滋賀「じどりや穏座」岩本孝夫氏に聞く、飼育から販売まで一貫して行い、厳選した新鮮な地鶏のみを扱う地鶏料理の魅力とは

滋賀県大津市の琵琶湖近くに店を構える活地鶏専門店「かしわの川中」直営の「じどりや穏座」。飼育から販売までを一貫して行い、厳選した新鮮な地鶏のみを扱う「じどりや穏座」は、全国各地から訪れるゲストがやまない地鶏料理の名店です。今回「KIWAMINO」では、総料理長・岩本孝夫氏にインタビューを実施。岩本氏の料理人としてのこれまでや、地鶏料理へのこだわりについて伺いました。

「かしわの川中」の地鶏、そして先代の魅力に惹かれて入った地鶏料理の世界

―岩本様が料理人を目指されたきっかけ、修業時代のエピソードについてお聞かせください。

24歳の頃に居酒屋で働き始めたのがきっかけです。普通の居酒屋だったんですが、実は料理長は日本料理の名店出身でした。初めは普通の居酒屋感覚で就職したのですが、料理長はそのお店で培ったやり方を実践されていて、予想以上に厳しい環境でしたね。そのおかげで高級日本料理店の技術を居酒屋で学べる珍しい機会となりました。

―そこからどのように「じどりや穏座」で働かれるようになったのですか?

その後は違う店舗で働いていたんですが「じどりや穏座」には、よくお客さんとして食べに行っていたんです。それをきっかけに先代の大将・川中高平さんには休みの日もよく食事に連れていってもらっていました。

―休みの日にご飯へ行くような関係性になるなんて、とっても仲が良いですよね。

「じどりや穏座」は完全予約制なんですけど、当時は月1回のペースで通っていました。今の代表の川中淳平が先代の息子なんですけども、僕とはほぼ歳が変わりません。大将からしたら息子みたいなもんだったと思うんですけど、可愛がってもらっていましたね。

そんな中29歳くらいの時ですね、次はイタリアンにチャレンジしたいと思っていたので、大将に「どこか良いお店はないですか?」と相談してみたんです。大将は「かしわの川中」という肉の卸もしていますし、飲食店との繋がりもたくさんお持ちです。どこか良いお店を紹介してもらえないかなと思っていたら、「うちで働かへんか」と声をかけてもらったのがきっかけです。元々、いつか独立する時は「かしわの川中」の地鶏を使いたいという気持ちがあったので、ここで働くのも良いなと思いお世話になることを決めました。

―ゲストとして「じどりや穏座」の地鶏の美味しさに惹かれていたところもあると思いますが、やはり先代の大将の人間的な魅力にも影響された部分はあったのでしょうか?

そうですね。大将はいつも本当に楽しそうに働かれていました。お客様とも気さくに話をしていて、その会話からも自信を持って美味しいものを提供しているのがわかりましたし、すごい方だなって思っていました。

飼育から販売まで一貫して行う「じどりや穏座」ならではの食体験

―「じどりや穏座」ならではの特徴についてお聞かせください。

「じどりや穏座」では、鶏を育てる一次産業から、その鶏がお客様の口に入るまで見届けるという一貫したやり方をしています。鶏肉の卸もしていますので、毎朝百数十羽の鶏を捌きます。僕も捌いているんですが、その中でも1番良いものを「じどりや穏座」で提供させていただいています。

―1番美味しいお肉はここでしか食べられないのですね。

「かしわの川中」ならではの鮮度、そして目利きによって良いものだけを厳選して提供しているところがうちならではの特徴です。当日捌いた鶏は、自分自身が全て目で見て、触りますので、その中から1番良いものを選んでいます。

―「かしわの川中」の地鶏にはどんな特徴があるんでしょうか?

淡海地鶏を中心に、近江しゃも、名古屋コーチンをその日に選んで使っています。“毎日でも食べられる癖のない味”をコンセプトにしていまして、脂はしっかり乗っているんですけど、全くくどくないです。もちろん餌にもこだわっていますし、飼育日数や環境にもこだわっています。

―普段食べる鶏肉とはどんな風に違うんでしょうか?

一般的に世の中で出回っている9割以上が若鶏と言われるブロイラーなんです。若鶏と言われているくらいなので、ヒナが生まれてから40日~45日で出荷されます。地鶏には定義がありまして、飼育日数だけで言えば80日以上飼わないといけません。
「じどりや穏座」では120日くらいまで敢えて育てています。その分経費もかかるんですが、その方がより地鶏らしさが出ると思っています。ブロイラーは本当に若いうちに出荷されるので、人間で言うと小学校低学年くらいのイメージです。そうなると、オス・メスの違いがほとんどありません。一方地鶏は長く育てることで、オス・メスの違いを含め地鶏らしさがしっかりとでます。

―オス・メスで言うとどんな違いがあるのでしょうか?

歯ごたえが異なります。メスは脂肪が多く、オスと比較すると柔らかいんです。一方オスはより筋肉質でしっかりとした歯ごたえが特徴ですね。うちではオス・メスによって味わいが異なるので、お出しする時も性別をしっかりお伝えしています。調理法によってはオスの方が美味しいなどがあるので、おすすめして選んでもらったりもしています。また、肝などは食べ比べをして違いを楽しんでもらったりしていますね。

―今まで鶏肉を食べる際にオス・メスを意識したことがなかったので非常に興味深いです。

よくどっちがおすすめですかと聞かれるのですが、好みがあると思いますのでぜひどちらもまず食べ比べてみて欲しいですね。

―地鶏をトサカから脚の先まで食べ尽くす「じどりや穏座」ならではのお料理のこだわりをお聞かせください。

「じどりや穏座」にはカウンター席とテーブル席がありまして、席によって提供コースが異なります。カウンター席で楽しめる1日6名限定の1番人気のコース「淡海地鶏プレミアム」では20種類くらいのお料理を出すのですが、トサカもお出しします(笑)。出す時に敢えて言わないんですけど、ナマコ風ですって言ってお出ししています。※「淡海地鶏プレミアム」の販売は現在お休み中。

―コ―ス料理の中でも、これだけは味わって欲しい逸品をあげるとしたらどちらになりますか?

白肝のお造りを目当てに来られる方が多いです。白肝をオリーブオイルと合わせてカルパッチョのようにして出しています。新鮮でないと食べられないのですが、うちは朝捌きたての地鶏のものを使いますので鮮度にこだわっています。あとは、焼物では手羽先の塩焼きも人気ですね。どちらも10年以上出し続けている名物料理です。手羽先に関しては、敢えて電気で焼くことで炭火の香りをつけないようにしています。醤油の香ばしさを楽しんでもらう料理でして、魚醤などで味付けしたものに、最後にさらに醤油のフリーズドライをかけて仕上げています。鶏本来の味わいと醤油の香ばしさを楽しんでもらいたいですね。

―名物料理・近江しゃものすき焼きなど色々なコースがありますが、それぞれのコースの特徴や魅力をお聞かせいただけますか?

数あるコースのなかでも、秋の期間限定で提供する「松茸と近江しゃものすき焼きコース」は、昔から非常に人気ですね。オス・メスとお出しするので、それぞれを食べ比べて楽しんでもらえます。メインのお肉は近江しゃもですが、それ以外のお肉に関しては淡海地鶏を使用しています。コースによって料理構成は変わってきますが、鍋コースに関してはメインの鍋が異なるイメージです。常時鍋コースだけでも5種類くらい提供しているので、色々楽しんでもらえると思います。

―その他、お料理に関して「こういうところにこだわっているよ」という部分があったら教えていただきたいです。

先代もですが、僕自身お酒が大好きなので、うちはお酒の種類がすごく多いです。日本酒は常時20種類くらい用意していますし、焼酎も20種類くらいあります。ワインは赤白それぞれ30種類ずつくらいは完備しています。そしてウイスキー。ウイスキーにもこだわっていまして、うちではスコットランドのアイラ島でつくられたウイスキーしか置いていません。他の地域のウイスキーに比べてだいぶスモーキーでして、炭焼き料理などと合わせると相乗効果でより美味しくなるんですよ。なので、はじめのお造りとかには合わないので、お客様がはじめにハイボールを頼まれても今じゃないっていっておすすめしないですね(笑)。日本酒は滋賀県を中心に色々なところから仕入れています。日本酒も熟成酒が多く、炭焼きや後半のお料理に合うことが多いです。お料理に合わせたペアリングの提案もさせていただきますので、色々と味わっていただきたいですね。

―とりかごをモチーフにした個性的な掘りごたつ席など、遊び心溢れる空間づくりへのこだわりについてお聞かせください。

先代の大将は元々一級建築士でして、この建物も先代がデザインしています。こだわりが色々と詰まっていまして、カウンター席の椅子をはじめ食器棚、トイレの扉なども全て同じ栗の木から造られています。とりかごをモチーフにした掘りごたつ席にある呼び鈴は鳥の鳴き声になっていて、鳥の気持ちになってもらうことをコンセプトにしています。オーディオにも先代が非常にこだわっていまして、ジャズが大好きだった先代のお気に入りの曲を流しています。天井の高さなども、設計の時から音楽がうまく流れるように計算して造っていて、こだわりが詰まっていますね。お客様にもゆっくり寛いでもらえるんじゃないかと思います。

―「じどりや穏座」さんでは、お客様にどんな食体験をしてもらいたいですか?

お客様からも「鶏の概念が変わった」と言ってもらうことが多いです。生食をはじめ、今まで内臓が食べられなかったという方でもうちでは食べられると言ってもらえるのが嬉しいですね。うちならではの体験だと思いますし、お客様に体験していただきたいところです。飲食店なので美味しいのは当たり前だと思いますから、そこで過ごす時間をどれだけ楽しんでもらえるかが大事だと思います。

多店舗化を進め「じどりや穏座」ならではの食体験を広めたい

―最後に今挑戦されてらっしゃることや、今後挑戦したいことをお聞かせください。

「じどりや穏座」を多店舗展開できたらなと思っています。もちろんこの鮮度を保つとなると、エリアは限られてきますが、少しでも多くの人に味わってもらいたいという気持ちがあります。うちは辺鄙な場所にあるんですけど、関西だけでなく、全国や海外からわざわざここまで来てくださるのは、本当にありがたいです。ただ、うちの良さはやはりここに来て食べることに意味があると思いますので、これからも1人でも多くの方にお店に足を運んでいただき、ここでしか味わえない地鶏体験を提供できたら嬉しいですね。

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岩本孝夫氏 プロフィール
1982年滋賀県草津市生まれ。
23歳で料理の世界に入り和食料理店で働く。29歳でじどりや穏座を経営する有限会社カワナカに入社。
朝は鶏肉の卸し業に携わり地鶏について学びながらじどりや穏座で従事する。
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【編集後記】
地鶏の飼育から卸、提供まで一貫して行う「じどりや穏座」。徹底的に鮮度へこだわり、その日1番の地鶏を提供します。オス・メスの違いを活かした料理や、生食を含む多彩なメニュー、そして空間づくりまで、細部にまでこだわりが感じられました。今まで体験したことのないような地鶏の良さに触れられる「じどりや穏座」で、唯一無二の食体験を味わってみませんか?

※こちらの記事は2024年11月13日作成時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。

Mika.A

外食が何よりの楽しみな編集部メンバーです。
野菜へのこだわりは人一倍!好きが高じて
ベジタリアン・フルーツアドバイザーの資格を取得しました。

・好きなお店:CIRPAS/Sincére/Heritage by Kei Kobayashi
・好きなジャンル:フレンチ/鮨
・最近行ったフレンチ:ラルジャン/apothéose/渡辺料理店/フロリレージュ
・好きな美食宿:ホテルリッジ/sankara hotel&spa 屋久島

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