インタビュー|

「鮨 きのした」中村 慎亨氏インタビュー。日本料理と江戸前鮨を融合する和のもてなし

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大に伴い、施設の営業内容が急遽変更・休止となる場合があります。最新情報につきましては、当該施設まで直接お問い合わせください。

西麻布のマンションの一室、隠れ家のような空間で鮨を楽しめる「鮨 きのした」。 大将の中村慎亨氏は、名店「嵐山吉兆」や日本料理の鉄人、道場六三郎氏の下で腕を磨いた後に、銀座にある鮨の銘店にて江戸前仕事の技を培った経歴の持ち主です。穏やかな空気が流れる「鮨 きのした」で心掛けていることについて、中村氏にお話を伺いました。
※本インタビューは、2020年12月15日に感染症対策の上で行いました。

経験に培われた和食と鮨のハーモニー

―西麻布のマンションの中にありながら、エレベーターを降りると門構えから「鮨屋」があるので驚きです。本当に秘密の場所という雰囲気ですね!

オーナーが週に6日もお鮨を食べるほどお鮨が好きなんです。マンションを一棟買って、その中で隠れ家的なお鮨屋さんを始めようと。
看板も無いので表からは見えませんが、入口から路面店のような鮨屋の雰囲気が現れると、異空間に入ったような感じがして良いですよね。

―中村様は日本を代表する和食の銘店で修業され、「吉祥銀座本店」の総料理長を経て、銀座にある鮨の銘店にて研鑽をつまれたそうですが、寿司に対する興味は昔からおありだったんですか?

実は、もともとお鮨をやりたいと思っていました。自分でお店を開く前にはお鮨をやってみたかったので、一流のお店で鮨をきちんと習いたいと。ちょうど、自分が銀座で働いている時に、お店に来てくださっていた銀座のお鮨屋さんの大将と仲が良くなり、お友達になりました。そこのお店で働かないかと誘っていただき、当時の調理場の仲間も含めて仕事をさせていただきました。一番いいものから学びたくて、銀座を代表する銘店で働き、修業させていただいて。
かつて、僕の師匠である道場六三郎さんから、「これからの板前さんはサービスを学ばないといけないから、サービスを勉強してこい」と京橋の「シェ・イノ」さんで給仕の研修をさせていただいたことがあるんです。板前がギャルソン姿でサービスを。ワインの抜栓の仕方、デキャンタージュの仕方などを一流の店のソムリエから教えていただき、とてもいい勉強になりました。
仕事をする上で、どこで習い、何を大事にするかがいかに重要か、という点に通じるかと思います。

プライベートでは自分も色々なお鮨屋に行きましたが、一番インパクトが強かったのは、南青山の銘店「海味(うみ)」を22年守り続けた、今は亡き長野充靖氏。長野さんのお鮨が大好きで、強烈な印象を受けました。人柄も良い人で、初めて連れて行ってもらいお邪魔して、1年後に2度目も連れて行ってもらったのですが、扉を開けた時に「おお、中村さん」と間髪入れずに迎え入れてくださって。行くたびに驚きと、温かさを感じて、こんな居心地が良いお店を作りたいと思いました。いつ行っても、どのお客様でも大事にされていた、そこがすごいなと尊敬します。
直接握りを教わったわけではないですが、インパクトの強さは今でも忘れません。

―和食をご経験されて寿司職人として仕事をされる中で、和食と異なる点、違いというのはどのようなものなのでしょうか?

魚の仕込みは本当に違います。和食の刺身は切り方があり、生のまま3枚におろしてお醤油でいただく。一方、お鮨屋さんで出すお刺身は魚自体のおろし方も違う。小ぶりな魚、例えばサヨリとかキスやアジでいうと本来3枚おろしですが、鮨では必ず開きます。ネタケースに入れたときに様になるからということもありますが、仕込みが全然違いますね。ある程度寝かし、馴染むことを前提にしっかりと塩をあてます。何かしら+αの一仕事を必ずしますね。

また、和食は素材を活かして風味を引き出す、どう美味しく食べるかを考えますが、鮨はシャリと合わさったときのバランスが大事。究極ですが和食との違いはそこですね。
シャリも江戸前でいうと赤酢のシャリ。シャリはマグロの濃い味に一番合うとされるので、それに負けない味に仕立てるためにも、塩をしっかりあててネタ自体の味を引き出さないといけない。刺身単体で食べると味がはっきりしますが、シャリに乗せると違った印象になるんです。

―お店のコース構成は握りの前のつまみに対しても評判が高く、肴にお酒が進みそうですね。

「鮨 きのした」でお出しするのは料理が10~12品、握りも11~13程と、「料理半分」、「握り半分」となっています。料理は和の基本に忠実に、そこまで攻めていないものをお出しします。道場さんは創作でも有名ですが、実は料理の基本を非常に大事にしている方です。
基本に忠実にしているから、あれだけの美味しい創作に仕上がるのだと思います。だから面白くてワクワクしますし、自分もその楽しさをお客さんに伝えたいですね。

―日本酒・ワイン・シャンパン等も厳選しているということですが、ご自身で選ばれているんですか?盃も江戸切子を選べたり、細かいこだわりを感じます。

お鮨は繊細なものなので、味の邪魔をしないようなものを中心に選んでいます。
日本酒はそこまで値が張るものではなく、実際にお鮨に合うかどうかを重視しますね。きりっと辛口のものから、柔らかめのものなど、バランスを取りやすいものを。宮城の「日高見」はお鮨に合わせることに特化して作ったお酒があるので、そういうのを見つけるのも面白いですよね。実際に合いますから、美味しいですよ。
ワインも、和食について合うかどうか、生臭さを強調しないバランスが取れているものを置いています。
僕もソムリエを取りたくて一度試験を受けに行ったことがあるんですよ。ワインをお出しするにあたって、説得力が違うし信頼してもらえるかなと思って。またチャンスがあれば受けに行きたいと思ってます。
マリアージュという言葉がありますが、本来は飲み物も正解を考えず、好きなものを飲みたいで良いのかなと思っています。うちでは、どれを飲んでも大丈夫なように選んでいるので、日本酒もワインもウイスキーだって飲みたい人がいて、それでいいじゃないと。

お客様が楽しく過ごせる、堅苦しくないおもてなし

―初めていくお鮨屋さんは少し背筋が伸びますが、大将にそう言っていただけると少し気が楽になりますね。改めて、「鮨 きのした」ならではのお鮨の楽しみ方を教えてください。

よく言われる鮨のマナーで「出したお鮨は3秒で食え」という話がありますよね。握りたてが一番おいしいから、すぐ召し上がってくださいと。お鮨は置いたとたんに空気が抜け、すっと沈むんですよ。置いておくほど沈んでへたってしまう。なのでやはり、なるべく早めに食べていただくほうが美味しさを感じられると思います。
ただ、お話しが盛り上がり、時間が経ってしまう場合もありますよね。そのときはお客様の進み具合に合わせて握ります。こちらの意志だけでやってしまうとお客様に「早く食べてください」と文句を言うことになるので。

お客さんの立場からすると、会食で使われる方もいれば、何かのタイミングで予約する人もいますし、記念日で利用される方もいる。色々なお客様がこれだけの値段を払って来られるので、それぞれを大事にしたいですし、合わせるつもりでお出しします。
量の調整もしますし、遅れてこられる場合はこちらが出すテンポを調整するなど、なるべく堅苦しくないおもてなしを心掛けています。

―お客様に楽しく過ごしていただくために、寄り添う姿勢がすごいですね。

僕がお客さんで行くならそうであってほしいし、堅苦しいのは苦手なので。たとえ箸で崩れてしまっても気にすることはないんです。飲みたいものもそうですし、自由なスタイルで自分が好きなように食べてもらう方が満足感を得られるのではないでしょうか。

気楽に食べておいしいね、と和んでもらえるのが楽しいじゃないですか。そういうやり取りをカウンターの中から見て、楽しそうだなぁと思うのが好きですね。珍しいね、こういう店、って思ってもらえると嬉しいです。

―中村様にとっての「お鮨」を一言で表すと?

瞬間の勝負といいますか、一口で完結する、料理を超越したものかなと思います。

料理は最初の一口から始まり、最後に飲み干したときに美味しいと感じるものですが、お鮨はその瞬間の勝負。一瞬でマグロがどんな状態か、どれくらい寝かせてあるか、複雑な分析が味覚と共に伝わってくる、そこはすごいですね。

一期一会だと壮大な話になりますが、目の前に出された一貫を食べて、「ほう」と唸るのは、お鮨かマカロンくらいしかないですよね。なかなか一言でまとまらないですが、その瞬間を大事にしたいですね。

【編集後記】

時にユーモアを交えながら、終始笑顔でお話をされる中村さん。和食も鮨も基本に忠実に、目の前のお客様の立場に立った和やかな姿、まさに和を重んじる姿勢が伝わってきました。

これまで出会った人の和、そして経験に培われた食の和。和食と鮨の基本を知りたいならば、このお店に通って学んでみたい、そう感じました。

寿司

鮨 きのした

東京メトロ千代田線 乃木坂駅 5番出口より徒歩約5分

20,000円〜

Airi Ishikawa

一休コンシェルジュ メディア事業部長。高級旅館のお取り寄せが最近のマイブーム。インタビューを中心に、地産地消や、生産者に近い距離で食材と向き合う極みのシェフがいる店をご紹介します。
【MY CHOICE】
・最近行ったお店:座屋 / とり澤 / IL FIGO INGORDO / ラチェルバ
・好きなお店:ベージュ・アラン・デュカス / ブラマソーレ / 美伶
・自分の会食で使うなら:六雁 / 中国飯店 富麗華 / レストラン ローブ
・得意ジャンル:フレンチ / バー
・好きな食材: 魚卵

このライターの記事をもっと見る
link

この記事をシェアする