長崎「villa del nido」吉田貴文氏に聞く、自然や食材の豊かさに向き合い生み出されるイタリアンとは

長崎県、島原鉄道・多比良駅から徒歩約15分、のどかな田園風景に佇む一軒家レストラン「villa del nido」。その土地の自然・食材に向き合い生み出される、ここでしか味わえない一皿が評判を呼んでいます。今回は、シェフ・吉田貴文氏にインタビューを実施。お店のコンセプトや料理への想い、今後の展望についてなど、多岐にわたってお話を伺いました。

“本質に向き合う”在り方に感銘を受けた修業時代

まずは、料理の道に入られたきっかけをお聞かせください。

元々は大学に行って警察官を目指していたんですが、料理店でのアルバイトをきっかけに、一転して料理人を目指すようになりました。料理を作って、美味しいと言われたら「楽しいな、嬉しいな」という気持ちになって、それが積み重なってもっと上手くなりたいと思うようになりました。そこで続けるうちに、どんどん面白さに気づいてはまっていったのが僕の料理人としてのはじまりです。その後、福岡で修業を重ねて、26歳の時にイタリアへ渡りました。

-イタリア現地でのご経験で、印象に残っていることや現在に活かされていることはございますか。

現地で感じたのは、その土地とか自然とか、目の前のことに深く向き合っているということ。損得勘定ではなく、それよりも大事なものや本質的なものにみんなが向き合っている印象がすごく強かったです。例えば、料理ひとつをとっても「これとこの食材は絶対に合わせないだろうな」と思うことでも、目の前にあるものを最大限活かすために、組み合わせていたりする。世の中には出ていなくても、現地にはそういった料理がたくさんあるんです。

“目の前のことに向き合う”という感覚は今でも大切にしていて、開業の際もそうですし、自分が色々な選択する時に、考え方のベースになっています。

“故郷の自然に向き合う”ことを決意し、地元にて開業

-帰国後「villa del nido」をオープンされるまでの経緯をお聞かせください。

修業時代は福岡で過ごしていたので、イタリアから帰ってきた当初は、福岡の街中にお店を出したいとずっと考えていました。でも、ちょうどその時期ぐらいから、目の前の自然と向き合っている人たちと出会う機会が増えていったんです。例えば、海辺のカフェで働いていた時に出会ったサーファーの人たち。実際にお金にはならないけど、海辺にゴミ拾いに行ったり、山を守るために、木を適量切ってそれを乾燥させて薪にしたりしていたんです。

「すごくかっこいいことをしているな」と思ったのと同時に、イタリアでもこんな感覚だったなと繋がり、ハッとしました。そこから切り替えて、イタリアで感じたあの時のように、自分の中での本質や目の前の自然にも向き合いたいと思って、地元の長崎県雲仙市に帰って、お店を出す方向に切り替えました。

-お店を開業するにあたり、コンセプトや店名に込められた想いについてお聞かせください。

「villa del nido(ヴィッラ デル ニード)」という店名ですが、まず「nido(ニード)」っていう言葉がイタリア語で“鳥の巣”とか“ふるさと”みたいな意味。「villa(ヴィッラ)」が“別荘”や“建物”という意味なので、造語っぽくなるのですが“ふるさとにある別荘”みたいな意味合いを持つ店名にしました。世界中の人たちが、自分のふるさとや別荘のように感じられるレストランになったらいいな、と思っています。

-素敵な店名ですね。店内も木のぬくもりをたっぷり感じる空間かと思います。お店や空間づくりについてはどのようなこだわりをお持ちでしょうか。

周りは畑や民家もあるし、ありのままの生活感がいいなと感じる、リアルな田舎です(笑)。空間は、数年前に内装だけをリニューアルしました。僕個人が、森の雰囲気を素敵だと思っていて。森って、神秘的な感じもあれば、心が洗われるような不思議な感覚がありますよね。そういった空間の中で食事をしていただきたく、内装は森をイメージしました。

心が込められた食材を、渾身の一皿に昇華する

-吉田シェフならではの料理の特徴とはどのようなものでしょうか。

常に料理を作るうえで考えているのが“この土地、この場所で僕ができることは何か”ということ。よく地産地消とかも言われるんですけど、実は、そういうのを意識しているわけでもなくて。実際は、自分が本当に使いたい、使うべきと思う食材で料理をすること、その食材の伸びしろを伸ばしきれるかという感覚で料理をしています。

食材は、4番バッターのようなスター食材を使うわけではなく、それ以外の食材もたくさん使ったりします。ただ、めちゃくちゃ心を込めて作られた食材を優先的に使っている感じですね。その食材をどこまで伸ばせるかと考えて、いつも作っています。

ただ、実際に思いを込めて仕事をされている生産者さんたちと会って話をして、この人の食材を使いたいと思うので、結果的に95パーセントくらいは島原産の食材で、結果的に地産地消にはなっていますね。ただ、そこに捉われるつもりはないです。これからも、もっと色々な人との繋がりが新しく生まれて、それが長崎県以外の人だったら使わないかって言ったら、そんなことはなくて。県外の方でも遠くでも、その人がリスペクトできる人や食材であれば、使用したいと思っています。

-実際に食材を仕入れる際はどのようなポイントを大切にされていらっしゃいますか。

大前提として、自分の中では“ナチュラル・自然に作られたもの”というのは絶対大切にしているポイントです。あとは、リスクを背負った栽培方法をしていたり、手間が掛かりすぎてビジネスにならないようなことを敢えてやっている生産者さんが周りにいるので、そういった部分には惹かれます。

-具体的にどういう食材なのでしょうか。

うちが使っているのは「竹田かたつむり農園」さんの野菜です。もちろん無農薬有機栽培なのですが、そこは種採り栽培をしている農家さんです。要は、自分たちで作物から種を採って、またその種を使って栽培する方法をとられています。

実際やるとなると、リスクと手間が大きくて。この方法だと、畑が使えない時間が他の農家さんの2倍、3倍になってくる。ということは、自然と収穫量は、2分の1、3分の1になるような栽培方法です。でも、その人が選んだ種から生まれるその野菜は、年々その親の種に似ていくので、その繰り返しで、どんどんその人らしいセンスや好みの野菜になっていく。短期間ではできない、その人ならではの美味しい味になっていくのがすごく面白いです。

-大変な手間ひまを掛けて、作られた野菜なんですね。他にはどんなこだわりの食材を仕入れていらっしゃいますか。

そうですね。全ての食材にこだわりがあるのですが、例えば、地元で獲れる魚とは別に、モリ突き師さんから魚を仕入れています。元々、五島でモリ突きをしていて、今は種子島に拠点を変えて活動されている漁師さんです。その方は、素潜りをして、モリで魚の脳天を1発で突き、そのまま血抜きと神経締めをして、海中で全ての処理を終えてから、引き上げる漁のスタイルです。

なので、漁の最中に暴れる工程がないんですね。暴れないってことは味に直結するので美味しいし、しかも狙ったものしか取らないので、環境的にもすごくいいと僕は思っていて、尊敬している漁師さんのひとりです。

-そんな厳選食材を使用されて生み出される、こだわりの一品は何でしょうか。

基本的には入る食材に合わせて、メニューを変えていますが、先ほどお話したモリ突き師さんから仕入れた魚を使用したメニューは、結構定番で「モリ突き海中神経締め」というメニューです。元々のポテンシャルが高い魚に、発酵の調理法を合わせて提供しています。僕のコースの中では、言ったら結構4番バッター的な立ち位置の料理で、子供から年配の方まで美味しいと思える味なのかなと思っています。

-発酵を用いていらっしゃるとのことですが、取り入れられたご理由や魅力についてお聞かせください。

発酵を取り入れたのは、海外のシェフたちが使用し始めた時に、興味をもったのがきっかけで、今は、乳酸系や麴系の発酵調理法を主に用いています。実際、自分のスタイルに合っていたし、理にかなっていることが多かったんです。地方のお店で席数が少ない中でやっていると、やっぱり農家さんが抱えている食材に対して、お店で使える量がすごく少なくて。なので、使ってほしい野菜とかがたくさんある時は、発酵をさせることで保存食として長く使えるようになります。

あと、発酵から生まれる旨味が、自分が美味しいと思うイメージにフィットするところもすごく多くて。発酵を前面に出すっていうより、この食材をちょっとだけ後押しするみたいな形で使うと、日本人らしい、みんながほっとするような旨味のある理想系に近づきますね。

-その他ドリンクやおもてなしへのこだわりはいかがでしょうか。

ドリンクはペアリングを主軸にしているので、自分の料理に合うワインっていうのを用意しています。自分がイタリアにいた期間も長いので、自然とイタリアワインが多めのラインナップです。おもてなしに関しては、今、妻と2人でお店に立っていて、まだ課題はありますけど、心を込めてお客様をお迎えしています。

自分を掘り下げ、本物のオリジナルを生んでいきたい

-現在挑戦されていることや今後取り組んでみたいことについてお聞かせください。

今40代に入って、30代とだいぶ考えが変わってきました。「ここのお店みたいになりたいとか、ああいうスタイルになりたい」っていうのも、もちろんあるんですけど、それよりも、自分自身ともっと向き合い続けることが大事なのかなって思っています。

自分を掘り下げて、自分らしさを追求したら、お店も年々どんどん自分らしくなって、オリジナルが自然と生まれてくるのかな、と感じています。意図的にオリジナルを作り出すんじゃなくて、自分と向き合い続ける何年もの時間が、本物のオリジナルを生むんじゃないかと考えるようになりました。きっとそれができたら、40代より50代がもっと素敵になって、その先がもっと素敵になっていくのかなと。今後は、そのように進んでいきたいです。

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吉田貴文氏 プロフィール
1981年、長崎県雲仙市国見町生まれ。大学卒業後料理人の道を志す。福岡で修業を重ね、26歳で渡伊。ピエモンテで経験を積み、帰国後2015年に「villa del nido」をオープン。2019年度『ミシュランガイド福岡・佐賀・長崎2019特別版』にて一つ星に輝く。2023年にはジャパンタイムズ主催の「Destination Restaurants 2023」に選出される。

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https://www.instagram.com/villadelnido/?hl=ja

【編集後記】

森の中にいるような、あたたかみのある空間でいただく吉田シェフならではの一皿。きっと、その土地の豊かさや本質的な価値に気づく食体験となるでしょう。ここならではの美食を求めて、旅してでも訪れたい一軒です。

※こちらの記事は2024年06月12日作成時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。

Kanaka.S

大学卒業後、ウェディング業界を経て株式会社一休へ。一休.comレストランの営業として約200店舗を担当した後、編集部へジョイン。演奏家の父の影響で幼い頃から舞台芸術に触れ、自身も“人に感動に届ける仕事をしたい”という想いを持つ。プライベートでは、好きなエリアのレストランを開拓して、お気に入りを見つけるのが趣味のひとつ。皆さんの“こころに贅沢な時間”に繋がりますように、素敵なレストランの魅力をたっぷりとお届けいたします!

好きなお店:HOMMAGE・L'AS・Balcony by 6th
気になるお店:le sputnik・apothéose・CIRPAS・PRIMO PASSO

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