インタビュー|

南青山「鳴神」オーナーシェフに聞く、お客様と紙一重でつながる「お見立て」の醍醐味とは?

和とフレンチの融合「フレンチジャポネーゼ」を標榜する南青山の名店「鳴神」。閑静な住宅街のなかにあって、日々多くの美食家が訪れる「一休.comレストラン」でも人気な大人の”隠れ家”レストランです。プレミアム美食メディア「KIWAMINO」では今回、オーナーシェフの鳴神正量氏を訪ね、料理人としての原点や、お店のコンセプトである、人と人との空気を読み取る「お見立て」についてお話を伺いました。

「料理を通して、温かい気持ちも届けたい」

―まずは鳴神さんにとって、料理人としての原点をお聞かせください。

食は、個人の人生観に大きな影響を与えるものだと思うんです。ライフスタイルを大きく変える可能性もあると思います。そういう意味で、母や祖母が作るものが自分のルーツだったと考えています。

こう話すと、母や祖母が作ってくれた食事の味が特別に美味しかったと思われるかもしれません。でも僕は、味以上に料理を作ってくれた愛情を強く感じていました。
関西エリアに住んでいたのですが、家が商売をやっていたものですから、家族4人みんなでご飯を一緒に食べたことは本当に数えるくらいしかありませんでした。そういう家庭環境ということもあって、母や祖母の料理を通して受け取った愛情は、しっかり自分のなかに残っていると感じるのです。

美味しいものを食べた時、そこに愛情があるとすごく救われるのではないかと思うんです。大切な人を思う時や遠く離れた家族と電話で話をしている時にも、「ちゃんとご飯を食べているだろうか?」という思い・言葉が出てくるのはとても自然なことですよね。

自分は料理屋をやっていますが、お客様それぞれが、お友達同士やビジネスでお世話になっている方との会食など、様々な用途・目的で来てくれています。もちろん、自分の仕事は美味しい料理を提供することですが、作る料理を通して、母や祖母から受け取った愛情といいますか、温かい気持ちもお客様に届けたいと考えているのです。母と祖母からの影響は大きいと言えますね。

―料理人としてのコアな部分にご家族がいらっしゃるのですね。「鳴神」はカウンタースタイルということもあって、スタイリッシュで洗練されたお店という印象でしたが、実際にカウンター席に座ってみるととても落ち着きのあるリラックスした雰囲気が漂っています。

この地で「鳴神」をスタートして7年になりますが、自分なりにテーマを持って料理屋をスタートしてから18年が経ちました。歳月のなかでの変化もあったと思います。

僕がフランスで修業をしていたのは、90年代後半から2000年くらいまで。帰国して銀座でお店を始めたのが2003年ですが、あのころはちょうど、日本人が日本そのものに注目するようになっていましたから、いかにもフランス的なフランス料理というものはあまり需要がなかったんです。だから最初は、日本人だからこそできることや発想に基づいてお店を作ろうと考えました。

当時は若かったですから、肩に力が入っていました。粋がっていたといいますか、どうしても料理を提供する際には、「こういう料理はどうですか?」というスタイルになっていたと思います。特に初期のころは、お客様に自分の料理を押しつけていた部分は多少なりともありました。

―現在の「鳴神」は、「フレンチジャポネーゼ」を標榜されていますが、和とフランス、双方のバランスを保つのは大変だという印象も受けます。

「メゾン・ド・トロワグロ」や「レオン・ド・リヨン」など、フランスでの経験は料理を作る姿勢にも影響を与えていると思います。振り返ると、一番影響を受けたのはインテリジェンス。フランスの料理人は良くも悪くも合理的だから、常に自分の物足りなさを意識して、料理を少しでも向上させていく点は今の自分にも引き継がれていると思います。

ただ年を取るにつれて、若いころと違い、日本の良さや日本人の良さもどんどん分かってきました。お店をやっていくなかで経験値も上がりました。すると、やっぱり日本人はとてもよい食の楽しみ方を知っているんだと気がつくわけです。

料理人である僕が、「こういう料理はどうですか?」というスタイルは必要ないんだと考えるようになりました。「フレンチジャポネーゼ」の料理屋というジャンルで、お客様が「あ、今日は『鳴神』でいいんじゃないかな?」「今日は『鳴神』でよくない?」と、自然と思い出してもらえるようなお店でもよいのではないかという発想が出てきました。

―フランスで学んだことが活かされつつ、そのアンチテーゼとしての価値観も確立されたのですね。

歳月を重ねて、いつの間にか、そういうお店にしたいという考えが強くなっていきました。だから今の「鳴神」は、若いころのお店とはコンセプトが正反対なんです。
押しつけよりも、お客様がふと自然に思い出してくれるお店のほうが、日本や東京の文化にはマッチしているとも感じています。

お客様と紙一重でつながる愉しさと緊張感

―「鳴神」がお料理を提供する際に大切にしている、人と人の空気を読み取る「お見立て」にも通じる部分があるのではないでしょうか?

僕にとって「お見立て」という言葉は、今日お越しになったお客様に対して、ひとりの料理人・人間としての経験値を踏まえてどういう風に愉しませることができるか、お客様一人ひとりの好みをしっかりと読み取って提案することだと捉えています。

決して足元を見るわけではないですし、顔色を伺うということでもなく、もっとポジティブな意識でお越しになったお客様の姿を見て、喜んでいただけるお料理を作り提供することなのです。

ただ、お客様とのつながりは、固くしっかりしているというわけではありません。本当に紙一重なんですよ。プツンとちぎれるかどうかも分からないくらい、お客様との紙一重の関係をぐっとつかみ合える人間性といいますか、そんな人と人の付き合いができるお店を「鳴神」では目指してきました。

特におもてなしの部分では、スタッフともシェアして、同じ方向を向くようにしています。お客様を思ってのことですから、もちろん最初は僕も結構うるさく言ってしまうことがあります。一方、普段の業務では可能なかぎり自然に自分が考えることを伝えるようにはしています。一緒にお店にいて、音楽の話をしているなかで自分の思いを話したりするなど、工夫するようにはしていますね。

「料理を言葉で説明する理由はどこにもない」

―先ほど話された「押しつけがましさよりも、お客様がふと自然に思い出してくれるお店」と通じるものがありますね。

実は料理や素材についても、言葉ではあまり説明しないように気をつけています。なぜかというと、美味しいものを言葉で説明する必要がそもそもないと考えているからです。実際、二回目に来てくれたお客様に、前回と同じ料理を提供して「やっぱりこれ美味しいよ」という声をいただくと、「あ、本当に美味しかったんだ」と分かるじゃないですか。自分の料理が美味しいものだと、言葉で説明しなくてはいけない理由はどこにもありません。

肩に力が入っていないので、お客様が見たこともないような料理を作るということもありません。お客様をワクワクさせることは大切ですが、その一方で、お客様がよく知っている料理でも、期待値以上に美味しいと感じていただけるものを提供できれば、きっと喜んでいただけるはずだと信じているからです。

―鳴神さんの「お見立て」が、料理を通して伝わっているのですね。最後に今後の挑戦についてお聞かせください。

一番モチベーションが高いことは、お店を続けていくことですね。
料理人である自分の財産は、結局のところ美味しいものを作ることでしかありません。その財産のおかげで、様々なお客様がお越しになって、生産者の方ともつながることができていると思います。

料理教室も続けていますが、少し無理をしている感覚はあるかもしれません。ただ、普段はお店で料理を作る仕事ばかりだから、料理教室を通じて色んな方に喜んでもらったりアイデアを形にしていくという点は愉しいすよね。

withコロナの時代という点では、「『鳴神』なら大丈夫」だとお客様に自然と思っていただけるお店でなくてはいけないと考えています。先ほどお話したように、お客様が「あ、今日は『鳴神』でいいんじゃないかな?」と思ってくれるお店であるのと同じで、どんな時でも自然とチョイスしてもらえるお店であり続けたいですね。

**********************************
鳴神 正量(なるかみ まさかず)氏 プロフィール
イタリアンレストラン「さくらぐみ」、フランス料理「しらとり」、六本木「エスペランス」を経て1997年に渡仏。ホテルレストラン「プレオレ」(1つ星)を経て、「メゾン・ド・トロワグロ」(3つ星)のシェフ・ド・ポワソンに就任。その後、「レオン・ド・リヨン」(2つ星)での経験を通して、日本人であることの意識と表現に目覚め、帰国。2003年銀座に「NARUKAMI」をオープン。西麻布への移転を経て、現在は南青山にて「鳴神」のオーナーシェフを務める。

【編集後記】
「お見立て」というコンセプトのもと、お客様一人ひとりの好みをしっかり読み取って、喜んでいただける料理を提供してきた鳴神正量シェフ。お客様との紙一重の関係をぐっとつかみ合える人間性を追求する姿勢から、料理やお客様に対するひたむきさを強く感じました。フレンチジャポネーゼ「鳴神」は、一休.comレストランユーザーからも人気な一軒として知られていますが、その魅力は鳴神シェフのひたむきさに起因しているのかもしれません。

イノベーティブ・フュージョン

鳴神

東京メトロ銀座線 外苑前駅 徒歩6分

謝 谷楓

「一休.comレストラン」のプレミアム・美食メディア「KIWAMINO」担当エディター。ユーザーの悩み解決につながる情報を届けられるよう、マーケットイン視点の企画・編集を心掛けています。

前職は、観光業界の専門新聞記者。トラベル×テック領域に関心を寄せ、ベンチャーやオンライン旅行会社の取材に注力していました。一休入社後は「一休コンシェルジュ」を経て、2019年4月から「KIWAMINO」の担当に。立ち上げを経て、編集・運営に従事しています。
【MY CHOICE】
・最近行ったお店:和田倉、SENSE
・好きなお店:六雁
・自分の会食で使うなら:茶禅華
・得意ジャンル:日本料理
・好きな食材:雲丹/赤貝

このライターの記事をもっと見る
link

この記事をシェアする