【神戸の名店リレー】「和食や芦田」芦田武氏に聞く、日本料理ならではの精緻な季節の彩り

神戸・元町のにぎやかな街並みに佇む「和食や芦田」。2020年5月にオープンし、季節を感じる日本料理を落ち着いた設えの中でいただけると注目を集めています。今回は、「懐石料理 三木」で研鑽を積まれた主人・芦田武氏に、日本料理の魅力から神戸で取り組んでみたいことまで、お話しいただきました。

四季を映す日本料理の世界観に魅せられて

―芦田様が料理人を目指したきっかけは?

小学生の頃から親の手伝いで料理をすることが好きでしたね。母からは色々と教わりました。一度プリンを作って、美味しいと喜んでもらえて、何度も作ったのを今でも思いだします。ちょうどその頃、料理人を題材としたドラマがやっていて「シェフ」ってカッコいいなぁと思いましたね。影響されやすかったので、小学校の卒業文集に、「シェフになる」と書いていました。その頃から料理人を意識していました。

高校受験の時に、人と一緒の道を選ぶのが嫌で高等課程のある専門学校(食品衛生専門学校)に入り、働きながら勉強していました。

最初は中華のお店でアルバイトし、鍋振りのやり方なども教えていただきました。その後ホテルなどで働き、地元のイタリアンで1年弱働かせて頂いた事でイタリア料理にすごく興味を持ちました。

―キャリアのスタートがとても早いですね。

卒業後は未成年ながらイタリアに行きたかったのですが、何のつても無かったので、東京のカフェレストランで働いていました。そこに居られたシェフが吉兆で修行後、イタリアに渡りイタリア料理を学ばれたのち、お店立ち上げの仕事をよくされている方でした。時折、イベントなどで日本料理を作られたりしていたのですが、その時初めて日本料理は凄いなと感銘を受けたんです。シェフにちゃんと料理をしたいと言ったら、料理の基礎を一度着けたら、自分の道で仕事ができるぞと言われまして。
ちょうど吉兆出身の先輩(「懐石料理 三木」の三木さん)がお店を出されるということで、紹介して頂き神戸に来て10年修業させていただきました。
三木さんは料理について厳しいですがとても優しく、日本料理の奥深さを教えていただきました。

―「懐石料理 三木」さんといえば有名なお店ですね。実際に修業されて分かった日本料理の奥深さはどんな点なのでしょうか。

日本料理における季節感の大切さ。設えや器、箸置きに至るまで、季節感を全力で表現することに衝撃を受けました。四季は日本に住んでいたら当たり前なことですが、それを表現することで、お客様も喜んでもらえるということに感銘を受けて、もっと知りたいと思いました。
また、カウンターで仕事をする面白さも知りました。対面でお客様の笑顔を見ることができたり、コミュニケーションを取ったりしながら、料理をお出しするようなお店をやりたいなというきっかけにもなりましたね。

―日本料理の道で行くと決めて、苦労したことは?

10年修業して修業場で仕事はできても、外で通用するか、自分の料理とは何か、ということですね。自分で基礎を織り交ぜながら料理を作っていくにしても、全然完成されなくて。
修行元を出てから様々な刺激を受け勉強させて頂きました。
東京の「麻布十番jin」様や、京都の400年続く「樋口農園」様、神戸六甲にある産婦人科のお祝い膳を5年程作ったりもしていました。特に産婦人科でのお料理の仕事は、自分のお店みたいに買い出しもメニューも全部自らで決めていたこともあって非常に勉強になりました。

良くお手紙をもらっていたのですが、一人目の出産のときは目の前の赤ちゃんが大事で、2人目のときは出産後の家族のこともしなきゃいけないことが分かっているので、入院中は自分の時間を楽しみたいと。切迫早産のときは1か月位入院しないといけないので、食事だけが唯一の支えでしたと言われて、やりがいを感じました。
食が精神的にも支えになるんだなというのは、お店での体験と違う良い勉強になりました。今でも週に1度は仕出しやお食い初めのお料理の依頼をいただいています。普段できない仕事なので感謝しながら作っていますね。

この期間は自分の時間が持てましたので、夜は他の飲食店でバイトしたり、間借りランチをしてみたり、ケータリングや出張シェフをしたり、色々と動いていました。

「和食や芦田」ならではの神戸で繋がる料理店を目指して

―2020年5月にお店を開業されました。器も設えもこだわりがあって、とても素敵ですが、お店の内装イメージはどのようにして作っていったんですか?

若い頃から美術館が好きで、作品名も作家の名前も分からないなりに通い続けると、自分の好みの感覚に気づくようになり、今でもよく訪れています。
今回お店を作るにあたり、工務店さんを入れずにデザインは自分でして、大工さんと家具職人さんをメインに仕上げていただきました。
広めのカウンターとお客様と目の合う高さで作ることにこだわっていて、シンプルでモダンな形をコンセプトにしました。当初から月ごとに変える和紙の作品を飾りたかったので黒の壁にしました。
お店を一から職人さんと作ることができて普段経験できない職人さんとの会話や間近で仕事を見ることができたのはとても良かったです。

和紙の作品は「ののわし」という同い年の女性作家さんが手掛けたもので、生花を使われて季節感のある作品を作ってくださります。オープンの時からお願いしていて、毎月変えるようにしています。

また、茶釜からお湯をかけてお絞りを絞り、鉢巻のようにして出します。大好きだった元町のお店、佳景様のスタイルを真似させていただきました。そういう、自分の好きが詰まったお店ですね。

―壁が黒なのでより季節感が映えて良いですね。朝食もされていて人気ですが、今特に力をいれていらっしゃることは?

芦屋のアバンダンテギャラリー様とご縁がありまして、先日そこで個展をされた「藤田佳三」さんの器にお料理を盛る「器で美味しいレッスン」という企画にお声をかけていただきました。

素材の季節感と盛り付けを器全体で楽しめるように、組み合わせも考えて勉強させていただいて。今はもっと知りたい、若い頃よりもっとちゃんと知りたいということがありますね。

また、料理を通じて人と人を繋げていければいいなと思います。自分が見た素材を使いたいので仕入れは自分が行っているんですが、こだわりの八百屋さんや生産者と自分が繋がって、自分の得意な料理を切り口に、お客様へ繋げる場として活用出来たらいいなと考えています。
例えば西区で作られている山口さんのフルーツトマトは、トマト本来の酸っぱさと甘みがあるもので、お料理をお出しするときに細かく説明しています。そしたら八百屋さんにお客様が行ってくれたり。
お食事にどんぶりをお出しする際は、「うおくに商店」さんの石臼挽き山椒をお出ししているんですが、こちらも良い薫りで、すぐにお客様から反応があったのでご紹介したら買いに行ってくださったり。
先ほどの個展などもそうですが、身近なところで繋がりを大事にしています。

―神戸の街の方は口を揃えて「人が好い」とおっしゃいます。今後神戸がこうなってほしいなと思うことは?

京都出身なので、なぜ京都でやらないのかと言われるのですが、自分が神戸の町が好きだからなんですよね。海が好きで釣りもしますし、山も好きで登山もします。気候も過ごしやすいですね。一番は人が良いということで、古い良いお店がたくさん残っている街です。なので、昔ながらの商店街のお店と、今の新しいお店がどんどん繋がれたらなと思います。何か活性化できる取り組みができると未来も変わっていくと思うので。

―コロナ禍でお店をオープンされて、この1年いかがでしたでしょうか。

コロナ禍になってお店を始め、これだけ長く続くと思ってなかったですが、まさか1周年で緊急事態宣言が出るとは思いませんでした。今は酒販の制限もあるし、皆さんすごい疲れがあるなと思います。

僕もそうですが、コロナ禍でもお店を休業せずに開けていました。オープンした当時は1組限定にしていたんです。ほぼ貸切にして、ゆっくり料理が出来てお話もできたので、その時に来て下さったお客様は毎月来てくださいますね。

やはり、落ち着いたお店の中で季節を感じながら美味しい料理を食べてもらおうと思い、閉める選択肢はなかったですね。お酒を飲まない方も多いですし、予約が少なくても逆に料理を楽しみにしてお客様が来てくれるのは楽しいな、開けていてよかったなと思います。人との繋がりというものが身近に感じられるじゃないですか。

―飲食業のこれからをどう思われますか。

飲食をやるうえで、世の中に情報が多すぎるという視点は凄くあると思います。
逆に自分で決めたらいいのかなと。他の人に意見を聞いても、結局は自分で決めてお店を始め、今に至っているので。特に若い料理人の方には、スマホに影響されるのもいいけど、その情報をどうするかを自分で決める力を持てたらいいのではと思いますね。
僕は自分で考える時間を持つこと、自分と向き合うことが大事だと思うんですよね。
自分に嘘をつかず、自分の責任として、人のせいにしないということですね。
ちゃんとやってみたら人も助けてくださいますし。自分がどうするかを決めていくということはとても大事なことだと思います。

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【プロフィール】
芦田 武
1984年京都府京都市生まれ。京都の調理師学校を卒業後、東京のイタリアンで働き1年後、神戸「懐石料理 三木」10年勤務。
退社後、東京「麻布十番jin」、京都の農園、神戸六甲「亀田マタニティレディースクリニック」を経て、2020年神戸市中央区に「和食や芦田」を開店。

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【編集後記】

16歳から料理の道に入り、35歳で独立された芦田様。言葉の端々に「勉強させていただいて」という言葉を使われていたのが印象的でした。季節を表現したお料理を盛り付ける器や空間演出に至るまで、細部にまでこだわる姿に、料理に対する純粋な姿勢を感じました。日曜には朝食を出されている「和食や芦田」、ぜひ日中も夜も味わってみたいですね。

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インタビュー:Y.Fukaura
編集:A.Ishikwa

Airi Ishikawa

一休のメディア事業部長。日本全国を旅しながら、その道のプロにインタビューや取材をしています。休みには足をのばして国内ワイナリーを巡るのが好き。地産地消や、生産者に近い距離で食材や料理に向き合う「極みのシェフ」がいる店をご紹介します。
【MY CHOICE】
・最近行ったお店:銀座 しのはら / 南青山 まさみつ / サエキ飯店 / コートドール
・好きなお店:鮨 梢 / フランス料理 エステール / コンチェルト / エンボカ 京都
・注目しているお店:SeRieUX / プルサーレ / bistronomie Avin
・得意ジャンル:フレンチ / バー
・好きな食材:山菜 / 鴨

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