大阪エリアを代表する高級料亭「日本料理 湯木」。プレミアム美食メディア「KIWAMINO」では今回、店主・湯木尚二氏のインタビューが実現しました。「吉兆」創業者・湯木貞一氏の精神を受け継ぐ「日本料理 湯木」の世界観から伝統承継への思いまで、多岐にわたってお話を伺いました。
※本インタビューは、2020年11月11日にオンラインにて行いました。
「吉兆」創業者・湯木貞一氏の精神を受け継ぐ世界観
―まずは、大阪を代表する料亭「日本料理 湯木」だからこその魅力をお聞かせください。
一言で申し上げると“茶心のなかに風流さを含んだ真心”を感じていただけるお店だということですね。私の祖父でもある「吉兆」創業者・湯木貞一が目指した、料理との向き合い方にも通じるものがあります。“吉兆の精神”と言っても良いかもしれません。
私自身、料理人として30年近いキャリアを重ねてきましたが、この“吉兆の精神”といいますか、湯木貞一が目指した料理との向き合い方は、心の深い部分にまで染みついていると感じています。
“茶心”といえば、“一期一会”という考えがあることはご存知だと思いますが、「日本料理 湯木」の料理・おもてなしを言葉にすると、 “一客一亭”と表現した方がしっくりくるかもしれません。一人のお客様に亭主が心を尽くす。分かりやすく言えば、オーダーメイドでお客様に向き合い、料理を提供し、おもてなしをするということです。
お客様の好みはもちろんのこと、お店にお越しになる意図であったり、そこに集う顔ぶれについても理解した上で、料理屋として求められることを考え実践していくということですね。プライベートやビジネスでの会食から同伴まで、暖簾をくぐるお客様のニーズは本当に多様なので個別に対応していく必要があるのです。
もう一つの柱というのが、茶心のなかにもある季節感。日本の四季の移ろい、春夏秋冬を料理のなかで表現するわけです。食材の旬を意識した構成で料理をつくりあげる理由もそこにありますし、お客様に風流さを感じていただくことにもつながります。
“器は料理の着物”という魯山人の言葉が示すように、食器もまた茶心や風流さを愉しんでいただくのに欠かせない要素の一つだと考えています。「日本料理 湯木」では懐石料理を謳っているということもあって、気を使うようにしています。
“茶心”と“風流”を体現する料理とおもてなし
―お店にお越しになるお客様もまた、味や器へのこだわりが強い方が多い印象があります。
器は、日常使いからここぞという時の年代物まで、日ごろから意識していますね。京都や九州などの食器屋さんへ出向いた際に、一目ぼれして購入することもありました。また、この料理を盛る時にこういう器を使いたいということもあれば、こういう器にはこういう料理が合うのではないかということもありますね。
先日、岡山県からお越しになったお客様にはシャインマスカットと柿の白和えをお出ししました。その際用いたのは、備前焼の器。シャインマスカットも備前焼も岡山を代表するものですから、大変喜んでいただけたんです。
石川・加賀が生産地で、精巧な彩色が特徴の九谷焼はご存知ですか。先日、石川県からのお客様が会食にいらしたので、御料理を九谷焼に盛り付けて差し上げたところ、すぐに気が付いてくださって、とても感心なさっていました。お話のきっかけづくりにもなりますし、主催者様にも大変喜んでいただけました。
―“茶心”が内包する“一期一会”や“一客一亭”を、まさに体現されているのですね。「日本料理 湯木」の懐の深さを感じるエピソードだと感じました。
提供するお料理についても、お客様のことを考えた献立を用意してきました。様々なお客様にご利用いただくので、季節毎のベーシックなメニューは必要となってきます。ただ、リピーターのお客様や、好みを把握している常連の方については特別な配慮が必要です。
毎回同じ御料理を出さなくてはいけない場合もありますし、シイタケは苦手だけど松茸は食べたいなど、ご要望は本当に多岐にわたりますから。
―基本のメニューとは別に、お客様の好みを踏まえた仕入れが必要なのですね。大阪には、北新地の「本店」以外にも、「新店」「心斎橋店」「肥後橋ゆきや。」と計4つのお店がありますから、湯木さんも各お店の店主も、献立づくりが大変そうですね。
実は、今でも可能な限り私がお客様のことを踏まえて献立をつくり、手書きでお品書きをしたためているんですよ。もちろん、各店舗の現場でもしっかりとお越しになるお客様のニーズに沿ったものを提供しています。
仕入れについては、大阪市福島にある中央卸市場から、北部・東部の市場までお世話になっている業者さんは多岐にわたります。また、松茸など季節の旬の食材については、産地直送でお願いすることもありますね。
伝統に見合う仕事を続けるために
―和食にとって、仕入れた厳選素材をどう活かすのかという視点も大切だと考えます。特に、湯木貞一氏の志を受け継ぐ「日本料理 湯木」では、調理一つとってみても深いこだわりがあるのではないでしょうか。
伝統の承継はとても大切なことだと考えています。うちの屋号は今「湯木」ですが、お客様によっては今でも、「北新地の吉兆さん」と呼ぶ方もいらっしゃいます。つい先日も、出張料理の際にお伺いしたお宅にて「本日は吉兆さんに来ていただきました」と紹介されましたから。その度に、屋号は変われども「吉兆」というイメージは定着して、我々の深いところまで染みついているのだと実感するわけです。
これは宿命なんですよね。いくら払拭しようにもできないですし、払拭する必要もないのかもしれません。ただ、そのイメージに見合う仕事をし続けなくてはいけませんから、そこは若いスタッフ含めて肝に銘じて、取り組んでいます。
幸いなことに「日本料理 湯木」にも、「吉兆」出身者は数名おりますから、伝統を次世代に伝えていく点では力になってくれています。
ただ、伝えていくことはやはり大変。特に料理に関しては、他所のお店で何十年と経験を積んだ方でも、物足りないと感じることはありますね。
それは調理の技術とか、そういうことではありません。料理やお客様との向き合い方といいますか、非常に精神的なこと、感性の領域なんですよ。だから、カタチで覚えさせようとしても長続きはしません。
例えば、出汁をとること自体は決して難しいことではないんですよ。経験のある料理人であれば人並み以上のものはできてしまいます。でも、同じ出汁をとるにしても、気の入れ方一つで、味は全然違ってきます。魂の注ぎ方を間違えると、納得のいく料理はできないのです。
長年この世界に身を置いていますが、本当に不思議なことです。
だから、この世界に入ってくる若い子には、「まずは歳時記を読みなさい」と伝えているんですよ。そういうものに触れることで、徐々に日本料理の本質を理解していけると考えています。そうして知見を深めていくなかで、お茶など日本文化の奥深さも身に着けていかないと、必要とされる感性にはたどり着けないですね。
―まもなく新しい年を迎えますが、お店を率いる湯木さんの抱負をお聞かせください。
2020年は、我々はもちろん飲食業界全体にとって困難な年だったと思います。ただ、そういう時代であっても、季節ならではの美味しさを提案し続ける努力は怠ってはいけないと考えています。
例えば、秋が深まり冬になる頃には、フグやカニ料理を前面に出した情報発信をすることによって、お客様がお食事を愉しむきっかけを創出できるのではないでしょうか。伝統を受け継ぐ我々料亭だからこそ提案できることでもあります。
その結果として、お客様がリラックスしてお食事を愉しみ、心から満足できるひと時を過ごせたなら、料理人としてそれに勝る喜びはありません。
読者の皆様にもぜひ、「吉兆」創業者の湯木貞一が語った“茶心のなかに風流さを含んだ真心”を感じに、「日本料理 湯木」にお越しいただきたいと思います。
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湯木尚二 プロフィール
1969年、大阪府生まれ。「吉兆」創業者・湯木貞一氏を祖父に持ち、自身も若くして料理の道に。幾多の逆境を乗り越え再起。2010年に「南地ゆきや。」、2011年には「日本料理 湯木本店」をオープン。大阪エリアを中心に支持を集め、現在は「本店」「新店」「心斎橋店」「肥後橋ゆきや。」の4店舗を経営。記念日やお祝い事など、ビジネス・プライベート問わず様々なシーンで高い人気を誇る。
編集後記
「吉兆」創業者である湯木貞一氏から伝統を受け継ぐことは、宿命だと語ってくれた湯木さん。伝統承継の大変さを知る一方で、常にお客様本位の思いがあるのだと気づくことができました。今後も引き続き、季節ならではの美味しさを提案し続けていくとのこと。どんな時代であっても、「日本料理 湯木」が厳選素材と美しい器、丁寧なおもてなしを体感できる場所であってほしいと思います。
※こちらの記事は2020年12月16日作成時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。