麻布十番に位置し、長年に渡りゲストを魅了し続ける「中国飯店 富麗華」。中国飯店グループの1つであり、上海料理と広東料理の融合を楽しめる中国料理の名店の1つです。今回は、副支配人・長橋大輔氏、料理長・石嵐氏に、「富麗華」創業にあたるエピソードからこだわりの逸品について、そして今後挑戦したいことなど多岐に渡って伺いました。
本場上海と広東料理の融合を楽しめるお店として麻布十番に誕生
―2000年11月に、中国飯店グループの4番目の店舗とした開業された「富麗華」の誕生の経緯をお聞かせください。
副支配人・長橋大輔様(以下:長橋):私達のルーツは、六本木にある中国飯店になります。長い間六本木店、三田店、市ヶ谷店の3店舗で営業してきましたが、社長である中条富造が理想とするレストランを体現する形で、ここ麻布十番に初めての自社ビルである「富麗華」が誕生することになりました。既存の3店舗に関しては、中条の出身地である上海料理を提供していましたが、「富麗華」に関しては上海料理に加え、広東料理も提供することにしました。そこで上海や香港から現地のシェフを呼び寄せて、当時では珍しい本場の広東料理と上海料理を楽しめる中国料理レストランを開業しました。
―「富麗華」のコンセプトについてお聞かせください。
長橋:「西洋と東洋」「素朴と洗練」「クラシックとモダン」の融合です。現代的で洗練された西洋をベースに、中国の素朴さを掛け合わせています。
広東料理用と上海料理用、それぞれのキッチンがあるからこそ出せる本物の味
―広東料理と上海料理の融合を楽しめる「富麗華」ならではのお料理についてお聞かせください。
料理長・石嵐様(以下:石):「富麗華」にはキッチンが2つあり、2階に広東料理チーム、1階には上海料理チームを擁しています。私は上海の隣にある蘇州出身で、お店が開業するタイミングで来日しました。もうそれから23年になります。開業当時は調理スタッフとして上海料理を担当していましたが、今は総料理長として両方のキッチンを見ています。
開業当時の「富麗華」は非常に革新的な存在だったと思います。香港から点心師、板場師、鍋師、焼きもの師と、本場のスタッフをチームまるごと連れてきていましたので。本格的な中国料理を提供していました。
長橋:今でも料理スタッフの6割が中国人ということもあり、本場ならではの味わいを提供できていると思います。コースは、料理を通して「クラシックとモダン」の融合も楽しんでいただけるように、香港というモダンで洗練された外国の文化を取り入れてきた広東料理のあとに、クラシックな上海料理が続くので、緩急のある非常に表情豊かなコースになるように計算しています。この融合もキッチンが1つしかなかったら、ここまで表現するのは難しいと思います。2つキッチンがあることで、それぞれの料理の特徴を全力で表現できていると思います。
―先ほど仰っていたコンセプトの1つ「モダンとクラシック」の融合ですね。
そうですね。ただ、23年経つ中で全く同じことをやっていたら時代遅れになってしまいますので、内装を変えてみたり、お料理も日本の四季を取り入れた旬の食材を使ってみたり、新たな融合を取り入れようと日々変化させています。
―メニュー開発は、料理長のみではなくチームで作っていらっしゃると伺いました。メニューを作る時はどういった流れで作られているんでしょうか?
長橋:季節ごと、大体2か月ごとにメニューを変えています。メニューを考える際は素材を起点に考えるので、他のレストランで食べたメニューや、日々買い物をしている時に手に取った食材などからも発想を得たりしています。
―毎月新しいメニューを作るのは大変そうですが、苦労されている部分はございますか?
石:いつも調理スタッフと、どういう調理法、調味料が良いかを相談しあっています。月に1回、責任者なども含めて試食会を実施していますが、それ以外にも調理の合間を見つけては試作品を作り、試行錯誤しています。試食会では、点心やデザートも含めて10品くらい出しますが、最終的にメニューに採用されるのは大体2.3品くらいです。
―なるほど、本当に厳選されたメニューだけがお客様に提供されるんですね。メニュー作りもですが、スタッフの数が多いのでマネジメントするのも大変そうです。
もちろん大変なこともありますが、10年以上長く勤めているスタッフが本当に多いんです。ずっと一緒に働いているのでお互いに性格も把握していますし、チームワークが本当に良いんですよね。これは美味しいお料理を作る上でとても大事なことだと思います。
―日々新しくメニューができていると思いますが、その中でもこれだけは味わって欲しい逸品について教えてください。
長橋:それぞれのセクションごとにおすすめがあるので、「これです!」と挙げるのが本当に難しいです。ただチャーシュー、名古屋コーチンの姿揚げ、仔豚の丸焼き、上湯(シャンタン)を使用した蒸しスープ、フカヒレの醤油煮込みなどがおすすめですね。点心はたくさんの種類があるのですが、正直全てお召上がりいただきたいですね。
名古屋コーチンの姿揚げは、パリッと揚げた皮の触感を楽しめるお料理なのですが、最近富麗華の名物に加わった1品です。以前から鶏の姿揚げは提供していましたが、伝統的な加熱方法だけでなく様々な方法を色々と試してみたところ、もも肉は素材本来の弾力がしっかりと感じられ、かつ胸肉はジューシーな仕上がりになりました。鶏は、部位によって厚みが違うので、全てを最適に仕上げるのが至難の技なんですが、自信をもって提供できる一品です。
仔豚の丸焼きは、今までと違う経路で仕入れられるようになったこともあり、皮だけでなくて肉も見事な仕上がりで作れるようになりました。ただ、名古屋コーチンにしろ、仔豚にしろ、どちらも一羽や一頭単位での注文しかお受けできないこともあり、とっておきの1品ではあるんですが、なかなか多くのお客様に提供できていないところが悩みです。
点心に関しては、開業当時から在籍している広州出身のメンバーを筆頭に、中国人スタッフが数名、そこに17年以上勤めている日本人女性点心師がいるんですが、彼女の日本人ならではの季節の感性や美的センスなどが加わり、本場広州の点心の技術と彼女ならではの感性が融合された独特の点心が生まれています。先日はイチジクとチーズの組み合わせ、じゃがいもとタラの組み合わせの春巻きなどを開発しました。
―なるほど、各分野それぞれにスペシャリテが存在するんですね。1度では全部のメニューを食べきれないですし、厳選されたメニューの豊富さは、何度も「富麗華」に足を運びたくなる理由の1つですね。
―各業界のVIPのお客様も多い「富麗華」ならではのおもてなしについてお聞かせください。
石:アラカルトで注文できるといっても、富麗華くらいの席数が多い店舗だと、メニュー上では2~3名用と記載して、お料理のボリュームが多いケースがほとんどです。となると、2名で来店されたお客様は、1皿のポーションが多いので何品も食べられないんですよね。現在の完全2名様の量を提供するオペレーションは、調理場には結構な負担がかかります。ですが、お客様に色々なお料理を楽しんでもらいたい、2名でいらっしゃっても大人数と同じように「富麗華」のお料理を楽しんでもらいたい、そういう思いからアラカルトでも色々なお料理を食べられるような提供スタイルを取らせていただいています。
長橋:なかなかこの規模でここまで柔軟に提供できる厨房体制は珍しいと思います。またコース料理に関してもフレキシブルに対応していて、例えば甲殻類アレルギーの方って結構いらっしゃるんですけど、そういった際、通常であればグループで同じコースを注文いただいて、甲殻類のお料理のみを差し替えるというのが通常だと思います。ただ、うちには多くの多彩なコースのご用意があるので、事情によっては該当の方だけ、全く違うコースで対応させていただくこともあります。
石:これも対応するのは結構大変です(笑)。でもこれこそ、富麗華ならではのおもてなしかなと思いますね。
―お料理を提供される側のおもてなしに関してはいかがでしょうか?
長橋:顧客データ情報を基に、お客様の来店頻度を確認して、それぞれ対応の仕方を変えています。初めて来店されたお客様、1年前にいらっしゃった方、先日いらっしゃったお客様、それぞれに適した対応があると思いますので、全てのスタッフで意識しています。またお誕生日などの記念日は、その日の会話でそのような節が見えたら顧客データに登録し、その翌年にまたいらっしゃった際、何も言われなかったとしても対応できるようにしています。
時に、送迎車が何十台と連なることがあるんですけど、どこのお部屋のどのお客様が、どのお車を使われているかなど、細かな情報をスタッフ間で共有してスムーズにお見送りできるようにしています。
―町場の中国料理レストランでこのおもてなしを提供されているお店は他にないんじゃないでしょうか。
長橋:個室も複数フロアにそれぞれありますので、同じ業界の方々が被らないようになどの配慮もさせて頂いています。これだけフロアもあり、個室や客席もあるので対応できるところでもあります。
―安心して、お料理を楽しめますね。
昔、とあるお客様から中国料理はおいしいけれど、接待に使うには難しいと言われたことがあったそうなんです。接待の際に重要な料理をサーブするタイミングや、温かいものは温かく、冷たいものは冷たく出すという接待では当たり前のことが、昔の中国料理レストランではなかなか対応できるところがなかったそうです。富麗華では、個室のように中が見えない状況でもスタッフ同士で情報を共有して、そういった接待の際にもお客様が気持ちよく利用できるようにしています。安心していらしていただきたいです。
いつでもまた来たいと思ってもらえるように、進化しつづける
―現在取り組まれていることや、今後挑戦されたいことについて教えてください。
石:中国料理もどんどん進化しています。特に中国本土は経済がますます発展して、富裕層も増えています。お料理も新しいスタイルが生み出され、様々な食経験のあるお客様も日本にいらっしゃっています。私としては、そういった非常に多様な食体験をお持ちのお客様にも満足いただけるようなお料理を提供していきたいと思っています。
長橋:「富麗華」は、高級で敷居が高いと思っていらっしゃるお客様も多いと思うんです。でも私としては、それこそビストロに行くような感覚で、お腹が減ったら「富麗華」に行こうと気軽に来ていただけるようなお店でいられたら良いなと思っています。うちは昼でも夜でもコースだけでなくアラカルトでもお召し上がりいただけますし、年末年始以外は1年を通して営業しています。ハイエンドな中国料理店で、こういうスタイルは希少になってきているんじゃないかなと思います。もちろん、飲食業界は日々進化し続けていますので、料理の面でもサービスの面でもますます磨いていかないといけない部分はあると思いますが、色々な方に気軽においでいただきたいですね。
=====
プロフィール 総料理長・石 嵐氏
1970年 蘇州出身。
20歳より雅都大酒店,春天故事大酒店と中国・蘇州で研鑽を積み、2000年11月富麗華オープンにあたり日本に招聘される。当初より上海料理の第一人者として腕を振るい、独特の視点から生み出す料理は堅実かつ斬新。2020年より総料理長として指揮をとる。
プロフィール 副支配人・長橋 大輔氏
1978年 山形出身。聘珍樓で責任者として経験を重ね、ソムリエとしても活躍。
都内のフレンチ、イタリアンで勤務後、2012年中国飯店 琥珀宮、2018年より富麗華。
編集後記
日々たゆまぬ努力でメニュー開発を行い、より美味しいものをお客様にと試行錯誤を続ける姿勢、そして細部まできめ細かいおもてなしの心。これこそ麻布十番という土地で長年愛され続ける秘訣だと思います。また、常に一流を極めるハードワークな環境の中でも、長年働くスタッフも多く、チームワークが良いのは本当の意味でも名店の証ではないでしょうか。
※こちらの記事は2024年11月29日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。