兵庫県・元町駅から5分ほどの場所に佇む「すし うえだ」。淡路島出身の親方・植田将道氏が提供するのは、兵庫県の自然の恵みと魅力が詰まったこだわりの寿司。2018年の開業以来『ゴ・エ・ミヨ 2020』にて「期待の若手シェフ」を受賞。『ゴ・エ・ミヨ 2022』から3年連続で3トックを獲得するなど、注目を集めています。今回は、KIWAMINO編集部が植田氏にインタビューを実施し、修業時代のエピソードや1貫に込める思いなど多岐に渡ってお話を伺いました。
目 次
愛ある親方達との出会い、縁が繋がり名店で研鑽を積む
-植田様が料理の世界へ入られた経緯、なかでも寿司の道に進まれたご理由についてお聞かせください。
きっかけは、高校2年生の夏休みに始めた寿司屋でのアルバイトです。アルバイトが楽しくて、学校にいる時間が退屈にも思えてしまって。夏休み明けの9月には学校を辞めて、次の日からそこで働き始めました。
-すごい決断力と行動力ですね!具体的にはどのような部分に惹かれたのでしょうか。
アルバイトの頃は、海老の殻剥きや魚の鱗取りなどをさせてもらっていましたが、はじめのうちはなかなか上手くやることができなかったんです。それでも、思ったようにできないこと自体が楽しかったし、上達したいという気持ちが原動力でした。最初の2年くらいは厳しい時間が続きましたが、もう学校も辞めていたし、続ける以外の選択肢が無かったんです。ただ19歳で結婚して、新婚旅行で九州の寿司店に食事に行ったことが、転機となりました。お店の高級な雰囲気に2人で緊張しながら行ったのですが、大将がすごくかっこよかったし、いただいた寿司にも感動しまして。そこから改めて、本気で寿司職人を目指すようになりました。
-特に印象に残っている修業時代のエピソードや、現在に活かされていることについてお聞かせください。
最初の修業先は、親子3代でやられている店で、それぞれから色々なことを学びました。初代からは、洗い物や掃除、ゴミ捨てなど、地味な仕事にこそ本質があって、お金をいただくというのはそういうことでもあると。「ゴミ捨てに行く時の臭いもちゃんと覚えとけ」という言葉が印象的でした。2代目からは「その土地の最高の魚をちゃんと覚えておきな」と。「この店ではそういうものを使ってるから、今は分からなくても、味をちゃんと覚えておきなさい」と言っていただきました。3代目は、1番仕事を教えてくれた兄貴みたいな方。その方には「原点を知ることの大切さ」を教えていただきましたね。
-どれも素敵な教えですね。その後はどのように修業時代を過ごされたのでしょうか。
5年間そこでお世話になり、ある程度魚も触れるようになって、変にできてると思っていた自分もいたんです。でも「このままではあかんな」という気持ちがあったので、そのタイミングで辞めさせていただいて、次はカウンターだけのお寿司屋さんで修業を始めました。そこの親方からは、仕事はもちろん生き方の部分で、勉強させていただきました。寿司を握ることはもちろん、毎日鍋を綺麗に磨き続けることの大切さ、と言いますか。常に0.5歩、1歩先のことを見続けることの大事さと難しさを学びました。2年8か月ほどお世話になりましたが、本当に毎日、洗い物をさせていただいていて。その時は辛かったのですが、今、同じ立場に立ってみると、洗い物しか任せられない人を雇う側の方が実は厳しいことだったと思います。だからこそ、親方にはすごく感謝していますね。
-その後「すし うえだ」をオープンされるまでの経緯についてお聞かせください。
その頃、子供が誕生したのもあって。あと5年、10年修業に行きたい気持ちもありましたが、色々なことを踏まえて自分でやるしかないと独立を目指しました。そこから勉強のため食べ歩きを始め、行った先で気になる店があれば「研修させてください」と申し出て、働かせてもらうのを1年間くらい続けました。
そのなかでも、特に印象的な3軒があります。まず1つ目は、愛媛県にある「くるますし」さんですね。“その土地で仕事をすることの意味”ということを勉強させてもらいました。親方は自分の仕事や愛媛の魚についてなど、何も包み隠さずに教えてくれたんです。その時に「兵庫の魚はどんな感じなん、とか兵庫県はどんな感じなん」と、聞いてくださることがあって。なのに当時の自分は、自分が仕事をしている土地の魅力を100パーセント伝えることができなかったんです。食べ歩きを重ねて、ついつい東京や今の自分がいる場所じゃないところに目が行ってしまっていて。「自分は何をやっていたんだ」と顧みるきっかけになりました。
最初の修業先の兄さんが言ってくれた言葉でもありますが「原点を知ることの大切さ」を改めて思い出し、淡路島に戻って、漁師さんのところに研修に行ったりもしました。そこから、食材の命が生まれ、育まれている場所でしか感じられないことを、より勉強させていただくようになりましたね。
-色々な方からのお言葉、出会いがご自身の中でも繋がっていかれたんですね。
そうなんです。点と点が繋がる瞬間が多い1年間でした。その後は北新地にある「緒乃」さんで、お世話になりました。小野孝太さんとはふるさとが近く、知り合いだったのもあり、声を掛けていただきました。「今やってる漁師の仕事だったり、食べ歩きもすごい大事だけど、寿司職人として、寿司を握り続けることが1番大事だぞ」と言ってくれました。そこから「緒乃」さんのコースの締めで、寿司を握らせていただいて、色々なお客様にご挨拶をさせていただきました。
あとは、3、4か月ほどお昼に間借りをさしてもらって、寿司ランチの営業をしていました。当時、店が芦屋にあり縁もゆかりもない場所だったので、道を歩いてる人にビラを配りながらなんとかやっていました。こんな自分が店をできるのかなって思っているような時ですら、小野さんはずっと「大丈夫や」って言い続けてくれた唯一の人でもあって。小野さんとのご縁がなければ、今の自分はないと思いますね。
そんな小野さんとのご縁で、当時、京都にあるオーベルジュで料理長をされていた鈴木吉寿さん(現「東山 吉寿」)に出会いまして。鈴木さんも「いつでも仕事を見においで」と言ってくれたので、研修に行かせていただき、チームで仕事をするうえで人を率いることの難しさと大切さを学ばせていただきました。ほかにも「場所問わずどこでも行くので、寿司を握れる場所があれば呼んでください」と、チャンスがあればお客様の前に立ち続けました。
“豊かな兵庫県の土地の命を感じてほしい”という想いで開業
-2018年、地元兵庫県で「すし うえだ」をオープン。店のコンセプトについてお聞かせください。
兵庫県って、瀬戸内海が大阪湾から姫路まであって、淡路島や日本海もある、食材が豊かな土地なんです。だからこそ、ここでしか表現できないことがいっぱいあると思っていますし、空間・食すべてを通じて、思いっきり“土地の命を感じてもらえる店”を目指しています。
-空間づくりのこだわりについてはいかがでしょうか。
空間も含めて“この土地を感じてもらいたい”という思いで、素材選びなどを大事にしました。カウンターには但馬産の檜を使用していたり、壁には淡路島の土を塗り込んでいたりします。ただ、寿司が最も引き立つ空間にしたい、とも考えていたので、天然の素材を使って、なるべくシンプルに仕上げていただきました。
食材の魅力を最大限に引き立てる「すし うえだ」ならではの1貫
-「すし うえだ」ならではの寿司を作りあげるうえで“握り”へのこだわりをお聞かせください。
まず、魚の食感・旨味・香りなどを全部ギリギリまで欲張るのが僕の好きなスタイルでもあり、海が近いこの土地でしか表現できないことだと思っています。新鮮な土地の魚を、美味しく寿司にできるよう、それぞれに1番合う酢飯を炊いて、握るのが僕の仕事ですね。海が近いこの場所だからこそ、漁師さん・仲買さん・魚屋さん含めてみんなの顔が見えていることも僕や店の強みでもあります。それぞれに役割があり、みんながちゃんと繋いでくれるからこそ、表現できることでもあるんですよね。きちんとその魚の状態を見極め、最高の状態に仕上げられるように仕事をしています。
-シャリについてはどのような特徴がございますか。
今は、2種類の米酢をブレンドしたシャリを使用しています。シャリとの掛け算で、魚の香りや旨味などが最大限に引き立つ状態になるように用意をしています。
-漁師の経験もお持ちとのことですが、どのような点を重視し、食材を仕入れていらっしゃいますか。
やはり兵庫県のものにこだわって、仕入れています。そのうえで、各プロフェッショナルの業者さんそれぞれと情報共有をすごく大事にしています。店を続けるなかで、各業者さんがうちの好きなスタイルを理解したうえで魚を持ってきてくださるのが、誇らしいことでもありますね。良い食材があった時に、嬉しそうに連絡をくれると自分も嬉しいし、その気持ちがお客さんに伝わったら何よりです。
業者さんから色々なことを研究させてもらったりもするし、本当に僕1人で完成するものは何1つとしてなくて。同じ思いで仕事ができる皆さんの協力も含めて完成する、この土地ありきのスタイルではあります。
-これだけは味わってほしい逸品についてお聞かせください。
季節によっても変わるし、これと言うのは難しいですが、強いてあげるとしたら「鯛の刺身」です。漁師さんと店を繋ぐ、目利きの鶴谷さんっていう、鯛を〆るスペシャリストから仕入れているものです。1年中表情は変わるけど、やっぱり明石と言えば鯛というのもあり、ここならではの逸品になっていると思います。
あとは「蒸しあわび」も味わって欲しい品の1つです。なるべく獲ってから時間をかけずに持ってきてもらっていて、新鮮な状態で調理に掛かれるからこそ、あわびが食べた海藻や、日本海の香りがするのが特徴です。すぐに持ってきてくれる人がいるからこそ提供できていますね。
-唎酒師の資格もお持ちとのことですが、植田様ならではの日本酒やワインとのマリアージュについてお聞かせください。
1番は料理や、寿司が引き立つラインナップを心がけています。ただ最近は、お客様の好みに合わせて提供できることも素敵なことだと思っているので、幅広く用意させてもらってます。料理との相性やお客様の好みなど、それぞれの楽しみ方をしてもらえると思います。
人を育て、みんなが輝く店づくりをしていきたい
-現在挑戦されていることや今後、取り組んでいかれたいことについてお聞かせください。
店には僕を含めて4人いるのですが、人を育てることも文化を繋ぐうえで大事なことだと思っています。近い将来には移転も考えているので、いいチーム作りをすることは頑張らなければならない課題だと思っています。それぞれに役割が違うなかで、みんなが日々輝くような場所にしていきたいです。そのうえでお客様にもご満足していただけるお店づくりをできるよう、今後もひたすらに精進いたします。
***
植田将道氏 プロフィール
兵庫県・淡路島出身。16歳から料理の世界へ入り、寿司店や割烹料理店で研鑽を重ねるなかで、次第に寿司に魅了をされていく。様々な名店での修業や、原点を知るために漁師などの経験も積み、2018年11月に「すし うえだ」を開店。『ゴ・エ・ミヨ 2020』にて「期待の若手シェフ」を受賞。『ゴ・エ・ミヨ 2022』からは、3年連続で3トックを獲得している。
***
【編集後記】
修業先の親方から受けた言葉、それに対する植田氏の想いに私自身も感銘を受けたインタビューとなりました。洗練された空間のなか、豊かな兵庫県の食材と植田氏の技術で生み出される渾身の1貫をいただける「すし うえだ」。きっとその土地ならではの魅力を存分に味わえる食体験となることでしょう。ゆったりと特別な時間を味わいに、訪れてみてはいかがでしょうか。
※こちらの記事は2024年08月15日作成時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。