「すしログ」が選ぶ、絶品のコハダが食べられる鮨店6選

本記事では、コハダが美味しい鮨店を紹介します。読者の中には「なぜコハダ!?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。確かに、渋いチョイスでしょう。しかし、実はコハダこそが鮨種の主役です。昨今はマグロが主役のように思われていたり、ウニも人気を博していたりしますが、これらは仕事=調理が少ない、生食がスタンダードな鮨種です。反面、コハダは塩締めと酢締めを行い、数日間寝かせてから提供します。「江戸前鮨らしさとは何か?」を聞かれた時、即答すべき答えは「仕事」です。仕事=調理によって初めて美味しくなるコハダと言う魚は、まさに江戸前鮨らしさが凝縮された鮨種。「鮨」と言う単語は「魚」を「旨くする」と書きますので、まさにコハダこそが鮨種の王者なのです。

1.横浜から移転し人気を加速度的に高める注目店!「鮨 ゆうき」

鮨 ゆうき(東京都/広尾駅)

鮨 ゆうきの看板

横浜の「常盤鮨」を閉めて東京に移転オープンされた、林ノ内勇樹親方の新店「鮨 ゆうき」。林ノ内親方は、今は無き名店「鮨 水谷」で二番手を務められた職人で、水谷大親方を継ぐ米酢のシャリで流線形の鮨を握ります。移転後、多くのグルメの方に注目されて着実に人気を高めています。東京の多くのお店のように「回転制・一斉スタート」ではなく、前半と後半の時間の中でお客さんの都合で訪問できる点が素晴らしいご配慮。

林ノ内親方のコハダは塩とお酢できっちり締めて、数日寝かせたクラシックな仕事。着目すべき点は旨味を引き出す技にあり、塩気と酸味を強く効かせたシャリと馴染む味覚の設計です。旨味を引き出せないとシャリに負ける塩梅。水谷大親方の同門で誰もが知る職人、「すきやばし次郎」の小野二郎親方は「旨いコハダを食べると喉が鳴る」と表現されました。林ノ内親方のコハダはまさに喉が鳴る。喉で旨味を感じられるコハダを頂くと、「鮨って旨いなあ……」としみじみ感じます。口に入れた瞬間に「旨い!」と感じる脂が乗った種ではなく、咀嚼する段階で感動が増幅されるコハダこそが鮨種の中の鮨種です。

2.唯一無二の仕事と記憶に残るコハダ!「鮨處やまだ」

鮨處やまだ(東京都/銀座駅)

「鮨處やまだ」は2023年10月に新店舗へと移転され、新たなファンを増やしている期待のお店です。山田親方の鮨は江戸前の古典を押さえた上で、卓越したセンスでアレンジを行う唯一無二の仕事が目白押し。味覚が鋭敏な方や鮨の仕事を深く知る人ほど感動が大きい握りで、実際に同行してこちらを絶賛した友人や知人は、類稀なる味覚と知識を持つ人ばかりでした。

山田親方はコハダの良い部分を引き出すのが巧みで、ネガティブな要素を感じさせません。塩気や酸味を強く浸透させずにコハダの脱水を行い、味わいを強めて、特有の臭みは完全に除去する手練れです。どんなに良いマグロを仕入れても技術とセンスが必須なコハダでは誤魔化すことが不可能。仕事に加えてシャリとのバランスやどのタイミングで出すかという構成も大切なので、それらを総合的に組み合わせて鮮烈な印象を与えてくれるのが山田親方のコハダです。

寿司

鮨處やまだ

東京メトロ丸の内線 銀座駅 C3出口 徒歩7分

30,000円〜39,999円

3.男前な握りで硬派な鮨好きを惹きつける!「鮨桂太」

鮨桂太(東京都/築地駅)

築地にある「鮨桂太」は、鮨を食べこんでいる人たちからの評価が高い優良店です。親方の青山桂太さんは札幌の名店「鮨菜 和喜智」で修行後、「鮨 水谷」と銀座「鮨 太一」で修行された異色の経歴を持ちます。お店は2017年9月のオープンで、僅か1年後にミシュランの一つ星を獲得された時は注目を集めました。以来、ブレることなくご自身の鮨を握られています。

コハダの前にシャリの話をすると、桂太親方のシャリは赤酢で存在感があります。旨味と酸味が強いタイプですが、バランスが良く、食べ疲れません。桂太親方はコハダを強めに締めて、旨味を引き出しつつお酢の酸味も乗せています。味わいと爽快感をあわせ持ち、それ故にシャリと味覚的に合致するコハダです。芝海老のオボロを噛ませて、効果的に調和を図っていることも奏功しています。

4.家族経営の温かい雰囲気で頂く温故知新の鮨!「鮨大」

鮨大(東京都/八丁堀駅)

新川(八丁堀)にある「鮨大」は、1897年くらいから5代続く隠れた優良店です。家族経営で折り目正しい江戸前鮨を出されていて、これぞ鮨を食べる魅力だと感じます。もちろん都心のスタイリッシュなお店も素敵ですが、鮨本来の楽しみ方を与えてくれる貴重なお店。4代目と5代目が親子で漬け場に立ち、5代目は若い感性を採り入れているため、古典を一歩先に進める職人だと感じます。

シャリについては、甘味を付けつつ上品に仕上げ、塩もお酢も控え目でまろやかな方向性です。当世流のパンチがある味付けに慣れた人には穏やか過ぎるかもしれませんが、種の仕事とのバランスが良いので多くの人が最後まで美味しいと感じ続けるシャリです。そこに合わせるコハダは、古典的なセオリーからすると塩気と酸味を強めに効かせたもの……となりますが、逆にシャリと同じく塩もお酢も穏やかな塩梅で締めていて、上品に同調させています。口当たりは滑らかで、ほどけ加減はしっとり。包丁の仕事も精度が高く、見た目と味の両方が良いコハダです。

公式Instagram:https://www.instagram.com/sushidai.shinkawa/

5.札幌でどこにもない握りを繰り出す手練れの鮨店!「鮨たな華」

鮨たな華(北海道/札幌駅)

「鮨たな華」は、鮨の激戦区である札幌でも優先的に訪問する価値のある鮨店です。親方の田中康智さんは16歳で鮨の世界に入った叩き上げの鮨職人で、20年以上のキャリアを持ちます。おまかせコースは握り一本で、東京以外だと非常に珍しいスタイルを取られています。「つまみも食べたいな……」と思う人がいらっしゃると思いますが、田中親方の鮨を頂けばその気持ちは雲散霧消し、握りで酒を飲めることが分かるはずです。

東京以外の鮨店では、コハダの仕事が甘いと感じることも決して少なくありません。良質なコハダのほとんどが東京・豊洲に流れてしまうことも一因ですが、鮨職人とお客のコハダへの向き合い方が東京よりも甘いことが影響していると見ています。しかし、田中親方はコハダならびに自身のシャリに向き合っておられ、精度が高い。艶めかしい口当たりと食感ながら、きっちりと締められていて、噛みしめる段階でコハダの脂と甘味、香りが広がっていきます。シャリのお酢に合わせて「富士酢醸造元 飯尾醸造」の「富士酢プレミアム」で締めている点も抜かりありません。

公式Instagram:https://www.instagram.com/sushi_tanaka_official/

6.柿の葉寿司でコハダを表現する個性派実力店!「鮨 かわしま」

鮨 かわしま(奈良県/橿原神宮前駅)

ちょっと「おまけ」的な紹介として変わり種を一つ。海なし県の奈良県にあって「鮨 かわしま」さんは、他店にない試みを数多くされています。コロナパンデミック前の2019年7月にオープンし、2022年にミシュランの一つ星を獲得した親方、川島洋行さんは日本料理出身で、鮨は独学の職人です。個人的に、鮨店が増える大阪を含めても関西で訪問すべき鮨店だと確信しています。

僕が訪問して感銘を覚えたのが新子の柿の葉寿司です。新子とはコハダの稚魚で、これを奈良県の郷土寿司である柿の葉寿司で表現されるなんて正に江戸前鮨と郷土寿司のハイブリッド。見た目も素晴らしいですが、味はもっと素晴らしく、コハダと柿の葉寿司の相性の良さは驚くべき発見でした。しかも江戸前鮨の古典的な仕事にならいしっかりと締めている点に精神性を感じます。虚仮威しではなく、本質をとらえた仕事で、江戸前鮨の表現と郷土寿司のイノベーションを両立させています。

本記事がきっかけとなり、コハダファンが増えれば望外の喜びです。コハダ好きなお客さんが増えれば鮨業界はさらに発展するはず……。さらに鮨が美味しく進歩していくことを願っています。コハダを満喫してください!

※こちらの記事は2024年10月11日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。

「すしログ」大谷 悠也

1981年、広島県生まれ。国際基督教大学卒業。鮨研究家、広島県鮨アドバイザー、日本酒ペアリング研究家。日本ソムリエ協会 J.S.A. SAKE DIPLOMA。鮨・鮓・寿司の本質を伝え、人気を高めるべく「すしログ(https://sushi-blog.com/)」を運営。旺盛な食欲と好奇心に基づき、国内外で6,000軒以上の飲食店を訪問。市場や生産者、醸造家のもとに足を運び、自ら調理も行う。

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