森下「BLESS」藤本洋平氏・水村俊一氏に聞く、個性的な空間で味わう焼鳥とイタリアンの魅力とは

森下駅から歩いて3分ほどの場所に佇む「BLESS」は、アメリカンな雰囲気の建物が印象的な“トリとワインの店”として注目を集めています。2023年3月のリニューアルにより、新しいスタイルでの営業を始めた同店。今回はオーナーであり焼鳥を担当する・藤本洋平氏、イタリアンを担当するシェフ・水村俊一氏に開業までのエピソードや料理へのこだわりについてお話を伺いました。

北海道の超有名店を経て、東京へ進出し「BLESS」を開業

-まずは、料理人を目指されたきっかけをお聞かせください。

BLESSの藤本洋平氏

僕は北海道出身で、室蘭市の大学に通っていました。在学中は70年以上の歴史がある「やきとりの一平」でアルバイトをしていました。200席もある大きなお店で、焼鳥もあれば魚料理もあるような地域に愛される大衆店。僕自身初めてのアルバイトでしたが、お客様から「美味しかったよ」とか「楽しかったよ」とすぐレスポンスがあり、頑張った分評価される。そうしたシンプルさが魅力的で飲食業への興味を持ち、将来自分もこういうお店を持てたらと思うようになりました。

日に日に思いは強くなり、大学を中退して飲食の世界に飛び込みました。社員になってからはサービスだけではなく“焼き”をやらせてもらえるようになり、どんどんこの世界にのめり込んでいった気がします。あとは、お店の2代目でもある社長がとても良い人で、よく面倒を見てくれて。本当にありがたかったです。

-「やきとりの一平」以外のお店でも修業をされてきたと拝見いたしました。「BLESS」の開業までに、どのようなエピソードがあったのでしょうか。

やきとりの一平ではたくさんの経験をさせていただき不満は無かったのですが、僕が30歳のときに社長が亡くなってしまって。そのとき「このまま田舎の焼鳥屋で終わりたくない」という思いが芽生えました。ただ、いざ独立しようとなったとき、自分が何もできないことに気付かされたんです。例えば、串打ちもパートの人たちがやってくれていたので、僕自身はやったことがありませんでした。

ちょうどその頃に「鳥しき」の池川さんがテレビに出ているのを見かけました。焼鳥を極めて、高級料理として打ち出している業態があることを初めて知って。「かっこいい、僕も人の心を動かせる職人になりたい」と思い、約8年働いた「やきとりの一平」を辞めて、東京へ出ることを決めました。

東京に出てすぐに「鳥しき」へ面接に行ったところ、お弟子さんが営む「焼鳥 おみ乃」をご紹介いただきました。東京で勝負したいという思いや、2年で独立への足がかりをつかみたいと親方にお伝えして、お世話になりました。「焼鳥 おみ乃」を辞めてからは、独立に向けて計画を立てていましたが、色々とうまくいかないことが多かったんです。そのため、ご縁のあった日本料理店や別の焼鳥店などでお手伝いをする日々でした。

その頃によく「焼鳥 おみ乃」時代のお客様にごはんへ連れて行ってもらっていまして、その方が「BLESS」の前身であるお店のオーナーさんでした。ちょうどコロナが流行り始めたタイミングでして「店を閉めるから、よかったらやってみないか」と声を掛けていただいたんです。店舗がとても大きく内外観が洋風で、想定していた物件と大きく異なり悩みましたが「やきとりの一平」で学んだことを活かせるかもしれないと思い、お話をお受けしました。

-開業から現在に至るまでも、様々な出来事があったと思います。当初はテイクアウトのお弁当がとても好評だったそうですね。

当時販売していたお弁当

「BLESS」が開業したのが2020年6月。同年4月にお声掛けいただいてから2か月という短い準備期間のなか開業したので、本当にバタバタしていて。「まずはお弁当を販売しながらオペレーションを確認していこう」と、考えたんです。

ほぼ利益が出ない価格で販売させていただきましたが、それが功を奏したのか、だんだんと販売数が増えていって。お弁当がきっかけでお店を知ってくださる方が増えて、オープンしたら必ず来ますと、嬉しいお声もいただきました。今は当時よりもオペレーションが安定してきたのでお休みしていますが、またいつか作りたいですね。

2023年3月からリニューアル!新しい営業スタイルについて

-これまでのカウンターでは焼鳥、テーブル席ではイタリアンという珍しい営業スタイルを、2023年3月のリニューアル後に大きく変更されたそうですね。

左:イタリアンの水村シェフ 右:藤本氏

開店当初は、30席もある店全体を使って焼鳥のコースをお出ししていたのですが、どうしても料理のクオリティが下がってしまうので、その後はカウンターのみの営業に変更しました。広いお店なのに、カウンターしか使っていなかったんです。

どうしようかと悩み、テーブル席では何か別の料理を出そうかと思っていた頃、ちょうど水村くんが求人に応募してくれて一緒に働くことに。自分は和食しかできないのですが、やはりお店の雰囲気的にイタリアンのほうがしっくりきました。コンセプトも“トリとワインの店”と改め、カウンター席では僕の焼鳥、テーブル席では水村くんのイタリアンを提供するというそれぞれの持ち味を活かせるかたちで営業していました。

1店舗で2業態という珍しいスタイルで1年ほど一緒に働いて、まわりからの評価もいただき僕も水村くんも慣れてきたので「次のステップに進もう」ということになりました。

この物件を初めて見たときにイメージした、「やきとりの一平」のような大衆店のかたちをブラッシュアップして本格的な焼鳥とお料理を同時にたくさんの方に楽しんでいただける、新しいスタイルの焼鳥屋。オープン時は難しかったけれど、今の2人の力を合わせれば必ずできる!と自信がついていました。そうした経緯で、2023年3月からは現在のかたちで営業を始めました。お互い違う畑の人間ですが、一緒にやることによってとても良い刺激をもらっています。

“イタリアンと焼鳥”のようなちょっとしたブームが一昔前にあったんですが、焼鳥にトマトソースを合わせたりするような、ちぐはぐで本末転倒なもので……。そうではなく、メインの肉料理として僕がしっかりとした焼鳥を焼き、前菜やパスタなど“美味しいイタリアン”で、水村くんが脇を固めるという、お互いのクオリティの高さを保ったまま相乗効果を感じられるかたちにしていきたいですね。

以前は夜の二部制で焼鳥のおまかせコースを出していましたが、お客様から「もっと気軽に利用したい」というニーズが多くあったので、今は予約制にせずアラカルトで自由に利用していただいています。やはり焼鳥屋って食べたいときにスッと行ける場所でありたいですからね。

個性が光る「BLESS」ならではの空間づくりにも注目

-個性的なアメリカンダイナー風の造りは、このお店ならではの魅力だと感じます。空間づくりについてのこだわりを、お聞かせいただけますか。

実はこのお店、以前はハンバーガーとかステーキのお店だったんです。もとはただの倉庫だったところを、びっくりするくらいのお金をかけて、ここまでおしゃれに作り変えてくださったそうで。少しずつマイナーチェンジはしていますが、あえてもとの雰囲気を崩さないように心掛けています。

-SNSの投稿で、いつも最後に「God bless you」と書かれていらっしゃるのが印象的です。店名と何か関係があるのでしょうか?

「God bless you」には「あなたに神様の加護がありますように」という意味があるのですが、僕としてはコロナ中にオープンしたこともあって「何か前向きな言葉を添えたいな」と思って書いたのが、始まりですね。また、世界で一番美味しいとされているフランスの「ブレス鶏」にもかけています。修行先で使っている「伊達鶏」は「ブレス鶏」を参考につくられたもので、所縁があるんです。前向きになれるような言葉と美味しい鶏肉の名前をもじったものが「BLESS」という店名の由来になりました。

メインとなる鶏肉の仕入れや、特注の焼き台を使った火入れへのこだわり

-お店で使用する鶏肉やその他の食材について、どのような部分にこだわって仕入れをしていらっしゃいますか。

メインの鶏肉については、オープン時から結構色々なものを試してきましたが、ここ1年くらいは同じものをずっと使っていて。まず、お刺身としてお出ししているのが、宮崎県の「みやざき地頭鶏(じとっこ)」、焼鳥には「高原比内地鶏」と「伊達鶏」を使用しています。

僕は、焼鳥の醍醐味って個性の全く違う色々な部位の良さを突き詰めていくものだと思うんです。でもやはり人間みたいなもので全部が完璧という品種はいなくて、ササミがふわふわな子、レバーが脂ノリノリな子など得意不得意があるんですね。もちろん、丸鶏で仕入れてその品種しか出さないというお店もありますから、1羽丸ごと焼鳥に昇華させるところも、それはそれで素晴らしいことです。

ただ僕は、この品種でこの土地で、誰がどう育てたから、この鶏はこの部位が一番美味しいというような、鶏だからこそできる楽しみ方という部分を大事にしていきたいと思っています。

-特注の焼き台を使用されているそうですが、一般的なものと比べてどのような特徴があるのでしょうか。また、焼き方について意識されていることはありますか。

焼き台は、僕が好きな兵庫県の芦屋にある「永来権(エラゴン)」という人気店の店主さんが設計してくれたものです。特徴としては、一般的な焼き台よりも倍くらいの深さがあるので、炭も倍の量を入れることができます。全部の炭がカンカンに燃えているわけではなく、深さとたくさんの炭があることで空気の通り方が複雑になり、また全体の熱量が大きいのでオーブンのようにじんわりと温めていってくれるんです。

今、お店で扱っているような地鶏は身が締まっているので、強火で焼いてしまうとどうしても硬くなってしまいます。弱火でじっくり火を入れていくことがポイントですね。

-“トリとワインの店”というコンセプトは、リニューアル後の今も継続されていらっしゃるそうですね。ワインのこだわりについてお聞かせください。

正直なところ、僕も最初はワインに全然詳しくなくて日本酒ばかり出していたのですが、こういう雰囲気のお店なので「ワインないの?」って聞かれることが多かったんです。それもあって、別のお店のソムリエさんに監修していただくなど、少しずつ勉強を始めました。

やはり肉とワインはすごく相性が良いと思うので、今はナチュールとかオレンジワイン、あとはやはりイタリアワインを中心に置いています。土着品種が多様で楽しいですし、お客様からも好評ですね。

-様々な料理を振る舞われているなかで、訪れたゲストに「これは食べていただきたい」と思うメニューはありますか。

以前から出している鶏肉のお刺身って、東京ではなかなか食べられるお店がないので、そこは強みとしてこれからもお出ししていきたいですね。あと、テーブル席にも提供することになり、やはり焼き立てすぐを召し上がっていただくのが難しいです。なので冷めづらく、時間が経っても柔らかでジューシーさを保てるように肉の選定から串打ち、焼きまで根本的に見直しました。

新生「BLESS」で切磋琢磨しながら、自らの目標に向かっていきたい

-今後の展望や、挑戦していきたいことについてお聞かせください。

ちょっと恥ずかしいのですが、実は僕SNSで“焼鳥日本一なりたいマン”と名乗っていて、その名のとおり“焼鳥で日本一になる”という目標を掲げているんです。今の焼鳥業界では、やはり「鳥しき」がトップクラスですから、そこに追いつけ追い越せの精神で頑張りたいと思っています。

ただ、その目標をこの店舗で実現するのは難しいかもしれないという思いもあって。将来は、和食と焼鳥をコースでお出しできるような小さなお店をやりたいなと考えています。もちろん、それを叶えるためには「BLESS」を成功へ導くことが必要。まずはここを軌道に乗せてから、自分が本当にやりたいことを追求していきたいです。

-最後に、引き続きイタリアンを担当される水村シェフからも、今後の展望を聞かせていただければと思います。この先について何か考えていることはありますか?

僕も同じですね。やはりこの業界に入ってから変わらず目標にしてきたのが、独立することです。年齢を重ねるごとに自分なりの歩み方で目標に近づけてきていますが、料理人としての本当のスタートは、独立してからだと思っています。まずは「BLESS」を軸にこれからも頑張っていきたいですね。

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藤本洋平氏 プロフィール
1987年生まれ、北海道出身。大学在学中に飲食業の魅力に触れ、「やきとりの一平」で修業を始める。さらに技術を磨くため30歳で上京。「焼鳥 おみ乃」や日本料理店などで経験を積みコロナ禍の2020年に「BLESS」を開く。

水村俊一氏 プロフィール
1990年生まれ。調理専門学校を卒業後、「Ristorante SILVERADO(リストランテ シルベラード)」などを経て渡伊。プーリアを中心に修業し、帰国後「TACUBO」のオープニングスタッフに。「COURTESY(コーテシー)」ではシェフに抜擢。コロナ禍で休業が続くなか、新しいチャレンジをと「BLESS」に入社。

焼鳥

BLESS

都営新宿線、都営大江戸線 森下駅 徒歩3分

6,000円〜7,999円

■編集後記■
北海道の超有名店「やきとりの一平」で長い間研鑽を積まれてきた藤本氏。インタビュー中は時折冗談を交えながら、気さくに対応してくださいました。イタリアンを担当する水村シェフとは、切磋琢磨しながら良い関係が築けているご様子。藤本氏だけでなく、水村シェフもゆくゆくは独立を考えているとのことでした。まずは、新生「BLESS」で頑張っていきたいと話してくださったお二人から、今後も目が離せません。

※こちらの記事は2024年11月29日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。

Yuri

校正の仕事に興味を持ち、スクールを経て一休コンシェルジュ編集部へ。好き嫌いはほぼなし。食べることが大好きで、どんなものでも美味しく・楽しくいただきます。編集部メンバーとのお店巡りが最近のマイブーム。もう少しお酒が強くなりたいと思う今日この頃です。

【MY CHOICE】
・最近行ったお店:さ行/デンクシフロリ/BLESS/レストラン プルニエ/ラフィナージュ

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