神谷町「空花」脇元かな子氏にインタビュー、旬の食材と細やかな気配りで楽しむ割烹料理

2020年10月、鎌倉にある日本料理店「空花」が、東京・神谷町に移転オープン、さらに2022年にはミシュラン一つ星に輝きました。料理長を務める脇元かな子氏は、名店「日本料理 かんだ」で長年研鑽を積んだ人物。
数少ない女性料理人の中でも存在感を放つ脇元氏に、料理人になったきっかけから新生「空花」の魅力についてなど、多岐に渡って語っていただきました。

ご縁によって生まれた「空花」「茶房 空花」、二店舗のオーナーへ

-まずは料理人になったきっかけをお聞かせください。

実家は農家ではありませんでしたが、子供の頃から家で育てた野菜やお米、手作りの味噌、祖父が釣った魚などを食べていました。
私自身、食に関心があったわけではなかったのですが、今振り返ってみると、そういう経験がきっかけだったのかもしれません。
料理を手伝ううちに母親から「料理が上手だし、栄養士の勉強をしたら」と勧められ、学校に行くことにしました。
当時は女性がバリバリ働くような時代ではなかったので、栄養士であれば結婚する時にも役に立つだろうと思ったんです。なのでまさか自分が料理人になるとは思っていなかったですね。

-そんな中、和食の道に進まれたのはなぜですか?

学校では中華やフレンチなどの授業もありましたが、和食は調理法によって油もあまり使いませんし、塩分も他のジャンルに比べて少ないですよね。
ちゃんと和食を学べば、自然と身体にいい料理を作れるようになるかなと思って、和食の勉強をしたいと思うようになったんです。
特に自分で「将来お店をやりたい」という気持ちもなく、興味のある分野を学ぶために和食の道に進みました。

-名店「日本料理 かんだ」で研鑽を積まれたそうですね。

学校を卒業して1年目くらいの時、今はもうないのですが「婆娑羅」というお店にいた小山裕久さんという料理人の方が書かれた「味の風」という本に衝撃を受けて。
その料理屋さんで働きたいと履歴書を送り、支店で働かせていただくことになったのです。その時の料理長が神田さんでした。
20年以上も前のことですが、お給料もあまりもらえない時代でお金が底を尽きてしまって……。
ちゃんと自活できる職場を探さなくてはと転職したんです。その後色々なお店で働くのですが、ちょうど神田さんが独立して少し経った時「スタッフの募集をしている」とお声がけいただいたのがきかっけでした。
「日本料理 かんだ」に入る前までは、フレンチでパティシエの仕事をしたり、和食のメニュー開発の仕事をしたりもして。私自身、先が定まっていない20代を過ごしていましたね。

-「日本料理 かんだ」に7年間いらっしゃったそうですが、学ばれたことで今に最も活かされていることはなんですか?

食材に対してのこだわりがすごい方で、それはすごく勉強させていただきましたし、お客様に料理をお出しすることの根本的なことを教えていただきました。

-こだわりというのは、特にどのような点ですか?

日本料理はほぼ食材ありきの料理なので、鮮度はもちろん、食材の旬に関して特に学びました。例えば同じ青魚でも、季節によって脂が乗っている時と乗っていない時もありますし、成長し過ぎると皮が固くなります。鱧も出始めの頃は全然脂が乗っていないけど、7月下旬頃にようやく脂が乗ってくるなど。
野菜も同じで、例えばトウモロコシなら季節ごとに甘い時期と甘くない時期がありますよね。全ての食材において、旬と言われる食べ頃があります。
あとやはり命をいただいているので、それを大切にできるように選んでいかなくてはいけないというのは常に考えていますね。

-辞められた後は「AKOMEYA厨房(現AKOMEYA食堂)」に入られたそうですね。

「AKOMEYA厨房」でメニュー開発の仕事をしていましたが、やはり頭で考えたものと実際に作るものはどうしても差が出てしまうので、結局現場に行くことが多くなってしまって。それであれば、器や空間にもこだわって料理をしたいと考えたんです。
そのとき、ご縁があって鎌倉の古民家を5年間貸してくれるというお話をいただき「空花」をオープンしました。

-ご出身は宮崎だと思いますが、なぜ鎌倉にお店を出されたのでしょうか。

鎌倉はすごく好きな場所でよく行っていたのですが、近くに山や海があり、田舎に少し似ている部分もあるんです。
あとはずっと東京で修業していたので、食材の仕入れルートやお客様、知人もほとんど関東にいるんですよね。なので鎌倉に出店しました。
最初「空花」を始めたのですが、だんだん手狭になってきたのもあり、倉庫代わりにもう一つ古民家を借りたんです。
すごく素敵なお庭がある場所で、せっかくであればお庭を眺めながらお茶をお出しできればと思って「茶房 空花」を始めました。

-「空花」という店名の由来をお聞かせください。

日本料理は食材が全てなので、天候や自然に凄く左右されます。なので自然に敬意をはらうということ。そして花には旬の時期があるかと思うんですが、それを大切に心に留めながら料理をしたいという気持ちから、自然を連想させる「空」と旬を表す「花」で「空花」と名付けました。
お店は私だけでなく、関わってくださる皆さんのものにしたいという気持ちもあり、自分の名前にはしなかったんです。

女性ならではの視点で生まれた細やかなサービスとおもてなし

-2020年、神谷町に「空花」を移転オープンされましたが、経緯をお聞かせいただけますか。

鎌倉近隣の食材を使っての地産地消の料理をするのもいいですが、やっぱり豊洲に入る食材との差を感じていました。
天候で海が荒れれば魚が一切手に入らないですとか、野菜も雨が降らなければ枯れてしまい入手できないなど、安定した料理を作るのが難しく感じている部分もあったんです。そういった場合の精神的な負担と、全国各地からいい食材が揃う豊洲に近い東京で、もう一度食材と真剣に向き合って勉強したいと考えて「空花」を移転しました。

-今でも鎌倉からの食材を扱われているそうですね。

やはりうちで人気があるサザエを使った料理や金目鯛などは、あちらの方が鮮度もよくいいものが手に入るので、仕入れています。

-「空花」で特に人気のあるスペシャリテはありますか?

鎌倉の時代から「サザエの揚げ物」は人気が高くて、今でもリクエストされる方が多いです。
また私が以前いた「AKOMEYA厨房」はお米に特化したお店だったこともあり、「空花」でも最後のご飯は常時4~5種類から選んでいただけるようにしています。
今の季節ですと、鮎ご飯や、鱧ご飯などになりますね。少し前ですと桜エビご飯などを提供していました。
また、メイン料理もスッポン料理とお肉のすき焼き、炭火焼きなど、3、4種類から選んでもらえるようにしています。あとは日本料理なのでどうしても定番ではなく、季節で美味しいものをお出ししていますね。

-最後のスイーツに関しても数種類から選べるそうですね。

スイーツは6、7種類から選べるようにしています。「茶房 空花」で提供しているものもあるのですが、ダントツ人気は「酒粕のチーズケーキ」です。
ただ「空花」の場合はコース料理を食べた後になるので、最後はアイスクリームやフルーツのゼリーだけという方も多いです。

-日本料理でここまで選べるのは珍しいかと思います。選ぶ楽しみもありそうですね。

私自身、フレンチレストランに行くことも多いのですが、やはり選べるのは楽しいですよね。
季節毎の旬で召し上がっていただきたいものもあるので全部は無理ですが、最後のメイン料理とご飯、デザートは選んでいただき、ご自身の好きなものを見つけていただければと思っています。

-最後にお抹茶のサービスがあるそうですね。おもてなしの面でのこだわりをお聞かせください。

「茶房 空花」でもお抹茶を立てているのですが、日本人でも飲む機会ってなかなかないですよね。日本食を食べた最後にお抹茶が出てくると、何だか日本人的な気持ちになれたりするかなと。
好き嫌いはあるとは思いますが、最後にお聞きして提供しています。お抹茶もこだわって、色々と飲み比べをして決めました。
ドリンクメニューに「冷抹茶」もあるのですが、それは食中でもいただけるようにスッキリと甘味のないものを福岡の八女から取り寄せています。
最後の一服のお抹茶は、一口二口のお茶になるので、甘味のある京都の宇治抹茶になります。

-他にはない、珍しいおもてなしが喜ばれそうですね。

お皿も20代の頃から集めていた骨董や作家さんのものを使っており、目で見ても楽しめるようにしています。
自分ではあまり意識はしていませんが、女性には特に喜ばれることが多いですね。

東京だからこその刺激と出会いでさらに飛躍する

-女性の料理人はまだ少ないと思います。ご苦労された点や逆に活かされた点はありますか?

昔は労働基準法があってないようなものでしたので長時間労働、ずっと立ちっぱなしで過酷な仕事ではあったかなと感じます。
私の場合、最初に修業していたお店に男性寮があったのに女性寮はなく、お金が底をついてしまったので少し違いますが、そんな点も含めて働き辛かった点はありますよね。どうしてもお酒を提供するお店ということもあり、夜も遅くなってしまいます。
その分「茶房 空花」は閉店時間も早くて女性でも働きやすく、今働いているのはほぼ女性スタッフです。

-「日本料理 かんだ」での修業時代も女性は少なかったのでは?

私が入る前、厨房にいらっしゃったのはほぼ女性の料理人の方だったそうです。神田さんは弟子のことは男女関係なく人として評価してくださる方でしたので。
「茶房 空花」では女性同士だということもあり、近い距離感で話せるのはすごくいいなと思います。例えば今の時期はかき氷を提供しているのですが、どんな味がいいとかどんな果物を使うのかとか、そういった意見交換はしやすいです。
今ようやく女性の料理人の方も少しずつ増えてきていると感じているので、もう少し増えれば、働きやすい環境も整ってくるのではと考えています。

-今後の展望をお聞かせください。

今、色々なお声がけをいただき新たな食材を見に行ったりしているんです。もっと食材を知って、何か新しい料理を生み出していけたらと思いますね。
また鎌倉のお店はリピーターのお客様が多いのですが、東京は新しい出会いや刺激がたくさんあります。色々な人が集まる場所なので、チャンスを逃さずチャレンジしていければいいなと考えています。

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脇元かな子氏 プロフィール
1975年、宮崎県生まれ。当初栄養士を目指し進学するも、途中で和食の料理人に転向。パティシエやメニュー開発の仕事の後「日本料理 かんだ」で7年間研鑽を積む。その後「AKOMEYA厨房」を経て、2016年、鎌倉長谷に古民家を改装した日本料理店「空花」をオープン。2018年「茶房 空花」を開業する。
2020年10月14日、「空花」を神谷町に移転リニューアル。2022年にはミシュラン一つ星に選ばれた。
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日本料理

空花

東京メトロ日比谷線 神谷町駅 徒歩1分

15,000円〜19,999円

※編集後記※
物腰柔らかく、終始穏やかに語ってくださった脇元さん。しかし料理やお店のことになると明確なビジョンを持たれ、着実に歩まれてきたというのがとても伝わったインタビューでした。
旬を取り入れた見た目も美しいお料理と、お客様の「楽しい」を考えたおもてなしを、ぜひ一度体験してみてはいかがでしょうか。

※こちらの記事は2023年08月10日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。

Minaho Ito

一休.comの宿泊営業から編集部へ。子供を預けて、つかの間の贅沢をレストランで過ごすのが楽しみ。見た目が美しい料理が好きで、イノベーティブ料理やフレンチ・イタリアンがお気に入り。
自分へのご褒美にスイーツ店巡りをすることも多く、行きたいお店リストは常に更新中。

【MY CHOICE】
・最近行ったお店:ラペ (La paix)
・好きなお店:NARISAWA/Crear Bacchus/オテル・ドゥ・ミクニ/ガストロノミー ジョエル・ロブション
・得意料理:イノベーティブ料理/フレンチ/イタリアン
・好きな食材:赤身肉/チーズ

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