本記事では、海老が美味しい鮨店を紹介します。鮨における車海老は、江戸時代から続く非常に古典的な鮨種です。車海老は食欲をそそる香りに加えて、強い甘味と旨味を持っているので、酸味が効いた酢飯と抜群の相性を示します。また、最近は車海老以外の海老を用いる鮨職人も増えているので、海老を用いた鮨は進歩し続けていると感じます。それでは、紹介に入ります。
目 次
1.珍しい古典的な仕事!黄身酢オボロ漬けの車海老「材木町 鮨 奈可久」
材木町 鮨 奈可久(東京都/赤羽橋駅)
六本木にあった名店「奈可久」の鈴木親方の仕事を継ぐお店です。こちらの系譜のスペシャリテの一つは『車海老の黄身酢オボロ漬け』。
茹でた車海老を黄身酢オボロに漬けて寝かせる仕事で、見た目にも美しく、味わいの面でも特徴があります。卵黄とお酢で作られる黄身酢オボロは車海老の甘味を引き立て、そのまま頂くのとは全く異なる印象を与えてくれます。同様の仕事は「すし匠」系譜のお店でも使われており非常に有名ですが、「すし匠」の中澤親方は「奈可久」を訪問してから使用されるようになったそうです。古典的な江戸前の仕事。最近流行りの茹で上げの車海老も美味しいですが、全く別の美味しさがあります。
2.伝統的な茹で置きの仕事で甘味を引き出す!「鮨 いち伍」
鮨 いち伍(東京都/千歳烏山駅)
上記で「最近流行りの茹で上げ」と書きましたが、もともとは黄身酢オボロ漬けのように茹で置きの仕事が主流でした。車海老を活きで保管したり、冷蔵保存したりできなかった江戸時代からの知恵です。車海老は茹で置きで甘味がこなれてじんわりと美味を感じられるようになるので、茹で上げだけが選択肢ではありません。そして、茹で置きで車海老を美味しく仕上げる職人さんと言えば、「鮨 いち伍」の樋口親方が浮かびます。
樋口親方の茹で置きの車海老は甘味を引き出し、しっとりした食感を楽しませ、臭みはゼロです。このような茹で置きの仕事を体感すると、茹で上げだけが選択肢ではないことを実感します。人気店の茹で上げの車海老すら超える美味しさがある、と感じます。
3.誰もが驚く、日本一の巨大車海老の鮨!?「赤吉」
赤吉(愛媛県/伯方島)
愛媛県・伯方島にある「赤吉」の赤瀬親方は、名漁師・藤本さんとのタッグでどこにもない鮨を編み出す職人さんです。地魚のみを用いて、ここまで濃密なおまかせコースを展開する方は稀有。頂いた車海老は天然モノとは思えない巨大なサイズで、間違い無く筆者がこれまでに頂いた中で最大でした。
しかも茹でるのではなく、中華鍋で熱した油で殻ごと揚げるワイルドな調理法!この調理法が奏功して、表面はぷるっと凝縮しつつも中はしっとりとレアに仕上がります。香りや甘味は言わずもがな、食感も楽しめる仕事です。ここまで巨大な車海老だと茹でると魅力を引き出しづらいはずなので、豪胆な仕事が活きます。
4.スタイリッシュなお店で頂く古典の再構築「すし ふくづか」
すし ふくづか(東京都/神楽坂駅)
都内でも多様な種類と調理法の海老を楽しませてくれるお店です。今までに頂いたことのある海老は3種。「刺身のボタン海老」は増毛産の超巨大なもので、北海道に多数行っている筆者も見たことが無いサイズでした。弾けるような強烈な食感と極めて強い甘味が見事。そして、鮨好きとして否応なしにテンションが上がる握りが「車海老の唐子づけ」。
「車海老の唐子づけ」は名店「㐂寿司(喜寿司)」さんに伝わる古典的な鮨ですが、換骨奪胎されているのが素晴らしい。美しい姿と共に、海老の甘味と海老オボロの甘味の二重奏が心を動かします。さらに、「海老オボロの茶巾絞り」のようにオボロをコース途中のアクセントに用いられているのも楽しいご提案です。「海老オボロの茶巾絞り」には芝海老を使用し、オボロの粒子は非常にきめ細かく、あたかも上質な生菓子のようです。
5.車海老の仕事をアカザエビに応用して魅せる!「鮨いとう」
鮨いとう(福島県/いわき駅)
いわき周辺の地魚と、全国に点在する名漁師・仲卸の一流の魚を用いて、他の何処にもない鮨へと昇華させる伊藤親方。メヒカリの海域違いの3種食べ比べは、筆者の鮨人生の中でも鮮烈に記憶に焼き付きました。
海老は有名な「さかな人」長谷川大樹さんから仕入れたアカザエビを使用。和名だと少しマイナーですが、フランス料理の「ラングスティーヌ」、イタリア料理における「スキャンピ」であり、美味なる海老です。軽く炙ることで独特な食感を表現し、むちっと引き締まった身はしゃくしゃくと解けつつ、とろりととろける食感のグラデーションがあります。車海老よりも野趣を感じる香りも魅力で、甘味が強く、レアな火入れが最良の選択だと感じました。
6.他店に無い仕事で記憶に残る車海老!「鮨処 石ばし」
鮨処 石ばし(福岡県/赤坂駅)
鮨の激戦地・福岡で若くして独立され、高い安定感を誇る鮨店です。石橋親方の車海老は九州北部らしく唐津産を使用し、提供はモダンながら仕事は古典的で、意外にも他の職人さんが試みたことの無い仕事です。
茹で置きながら、非常にしっとりした食感で、繊維はホロッホロと優しくほどけます。そして、強い甘味を楽しませてくれます。意外性を狙った意匠ではなく味わいに直結した手法。非常にハイレべルな茹で置きの仕事で、古典的な茹で置きでも応用する余地があるんだと気づかせてくれました。古典から着想を得て、自身の仕事へと昇華させる鮨職人は応援したくなります。
海老が美味しい鮨店はまだまだ紹介しきれないほどあります。海老は個性を出しづらい鮨種かもしれませんが、手練れの職人さんたちは卓越したセンスで差異化を図っています。香りと甘味の一歩先に進んでみると、さらに海老が楽しくなるはず!本記事が読者さんの海老欲につながれば幸いです。
※こちらの記事は2024年11月10日作成時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。