料理人や生産者からも一目置かれる美食家・ビア氏が2020年にオープンした「美会」。自らお店を出すほどの料理愛に満ち、連日食通が集う店として注目が集まる話題のお店です。今回は2022年に六本木に移転した新生「美会」にて、ビア氏にインタビュー!日本の食に注目したきっかけから、母国・タイ料理と日本料理の組み合わせで魅せる新たな味への挑戦について伺いました。
日本の名店の味と、仕事に真摯に取り組む料理人との出会い
―フーディーで有名なビアさんですが、「食」に興味を持つきっかけは?
もともと日本の文化が好きで、学生時代に留学して以来日本に住んでいます。卒業後就職して社会人になって、「二郎は鮨の夢を見る」という映画を見た海外の友達から、日本で鮨を食べたいとリクエストされることが多く、「すきやばし次郎」に行ったことが食に魅せられたきっかけです。当時(2011年)もすでに予約を取るのが難しいお店で、必死に予約を取ってうかがいました。
もともと食べることは好きでしたが、美味しいのはもちろん、職人さんの個性に惹かれました。彼らが人生をかけて食にこだわり、常に真剣に向き合う姿勢を見て、衝撃を受けました。
例えば次郎さんにしても、もう働かなくても、十分お金持ちじゃないですか。でも常連さんやお客さんのために毎日板場に立っていて、それって自分の知る限り海外では考えられないですし、珍しいことだと感じました。
また、海外のレストランは、時間とお金さえあれば予約が取れますが、日本のレストランは、そんなことなくて、一見さんお断りのお店や、常連さんを大事にしたいから場の空気を乱す客は入れない店が沢山あります。常連さんを大事にする姿勢というのが「かっこいいな!」と思いました。
それからは中澤大将がいた時の四ツ谷の「すし匠」さんや「鮨 さいとう」さん、「日本橋蛎殻町 すぎた」さん(当時の日本橋橘町都寿司)をはじめ、いろんな店に行ってみたいと思って、時間とお金をかけて回りました。洋服とかは何でも良いですが、行きたい店には3万円でも払うタイプで、給料を全て食事代に充てていました。一生懸命毎日電話をかけて、1軒1軒訪れました。当時は、常連さんの紹介などでしかシェフや大将とつながれず、今ほどSNSも主流ではなかったため直接つながるということが難しい時代だったので。
―都内だけでなく、日本各地の名店を食べ歩いていることで有名だったそうですね。
最初のころは食べに行ったときに、熱心にメモを取ったり、大将に積極的にお話をさせていただきました。そういった姿を見て、大将たちも多分珍しがってくれたのかなって。この帽子が今もトレードマークなんですが、当時から大将に覚えてもらうために被ってました。それで徐々に知ってもらえるようになりました。どこのお店に行っても帽子かぶった外国人が1人で食べに来てると話題になって。徐々に信頼を得ていきました。
ある時から、食のイベントに誘われるようになり、それを機に「食べログ」さんでグルメ著名人として活動するようになってから、知名度はかなり上がりました。
大将たちとも仲良くなって、プライベートで和食や鮨に連れて行ってもらったり、バーベキュー会に呼んでもらったりしました。そのうち、生産者も紹介してもらうようになりました。当時は特に飲食店をやろうとは思ってなかったですが、純粋に興味はあったんです。
料理人の方々は、自分たちが誇りを持っている仕事に興味を抱いてくれる人に対し、とても親切だと思います。特に外国人ということもあり、皆さん優しくしてくれますね。
―ビアさんが考える日本の食の魅力とは何でしょうか。
日本独特の季節感ですね。自分はタイ出身で、一年中暑い国で育ってきたため、季節への意識がそんなになかったんです。食材もずっと決まってるもので、違いはちょっとした果物や野菜くらい。加えて「わびさび」というか、シンプルにそぎ落とした料理であること。季節があり、旬があるから、シンプルになっていくし、だからこそ逆に難しいんだろうと。
タイ料理と日本料理、それぞれの魅力
―2020年6月、念願だった料理店「美会」をオープンされましたが、お店を出すことはいつごろから考えていらしたのですか?
当時は、これからオリンピックでインバウンドが増え、これからもっと富裕層や全世界から観光客が日本に来ると言われていました。たまたま銀座の良い物件を紹介してもらったので、最初はレストランではなくワインバーのようなお店にしようと思っていました。銀座は夜中に良いご飯を食べられる店が多くないので、料理人の友達が仕事終わりにみんなで集まれるようなところを作りたかったんです。お店には自分がいるし、銀座は“アフター文化”もあるので、2軒目や3軒目で使ってもらいたいなと。
ただ、コロナ禍で銀座はかなり厳しくて。早い時間から始める食事のお店に変えないといけないと思いました。和食が好きなので、最初は和食でやっていたんですが、和食の有名店は沢山あるし、タイ人がやっている和食って誰が来るのかな?って思ったりして……。そのうち、自分がタイ出身ということもあって、和食と掛け合わせてみたらどうかなと思いつきました。
―コロナ禍でタイ×日本料理のコンセプトが誕生したんですね!最初のメニューは?
最初は、タイ料理の「カオマンガイ」というチキンライスで試しました。前からお世話になっていた「鳥しき」の池川大将に相談したら快諾してくれて、コラボという形でスタートしました。「カオマンガイ」って、あまり知られていなかっただろうし、チキンライスと言えば、一般的には「シンガポールチキンライス」を連想する方が多いかもしれないですが、「鳥しき」とのコラボで知名度がかなり上がったと思います。
PRにも力を入れたところ、フーディーな方が沢山来てくれて、店のこともすごく広まりました。コロナが無ければ全然違うお店になっていたと思うし、その時やれることをやってみて良かったですね。また、有名店の力はすごいなと改めて感じました。
それから他のタイ料理も日本の食材、日本料理の技術を活かして作ったらどうかと、今の料理長と一緒に考えながらやっています。タイ料理をちょっとでも知ってもらうというか、苦手な方にも食べていただけるように日本の食材で洗練された感じで出したいなと思っています。
日本料理には伝統的にやらないことがあると思うんです。出汁が命なので、ニンニクや香りが強い食材・調味料は使わないとか。一方でタイ料理には、そこまで出汁の文化がなく、香りの強いものを食材で使う。タイ料理は季節感が無いけど、日本料理では一品で季節を感じてもらう。お互いに無いものを補ったらどうなるのかなと。
―ビアさんが考える、日本人にもっと知ってもらいたいタイ料理の魅力とは?
やっぱりスパイスの深さですね。調味料の一つとして、スパイスはすごいものがあると思います。
今はかなり印象も良くなりましたが、昔はタイ料理に対してパクチーやスパイス、辛いものというマイナスイメージがあった気がします。最近になって、激辛ブームがあったり、ココナッツの味も受け入れられてきたりして、タイ料理もちょっとおしゃれなイメージに変わり、ようやく時代が来たんじゃないかなと思っています。
「美会」では、創作料理というか、まったく新しい味に挑戦しています。タイでも存在しないタイ料理になっているので、「タイ料理を食べに来た」という方がいらしたらちょっとびっくりしちゃうかもしれないですが、ほとんどのお客様が、この店で食べるものは他で食べたことがない味だとおっしゃいます。
自分でも食べたことがない味を発見して面白いですね。
―「美会」の名物料理の一つに「美会風トムヤムクン」がありますが、ここだけのこだわりを教えてください。
トムヤムクンは世界三大スープの一つと言われ、辛さと酸っぱさが同時に来る感覚が珍しく、世界の他の料理でもあまりないと思います。
美会の椀物のトムヤムクンは、日本で唯一生産されている温泉水で育ったオニテナガエビを使用。なかなか仕入れられない高級な代物で、臭みが少なくミソが美味しいのが特徴です。
そのミソを出しに使ったスープに、色々な野菜や美味しい魚、美味しいハマグリなどを合わせて作った炊き合わせのように仕立てました。見た目もすごくきれいで、トムヤムクンが苦手な方でもうちで食べたらすごく美味しいと言ってくださいます。
また、フカヒレ料理も料理長のこだわりの一つですね。スッポンの出汁×タイの薬膳スープ×天草の大王鳥の白湯を合わせて餡掛けにしています。自分は基本的に食べるのが中心なので、お客さんが好きそうなものを出していきたいし、提案しています。
―ビアさんがフカヒレをもって記念写真を撮られているのが良くインスタにも掲載されていますね。食材はどうやって探されているんですか?
たまたま天日干しのフカヒレをもってポーズを取ったら、すごい受けが良くて毎回皆さんにやってくださいって言われますね。
食材は、もともと仲の良い大将さんたちが使われているものだったり、生産者を紹介していただいたり。あとは料理長が豊洲市場に行くときに、ときどき挨拶がてらついて行ったりしています。
―メニューでこれから試してみたい味の組み合わせはありますか?
色々ありますが、最近試しているのが「プーパッポンカレー」、ソフトシェルクラブのカレーですね。ワタリガニで作るものを、毛蟹などのカニを使って、カニ味噌にウニも一緒に合わせるんですよ。タイ料理ではウニは食用のものが取れないので使わないんですが、かなり濃厚な感じになるのですごく相性が良いと思います。
そんな感じで日本の人気食材とタイの料理を変わった感じで出すのですが、互いをちょっと寄せて合わせたら、すごく相性がいいですね。難しい部分もありますが、料理長といろいろ話しながら試作していると、発見があって面白いです。
これから挑戦してみたいこと
―銀座でお店を始められて、六本木に移転され、現在3年目になりますが、どのようなお客様がいらっしゃるのでしょうか。
今いらしてるお客様のほとんどがグルメな方や料理人ばかりですね。常に色々な名店を食べ歩かれている方ばかりで、それこそ料理の偏差値じゃないですけど、グルメ指数が高い方が多いんでしょうね。
うちのタイ料理はそんなに激しい味のものがないから、接待でもよく使われます。六本木のお店でも個室があるので、会食利用でも使ってくださいますね。
接待って、和食が多いじゃないですか。毎日和食だから、多分うちみたいな食べたことない味わいがあると面白いみたいです。
―これから挑戦されてみたいことについてお聞かせください。
まずインバウンドのお客様をどんどん増やしていきたいですね。6月以降、さっそく色々な海外からお客様が結構いらっしゃっています。その中にタイ人も多くいらしてますね。先日は中国のテレビ局が取材に来ました。元々タイ料理が好きだと思いますが、日本でしか食べれないタイ料理ということで、より食べやすく洗練された味に注目が集まったのかなと。
あとは日本の女性はタイ料理好きな方が多いので、カジュアルながら洗練された感じのタイ料理のお店もいつかやってみたいと思います。
幸い料理人の友達が多いので、皆さん食べに来てくれて、色々と感想を教えてもらっています。飲食店の経験がなく、経営側になったばかりで、客として食べているだけだと分からなくて、目線が全然違うということも知りました。自分が食べに行く機会が減ってしまいましたが、皆さん来てくれるので、相談しながらいいお店を作っていきたいですね。
【編集後記】
日本全国の名店に魅せられたビア氏のことを多くの料理人が可愛がる理由は、食を文化として愛し、職人としての料理人や生産者を心から尊敬していることを素直に感じ取れるからでしょう。日本が誇る食材の魅力を最大限に活かし、タイのアクセントを融合した料理は、これからの食文化を彩る一つの革命となるかもしれません。
※こちらの記事は2022年10月04日作成時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。