木のフレンチ「Alternative」。オーナーシェフ・斉藤貴之氏の型にはまらない自由な料理を堪能できるレストランが、2021年9月に白金台に移転。今回はオープンしたてのお店にお邪魔し、斉藤シェフが目指す料理の世界についてお聞かせいただきました。

「フランス料理は自由」と気づいた修業時代

―斉藤シェフがシェフを志されたきっかけは?

料理人になろうと思ったのは中学生の時で、当時の卒業文集に書いていたほどでした。
元々実家が喫茶店で、母親は料理上手だったので料理自体に興味がありました。家にも料理の本が沢山あって、テレビとかも見てこういう料理を作りたいと。
元々絵を描くことや工作が好きで、モノ作りが好き。食べるものが好き、作るのが好き、ということで、自然と料理の世界を目指すようになりました。
フランス料理を選んだのは、小学校の頃から、家族でフランス料理を食べに行っていたんです。子供の頃ってクリームバターが美味しいと感じるんですよね。専門学校に入った時に、和食は修業先では下駄で蹴られると聞いていたし、昔気質のイメージもあったので。
でもフランス料理店でも結局やっているのは日本人なので、昔気質の厳しい所でしたね。

―最初の修業先は神戸の名店「御影 ジュエンヌ」、その後東京へ移り、渋谷の「ラ・ブランシュ」で働かれていたそうですね。

関西では「御影 ジュエンヌ」が一番のお店だと思っていて最初に入りました。次に関西で働きたいと思うお店が無くて、夏休みのたびに東京に行き、色々な有名店のフランス料理を食べ歩き探していました。
師匠に相談したら、巨匠の店に行けと。いくつか行って食べてみる中で「ラ・ブランシュ」に夜食べに行ったらめちゃくちゃ美味しくて、すぐに働きたいと言いました。確か3月頃で、美味しい食材とスペシャリテが集まるシーズンだったんですね。
料理に感動して就職したので、お店のスペシャリテを作らせてもらえたのは凄く感動しましたね。
当時は朝8時から夜中の2時~3時まで働いていました。つらかったですが、厳しい所で働いた経験のおかげで、時間の使い方をすごく考えるようになりました。

―その後渡仏され、ブルゴーニュで一つ星「ル ベナトン」、二つ星「プティ サン ジャン」などで1年間経験を積まれたとのことで。

「ラ・ブランシュ」で3年程働いてから2008年11月、28歳頃の時にブルゴーニュに行きました。日本での修業時代が厳しかったので、こんなに楽で良いの?と思う程でしたね。自分の時間ができたので、その時間を活かしてチーズやワインを勉強し、本も500冊くらい読みました。ヨーロッパの歴史や文化、教養を身に着けるうちに、フランス料理が自由である理由は、それまでの歴史や文化を吸収して成り立っているからということを知りました。フランス料理というのは、自由な料理なんです。周囲の文化や発想、色々なものを取り入れて、前進する料理なんだなと。
だから、東京でお店をやるのであれば、あえてクラシックである必要もないと思いました。

―帰国後は銀座「ラール・エ・ラ・マニエール」で仕事され、西麻布「プロヴィナージュ」でシェフを務められました。

「プロヴィナージュ」では4年半程働き、そこで自分のスタイルを確立しました。オーナーも自由にさせてくれて。ワインバーのような雰囲気のお店でしたが、世界中のワインでペアリングを作らせてくれました。その経験は財産ですね。今はソムリエも追いつけないくらい多くのワインがあるので。王道のワインはもちろん、チェコやハンガリーなどの気鋭のワイナリーも取り入れていました。

―そして、「プロヴィナージュ」のオーナーより同レストランを引継がれたということですが、店名の「Alternative」という名前の由来は?

(六本木時代のメニュー一例)

「オルタナティブ・ロック」から来ています。当時「オルタナティブ・ロック」はもう一つのロックという意味で、新しいロックという位置づけでした。
王道の料理も作れますが、自分がお店をやるのなら、もう一つのフランス料理を作りたいと思ったからです。もう一つの新しい価値を創造する。という意味を込めています。
理由は先ほど話した“フランス料理は自由”ということからなのですが、それを理解してもらうのには苦労しましたね。食べに来てもらうと、「あぁこういうことか」と分かってもらえるようになりました。
今回、移転のタイミングで名前を変えようかと思ったのですが、これ以外の名前はなかったですね。移転してお店を設計して、ようやく自分のイメージの店になったと思っています。前はそれまでのお店の内装と料理、値段がちょっと合わないような気がして、帯に短したすきに長し、中途半端な店でした。
お店のストーリーを確立するには一から作るつもりで移転しました。お金はかかりますけど、高級店になればなるほど、内装や世界観は大事だなと思います。

型にはまらない、新しい挑戦

―斉藤シェフのお店では有名な鮎づくしコースに始まり、花山椒、月の輪熊やクエのような他のお店ではあまり出さない日本ならではの食材を使っていらっしゃいますが、お店のメニューに取り入れてみようと思ったのはどういうきっかけからでしょうか?

ドジョウや鯉も、フランス料理の技術でお出しします。それがフランス料理のすごいところですね。自分の強みはオールラウンダー、どんな料理でも作れるので、だったら遊べる空間を作ろうと。
天然の魚が無くても養殖でもいいと思っています。牛も豚も養殖ですし、魚だけ天然至上主義なのは時代に合わないと思います。

―新生「Alternative」のコンセプトは?

白金のお店はテーブル席とカウンターでコンセプトを分ける予定です。テーブル席は「大人のファミレス」。アラカルトも用意して、パスタもありつつ、春巻きもフレンチもロシアやジョージアなどの郷土料理も出す。フランス料理だけでなく、イタリアや中華など混ぜた料理を出す予定です。
日本の飲食の一ジャンルであるファミレスは、あのクオリティをあの値段で出すところがすごいですし、世界中になくて尊敬しています。ただ、料理はめちゃくちゃ美味しいということでもないので、一度料理人が作るワンランク上の本気のファミレスをやってみようと思ったんです。
理想とする店は色々なものが食べられる店。そこまで安くはないのですが、気楽にいただいてほしい、そんな気持ちが根底にあります。
実は高級イタリアンのリストランテより、トラットリアのようなマンマの味が食べ疲れしないので好きなんです。ジョージア料理やロシア料理、ポルトガル料理を始め、世界中のお母さんの料理を出してみたいですね。それに合わせる美味しいワインもちゃんとあるんで。
この内装だったらそういうお店もちょっと面白いなと。ステーキ食べている横で担々麺食べている人がいるみたいな、それを楽しんで来てくれる人たちが集まってくる土壌は、お店をオープンしてできていると思います。
また、若い子の勉強の場としても機能させたいと思っていて、伝統料理や郷土料理を作ります。フォアグラのテリーヌやココットなど、若い時にベースを作らないといけないので、修業の場としてベースとなる郷土料理を作らせようと思います。
若い子たちが独立した時に、フランス料理の技術と別の国の要素を組み合わせることでバリエーションがでるからです。

カウンターでは、六本木時代に極めた料理を。キャビア、鮪、ウニといった高級食材オンパレードの時代はもう終わりかけていて、お客様も飽きてきています。それより、ナス一本で高級食材を超える、納得させる料理を作りたいですね。高級食材も少しは使いますが、そうでないものも取り入れて、日の当たらないものに価値を見出す仕事をしていきたいですね。
正直、見た目が華やかで斬新そうに見える、フランス料理の入り口としてのお店の方が流行ります。今は情報がありすぎて情報を食べているようなものじゃないですか。真の価値が分かるお客様はピラミッドの数パーセントで、そこを狙うのは獣道だと思いますが、時間はかかるけどそんなお客様が集まると強い。
修業先が厳しかったからか、結果的に厳しい道を選んでいますが、安易にいくのはダメだと思うので。厳しい道の中で力がつくんだと思いますね。
幸い、自分の目指す道をお客様は理解してくれますし、お客様からも客層がとても良い、教養が高い人が多いと言われます。狙ってはいなかったんですが、自分の価値観がある人たちは、「他のお店にない」価値を感じてくれて、勝手に集まってきました。お客様は財産だと思います。

―前のお店があった六本木の場所には、新しく「中華食堂チャイデモ」さんもスタートされるということですね。

もともとイベントごとが好きなんですね。「プロヴィナージュ」で働いていた時に、ワイン会やイベントなどが色々あって、すごく楽しかったんですね。その時に「いろんな料理を作っていいよ」と言われて、作ってみると新たな気づきがあった。それがベースかもしれないですね。作ってみると、フランス料理に応用できるなと思ったり。
たまにやると従業員も楽しいんですね。コロナでイベントはなかなかできないけど、今年の1月~3月、緊急事態宣言中に気まぐれで中華を始めたんです。そのタイミングで食べに来てくれた中華一筋のスタッフに「中華食堂チャイデモ」を任しています。チャイニーズをベースにフランス料理の要素を7:3の割合で入れたものを出すお店。彼は中華一筋なので、一緒にフランス料理の要素を入れたメニューを考えて「面白い中華」を出していきたいですね。
中国料理も長い長い歴史があるので、それを掘り下げていきたいと思って歴史の本を読んでいます。中華の唯一の欠点は化学調味料を使い、脂っぽいところ。中華をリスペクトしているんで、無化調で美味しい中華を出したいですね。

―シェフが目指される料理のネクストアクションを教えて下さい。

新しい取り組みというのは個人的に出きったような気がしていて。逆に当たり前のことをもう一回考え直したいですね。環境問題ももちろんそうだけど、商売にしたくないので、当たり前にちゃんとやっていきたい。
コロナ禍で世の中が変わったと言いますが、考えるきっかけになって、レストランの価値は上がったんじゃないかなと思います。レストランの楽しさを再認識したし、皆になかなか会えないというのはこんなに楽しくないのか、面と向かって食事するということに対しての価値に気づいて、良い仕事だなと思いました。当たり前のことですが、来てくれた方を全力でもてなしていこうと思います。

当たり前のこととして、環境に負荷をかけないことを自分なりに行い、次の世代に繋げていきたいと思います。SDGs では2030年というのが一つのリミットになるとされていますが、急激に変わらないとダメなんだと思いますね。流行りに乗りたくないが、俯瞰して考えて自分なりの考えのもとに行動したいなと思います。そのためにはちゃんと理解してから進んでいくのが良いと思います。
今、特級品で売買される魚は昔B級品だったと聞きますね。日本海に魚が入ってこないのは木を伐採し循環しないから、と。なので、天然を使わなくて良いですし、完全養殖に成功した近代鮪とか、鰻も養殖で構わないと思います。養殖を皆が食べてもいいのではないかなと思います。

また、野菜についても知識を深めてほしいと思います。魚の問題に取り組む料理人は多いですが、野菜に注目している人はまだ少ないです。今、F1種子(交配種)という種で野菜を作ると、種を採取した次の代は2年目で奇形が多くなってしまうそうです。種取農家さんが言うには、品種改良されすぎて味が抜けてしまうので、種を毎年買うっていうのはそういうことなんですね。
野菜は毎日食べるものだし、自分たちの身体に入れるものなので。高いのは当たり前ですが、安い野菜を食べて高額な医療にかかるよりは、ちょっと高くても良い野菜を食べた方が健康には良いですよね。昔の野菜は硬かったり味が濃い、その理由についても知るべきだし、野菜についてはもっと掘り下げて考えていきたいと思いますね。

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【プロフィール】
斉藤貴之
大阪生まれ。
2000年「御影ジュエンヌ」(神戸)、2004年「ラ・ブランシュ」で腕を振るった後、渡仏。
2007年 一つ星「ル ベナトン」、二つ星「プティ サン ジャン」で修業を重ね、帰国後に「ラール・エ・ラ・マニエール」、「プロヴィナージュ」でシェフを務める。
2016年8月「プロヴィナージュ」の前経営者よりお店を引き継ぎ、「オルタナティブ」としてオープン。
2021年9月 白金に移転オープン。
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フランス料理

Alternative

東京メトロ南北線 白金高輪駅 徒歩13分

15,000円〜19,999円

【編集後記】

自分がおもろいと思えることを全力でやりたい、という言葉が印象的だった斉藤シェフ。その根底には、厳しい修業先での経験に基づいた実績の積み重ねがあると感じました。新生「Alternative」による新しいフレンチは、コロナを経た2021年に、経験値の高い大人に必要とされている提案なのかもしれません。

Airi Ishikawa

一休コンシェルジュ メディア事業部長。高級旅館のお取り寄せが最近のマイブーム。インタビューを中心に、地産地消や、生産者に近い距離で食材と向き合う極みのシェフがいる店をご紹介します。
【MY CHOICE】
・最近行ったお店:祇園 さゝ木 / Crony / のぐち 継 / 津の守坂 小柴
・好きなお店:ベージュ・アラン・デュカス / ブラマソーレ / 美伶
・自分の会食で使うなら:鮨きむら / 中国飯店 富麗華 / エディション・コウジ シモムラ
・得意ジャンル:フレンチ / バー
・好きな食材: 魚卵

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