京都「魚菜料理 縄屋」吉岡幸宣氏に聞く、鮮魚と自家栽培の野菜で紡ぐ京丹後だからこその料理とは

京都の中心部から車で約2時間。“海の京都”とも言われる京丹後に暖簾を掲げる「魚菜料理 縄屋」。鮮魚と自家菜園や有機農園で育った新鮮な野菜を合わせた、ここでしか味わえない一皿が、多くのゲストを魅了します。
今回は、店主・吉岡幸宣氏にインタビュー。「魚菜料理 縄屋」らしさを追求した料理について、語っていただきました。

―ご実家が仕出し屋さんをやられていたということで、料理が身近にあったかと思います。幼少期から料理の道に進もうと考えていたのですか?

子供の頃はコックさんがかっこいいなと憧れ、小学校の卒業文集に「フランスへ留学をして料理を学びたい」と書いていました。

―コックさんに憧れていたのですね!そこから和食の道に行かれたのはなぜですか?

うちの父は元々会社勤めをしていたのですが、仕事を辞めてそこから調理師学校に通い、仕出し屋を開業したんです。料理というより“ものづくり”が好きだったようですが、料理は母が中心となって作っていました。中学生の頃、父が亡くなったのをきっかけに「家業を継ぐにはどうするのか」という考えにシフトチェンジし、高校卒業後の進路では和食の道に進みました。

―高校卒業後は大阪にあるホテルで働かれたそうですね。

ホテルで修業をした後は京都にある和食店で働き、その後「室町和久傳」で修業をしました。

―「和久傳」では6年間研鑽を積んだそうですが、今も活かされていることはありますか?

よく言われていたのは「自分のお店だと思い、どう動いたらいいかを考えて行動しなさい」ということ。それは独立する上で重要な視点だと感じました。あとは女将さんによく言われていた「大胆に、繊細に」という言葉は、今も活かされています。それは「和久傳」に限らず自分のお店にも応用できますし、今もその言葉を大切にした料理を目指しています。

―32歳でご実家を継がれ「魚菜料理 縄屋」を開業されました。お店がある京都・丹後エリアは都心から離れた場所にあるかと思いますが、元々この地でお店をやると決めていたのですか?

僕はあまり沢山の人と一緒に仕事をするというのが得意ではなくて(笑)。都心だと時間的な制約も多いですし、そういった場所より地元でゆったりとお店ができたらと、京丹後に戻ってきました。
そして「素材に近い場所でお店をやりたい」という想いが強かったのもあります。小さい頃に食べていた美味しい食材や味は、生産現場に近い場所で食べるからこそだと思っていて、そういった味はやはりここでしかできません。そんな食材を使って料理がしたいという気持ちがありました。

―「魚菜料理 縄屋」は素材の味を活かした料理が魅力の1つかと思います。魚介類に関しても地元のものが中心ですか?

メインは丹後エリアで水揚げされたものになりますが、仲良くさせてもらっている魚屋さんや漁師の方々からも仕入れています。今は逗子の魚屋さん、愛媛の漁師さん、そして丹後からですね。

―野菜に関しては、自家菜園をやられているそうですね。

野菜はほぼ自家菜園で収穫されたものと、近くにある有機栽培の農家で育ったものを使っています。僕は香りや味に特徴がある野菜が好きなので、どちらかというとそういったものを作りたくて、種を買って育てることが多いです。

―「こんな料理が作りたい」と考え、それを作るためにはこの野菜が必要……みたいな流れで、育てる野菜を決めているのですか?

最初からそうできたわけではないのですが。まずは「和久傳」で学んだことをいかに忠実にできるかというところから始まり、徐々に自分の料理を作ることを目指しました。だんだんと「こういう料理がつくりたい」という気持ちから、それに合わせて「こういう野菜を使いたい」という気持ちが芽生えてきました。そこから「自分でこの野菜をつくってしまおう」というような流れですね。

―冬の時期は何が収穫できるのですか?

冬の雪が降る頃までは、意外と種類豊富に栽培ができるんです。今はからし水菜や壬生菜、ルッコラなどを収穫しています。あとは1人1本食べられるような、小さなほうれん草やブロッコリー。大根系は赤大根、緑大根、聖護院大根、辛味大根など、7種類くらい育てています。

―すごい量の野菜を自家菜園で栽培されているのですね!そんな野菜をどのように使っているのですか?

例えばカブや人参ですと、根っこの部分は前菜に使い、葉っぱの部分はソースに使う……など、なるべく全てを使い切れるようにメニューを考えています。
また、野菜を炊くと野菜自体から出汁が出るんですね。なので、椀物を作る際は魚のアラで出汁を取り、そこに野菜の出汁を加えています。そうすることで、野菜のうま味が魚の出汁のなかに溶け込み、唯一無二の味わいになるんです。そういった使い方をしています。

―素材はもちろん、調理法に関してもスチームコンベクションや真空包装機を使用するなど、特徴的ですね。

お店を開業して17年になりますが、開店当初からスチームコンベクションは利用しています。真空包装機は、減圧することにより素材に出汁を染み込ませることができるので、こちらも昔から使用しています。

―その他、薪火を使った調理方法も「魚菜料理 縄屋」ならではです。

3年前に改装したのですが、薪火料理はそのタイミングから始めました。

―なぜ薪火料理を始めたのですか?

炭火は火が付いた時点から火力をずっと維持するのですが、薪火は最初に勢いよく炎が出て、それが熾になり、炭化するというサイクルが早いです。
なので、炎が出ている時にできる調理、熾になって炭化した時にできる調理、灰になって火が落ち着いてからできる調理と、炎の段階により色々な調理法ができるんですね。
そういった特性を活かして料理ができるのが魅力的です。また、熱源として食材に伝わる熱の美味しさが他に比べて素晴らしいので、薪火料理を導入しました。
料理に関してはもちろん、以前は冬場になるとファンヒーターを付けて店内を温めていたのですが、薪火料理を始めてからは客席の足元から温まり、店内の雰囲気も良くなりました。

―焚火を眺めながら店内で過ごせるのは素敵ですね。

「料理を待っている間、薪火を見ていると癒される」というお声もあります。

―吉岡さんが普段料理を作る際に心掛けていることは何ですか?

丹後はわざわざ来る所ですので、ここでしか食べられない、他にはない料理を提供することを心掛けています。ただ単純に素材感だけでなく、そこに「魚菜料理 縄屋」らしさをどう加えるかというのは、一番考えている点ですね。

―吉岡さんが考える「魚菜料理 縄屋」らしさとは、どのようなことですか?

例えば料理で言うと、今の時期だとズワイガニの雌を甲羅盛りにして出されているお店などが多いと思うのですが、それだとどこでも食べられる。なので、うちらしさを出そうと考え、自家菜園で育った野菜を組み合わせます。甲羅には盛り付けますが、薪で焼いた自家菜園の野菜を一緒に付け合わせ、雌のカニはソース代わりにして野菜と一緒に全て食べてもらうような料理を出しています。
自分の作った野菜と魚や肉を合わせ、どうやったら自分らしい料理ができるのかはよく考えていますね。

―身体に優しそうな料理ですね。

素材が持つ美味しさがあるので、過度な味付けが必要なく、身体には優しいと思います。

―店内も吉岡さんのこだわりが詰まった空間かと思うのですが、どのようなコンセプトがあるのでしょうか?

店内は素材感や天然の素材を活かした空間になるよう考えました。土壁や木のカウンター、背面にある煤竹もそうです。壁や天井は和紙になっていたり、障子は以前のお店にあった土壁を練り込んだオリジナルの和紙だったり、昔使っていたものはなるべく活かしています。
暖簾は、この地域にある伝統的な藤織りという、藤ノ木の弦の部分を繊維として作る藤布で母が織ってくれたものです。

―府外のゲストも多いかと思いますが、おもてなしの面で心掛けていることはありますか?

じっくりと料理を味わっていただけるようにしたいと常に思っています。僕1人でお店を切り盛りしていますが、ゆったりと人数を絞って調理ができるよう、今はカウンター8席のみでやらせてもらっています。

―京都の名店とよくコラボレーションをやられていますね。

「Restaurant MOTOI」でのコラボレーション企画

2023年に初めてやらせていただきました。ふるさと納税の関係で「Restaurant MOTOI」さんと仲良くさせていただき、京都市内と丹後でコラボレーションを実施しました。
僕がその時にやってみたいと思っていた料理ジャンルは中華だったのですが、和食とフレンチのシェフが出てきて、中華を提供する……みたいな構成でしたね(笑)。
「Restaurant MOTOI」の前田さんは元々中華をやられていたということもあり、中華の知識なども教えてもらいながら、僕も「こんなことがやってみたい」というのを考えて料理ができたので、とても勉強になりました。

―「cenci」さんとも、やられていたそうですね。

「cenci」でのコラボレーション企画」

「cenci」の坂本さんがちょうどインドにあるレストラン「noon」とコラボレーションをするために渡天され、帰国後すぐだったのもあり、スパイスやインドの発酵食材と、僕が集めた食材を合わせて料理をしました。どんどん知識が蓄積されていくので、とても面白いですね。またお声が掛かればコラボレーションもやっていきたいと考えています。

―今後、吉岡さんが考える目標はありますか?

大それたものはありませんが、今やっていることをブラッシュアップし、そういったところからどんどん新しい料理を作っていけたらと考えています。

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吉岡幸宣氏 プロフィール
1974年、京都府・京丹後生まれ。高校卒業後、大阪のホテルへ就職。その後、京都市内の割烹料理店を経て「室町和久傳」で6年間研鑽を積む。2006年6月、先代からの「仕出しフードショップよしおか」を引き継ぐ形で、日本料理店「魚菜料理 縄屋」として開店。
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日本料理

魚菜料理 縄屋

京都丹後鉄道宮津線 峰山駅 峰山駅よりタクシーで15分

【編集後記】
京都市内から離れているにも関わらず、美食家たちが足繁く通う「魚菜料理 縄屋」。ここならではの料理について、多く語っていただいたのですが、どれも身体に優しそうな一皿ばかりだなと想像できました。さらに吉岡さんの優しいお人柄、お店の柔らかい雰囲気と相まって、心の底から癒されることでしょう。それらが多くの人に愛され続ける所以なのだと感じました。

※こちらの記事は2024年03月29日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。

Minaho Ito

一休.comの宿泊営業から編集部へ。子供を預けて、つかの間の贅沢をレストランで過ごすのが楽しみ。見た目が美しい料理が好きで、イノベーティブ料理やフレンチ・イタリアンがお気に入り。
自分へのご褒美にスイーツ店巡りをすることも多く、行きたいお店リストは常に更新中。

【MY CHOICE】
・最近行ったお店:ラペ (La paix)
・好きなお店:NARISAWA/Crear Bacchus/オテル・ドゥ・ミクニ/ガストロノミー ジョエル・ロブション
・得意料理:イノベーティブ料理/フレンチ/イタリアン
・好きな食材:赤身肉/チーズ

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