名古屋市東区泉に位置する「味感 ことほぎ」。名古屋の名料亭で研鑽を積んだ店主・伊藤元寿氏と女将・沙也美氏が2015年にオープンした割烹料理店は、リラックスして本格和食を愉しめると多くの常連さんから愛される一軒です。「一休.comレストラン」ユーザーからも人気なこちらのお店。「KIWAMINO」では今回、店主と女将のお二人にお店の魅力を語っていただきました。
※本インタビューは、2020年10月14日にオンラインにて行いました。
アットホームな雰囲気に包まれて食事を愉しんでほしい
―まずは、料理人を志した理由についてお聞かせください。
(「味感 ことほぎ」店主・伊藤元寿様)
子供のころから、台所に立つのが嫌いではなかったんです。自分が食べたい一品料理を作ることもありました。だから、料理をすることがまったく苦にはならなかったですね。
学生時代にアルバイトで飲食と関わることになって、お客様が寛げる雰囲気という和食ならではの部分に魅力を感じて和食の道に進みました。修業時代は13年くらい。特に、「名古屋 浅田」さんには10年間お世話になりました。自分はスタートが遅い方で、調理師免許も働きながら、大学卒業後に取得しています。
―和食に惹かれた理由は何でしょうか?
(元寿様)
アルバイトで出会った職人の方への憧れと、日本文化への興味関心ですね。あとは和食の持つ雰囲気にも魅力を感じました。
和食はカッチリした雰囲気もありますけど、独特の柔らかい部分も持っていると思うんです。フォーマルの中にも、ざっくばらんに飲み食いできる雰囲気と言いますか。そういう部分が、自分の感性にフィットしていたと考えています。
―「味感 ことほぎ」が提案する、カウンタースタイルの接客・おもてなしとも通じる部分がありそうですね。
(元寿様)
そうですね。肩の力を抜いてお食事を愉しんでいただけると思います。おもてなしは、女将からお話させてください。
(「味感 ことほぎ」女将・伊藤沙也美様)
アットホームなお店なので、ほっと一息ついて落ち着けるお店だと思います。店主が「名古屋 浅田」出身なので、名料亭のおもてなしの心は学ばせていただいています。一方で「味感 ことほぎ」ならではの愉しさも感じていただけるおもてなしで、お客様をお出迎えしてきました。
お客様の年齢層も幅広いと思います。子育てがひと段落した少し年配のご夫婦の方から、料理好きな経営者層の方。最近ですと、少人数での会食が多いですね。
(元寿様)
ビジネスだけでなく、プライベートのお客様は昔から本当に多いと思います。私も女将も、そういうお客様一人ひとりの好みにマッチした提案が大切だと考えてきました。お客様が何を食べたいのか、何が一番のお気に入りなのか、そして「味感 ことほぎ」にお越しになった理由は何か、という点を考慮するよう心掛けているのです。
(沙也美様)
「味感 ことほぎ」という店名の「ことほぎ」は、店主の名前の一文字「寿」から採ったもので、「めでたい」や「祝う」という意味を持っています。それもあってか、大抵一日のうち一組のお客様には、記念日などのお祝い事で利用されています。
定番素材を「味感 ことほぎ」ならではの食べ方で堪能して
―お料理についてのこだわりをお聞かせください。
(元寿様)
旬の食材や美味しさを逃がしたくないという思いが強いですね。名古屋の柳橋市場には毎日仕入れに行きますし、修業時代から旧知の仲でもある金沢の魚屋さんや、近江町市場から食材を仕入れることもあります。
調理については、旬の美味しさをお客様の口元までどうやって届けるべきか?という部分から逆算して、バランスの取れた味付けを重視してきました。素材を壊してはいけないと考えていますから、足し算だけでなく引き算で生まれる美味しさも重視しています。
(沙也美様)
冬になるこれからですと、ズワイガニのコースが定番ですね。毎年、リピートされる方が多いので、今年はさらに「味感 ことほぎ」らしい食べ方を追求していきたいと、店主とも話してきました。いわゆる料亭で食べるカニというのではなく、お客様が驚くような仕掛けを工夫しています。もちろん、素材の美味しさはしっかり担保しています。
(元寿様)
カニやふぐなど、季節ごとに定番素材があると思うんですが、「味感 ことほぎ」では、他のお店では体感できない美味しさ、食べ方を追求しているんですよ。
―それはすごく愉しみですね。
(元寿様)
「名古屋 浅田」で修業をさせていただいたこともあって、1年目から上質なカニに触る機会が多かったと思います。調理の仕方や魅力については、本当に若いころから学ばせていただきました。その延長線上で、独立してからも日々、どうやったらもっと美味しく食べていただけるか?を考えているので、今年は一層愉しみにしてほしいですね。
また、季節を感じる料理と、本当に良いものを使って、お客様のニーズに沿った料理を提供するという点も、修業時代に学んだ大切なことだと思います。先ほど、旬の美味しさをお客様の口元までどうやって届けるべきか?という部分から逆算して調理していると話しましたが、味付けだけでなく、包丁の入れ方一つとっても、徹底するようにしています。
―和食の本質を前提に、「味感 ことほぎ」のオリジナリティーを追求しているのですね。
(元寿様)
修業を続けていくうちに、和食の奥深さにどんどんのめりこんでいきましたね。知れば知るほど、まだまだ学ぶことがあるなという感覚です。いつからか、和食がどうして世界遺産に登録されたのかという点についても、自分なりに理解できるようになったと思います。
器もまた、和食の奥深さを作る一つの要因だと思います。最近ですと、京都や金沢の骨董屋さんに伺うことが多いですね。一点ものの骨董品には、現代の大量生産の器にはない味がありますから、お客様の目も愉しませることができると考えています。
一つの器から、料理人としてインスピレーションを受けることもあります。この器にこの料理を盛り付けられたら面白いとか、ちょっと渋めの器だけど意外とこの料理と合うんじゃないかなど、よく女将と二人で話していますね。
「お客様と一緒に成長していきたい」
―今回のインタビューを通して、女将の沙也美さんと二人三脚でお店作りをされているのだという印象を受けました。
(元寿様)
独立するにあたって、背中を押してくれたのが女将でした。「名古屋 浅田」時代に出会って、「やりたいなら、一緒にやろうよ」と声をかけてくれて、そこから本気モードになって「味感 ことほぎ」の開店に漕ぎつけた次第です。
(沙也美様)
独立は出会ってから4年くらい、結婚してから2年くらいですかね。「味感 ことほぎ」という店名も、この物件も、振り返ると自然とすんなり決まったので、多くの方とのご縁を感じます。
(元寿様)
開店してから、さらに5年が経ちました。お客様にお店を育てていただいたという思いが強いですね。お食事されるお客様の表情を通して、多くのことを学べたと思います。例えば、食事をされる表情から「あ、もしかしたら今日はあまり満足していただけていないかもしれない」と感じたら、どう修正したらよいのかと自問自答をする。それを繰り返すことで成長できたと考えています。
今後も、常連のお客様をはじめ、いらっしゃる方にもっと高いレベルで満足していただけるよう精進していきたいと思います。愉しく、安心できる「ことほぎ」でしか食べられないような料理ですね。生産者の方とのコミュニケーションも、もっと深めていきたいと思います。
女将も話してくれた「味感 ことほぎ」という店名の「味感」には、味わいを感じてほしいという思いのほかに、「未完成」の「未完」という意味もかけているんです。私も女将も、お店も、お客様と一緒に成長し続けていけたらと思います。
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伊藤元寿 プロフィール
1980年、愛知県出身。大学卒業後、加賀料理の名店「名古屋 浅田」に入社。10年間研鑽を積む。その後、独立を目指し割烹を中心に数店舗を経験。2015年に「味感 ことほぎ」を開業。
女将で妻の沙也美さんとは「名古屋 浅田」時代に出会い、結婚。二人三脚で「味感 ことほぎ」を立ち上げた。漠然だった独立への思いが決意へと変わったターニングポイントは、沙也美さんの「一緒にお店をやろうよ」という一言。