料理界の最前線で活躍する料理人たちが、世界に向けて食の文化・哲学を発信する「世界料理学会」。東京での記念すべき第1回が、2019年2月9日~10日に豊洲市場7街区で開催されました。日本が世界に誇る「日本料理」の料理人たちが集い、『伝承』をテーマに熱い議論が交わされました。
目 次
オープニングから「伝承」をテーマに熱い議論が展開
オープニングは、秋山能久氏(総合ディレクター/日本料理 六雁)のあいさつでスタート。函館での世界料理学会に出席し、いつかは東京で開催したいと思っていた秋山氏。
豊洲市場の新たな幕開けという歴史的な節目で『伝承』という「今語るべき議題」を、どのように次の世代に伝えていくのか。料理界を代表する料理人の哲学を後世に伝えたいという、開催の意義をご紹介されました。
続いて小池百合子氏(東京都知事)は、開催の祝辞と共に食の拠点となる「新たな豊洲」への思いを披露。「築地の歴史と伝統を受け継ぎながら、世界を見据えた食文化の新たな発信拠点へと育ちつつある」とし、和食については「ユネスコ無形文化遺産にも登録される日本が誇る食文化として、世界に向けてどんどん発信していきたい」と意気込みを語りました。
その後のトークセッションでは、泉未紀夫氏(豊洲市場青果連合事業協会 会長)の進行により、深谷宏治氏(世界料理学会in HAKODATE主催、「世界料理学会」東京in豊洲 顧問、レストラン・バスク)を交えた4名で、今回のテーマである『伝承』について語られました。
泉会長:まずは創始者である深谷さん、10年前の北海道でのスタートを経て本日豊洲へ来ていただいたご感想を。
深谷氏:函館は10月で8回目を迎え、今回の豊洲をはじめ、今年は岩手でも開催されます。日本の食や地域ごとの持ち味を世界に発信するツールになると思います。
泉会長:秋山さんの率直なご感想は?
秋山氏:若い頃から築地で市場関係者の方々に育てていただきました。その目利きや扱いは後世に残していかなければならないですし、ここを「世界の豊洲」にするためには、僕たち料理人の力も必要だと思っています。
泉会長:都知事には築地から豊洲への伝承、東京2020への抱負を伺いたいと思います。
小池都知事:築地から豊洲へ移転し、ただ移ったのではなくて魂を入れる作業をやっていくんだなと感じました。日本の食文化は、世界に発信していくためのキラーコンテンツ。2020年は豊洲を活用しながら、「美味しい豊洲・美味しい東京・美味しい日本」を作っていきたいと思います。
世界料理学会を開催するにあたって必ず行うセレモニー「エイエイオー」で幕開けです。
特別講演 淀野晃一(柴田書店『月刊専門料理』編集長)
食の総合出版社 柴田書店で『月刊専門料理』の編集長を務める淀野氏の特別講演では、料理人と歩んできた半世紀の歴史を誌面の内容と共に紹介。
創刊当時は料理店のハウツーやメニューのアイデア集、その後は一つの食材を掘り下げる特集が増え、現在では料理人のオリジナリティや哲学に迫る特集を組んでいます。
講演① 山本征治(日本料理 龍吟)
33歳で『日本料理 龍吟』をオープン。初めて参加したスペインの学会で、料理文化の発展について日本と世界の意識レベルの差を痛感したと明かす山本氏。
ご自身の“日本料理についての定義”を紹介されたうえで、「日本料理の意識を絶滅させない、意識を伝える」という“意識の伝承”の必要性を語られました。
講演② 中澤圭二(すし匠)
50歳を区切りに、ハワイの『ザ・リッツカールトン ワイキキビーチ』に拠点を移した中澤氏。何軒もの店舗を必死に渡り歩いてきた修業時代のお話にはじまり、人間が本来持つ
五感の重要性を職人としての視点から語られました。
加えて「自分で注文をせず、お任せしますというお客様が増えている気がする」と情報が溢れている現代は、自分で考える力が弱くなっていることに警鐘を鳴らしました。
<スペシャル対談>谷昇(ル・マンジュ・トゥー)vs中澤圭二(すし匠)
フレンチとすしの世界の第一人者。料理ジャンルの垣根を越えた対談は、来場者からの質疑応答を「調理する」意気込みで行われました。
~弟子に「伝えていきたいこと」とは?~
谷氏:今は、人間力をあまり感じない“ぬるま湯”の料理が蔓延しているように感じる。学ぶことの楽しさを若い人たちにどう伝えていくかが大事。今の若い人は向き合われたことが少ないので、怒られ方を知らない。
中澤氏:料理はマニュアルである程度できるかもしれないが、人を育てるのは難しいですね。憎たらしくなってしまったら終わり。子供だと思えば憎くならないし、そう思わなければ無理かと。
谷氏:あとは、“美味しい”とは何か。先日龍吟の山本さんと対談した時、我々が手にしている食材は元々完成形なのだと話していました。今は花びらや石をお皿に乗せる料理が多いですが、僕の時代は食べられないものは乗せなかった。こういうのを問う料理人がいないと思う。「完成形をなぜ調理するのか」ということを、日々自問自答できる人だけが生き残れると思います。
講演③ 坂下勝美(二葉商会)
坂下氏は独学で包丁を学び、どこにも載っていないノウハウで包丁を研ぐ包丁作りの名人。秋山氏や篠原氏をはじめ、名だたる料理人を虜にする包丁は、現在約200本待ちという人気の逸品です。
庖刃の銘を「研心」とし、自身の名前と合わせた「勝美研心」は“美しく研ぐ心はなににも勝らない”という意味が由来。秋山氏が「一生使い続けたい包丁に出会えた、研ぎや包丁の伝承が必要」と語るほど、多くの料理人が坂下氏の“研ぎ”の話に耳を傾けていました。
講演④ 篠原武将(銀座 しのはら)
空手選手として大学進学する道もあった中、料理人の道を選んだ篠原氏。『山玄茶』での修業時代に得た師匠の教え「若いうちの苦労は買ってでもする」を胸に、26歳という若さで独立されました。「自分も38と若いですから。人格も含めて、若い子たちと泥まみれになって成長していけたらいいと思う」と笑顔で話されました。
講演⑤ 林亮平(てのしま)/村田吉弘(菊乃井)
林氏は、自身の師匠である村田氏と共に登場。村田氏の弟子たちからとったアンケート結果をもとに、これからの料理と料理人の在り方について語りました。
林氏:僕にとって菊乃井は、理にかなった修業でありがたかった。日本料理は節度と品位だと教わりました。
村田氏:どうやったら自分の料理ができるかを考えられることが「技術」、それを伝えるのが「伝承」です。伝統とは革新の連続で、同じことを同じように続けることではない。今の時代に合う形に変えていくのが伝統だと思います。
普段見ることのできない料理人同士によるトークセッションや、来場者からの質疑応答など、充実したプログラムで行われました。日本料理の『伝承』についてそれぞれの熱い思いを伺い、会場は終始熱気に包まれていました。
>2日目の様子はこちら https://www.kiwamino.com/articles/columns/10050ら
※こちらの記事は2021年03月31日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。