東京「Sushi Hōseki – Kenji Gyoten」行天健二氏・清水拓郎氏に聞く、「ブルガリ」x「鮨 行天」が織りなす至高の寿司とは

2023年4月の開業以来、注目を集める「ブルガリ ホテル 東京」。その40階に位置する鮨処「Sushi Hōseki – Kenji Gyoten」では、福岡の名店「鮨 行天」を率いる行天健二氏がプロデュースする、至極の寿司を堪能できます。今回「KIWAMINO」では、監修を務める行天氏、そして料理長・清水拓郎氏にインタビューを実施。「Sushi Hōseki – Kenji Gyoten」が目指す世界観をはじめ、「ブルガリ」が作り出すラグジュアリー空間で味わう寿司へのこだわりなど、多岐に渡って伺いました。

出会うべきタイミングで出会った「Sushi Hōseki – Kenji Gyoten」

―ハイジュエラーである「ブルガリ」が開業した、ラグジュアリーホテル「ブルガリ ホテル 東京」。その40階に位置する「Sushi Hōseki – Kenji Gyoten」の監修に携わることになったきっかけをお聞かせください。

行天健二氏(以下:行天氏):「ブルガリ」とは、人の縁を通じて出会いました。私は常に自分に「進化し続けていくこと」「新しいことに挑戦すること」を課しています。「ブルガリ」は“色石の魔術師”とも言われ、多彩な素材を取り入れて大胆な作品を創り続けています。そんな「ブルガリ」の型にはまらない独自性に共感し、一緒に挑戦してみたいと思いました。

行天氏:私は、ビジネスやご縁というのは全てタイミングが大事だと思っています。20代30代は、身に着けるものと言えばアクセサリーだったのが、年齢と共にジュエリーに変わっていきます。自身が40代になった今、自分自身のタイミングが合致したんです。日頃から様々なお仕事のお話をご相談いただきますが、相手とのタイミングが合わなければ、そのための時間を割くことができないですよね。今回は自身の年齢や今まで培ってきた人生観と「ブルガリ」の考え方が、このタイミングだからこそマッチしたんだと思います。

―清水氏が「Sushi Hōseki – Kenji Gyoten」の料理長になられたきっかけをお聞かせください。

清水拓郎氏(以下:清水氏):鮨職人として同じ店に長く勤めていたこともあり、新たな勉強をしたいと思ったことがきっかけです。「Sushi Hōseki – Kenji Gyoten」については始め「8席のみのカウンターの寿司屋」という程度の情報しかなく、面接を重ねる過程で「鮨 行天」が監修になることがわかりました。それまではまだどうするか決めかねていたのですが、そのお話を聞いて「ここでやりたい!」という思いが一気に強まりましたね。

―特にどういうところが魅力だったのでしょうか?

清水氏:それだけで評価するわけではないのですが、やはり日本で三つ星を獲ったことのある寿司屋さんというのは本当に限られているわけです。その仕事を学べる機会はなかなかないので、非常に魅力的だと思いました。

―清水拓郎氏との出会いについてお聞かせください。また、料理長をお願いしたいと思われた決め手はなんでしょうか?

行天氏:その職人の実力は、面接しただけではわからないものです。当時はまだ、調理場にガスも通っていなかったので、彼の包丁捌きを見せてもらいました。包丁の基礎であるかつらむきの様子を見せてもらいながら、彼の人となりもしっかり見ましたね。寿司の世界には、職人でないとわからないような用語も多々あります。そういった寿司の歴史・文化というものをきちんと継承している人物かどうかも大切な要素です。そして料理長を選ぶ上で最も大事だったのは、磨きがいのある人かどうかです。

「鮨 行天」の味を「ブルガリ」ならではの空間で味わえる魅力

―「鮨 行天」との相違点や「Sushi Hōseki – Kenji Gyoten」ならではの魅力について教えてください。

清水氏:使っている食材は同じです。魚だけでなく、お米からお水、お塩まで全部、こだわりの厳選された食材で調理するところは同じです。1番大事なシャリに関しても、季節ごとにお酢の配合などを変えたものを九州から送ってもらっているので、その辺もブレがないように徹底しています。

やはり違いは握り手ですね。1度福岡の「鮨 行天」に行っていただくとわかるのですが、「鮨 行天」には独特の世界観があります。そこに少しずつでも近づきたい気持ちもあるのですが、全て真似できるものではありません。「Sushi Hōseki – Kenji Gyoten」では、行天さんとはまた違う私らしいスタイルでやらせていただいています。また空間がとても贅沢ですので、リラックスしながらゆっくりと食事を楽しんでいただきたいという思いで握っています。

―確かにこの空間は、贅沢ですね。天井も本当に高いですが、7メートルくらいありますかね。

行天氏:これも定型通りではない点です。寿司屋は本来、天井を高く作ることはありません。というのも、魚は元々紫外線に弱く、人の肌と同じように紫外線に当たると傷んでしまうからです。良い魚は、紫外線を当てないよう釣ったらその瞬間に暗室か冷凍庫に入れるんですよ。「Sushi Hōseki – Kenji Gyoten」は、天井高は7メートルもありますし、窓も大きく太陽光もたっぷり入ってきます。本来の寿司屋の在り方とは正反対の世界観ですね、だからこそ「ブルガリ」らしいと思います。

行天氏:加えて、握りは行天独特の形であることも重要です。上はアーチを描くように、イタリアのコロッセオのような楕円形に握るんです。「これだけアーチができる握りは他の寿司屋さんにはない」とお客さんからも言われますね。どこの握りも大体縦長ですが、我々の寿司は、ころんと特徴的な形をしています。私は、シャリに高さをつけることで、より食感を出したいんです。手が小さな女性でも掴みやすいと好評です。

―2023年4月に「Sushi Hōseki – Kenji Gyoten」がオープンとなり、そこから1年3か月ほど経ちましたが、はじめはとても大変だったと思います。どうやって行天さんの技術や考え方を、インプットされていったんですか?

清水氏:最初に短期間ですが、福岡で一緒に働かせてもらいまして、行天流の技術や哲学を集中的に学びました。お店によってはレシピが細分化されていたり、 きっちりルール化されていたりします。ただ「鮨 行天」は全く違います。感覚というか、職人が肌で覚えていく感じですね。季節や気候が変われば、魚の質や水分量も変わりますので、塩の振り方も変えていきます。その考え方を取り入れて身に付けるように日々努めてきました。

行天氏:レシピがある店では食材の状態に関係なく常にレシピ通りに調理されるケースもありますが、その場合は食材の状態次第で味が濃すぎたり薄すぎたりしてしまいます。私たちの店は、レシピに縛られず、センスと努力でゲストをもてなしています。

―ゲストにどこまでも寄り添い生み出す、オーダーメイドのおまかせコースについて、そのこだわりについてお聞かせください。

行天氏:同じ日でもお客さんごとに提供内容は違います。顔を見れば、「この方はもう一貫雲丹を食べたそうだな」とわかります。「なぜ理解してくれるの?」と思われるような存在が大将です。

清水氏:「Sushi Hōseki – Kenji Gyoten」でも、メニューは完全に決めないようにしています。例えば日本人のゲストが多い回もあれば、海外の方が多い回もあります。それによって多少メニューを変更したり、コースが終わったあとにまだ食べられそうな方がいらっしゃれば、追加でお出しすることもあります。

―その日その日の最良のネタを最良の状態で提供されている中でも、これだけは味わってもらいたい逸品や一貫はございますか?

行天氏:これ、というたった一品ではなく、「何でも良いですよ」というのが、我々の店のあるべき姿だと思っています。決められた一品や固定されたコースではなく、ゲストのお好みに合わせて美味しく召し上がっていただけるようにしているんです。

日々の積み重ねの末に見えてくる境地へと歩みを止めない

―最後に、現在挑戦されていることや今後取り組んでみたいことについてお聞かせください。

行天氏:我々は職人ですので、日々取り組み続けるしかありません。私は箱の外側は作ってあげられますが、中身をつくるのは清水です。私は見守ることしかできませんが、「Sushi Hōseki – Kenji Gyoten」らしい味を高めていくよう頑張って欲しいですね。

清水氏:まずは「鮨 行天」のお客様がいらしても、海外のゲストからも、「さすが『ブルガリ』だ」と言っていただける店でありたいと思います。

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プロフィール
行天健二氏
寿司屋の家系の3代目として研鑽を積み、2009年に「鮨 行天」を開業。その後2014年に、日本人史上最年少でミシュランガイド三つ星を獲得。国内外のイベントへ招聘されるなど年々その活躍の場を広げ、2019年2月にはシャンパーニュメゾンのクリュッグ(LVMHグループ)のクリュッグアンバサダーシェフに選出される。さらに同年、「ミシュランガイド福岡/佐賀/長崎特別版」にて再び三つ星を獲得。2024年3月より「Sushi Hōseki – Kenji Gyoten」 において監修を務める。

清水拓郎氏
神奈川県生まれ。地元の海鮮料理店でキャリアをスタートし、ミシュラン三つ星獲得店を含む北海道、神奈川、東京の名店で鮨職人として研鑽を積む。
その後、福岡の「鮨 行天」を経て、2023年4月「ブルガリ ホテル 東京」の「Sushi Hōseki – Kenji Gyoten」料理長に就任。

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https://www.bulgarihotels.com/ja_JP/tokyo/dining/sushi-h%C5%8Dseki-kenji-gyoten

【編集後記】
行天氏が語る言葉の一つひとつから、一流の店としての看板の重みが、ひしひしと伝わってきました。そんな「鮨 行天」と「ブルガリ」という大きな看板を背負う清水氏。行天氏の信頼を得て走り続ける清水氏の今後の活躍が気になります。「ブルガリ」のエッセンスが光る特別な空間で味わう清水氏ならではの握り、ぜひ一度食べてみては。

※こちらの記事は2024年09月10日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。

Mika.A

外食が何よりの楽しみな編集部メンバーです。
野菜へのこだわりは人一倍!好きが高じて
ベジタリアン・フルーツアドバイザーの資格を取得しました。

・好きなお店:CIRPAS/Sincére/Heritage by Kei Kobayashi
・好きなジャンル:フレンチ/鮨
・最近行ったフレンチ:ラルジャン/apothéose/渡辺料理店/フロリレージュ
・好きな美食宿:ホテルリッジ/sankara hotel&spa 屋久島

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