「リストランテ イル バンビナッチョ」福田憲一氏が語る、シェフ自ら手掛ける器と素材を活かしたイタリアンのハーモニー

美味しい料理に欠かせない存在でもある器。今回は、2021年に創業20周年を迎えた表参道のイタリアン「リストランテ イル バンビナッチョ」の福田憲一氏にインタビュー。料理だけでなく器にまでこだわり、自作しているというシェフに、料理と器の関係から実際の料理における器の使い方まで、多岐にわたって語っていただきました。

素材の魅力をシンプルに活かした料理に惹かれ、イタリアンの道へ

―まずは、料理人になられたきっかけについてお聞かせください。

料理の専門学校へ通っていた18歳のときに、東京のレストランで働き始めたのが料理の世界に入ったきっかけです。もともとモノづくりが好きだったこともあって、美術の道を考えたりもしたのですが、やはり料理が性に合っていると思ったのと、アルバイト先に飲食店が多かったこともありますね。

イタリア料理にフォーカスしたのも、アルバイトをしていた頃。今の時代なら多くの情報を仕入れることができますが、当時は今ほど情報がなかったんです。だからこそ「イタリアってどんな国なんだろう?」という憧れがあって。その後、実際に行ってみたいという気持ちが大きくなって、23歳のときにイタリアへ渡りました。

山や海など様々な地域を回って、自分の肌に合うと思ったのは北イタリア料理でした。働く場所にヴェネツィアを選んだのは、ある店で働いていたとき、ヴェネツィアに店を持つオーナーから「一緒に働かないか?」と誘われたのが、きっかけです。

様々な店で料理を学んで思ったのは、素材の良さをシンプルに活かした料理が多いということ。日本料理に近い部分があると感じました。例えば、畑から採ってきたトマトをざく切りにしてそのままパスタと和えるとか。そういったシンプルな部分が、肌に合っていたと思います。

良い素材にとことんこだわり、日本人ならではのイタリア料理を表現

―2001年、26歳で「リストランテ イル バンビナッチョ」をオープンされて、20年が経ちましたね。改めて、店名の由来をお聞かせいただけますか?

イタリアって、可愛い悪口というか冗談のようなことをお互いに言い合ったりするんです。そのなかで僕がよく言われていたのが、“悪ガキ”という意味の“バンビナッチョ”。ちなみに“バンビナッチョ”は俗語と言いますか、調べても出てこない言葉です。言葉の響きがすごく気に入ったこともあって、店名にしようと思いました。

―日本でイタリア料理を表現することについて、何を一番大事にしていますか?

開店当初は、今流行っているようなクリエイティブな料理が好きだったので、周りがあっと驚くような料理を意識していました。でも、そういう料理に疲れてしまって……。そして原点に戻ろうと、修業したイタリア各州のオーソドックスなイタリア料理を出していたこともありました。

そんななか、自分が何を表現したいのかわからなくなってしまった時期があったんです。今考えると、長い迷走でした(笑)。そして気がついたことがありました。それは、イタリア各地で様々な料理を学ぶなかで、日本の良さを再確認したことでした。そこから、日本人の強みである美意識や感性を表現していきたいと思うようになったんです。

言い方が難しいのですが、日本人がイタリアで学んだ料理を作るのではなく“日本人にしかできないイタリア料理を作る”という枠組みで考えてみました。そうすると、イタリア料理はこうであるべきだ!という気負いが無くなり、素直に料理に向き合えるようになりました。

それから更に数年が経ち、少しずつ素材を中心に料理を考えるようになりました。その頃には、イタリアや日本というカテゴリーは意識から外れ、素材を活かす最善の料理をしていくようになったんです。

例えば、素材の魅力を活かす料理法の一つが、店で提供している天ぷら。旬の素材をストレートに味わうには、フリットよりも日本の天ぷらの方が向いていると思いました。この考え方は、イタリア料理に和を取り入れているのではなく、あくまでも素材ありきの発想です。素材に合う最高の料理法を選んだら、天ぷらだったということです。なので、僕のなかで特に和を意識しているという感覚はありません。

イタリア料理と日本料理の違いについてですが、生活の中で培われた食文化の違いは、もちろんあります。しかし「手に入る食材をおいしく料理する」という本質の部分では、どちらも同じではないでしょうか。

―「素材」と「風土」について、イタリアの食材と日本の食材には大きな違いがあると感じます。そういった違いを、どのように表現しているのでしょうか?

例えば、日本のナスって水分がすごく多いんです。それに比べて、イタリアのナスは水分が少ない。水分が少なくて肉厚だから、とても力強いんです。そういうナスは、オリーブオイルをたっぷりかけてじっくりオーブン焼きにすると美味しい。

逆に水分の多い日本のナスは、香りも繊細で甘味があります。そういうナスはスープにしても美味しいし魚介との相性も抜群です。

つまり、「作りたい料理に食材というピースを当てはめる」もしくは「食材があって、そこからどういう料理が生まれるか」という発想の違いだと思います。なので、そんなに深く考えていません(笑)。

―国内の厳選された食材を使っていらっしゃいますが、食材にこだわるようになったきっかけについてお聞かせください。

素材を活かす料理とは、食材そのものが主役なんです。例えば夏なら鱧が美味しいですが、個体よっては、旨味が弱くあまり脂がのっていないものもあります。その鱧に、色々と手を加えてお出しするという考え方はしておりません。素材を活かすには、厳選した産地と漁師から最高の鱧を仕入れるところがスタートです。その鱧を骨切りして、出汁にくぐらせたり、皮目を炭火で炙ってシンプルに仕上げる。それだけで、すごく美味しく食材そのものが活きてきます。

なので、料理の味を決めるのは食材が8割、残り2割で食材の良さを最大限に引き出す料理法を駆使する、ということになります。

ですから、素材にこだわるのは僕のなかでは必然です。卵一つとっても、野菜一つとっても、どれだけ良い食材が手に入るか、というところが勝負になります。

―どのようにして、良い食材を探されていらっしゃるのですか?

例えば、マルシェなどに顔を出して、自分とインスピレーションの合う農家さんを見つけるのも一つの手。あとはインターネットで調べて、色々なところに連絡をします。そして、まずは食材を購入し送っていただく、そして到着した食材の味わいが好みかどうかで判断しています。

このようにして、たくさんの食材のなかから本当に美味しいものを作る生産者と出会うわけです。残念ながら1回きりで終わってしまう方もいますが、20年近くお付き合いしている方もたくさんいます。そんな素晴らしい生産者の方々が、私たちの料理を支えてくれています。

あとは、休日に車で色々な産地を回ってみることもあります。やっぱり実際にその場に行って、見て、触るって全然違いますから。スタッフを一緒に連れて行くこともあって、そうするとお客さんに料理の説明をするときに力が入ります。今はコロナ禍でなかなか行けていませんが、以前はしょっちゅう行っていましたよ。

器はバランスが命。納得のいくものをシェフ自ら手掛ける

―続いて、器についてお伺いします。シェフは自ら器を制作されているそうですが、どういったきっかけで器に着目されたのでしょうか?

料理って器がないと成立しないですよね。そう考えたとき、どの器に盛るかってすごく大切で、多分全国のシェフの皆さんにもそれぞれこだわりがあると思います。僕がこの店をオープンしたときからこだわっているのは、日本の食器を使うこと。オープン前は窯元に買い出しに行ったり、色々な作家さんとお話をして、オリジナルで作ってもらったりしていました。

色々な方たちとお付き合いしていましたが、僕にも作家さんにもそれぞれ自分のカラーがありますから、なんとなくお互いのイメージが融合しないなと思うことがありました。色や形のイメージは共有するのが難しい部分でもありますから、それなら自分で作ってみようかなと。

固定的にこうでないといけない、ということはないのですが、絵画などでもなんとなく “バランスが良い”と感じるものってあるじゃないですか。そのバランスが崩れてしまわないようにと考えると、やっぱり自分でやるしかないんです。僕は完全に独学なので、誰からも教わっていない分、ものすごく失敗しました。

―ちなみにどこの窯で焼かれているんですか?

自分のアトリエで焼いています。最初は窯元へ行って、窯を借りて焼いたりしていたのですが、やはりすごく手間だったので自分で購入しました。

土は色々使っていますが、信楽がメイン。かなり磁器に近いというか、陶器は陶器だけれども結構目が細かくて繊細な土です。とはいえ、荒々しい皿も作りますし、こうでなければいけないということはないですね。本格的に始めたのは、6~7年前くらいからです。

―初めてご自身の器を作ったとき、どう感じられましたか?

やはり「かっこいいな!」と思いましたね(笑)。でも不思議なもので、しばらくして新しい器を作ると、最初に作った器がすごく不格好に見えてしまうんです。よく焼けたなと思っても、しばらくするとちょっと違うなとか。その繰り返しです。

器を作るときは、ろくろを挽くことが多くて、手びねりだと今は花器を作ったりしています。やりたがりなんですよね、きっと。

―どのような流れで、料理に合わせた器を作られているのでしょうか?

例えば、夏が近づいてくれば、冷たいパスタをこんな器に盛りたいなとか、秋冬なら少しトーンを落としたもので、繊細なものよりは掘ってきたばかりの土を使った、荒々しい作品を作りたいなとか。本当に気の向くままですね。あとは土を触ってみて、今度はこんな感じの器にしたいなとか、何も考えずに土に向かうこともありますよ。

料理から器ということもあるし、逆に器から料理ということもあります。例えば、少し柔らかい土を使うと、綺麗に成形しようとしてもろくろを回すので、少し撓むんですよね。それを見たときに「ああ、これ良いな」と思って。ちょっとパスタを盛ってみたら、すごく自分のイメージどおりに仕上がったんです。

そのときは、たしかウニのパスタだったと思います。それまでは平たい器に盛っていたのですが、ちょっとボウルのような形をした器に盛ったら、フォルムがすごく可愛くて。白い器でしたが、ウニの黄色やクリームの色味とのバランスが良かったのを覚えています。ウニのパスタを盛るために作った器というわけではなく、作った器のなかからウニに合うものが生まれた感じです。

―レストランを運営されているなか、作家活動に近い形で制作をされていますが、その原動力はどこから来ているのでしょうか?

作りたいアイデアがたくさん湧いてくるので、それが原動力になっているのかもしれません。今も新しい表現方法で器を作っていますが、色々なアイデアが出てきます。そこは料理と一緒ですね。料理も、あらゆる食材を様々なところから仕入れて作るので。

自分たちのチームでどれだけ追求できるか、挑戦を続けたい

―最後に、今後挑戦したいことや後進の育成などについてお聞かせください。

個人的なことでいうなら、自然のなかで料理を作ってみたいです。実際に千葉や鎌倉など、色々なところを見に行ったりしています。プライベートレストランというほどのものではないですが、山のなかに小屋を建てて、そこで皆さんに食事を振る舞いたいなと。この店でしか味わえないものがあるように、自然のなかでしか味わえないものってあると思うので。

後進の育成については、今いるスタッフたちが、もっともっと活躍できるようにしていきたいです。店舗を大きくしたいとか、イタリアに支店を持ちたいとか、そういうことは全く考えていません。どちらかというと、自分たちのチームでどこまで追求できるのか、自分たちの持っているポテンシャルをどこまで引き出していけるのかという挑戦、その連続だと思います。

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福田憲一 プロフィール
東京や札幌のイタリア料理店を経て、23歳で渡伊。北イタリア各地で修行したのちヴェネツィアの「リストランテ・ダ・ルーカ」で料理長に就任。帰国後2001年に「リストランテ イル バンビナッチョ」を開業し現在に至る。

創作イタリア料理

リストランテ イル バンビナッチョ

東京メトロ銀座線 表参道駅 徒歩15分

12,000円〜14,999円

【編集後記】 2021年に創業20周年を迎えた「リストランテ イル バンビナッチョ」。穏やかな雰囲気で対応してくださった福田シェフから、ご自身の考える料理と器の関係についてお話をお伺いすることができました。店の入り口を囲む瑞々しい植物や、店内に飾られたインテリアなど、器以外の部分にも深いこだわりがあるのだそう。 インタビュー中、何点か器を見せていただきました。どれもしっとりと手に馴染むような質感と落ち着きのある色合いが印象的で、器についてはすべて独学で知識や制作の技術を身につけたと伺い、とても驚きました。店舗では、定期的に器の個展も開いているとのこと。 まだまだやりたいことはたくさんあるんです、と語ってくださった福田シェフ。 シェフの感性が光る料理と器の饗宴を、ぜひ一度堪能してみてはいかがでしょうか。

※こちらの記事は2022年11月29日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。

Yuri

校正の仕事に興味を持ち、スクールを経て一休コンシェルジュ編集部へ。好き嫌いはほぼなし。食べることが大好きで、どんなものでも美味しく・楽しくいただきます。編集部メンバーとのお店巡りが最近のマイブーム。もう少しお酒が強くなりたいと思う今日この頃です。

【MY CHOICE】
・最近行ったお店:さ行/デンクシフロリ/BLESS/レストラン プルニエ/ラフィナージュ

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