名古屋「尾頭橋すみや」角谷進氏にインタビュー!素材と器で季節を魅せる、熟達した割烹料理

名古屋市・金山駅から徒歩約10分。ビルの2階にひっそりと佇む割烹料理「尾頭橋すみや」は、季節毎の旬を集めた本格的な和食が味わえると、多くのゲストが足繁く通うお店です。
今回はそんな「尾頭橋すみや」の店主・角谷進氏にインタビュー。
40年以上和食と向き合い続ける角谷氏の、料理に対するこだわりを伺いました。

出会って25年、開業を決意した相棒の存在

‐まずは料理人を目指されたきっかけをお聞かせください。

「前略、おふくろ様」というドラマがきっかけです。板前のお話だったのですが、中学生の頃に見て、料理人という職業をかっこいいと思うようになりました。
元々、叔父が和食の料理人をしていたということもあり、興味があったのもあります。

‐中学生の頃からの夢を叶えられたのですね。その後、どのような所で修業されていたのですか?

高校を卒業後、栄にある日本料理屋を叔父に紹介してもらい、働きました。「尾頭橋すみや」は開業して今年で17年になりますが、開業する前も今もずっと修業中です。

‐開業はいつ頃から決められていたのですか?

角谷進氏と、太田衣理氏

開業は本当に直前で決めました。じつは私自身にガンが発覚し、それをきっかけに「一度きりの人生、いっそ自分でお店をやってみよう」と感じたんです。
当時、前のお店で一緒に働いてた現在の相棒、太田さんとなら一緒にお店をできると考え、思い切って独立しました。

‐それは大変でしたね。太田さんとはかなり長い付き合いになりますね。

もう25年間、ずっと一緒に働いている相棒です。

思い入れのある地でオープンした「尾頭橋すみや」

‐「尾頭橋すみや」は金山駅から徒歩約10分、繁華街から少し外れているかと思います。この場所を選ばれた理由はありますか?

ここは30年くらい前、元々働いていたお店があった場所なんです。
女将さんが体調を崩されたと伺い、私も思い入れがあった場所なので、もしお店をやるのであればここでやりたいと思いました。なので立地などは一切考えずに決めました。

‐思い入れのある場所で独立されたとのこと、感慨深いものがありますね。さらに2022年にはリニューアルを果たしているかと思います。

ちょうどコロナ禍で、1ヶ月間お店を閉店したタイミングにリニューアルを行いました。以前は靴を脱いで上がる座敷でしたが、年配のお客様も多い中で靴を脱がずに上がれるようにしたいと思い、新装しました。

原点に立ち返り表現する、食材と器で魅せる一皿

‐角谷さんは日本料理一筋で40年以上、やられているかと思います。そんな角谷さんが料理を作る際、最も心掛けていることをお聞かせください。

一番は季節感です。春夏秋冬それぞれの素材がありますが、料理を出された時に「あ、春が来たな」と、飾りや装飾ではない部分でお客様に感じてもらいたいと思っています。
なので私の料理はあまり飾りを施しておらず、器と料理でなるべく季節を感じてもらうことを心掛けています。若い時は、たくさん飾りを施していたんですけどね(笑)。

‐どんどんそぎ落とされていったのですね。なぜそうなっていったのですか?

シンプルに歳を取ったからだと思います。若い頃は味よりもまずは見た目。イメージしたものを、すぐに作っていました。
今はこの食材とこの食材を、こう組み合わせてこの味にしようと、まずは頭に浮かび、そこから「どの器にどう盛り付けよう」となります。本来あるべき考え方をするようになったのだと思います。若い時は味なんて分からないですから(笑)。

‐コースを組み立てる際に、意識されていることはありますか?

味の変化は意識しています。「旬の食材」と「走りの食材」、そして「名残の食材」は必ずどこかに入れるようにしていますね。
基本的に「走り」「旬」「名残」という流れで提供しますが、その逆もしかり。季節の移ろいを、自分の中でストーリー仕立てにし、表現しています。
一皿一皿でも季節感を出すことを心掛けていますが、コースを通しても季節の流れを感じてもらえたらいいなと思っていますね。

‐四季折々を通して旬の味覚を楽しめるのは「尾頭橋すみや」さんがお客様を魅了される1つの理由かと思います。旬の食材の仕入れはどのようにされていますか?

信頼している業者さんと「今は何が旬で獲れるのか」を密に連絡を取り合っています。いつもいいものを調べてくれていますね。野菜は難しいですが、魚介類は、ほぼ天然のものを使用しています。
例えば夏に旬を迎える鮎は専属の釣り師さんがいて、その方が釣った鮎を使用しているんですよ。

‐鮎はどこで獲れるものを使っているのですか?

岐阜や福井が多いです。釣り師さんが情報を得て、一番いい鮎が釣れる場所で釣ってくれた天然ものを提供しています。焼き方にもこだわっていて、一言では言えませんが、頭から全て食べられるようにしているんです。鮎の時期はリピーターの方も多く、夏になると「鮎は食べれますか?」という問い合わせを多くいただきます。

‐時期によって提供される料理が変わるので、季節毎にファンがいる料理が多そうですね。

例えば「姫冬瓜」。これはうちだけのために作っている冬瓜です。
古く、前に勤めていたお店から馴染のお客様が会社を引退され、趣味で作ってくれているもの。
それを使った「姫冬瓜の姿蒸」は、夏から秋にかけて定番なのですが、お客様が「料理に使えないか」と持って来てくださったのがきっかけで、生まれた一品です。

‐そのお客様との繋がりもかなり長いですね。

長いですね。冬瓜以外にも仕入れるというより、いただいていますね(笑)。
その他にも万願寺唐辛子に茄子、ブルーベリーや、花山椒などの貴重なもの、タラの芽や山菜なんかもいただき、料理に使わせてもらっています。
そんな中でも「姫冬瓜の姿蒸」はお客様からのリクエストが多い料理ですね。

‐季節毎の料理はもちろんですが「尾頭橋すみや」さんは、スッポン料理も名物かと思います。1年を通して長崎県のスッポンを仕入れているそうですが、他のスッポンとの違いは何ですか?

長崎県で仕入れているスッポンは、養殖になりますが、育て方が「露地養殖」と言って、天然の状態に近い状態で育てているので、脂の質が違います。

‐どのように違うのですか?

脂が黄色いんです。地熱などを使って早く育てると脂が白くなるんですが、天然のスッポンの脂は真黄色。あっさりした味わいが特徴です。

‐天然ものを仕入れるというこだわりがあるかと思いますが、そんな考え方にも合っていますね。

年間を通して提供する場合、スッポンは養殖のものでないと、質が安定しないんです。本当の天然になると、かなり当たり外れが大きい。さらに取れた場所によって菌がいるなど、とっても扱いづらい食材ですね。

全てはお客様のために、ニーズに寄り添ったおもてなし

‐そんなお料理と合わせるお酒のラインナップを豊富に取り揃えているのも魅力の1つかと思います。

一緒にお店をやっている太田さんが唎酒師の資格を取り、お酒を選んでくれています。
ラインナップとして、愛知県の酒造で作られた日本酒や「ミツボシビール」なども取り扱っているので、料理と一緒に楽しんでいただきたいですね。

‐その他にも、お客様に合わせて〆の土釜のご飯を炊き上げたり、予算毎に相談ができたり、ゲストに寄り添われている印象を受けました。おもてなしの面で心掛けていることはありますか?

私ができるおもてなしは、お客様に喜んでもらえる料理を作るということ。接客に関しては、太田さんが中心に一生懸命やってくれています。
仕入れや仕込みは彼女と一緒にしているので、料理に関してお客様から聞かれたことは何でも答えられますし、お客様にびっくりされることも多いです。

‐料理のことを熟知しているからこそ、料理に合う料理をご提案できたり、料理について詳しくお話ができたりするのですね。

その点は、他にはない魅力の1つだと思っています。

日々修業の身、今以上に料理に向き合う姿勢

‐40年以上、日本料理に携わられていているかと思いますが、最後に今後の展望や目標などがあればお聞かせください。

自分の体力面はもちろん、もう少しのんびりと仕事ができればと思っています。ゆっくりとすることで、今度はじっくりと仕事をしたいですね。

‐冒頭に仰っていた「まだ修業中」という言葉が印象に残っています。

我々は死ぬまで修業の身ですからね。やっとちょっとわかってきたかな、くらいだと思っています。今までいい加減にやっていたのもありますけど(笑)。今後はより一層、真剣に取り組んでいきたいですね。

‐真剣に取り組んでいきたいと思ったタイミングは何ですか?

やはりお客様が「美味しい」「楽しかった」「また来たい」と喜んでくれるのが一番。真剣に取り組んだことにより、そういった反応をいただけたというのがきっかけだったかと思います。
今後もお客様に喜んでもらえるよう、もっと深くまで向き合っていきたいですね。

割烹・小料理

尾頭橋すみや

JR線 金山駅 北西へ徒歩10分

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角谷進氏 プロフィール
1960年、愛知県・碧南市生まれ。中学生の頃に見たドラマに憧れ、高校卒業後に和食の料理人の道に邁進する。栄や錦にあるお店で経験を積んだ後、2006年に「尾頭橋すみや」を開業。2022年にはリニューアルオープンを果たした。
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【編集後記】
40年以上料理の世界にいるにも関わらず「まだ修業の身」と仰っていた角谷さん。ベテランにも関わらず、その考え方に頭が下がる思いでした。
寡黙な雰囲気の中、お客様や料理に対する愛情を感じるインタビューとなりました。熟練の技だからこそ生み出される、季節を感じる“真の日本料理”を存分に味わいたいものです。


※こちらの記事は2023年11月27日作成時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。

Minaho Ito

一休.comの宿泊営業から編集部へ。子供を預けて、つかの間の贅沢をレストランで過ごすのが楽しみ。見た目が美しい料理が好きで、イノベーティブ料理やフレンチ・イタリアンがお気に入り。
自分へのご褒美にスイーツ店巡りをすることも多く、行きたいお店リストは常に更新中。

【MY CHOICE】
・最近行ったお店:ラペ (La paix)
・好きなお店:NARISAWA/Crear Bacchus/オテル・ドゥ・ミクニ/ガストロノミー ジョエル・ロブション
・得意料理:イノベーティブ料理/フレンチ/イタリアン
・好きな食材:赤身肉/チーズ

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